データベース『世界と日本』(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 食料安全保障、栄養及び食料システムに関するマテーラ宣言新型コロナウイルス(COVID-19)のパンデミックの時代及びその先における行動の呼びかけ

[場所] イタリア・マテーラ
[年月日] 2021年6月29日
[出典] 外務省
[備考] 仮訳
[全文] 

1. 我々G20外務・開発大臣、国連機関及びその他のパートナーは、パンデミックが生活と生計に及ぼす影響を食い止め、より良い回復に向けた国際的取組の強化に貢献するために、ここマテーラで一堂に会した。我々は、世界における食料不安の状況に深い懸念を表明する。飢餓の影響を受ける人々の数は、2014年以降、世界的に増加している。世界は、2030年までにゼロハンガー(飢餓の撲滅)を達成し、2030アジェンダの持続可能な開発目標(SDGs)において目指されている、あらゆる形態の栄養不良を終焉させる方向に向かってはいない。このままでは、飢餓の影響を受ける人々の数は、2030年までに8億4,000万人を超える見込みである。この数字は、世界の栄養不良人口の総数を1億人以上増加させるであろう新型コロナウイルスのパンデミックによる影響は含んでいない。パンデミックにより、人々は仕事と収入を失い、人々の食料安全保障にも影響が及んでいる。このことは、特に開発途上国や後発開発途上国における多くの危機や構造的障害を深刻化させ、全ての人々、特に、あらゆる場所の女性に悪影響を及ぼしている。

2. 我々は、貧困の緩和、食料安全保障及び持続可能な食料システムが、飢餓を終焉させ、社会的結束とコミュニティの発展を促進し、国内及び各国間の社会経済的不平等を削減し、人的資本を開発し、ジェンダー平等と若者のエンパワーメントを促進し、全体的で包活的な経済成長と持続可能な開発を進める鍵であることを認識する。SDGsの「行動の10年」に貢献することにコミットしつつ、我々は、SDG2の目標を達成するために、全ての人々のための安全で十分な栄養を確保し、あらゆる形態の栄養不良を終焉させ、農業生物多様性を保全するとともに、伝統的知識、地域の食文化及びベスト・プラクティスを補完する科学、イノベーション、先進的なビジネス・プラクティス及び責任ある行動に基づくことにより、食料安全保障の優先事項に取り組むことに一致する。これらの目標を前進させるためには、グローバルレベルでの共同かつ協調されたリーダーシップと行動、及び人間中心のアプローチが必要である。G20は、官民全てのステークホルダーと共に包摂的アプローチを推進し、野心的ながら具体的かつ実行可能なプログラムを追求しつつ、そのようなリーダーシップを発揮できる立場にある。強靱性を高め、将来の危機を防ぐためには、農業、地域開発、持続可能で強靱性のある食料、土壌、及び水管理システムへの新しく革新的な政策と責任ある投資に加え、紛争状況を含むショックに先駆けて行動を起こすことで、その影響を軽減することが必要である。

3. したがって我々は、飢餓と栄養不良のない世界を実現し、十分な食料への権利を実現し、貧困を緩和し、公正で平和で包摂的な社会を促進することを目的として、南北、南南及び三角協力の強化を含め、危機からの回復のために緊急に必要とされる以下の行動をとることを国内外全ての関係者に呼びかける。食料安全保障と栄養に関するこれまでのG20コミットメントに基づき、我々は、集団的、多国間及び二国間の行動を通じ、各国の優先政策及び目的に従って、開発途上国と共に以下の優先事項に取り組むことにコミットする。

4. 地方・都市部一帯における女性及び若者のエンパワーメントのために効果的な行動をとる。女性及び若者がパンデミックへの対応の前線にいる一方で、世界の特に地方及び脆弱な状況においては、女性及び若者に対するジェンダー平等、教育及び働きがいのある人間らしい仕事の機会が喪失されている。したがって、我々は、女性及び若者のための新たな働きがいのある人間らしい仕事及び農業の起業機会を創出し、食料システム及び制度のあらゆるレベルにおいて、積極的な参加者及びリーダーとして彼らのエンパワーメントを支援する政策、技術支援、能力構築及び投資の必要性を強調する。

5. 農業及び食品セクターに生計を依存する人が大部分を占めている脆弱な状況で生活する人々のニーズに焦点を当てた、社会的保護措置及び計画を促進する。これには、主体性とエンパワーメントを形作るジェンダーの平等、若者、障がい者及び脆弱な状況にある人々のための効果的な活動に特に配慮した、緊急食料支援やセーフティネット、適切な送金及び現物支給プログラム、適切な現地調達制度と関連する学校給食事業、母子栄養事業、可能な限り地元で生産された生物多様性に配慮した食料や現地の食文化を基礎としたフードバンク及びインフォーマルセクターの労働者に焦点を当てた、その他の関与が含まれる。この文脈において、技術的及び財政的なリソースの動員を含む、社会的保護に取り組む全ての関係者による取組及びイニシアティブ、また、他のパートナーと共に国連世界食糧計画(WFP)が学校給食のための世界的な連携の樹立に向けて取り組んでいることを歓迎する。

6. 世界貿易機関(WTO)の義務と合致し、世界食料安全保障委員会(CFS)における任意の「農業及び食料システムにおける責任ある投資のための原則」に配慮した、多額の新型コロナウイルス緊急資金調達並びに長期的な各国の回復計画及びパッケージの一部として、食料安全保障、栄養、持続可能な食料システム及び地域開発のための触媒的投資を増加する。国際金融アーキテクチャー及び金融エコシステムの全ての関係者は、小規模及び家族経営の農家、漁業者、放牧畜産業者、農業企業、農業協同組合及び食料バリューチェーンに関わるその他の事業者が、特に発展途上国及び後発開発途上国において、持続可能な食料システムにより多く投資できるよう、食品及び農業セクターにおける持続可能な財源の利用可能性及びアクセスを改善するために、それぞれの使命に沿って役割を果たす必要がある。調達及び公的開発銀行等の公共政策及び資金は、他の金融機関に比べ、市場の失敗への対処を支援し、より高いリスク許容性を提供することが可能である。このため、責任ある民間投資及びブレンディッド・ファイナンスも促進し、食料安全保障、栄養及び食料バリューチェーンの効率性を改善し、小規模の家族経営農家及び漁業者の生産性、能力、市場への経営的人的資本のアクセシビリティ、収入及び強靱性を高め、若い起業家及び働きがいのある人間らしい仕事の機会や条件を支え、また、持続可能な食料システムを促進する技術と実践におけるイノベーションを推進する。この点において、我々は、国際農業開発基金(IFAD)の主導により、公的開発銀行を一堂に集めた、持続可能な食料システムへの資金提供に関する作業部会である「開発銀行作業部会」が設立されたことを歓迎し、農業・食料システムを改善するための公的取組を支える民間セクターの重要な役割を認識し、持続可能かつ強靱な農業において、国内及び国際的な法的枠組みと整合的で適切な知的財産権やデータプライバシーの保護の下でのデジタル・トランスフォーメーション及びイノベーションの加速並びに相互に合致した要件の下での任意の技術移転促進の重要性を強調する。

7. 気候変動と気象の極端現象の増加が農業生産に影響を及ぼし、世界的な飢餓を増加させる要因の一つとなっていることから、持続可能な農業の重要性を認識しつつ、農業と食料システムの気候変動への適応を加速させる。これには、地域及びジェンダーへの配慮がなされた適応を促し、より統合的な農業システムで気候に配慮した農業生態学的アプローチ及びその他の適切な革新的アプローチを促し、気候強靱性の源である生物多様性を支え、適応に関する計画の農業及び食料システムに関連する部分の早期履行並びに各国の異なる事情を踏まえた、開発途上国の食料・農業セクターにおける気候変動への適応を促進するための気候変動対策資金の効果的な提供を促進する政策が含まれるが、これに限定されるものではない。また、このためには、気候リスクに関する更なる理解及び管理、民間セクターと国内外の農業研究機関及び知識機関の力を活用し、食料システムに不可欠な天然資源の持続可能な管理と利用に注力する必要がある。

8. 開かれた国際的な食料の貿易を維持し、安全、新鮮で栄養価の高い食料のための世界、地域及び地元の多様なバリューチェーンを強化する。開かれた国際的な食料の貿易を維持すること、そして、食料市場の機能を維持することが極めて重要である。WTOルールに整合的で、開かれた、透明性のある、予測可能な、かつ無差別な多国間貿易システムは、市場の予見性を促進し、農産品・食品貿易の流れを維持し、ひいては世界の食料安全保障及び栄養に貢献するために重要であることを強調する。安全で栄養価が高く安価な食品を製造するための原材料、商品及びサービスへのアクセスを確保するためには、国際貿易が不可欠である。我々は、引き続き、国際市場における食料価格の過剰な変動につながり、世界人口の大部分、特に食料安全保障が低度な環境下で生活する最も脆弱な人々の食料安全保障及び栄養を脅かしかねない、あらゆる不当な制限的措置を防止する。政策、研究及び投資もまた、次の点に焦点を当てるべきである。すなわち、特に開発途上国における、小規模で収益をほとんど得られない農家の利益を保護すること、地域と都市部のより良い連携を備えた地域間のロジスティクス及び流通システムを改善すること、外的衝撃に対する地域の食料経済の強靱性を高めること、バリューチェーンの効率性と強靱性を高め、収穫後の損失と食品廃棄物を削減し、食品の安全性を確保するために、輸送、貯蔵、処理及び保存を改善すること、そして、栄養価の高い食品の入手可能性、アクセスのしやすさを向上させ、適切な価格設定を促進することである。

9. 我々の協力の一部として、科学に基づく包括的なワンヘルス・アプローチを国内政策及び国際行動に統合して推進する。その結果、食品安全上のリスク、人獣共通感染症からのリスク及び人・動物の生態系の接点におけるその他の健康上のリスクに対し、複数セクター合同で対処することを通じて公衆衛生上の成果を改善し、これらのリスクの軽減に向けたガイダンスを提供する。人々と地球の健康は不可分であり、特に人間、動物及び環境の健康と食料システムとの間には多くのつながりがあることを認識し、科学及び根拠に基づくアプローチを用い、それらの要素を特定することにより、影響を最適化し、リスクを管理することにより、感染症及び食料安全保障に対するその他の脅威は軽減され得る。そのようなアプローチは、(人獣共通)感染症や薬剤耐性(AMR)の発生を予防するのみならず、持続可能な開発及び世界的な食料安全保障にも貢献する、学際的・分野横断的な協力及び戦略を支える。この文脈において、国連食糧農業機関(FAO)、国際獣疫事務局(OIE)、世界保健機関(WHO)及び国連環境計画(UNEP)によって最近設立されたワンヘルス・ハイレベル専門家パネルを歓迎する。このパネルは、これらの戦略を設計するためのガイダンス及びその実施を支援することが可能である。

10. 我々は、G20農業大臣会合及び既存のイニシアティブと連携し、来る東京栄養サミット、国連気候変動枠組条約第26回締約国会議(COP26)、第12回WTO閣僚会議、昆明(中国)における国連生物多様性会議及び、食料システムの持続可能性を改善する潜在性のある国連食料システムサミット等の国際的プロセスを活用し、この国際的な動員を呼びかけるための集団的な取組を強化することにコミットする。我々は、マテーラ宣言の優先事項を達成するために、世界農業食料安全保障プログラム、G20農村部の若者雇用のためのイニシアティブ及び食料危機対策グローバルネットワーク等の運用可能な多国間のイニシアティブを含め、国際的協力、技術協力及びドナーによる開発協力計画等の既存メカニズム及び資金チャンネルを幅広く探求する。我々は、全てのパートナーとステークホルダーに対し、食料安全保障、栄養及び食料システムに関するマテーラ宣言において特定された分野別優先事項に焦点を当てた、新型コロナウイルスへの対応における協調的行動を促進し、小規模農家、女性、若者に焦点を当てた、開発途上国のニーズと需要に基づいた、政治的、財政的、政策的及び技術支援を動員する国際的なアライアンスの構築を目的として、FAOによって立ち上げられた「フードコアリション」への協力と参加を奨励する。軽やかで柔軟な協力メカニズムとして、「フードコアリション」は、分野を横断して水平に、そして地域から世界まで垂直に、全ての関連する他の国連機関や国際機関との間でも、食料安全保障、栄養及び持続可能な食料システムへの意識を高める政治的リーダーシップをその参加メンバーに提供し、各国及び地域のニーズや優先事項に対する協力を自主的に促すべきである。これにより、フードコアリションは、必要に応じ、ワンヘルス・アプローチ、CFS任意ガイドライン及び政策提言の実施等の革新的なマルチアクター及び多国間のイニシアティブを促進するべきである。