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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] G20デジタル大臣宣言:強靭で強力で持続可能で包摂的な回復のためのデジタル化の活用

[場所] イタリア・トリエステ
[年月日] 2021年8月5日
[出典] 総務省
[備考] 仮訳
[全文] 

我々、G20デジタル担当大臣は、2021年8月5日にイタリアのトリエステで対面及び遠隔で会し、2021年G20の優先事項である「人・地球・繁栄」に沿って、経済、社会、環境の3つの側面から、国連の持続可能な開発目標(SDGs)を達成するための重要な実現手段であるデジタル化について、さらなる対話と協力を行った。

過去の議長国の成果と約束を基に、COVID-19の危機が経済、雇用、社会の幸福に与えた影響を認識した上で、我々は、不平等に対処しつつ、強靭で強力で持続可能で包摂的な回復にデジタル化の潜在力をさらに活用するために、機会を利用し、課題やリスクに対処する方法について議論した。各国政府は、デジタル化が経済・社会にもたらした大きな変革に対応していかなければならない。我々は、特にデジタルガバメントに焦点を当てながら、「デジタル経済」の傘の下、優先事項に取り組んだ。

デジタル化が経済や社会に与える影響が増大する中で、DETF(デジタル経済タスクフォース)の活動は、エンゲージメントグループによる協議やマルチステークホルダーフォーラムの開催など、マルチステークホルダーアプローチによって充実したものとなった。実際、これは、特定の優先事項をより深く掘り下げ、意見、知識、経験を交換し、我々の未来のビジョンにさらなる価値を与える機会となった。

デジタル経済

今回のパンデミックは、雇用、健康、教育を支え(人:People)、持続可能性に貢献し(地球:Planet)、企業の経済強靭性を高める(繁栄:Prosperity)という、経済・社会にとってのデジタル化の恩恵を浮き彫りにした。

同時に、デジタル技術の活用や産業・分野を越えた広がりが急速に増加していることから、企業や労働者が適応する必要性、社会的排除を避けるためにデジタル格差を解消する必要性、デジタル環境下で企業や市民が直面するデジタルセキュリティの課題の増加に対する対応を強化する必要性といった課題が生じている。特に、発展途上国は、デジタルインフラ整備に関連する課題に直面している。

今こそ、各国の発展レベルの違いを考慮し、立ちはだかる課題に対処しながら、デジタルトランスフォーメーションを加速させ、進歩の恩恵を享受する方法を顧みることが急務である。

我々は、新たな技術の応用を促進し、企業や起業家が繁栄できるような、可能性に満ちた、包摂的で、開かれた、公正で、差別的でないデジタル経済を構築するための政策の重要性を認識する。

i. 持続可能な成長のための生産におけるデジタルトランスフォーメーション

杭州サミットで採択された2016年のG20新産業革命アクションプラン以来、G20首脳は、生産のデジタル化が産業に機会をもたらし、生産プロセスやビジネスモデルを変革し、経済成長を高めることを認識した。

パンデミックは、ビジネスの強靭性や商品・サービスの提供におけるデジタルトランスフォーメーションの重要性を増幅させ、経済全体における最先端のデジタル技術の普及にも拍車をかけた。しかし、デジタルトランスフォーメーションの恩恵は、国や産業、企業の間で不均等に広がっている。零細中小企業、そして発展途上国では大企業も、デジタルの導入が遅れており、企業間、特に零細中小企業と大企業の間で生産性格差が大きいことについての国際的な証拠が示されている。

我々は、持続可能で、開かれており、共有された、より革新的な経済に向けた将来の課題に対処するために、企業が「新常態(ニューノーマル)」とさらなる技術シフトに備えなければならないことを認識する。また、デジタル経済における零細中小企業の包摂性を支援する必要があること、そして、これまで社会的に脆弱だったグループのニーズと視点を考慮した、デジタル経済の発展のための人間中心のアプローチを発展させるための努力を強化する必要があることも認識する。

政策は、経済全体における技術の開発、展開、普及を支援し、ハードウェア、ソフトウェア、補完的な無形資産、ノウハウ、研究開発へのデジタル化のためのさらなる投資を促進することができる。労働者、管理職、起業家がデジタル化や新しい雇用形態に適応できるようにするためには、人的資本、能力開発、デジタルリテラシー、スキルへの投資が必要である。新たなビジネスモデルは、特に生まれながらにしてデジタル化されていない既存の零細中小企業にとっては、機会であると同時に課題でもある。この変化を促進するために、政策措置によって、イノベーションのエコシステム、産業のサプライチェーンの安定性、革新的なスタートアップ、技術に関する情報の効果的な把握と共有のための民間と公共部門間の協力を促進するとともに、新しい技術の、責任ある「人間中心」的な利用を促進し、新しいビジネスモデルを育成することができる。

我々は、データ駆動型のイノベーションの重要性と、社会全体におけるデータの需要の高まりを認識する。データの再利用と共有の指針となる首尾一貫した責任あるデータガバナンスフレームワークは、各国の法制度の違いを考慮しつつ、信頼性と安全性、プライバシー、個人データ保護、知的財産権の保護と執行が確保される必要がある。そのためには、産業や社会全体にポジティブな波及効果をもたらすデータインフラやアーキテクチャへの投資を促進する政策が必要となる。オープンでアクセス可能な政府データが増加すれば、特に零細中小企業でのイノベーション促進の一助となりうる。

デジタル技術は、持続可能な開発への移行に貢献し、産業界が、環境保護、プロセスの改善、エネルギー効率の向上、材料の管理と使用量の削減を行う上で重要な役割を果たす。同時に、デジタル技術の中には、エネルギーや資源を大量に消費し、環境に悪影響を及ぼすものもあり、これらの問題に対処する必要がある。

デジタル経済におけるセキュリティは、重要な成功要因である。企業は、自社のインフラ、デジタルプロセス、製品、サービスのセキュリティをサプライチェーン全体で強化する必要がある。セキュリティの脅威は、イノベーションプロセスを危険にさらし、特に零細中小企業による新技術の導入を遅らせる可能性がある。データ漏洩は、組織や技術に対する社会の信頼を損なわせる。政策措置によって、デジタル経済におけるセキュリティの文化を創造し、企業が注意義務を果たすよう働きかけるべきである。具体的には、デジタル経済に関連するセキュリティリスクをリスク管理戦略に含めることや、関連する国際機関で推進されているように、製品やサービスの設計やライフサイクル管理においてセキュリティを実装することが例に挙げられる。政策では、データと個人情報の保護に関する組織の能力に悪影響を与える可能性のある選択を避けるべきである。

コンセンサスベースの標準の活用とその適用によるICTセキュリティ業界の強化、リスクベースのICTセキュリティ認証制度、労働者のトレーニング、管理者のセキュリティ意識の向上、産業・研究センターの連携強化といった行動は、大企業と零細中小企業の両方にとって安全なデジタル環境に貢献する。また、デジタルトランスフォーメーションやデジタル経済の移行に伴うセキュリティリスクについて国民の意識を高めることも重要であり、これによりICTやデジタル技術の利用に対する信頼と安心が醸成される。

将来を見据え、これまでの政策に基づき、我々G20デジタル大臣は、全ての人に恩恵をもたらす形で、強固で強靭で持続可能で包摂的な回復を促進・加速するために、生産のデジタル化に向けた行動と政策、及び国際協力を強化することを約束する。

我々は2021年6月に開催された「持続可能な成長のための生産におけるデジタルトランスフォーメーションに関するマルチステークホルダーフォーラム」歓迎する。このフォーラムは、対話の促進に貢献し、持続可能な成長のための生産におけるデジタルトランスフォーメーションのためのキーメッセージを伝え、デジタル化を加速し、零細中小企業の包摂性を促進する方法に関するガイダンスを提供した。

ii. 零細中小企業の包摂性やスタートアップ促進のための信頼できるAIの活用

我々は、2019年のG20議長国日本の下で決定され、OECDのAIに関する勧告から引用されたG20AI原則に基づき、信頼できる人工知能(AI)を実装し、人間中心のアプローチにコミットする意思を再確認する。我々は、2020年にG20議長国サウジアラビアの下で開始された「G20AI原則を前進させるための国家政策の例」を基に進めることになるだろう。

企業によるAIへの理解は、全般的にまだ低く、特に発展途上国では、AI技術の開発と利用において、大企業と零細中小企業の間で大きな差がある。また、AIスタートアップ企業の存在感は、G20各国や起業家の性別の違いによって大きな違いがある。革新的なスタートアップ企業は、AIアプリケーションを開発したり、新しいアイデアを生み出したり、規模拡大の機会を利用したりする可能性を秘めている。零細中小企業は、既存モデルの効率を向上させるだけでなく、イノベーションを可能にして生産性を強化したり、ビジネスモデルや社内慣行を変更したりするなど、AIが提供する機会からさまざまな形で恩恵を受けることができる。

我々は、政策設計において、競争、イノベーション、多様性、包摂性を促進するために、人間中心で、公正で、透明で、強固な、説明責任を果たし、責任のある、安全で安心できる、プライバシーを保護する、信頼できるAIの実装のために、中小零細企業とスタートアップ企業の特定のニーズを考慮する。

我々は、データ活用能力、資金調達手段、機会の共有、さらには有能で熟練した労働力の構築など、零細中小企業のAIに対する能力を強化する必要性を認識する。政策としては、AI技術やネットワークへのアクセス、大企業と零細中小企業のコラボレーション、スタートアップ企業の革新的な公共調達へのアクセスなどが考えられる。

AIのためのビジネス環境の実現は、零細中小企業に優しいAI政策、ガイドライン、基準、規制を通じ、また、セキュリティ、社会的持続可能性、イノベーションのための知的財産保護の強化を組み合わせた、実験や責任あるAIを優先するような規制のサンドボックスの活用を含む、AIに関連するアジャイルな規制アプローチを採用することによって促進することができる。

既存のアプローチや実例に関する知見を深めるために、我々は、零細中小企業やスタートアップによるAIの導入を促進する方法に関するG20の政策事例(附属書1)を歓迎する。我々は、知識の共有と相互学習を通じて、零細中小企業の包摂性を促進するための国際協力の重要性を確信しており、今後、G20AI原則の実装をさらに進めていくことを約束する。

iii. デジタル経済の測定、実践、影響

我々は、過去のG20議長国の下で実施された作業を認識し、議長国サウジアラビアの下で策定された「デジタル経済の測定のための共通フレームワークに向けたG20ロードマップ」をフォローアップしながら、デジタル経済の測定を改善し、証拠に基づく政策立案を支援するため、このトピックのダイナミックな側面に関する継続的に議論することを奨励する。

我々は、測定に関する包摂的なマルチステークホルダーの対話を支持し、2021年2月に開催された「デジタル経済の測定に関するG20専門家ワークショップ」で行われた貢献を認識する。マクロ経済統計へのデジタル経済の統合、データの価値の分析、人工知能、デジタル格差、特にジェンダー格差とその根本的な原因などの優先分野を含め、デジタル経済の測定を明確にし、改善するためには、G20各国の国家統計局(NSO)、国際機関及び他のステークホルダーとの間での統計に関する協力と経験の共有の強化が不可欠である。

我々は、AIの測定、特に経済全体への普及と影響、AIに関する指標の国際比較可能性を向上させる必要があると考える。AIは依然として急速に進化する技術であり、アプローチにはある程度の柔軟性が必要であるため、我々は、進展のために国や国際機関の間で経験をさらに共有することを奨励する。

我々は、デジタル・ジェンダー格差に関する比較データや研究が不足していることに留意し、交差的な考察を含む関連する政策課題をより包括的に把握する必要がある。測定の改善は、デジタル経済における女性の役割についての政策議論を形成し、支えるのに役立つ。我々は、統計的なガイダンスを促進し、デジタル・ジェンダー格差の測定結果から、可能あるいは不可能とする要因の分析へと移行するための緊密な連携を求める。

このため、我々は、個人データとプライバシーを保護しつつ、専用の統計調査、データへのアクセスと使用のための適切な国内・国際的な法的・技術的枠組み、リンクされたデータを利用する上での国家統計部局の能力強化、オープンデータの利用可能性の向上、代替的なデータ源やデータ収集方法の検討など民間部門や関連するステークホルダーとの協力強化を含む、健全な統計インフラの開発の重要性を認識する。

我々は、「2020年ロードマップ」が、G20各国や国際機関においてデジタル経済の計測が引き続き優先事項であり、その実施に十分な資源が投入されることを保証する助けとなることを再確認する。我々は、G20を超えたデジタル経済の発展のモニタリングに関連して、優良事例を共有することの貢献を評価する。

iv. グローバルなデジタル経済における消費者意識と消費者保護

2017年以降、G20大臣はデジタル経済における消費者保護に注目しており、2018年にはアルゼンチンで「デジタル消費者保護のためのツールキット」が発表された。

デジタル市場の強化と透明性の向上は、個々の取引における非対称性に取り組むだけでなく、消費者が持続可能な経済発展を形成する上で積極的な役割を果たすために、消費者の意識とエンパワーメントを促進する必要がある。

我々は、これまでのG20の成果を及び、パンデミック時にオンライン取引や電子商取引が急増したことを踏まえ、特に弱い立場の消費者に配慮しつつ、消費者の不利益を防止し、製品の品質や安全性、プライバシーや個人情報の保護、不公正な商取引に関する消費者の保護を確保することを目的として、デジタル経済におけるデジタルリテラシープログラムを含む、消費者の意識向上、教育、支援のための行動をとることを約束する。我々は、技術開発が市民に与える有害な影響を防止し、技術の進化に追随するために、デジタル経済における消費者保護の分野での研究と介入の妥当性を認める。

我々は、消費者保護当局間の国際協力の強化や、マルチステークホルダー・エンゲージメント・イニシアチブとその調整を推進して、OECDのグローバル・リコール・ポータルやその他の消費者保護のための既存のツールやガイドラインなど、現在進行中の国際的な取組に価値を見出している。

我々は、2021年5月に開催された「消費者の意識、保護、デジタル経済におけるトレーサビリティのためのブロックチェーンに関するマルチステークホルダーフォーラム」と、デジタル経済の成長を支える手段としての消費者保護を進めるために国際的な協力と実例の交換を促進することへの呼びかけを歓迎する。我々は、この分野における広く開かれた同様な協議の機会が、来年にも定期的に続くことを願う。

グローバルバリューチェーンにおけるブロックチェーンについては、議長国がフォーラムのフォローアップとして作成した「G20実践事例集」は、ブロックチェーンなどの分散型台帳技術(DLT)をグローバルなバリューチェーンで活用することで、消費者に対してより高い透明性と説明責任を提供できる可能性があることを示しているが、企業、特に零細中小企業は、DLTをベースとしたソリューションを取り入れる上で、特有の障壁に直面している。今回の分析では、特に発展途上国におけるDLTの利用において、提供される機会と既存の課題を特定しており、G20各国、国際機関、企業、その他のステークホルダーの経験と実践に光を当てることに貢献できると考える。

v. デジタル環境における青少年保護とエンパワーメント

我々は、G20デジタル経済の優先事項の中に、デジタル環境における青少年保護とエンパワーメントが初めて含まれたことを嬉しく思う。

我々は、デジタル環境が、教育支援、創造性の向上、市民的自由の支援、社会的・文化的機会の提供、娯楽、オフラインでの体験への貢献など、青少年にさまざまな機会を提供することを認識する。

同時に、デジタル環境は複雑で、急速に進化するもので、大人になってからも含めて、青少年の人生をさまざまな形で形成し、再形成する能力を持っている。特にCOVID-19パンデミックの間に、デジタル技術の使用が増加したことで、青少年は、有害・違法なコンテンツ、接触、行為のリスクに加え、消費者としての青少年、製品の安全性、人権、セキュリティ、個人データ保護とプライバシーに関するリスクを含む、様々なリスクにさらされることとなっており、結果として、青少年は大人よりもリスクに脆弱となっている。

ネットいじめやネットグルーミングなど、以前から存在していたリスクが性質を変えて根強く残っており、青少年の精神的・身体的な健康に深刻な影響を及ぼす可能性がある。AIやIoTなどの新たなデジタル技術を含め、インターネット、モバイル機器、メディア機器の利用で処理・共有される個人情報やデータが豊富になることで、青少年は増大し複雑なプライバシーリスクにさらされている。COVID-19パンデミックは、こうしたリスクをさらに悪化させている。

我々は、青少年をエンパワーし保護するデジタル環境を構築するために、政府、企業、親、保護者、市民社会、教育者、代表団体、青少年自身を含む、さまざまなステークホルダー、特にデジタルサービスや製品の提供者と、責任を共有することを強調する。

コンテンツ共有のためのプラットフォームを提供したり、青少年向けのサービスもしくは、青少年が利用する可能性のあるオンラインゲーム、ソーシャルメディアプラットフォーム、生産性向上のためのツールやサービスなどのオンラインスペースを提供している企業は、サービスにおける青少年の保護とプライバシーを優先し、違法・有害なコンテンツや活動の両方から青少年が確実に保護されるように、製品やサービスの開発において、年齢に応じた青少年の安全性やプライバシー・バイ・デザインなどの安全対策を提供すべきだと我々は考える。

積極的なマルチステークホルダーアプローチを通じて、我々は、青少年にとって安全で安心、包摂的で透明性のある有益なデジタル環境、年齢に応じた質の高いオンラインコンテンツ、そして青少年とその親、保護者、介護者、教育者の意識向上とエンパワーメントを促進する。

我々は、国連子どもの権利条約の包括的な重要性を想起し、この分野において国際的な政府機関や非政府機関で行われている重要な活動、特に「ITU2020年子どものオンライン保護に関するガイドライン」を認識する。我々は、デジタル環境における青少年保護とエンパワーメントを行うことを約束する。これは、デジタル環境における青少年関するOECD勧告から引用され、拘束力のない「デジタル環境における青少年保護とエンパワーメントのためのG20ハイレベル原則(附属書2)」に基づく。

vi. スマートシティ・コミュニティのためのイノベーション促進

2019年には、G20議長国日本の下で「グローバル・スマートシティ・アライアンス」の取組を開始し、相互運用可能で標準ベースのオープンなデジタル都市プラットフォームの役割を強調した。2020年には、G20議長国サウジアラビアの下で、G20スマートモビリティプラクティスを歓迎し、スマートシティ・コミュニティの他の要素の統合を奨励した。

物品やサービスの主要な消費者である公共部門は、需要サイドのドライバーとして大きな力を持っており、セキュリティ、透明性、強靭性、プライバシー、市民参加、効率性、技術的中立性、相互運用性に基づくイノベーションを促進するのによく適している。公共調達は、デジタル化と持続可能な都市への移行を促進する重要な機会を提供し、それにより、よりコストパフォーマンスに優れたソリューションによる公共サービスの近代化を可能にし、市民の生活の質を高め、零細中小企業がデジタルバリューチェーンに参加できるようになる。

公共調達は、スマートシティのイノベーションを促進し、公共サービスやインフラの近代化を可能にする。同時に、スマートシティは、その規模の大きさや多様性から、導入が困難であることが証明されている。そのため、我々は、スマートシティのためのオープンスタンダードベースのデジタル・ソリューションを適切に調達・管理するために、政府部門において適切な能力構築を行うことの重要性を強調する。都市の幸福度を向上させることは非常に重要であり、我々は、スマートシティの発展に向けて、より包摂的で全体的なアプローチを可能にする参加型の手法に関する実践を含め、スマートシティに関する対話をさらに促進するために、国際的な取組やG20各国間での実例共有に関与することを再確認する。

そのため、我々は、知見を増やし、共有するためのツールとして、議長国イタリアによる「スマートシティ・コミュニティのための革新的な公共調達に関するG20実例報告書」を歓迎する。

vii. 接続性と社会的包摂

長年にわたるG20の成果を踏まえ、我々は、接続性のギャップを埋めるという我々のコミットメントを再確認し、2025年までに全ての人が普遍的で安価な接続性へのアクセスを促進するという目標を奨励する。

我々は、かつてないほどのデジタル化の加速に直面し、デジタル技術が仕事、教育、健康、行政サービス、さらには社会的な交流においてさらに不可欠なものとなる未来に向けて、全ての人に、ユニバーサルで安全な、アクセス可能、かつ安価な接続性を確保することが最も重要であると考える。

高性能なデジタル接続を含む、安全で強靭性のあるインフラに基づく高品質なデジタルサービスの提供は、将来的に非常に重要である。接続性は、労働力の中断を最小限に抑え、オンラインでの学習や仕事をサポートし、公共サービスやスマート医療システムへのアクセスを可能にし、地域の結束力を強化し、将来の労働力を準備するために、誰でも、どこでも、仕事のスキルアップや再教育プログラムを促進する。

我々は、特に、障害者や高齢者を含む、脆弱な立場にあるグループや十分なサービスを受けられないグループが直面する追加的な障壁を考慮し、遠隔地や農村部を含むサービスの行き届いていない地域を考慮しながら、人間中心で包摂的なデジタル技術の展開と適用を促進し、デジタル・アクセスを増やし、全ての人のためのデジタル・ソリューションを推進することの重要性を認識する。

我々は、都市部、遠隔地、農村部、あるいは離散的な環境を含め、デジタルスキルとデジタルリテラシーの向上の重要性と、多様なデジタル人材の必要性を認識する。これにより、市民はより効率的なサービスを平等に受けることができ、

消費者はより多くの選択肢を享受し、企業はより多くの機会と市場を開拓することができる。ICTやデジタル技術の利用やデジタルスキルは、男女平等や社会的包摂のための複数の機会を提供する重要な要素である。

我々は、国際的な協力や実例の交換、ステークホルダーとの交流を強化することが、我々の接続性と社会的包摂の目標に貢献できると考える。2021年4月に開催された「コネクティビティとソーシャル・インクルージョン・フォーラム」を機会とした、G20各国、国際機関、その他のステークホルダーによるオープンな対話の中で、我々は、接続性によるイノベーション、成長、包摂性の促進、接続性を通じたグローバルな課題への取り組み、全ての人のための接続性に関する優良事例の共有といった重要な議題を取り上げた。

我々は、デジタルインフラへの投資を呼び込むためには、資金調達を促進し、国内環境を最適化する必要があると考え、特にG20インフラ作業部会においてこの点についてフォーカスするなど、G20の財務大臣及び中央銀行総裁が努力していることを歓迎する。

viii. 信頼性のある自由なデータ流通と越境データ流通

2020年にデジタル経済大臣は、信頼性のある自由なデータ流通及び越境データ流通の機会と課題、そして、信頼性のある越境データ流通を可能にするために用いられる既存のアプローチや手段における共通点を特定することも含め、関連する適応可能な法的枠組みに従い、プライバシー、データ保護、知的財産権やセキュリティに関する課題に取り組む必要性を認識した。このような背景から、日本及びサウジ議長国下の取組や成果の上に立ち、我々は、OECDがまとめた「越境データ移転に対する規制的アプローチにおける共通項マッピング」という、異なるアプローチ間の“共通性、補完性、収束の要素”を明らかにする作業を認識する。このような共通点は、将来の相互運用性を促進するものである。

デジタルガバメント

デジタルトランスフォーメーションが加速する中、政府すなわちあらゆるレベルの行政機関において、この移行の促進者や規制者として行動するだけでなく、自らの機能や社会全体への奉仕のあり方を変革する必要がある。特にCOVID-19危機により、市民のデジタルサービスに対する経験が増え続けていることから、期待が高まる一方で、公共部門は、効率性、人間中心性、利便性、包摂性を新たなレベルで達成し、対応力と説明責任を証明することが求められている。

完全な「デジタルガバメント」とは、単にデジタル化されることだけではなく、積極的で、人間中心で、ユーザー主導型の、安全安心で、使いやすく、障害者や高齢者、遠隔地や農村部に住むコミュニティ、脆弱なグループなど、全ての人が利用できる、デジタルサービスを市民や企業に提供することが必要である。

この意味において、政府のデジタルトランスフォーメーションは、全ての企業と市民のためにサービスを向上させ、従来型の公共サービスへのアクセスを維持することを目指すべきである。

しかし、政府のデジタルトランスフォーメーションは、デジタル公共サービスの利用を希望しない、あるいは利用できない企業や市民を排除することにつながってはならず、従来の公共サービスは引き続き利用できるようにすべきである。

同時に、デジタル・ガバメントは、信頼を醸成するために、市民と企業の個人データとプライバシー保護を支援すべきである。

ix. 公共サービスとその継続性のためのデジタルツール

我々は、全ての市民のニーズにより良く合わせるために、デジタルツールとデータの活用を向上させる上で、議長国アルゼンチンの下で策定された「2018年G20デジタル政府原則」の重要性を認識する。COVID-19のパンデミックは、行政のあらゆるレベルにおけるデジタルガバメントの重要性及び、公共サービスの継続性、安全性、セキュリティ、強靭性を確保するために、個人データやプライバシーを保護しながら、技術を採用しデータを効果的に取り扱うための政府の能力を高める必要性を浮き彫りにした。

さらに、新たな技術の急速な発展は、G20各国の政府が公共政策やサービスを設計・提供する方法を変革する可能性を秘めている。

我々は、セキュリティ、個人データを含むデータ保護、プライバシー、アルゴリズムの偏りなどに関するリスクを管理しつつ、政府の強靭性、安全性、人間中心性、持続可能性を確保するために、デジタル技術とデータの潜在能力を引き出すのに必要な条件と能力を育成するというコミットメントを再確認する。特に、あらゆる種類のデジタル格差を解消することに注意を払う必要がある。

私たちは、OECDの支援を受けて作成された「公共サービスの継続のためのデジタルツールの使用に関するG20大要」を歓迎する。この大要には、将来の回復の基盤を提供するために、デジタル技術とデータがCOVID-19関連の公共サービスを下支えする方法について、国内および国際レベルでの実例が含まれている。我々は、関連するすべての国際機関の支援を得て、これらのサービスの質及び、全ての人、特に障害者や高齢者にとってのアクセシビリティを確保し、公務員の必要なスキルを向上させるための努力を継続することを約束する。我々は、政府のあらゆるレベルにおいて、統合的な権利に基づき、人間中心で、ユーザー主導型で、透明性があり、安全安心で、強靭で、積極的で、倫理的で包摂的な公共サービスの実施を導くための、実践的な解決策の収集に向けて努力を続けていく。我々は、市民社会組織、学術界、多様なステークホルダーの参加を得た、参加型で包摂的なプロセスを採用することの重要性を再確認する。最後に、我々は、公共部門におけるオープンソースの役割が、イノベーションの推進力の一つであり、国際協力を促進するための潜在的なツールであることを認識する。

x. デジタルアイデンティティ

我々は、プライバシーと個人データの保護を保証する、簡単に使用でき、確実で、安全で、信頼できる、持ち運び可能なデジタル・アイデンティティ・ソリューションによって、G20各国が公共部門及び民間部門の利用者のニーズと期待に応えることを可能にし、例えば、どのように提供されようとも、社会的給付へのアクセスを改善することができることを認める。我々は、パンデミックの間、公共部門と民間部門の両方のサービスへのアクセスをサポートするためのデジタル・アイデンティティの国内導入が加速したことに留意する。我々は、利用者が自由に与えた具体的かつ十分な情報に基づく同意に基づき、国内で適用される法的枠組みの中で、市民のプライバシーと個人データを保護する技術的ソリューションを支持する。市民がデジタル・アイデンティティの使用に意味のある同意を与えるためには、デジタル・アイデンティティによって政府サービスを受けることが、サービスにアクセスする他の手段に完全に取って代わるべきではないことを認識している。接続性が主な実現手段であることに変わりはないが、我々は、デジタル・アイデンティティ・ソリューションが、国連の持続可能な開発目標16.9「すべての人に法的な身分証明を提供する」の達成に向けて各国を支援する上で貢献する可能性があることを認識する。

我々は、OECDと共同で開発した「G20デジタル・アイデンティティ・プラクティス集」をはじめとする実例を共有することで、デジタル・アイデンティティに関する国際的な対話を支援する機会を歓迎する。また、市民が権利を有する恩恵やサービスを適時に受けられるように、市民の能力を変革できるツールとして、相互運用可能で持ち運び可能かつ再利用可能なデジタル・アイデンティティの経験を収集する。

我々は、このような学習活動が、各国のe-IDスキームの開発及び改善に有益な洞察を提供し、ユーザーのプライバシーを優先するための適切なデータ保護を伴う異なるプラットフォームやフレームワーク間の相互運用性を実現する鍵として、デジタル・アイデンティティの標準および規制の調和を奨励するための将来の議論に貢献できると信じる。我々は、デジタル・アイデンティティを人道的・緊急的に提供する状況を含めて、インターネットが乏しい環境に適した技術ソリューションを見つけるための作業を更に進めていく。

xi.アジャイル規制

デジタル化と技術革新は、世界中の政府に新たなガバナンスと規制の課題をもたらしている。全てのステークホルダーに配慮し、倫理的なリスクを防止し、市民、社会的価値、そして地球を守りながら、我々は、成長とイノベーションを支援するために、この新しい現実に対応していく必要がある。我々は、力強い経済成長に貢献し、世界で最も差し迫った社会的・環境的課題に取り組むようなイノベーションは、デジタル時代に適したガバナンスフレームワークと規制モデルによって支えられるべきである。

我々は、規制のサンドボックスのような実験的な規制の開発、先見的なアプローチ(例:ホライゾン・スキャニング、シナリオ分析、戦略的な先見性のある活動)、マルチステークホルダーによるガイドラインや標準の使用、国際的なイニシアティブの推進などを通じて、ガバナンスや規制のアプローチをよりアジャイルで柔軟かつ弾力的なものにするために、G20各国や招待国によって様々な行動がすでに取られていることに留意する。我々は、政府間ネットワークであるアジャイル・ネーションズからのG20メンバーへの参加要請に留意する。我々は、アジャイルな規制やソリューションが、いかなる当事者の権利も無視してはならないことに留意する。

我々は、「G20メンバーにおけるアジャイルな規制に関する調査」の貢献を認識し、OECDによる「イノベーションを活用するためのアジャイルな規制ガバナンスのための原則と政策提言」の策定に向けた進行中の作業を、UNIDOによる技術の先見性に関するグローバル・イニシアチブやITUによる「2020グローバルICT規制アウトルック」など、他の国際機関の作業に支えられ、伴っていることを認識する。

我々は、イノベーションのためのよりアジャイルなガバナンスと規制モデルを促進する観点から、優良事例と共通のアプローチを共有することを歓迎する。

今後に向けて

私たちは、強靭で強力で持続可能で包摂的な回復のためのデジタル化に向けて引き続き取り組むとともに、エンゲージメントグループ、国際機関、その他のステークホルダーの役割と貢献を認識する。

我々は、次期G20議長国インドネシアからの、この宣言に基づいて、COVID-19後の回復策、デジタルスキルやリテラシーに関する作業や議論及び、信頼性のある自由なデータ流通や越境データ流通に関する議論を継続するという提案を歓迎する。

2021年のG20デジタル経済タスクフォース(DETF)の作業に貢献した方々に感謝する。この作業には、すべてのG20メンバー国に加えて、G202021年の招待国である、ASEANを代表するブルネイ・ダルサラーム、アフリカ連合(AU)を代表するコンゴ民主共和国、オランダ、アフリカ開発のための新パートナーシップ(NEPAD)の議長であるルワンダ、シンガポール及び恒久的招待国であるスペインが参加した。

また、2021年の知識パートナーであるUNIDO、UNCTAD、UNESCO、OECDをはじめ、FAO、ITU、UNECE、UNHCR、UNSD、WORLDBANK、エンゲージメントグループであるB20、C20、L20、T20、W20、Y20、その他対話に貢献した企業や市民社会の代表者の方々に感謝する。

我々は、議長国サウジアラビアの下で2020年に始まった議論を踏まえ、我々の経済と社会にとってデジタル経済の役割が増大し、恒常的なものであることを認識し、デジタル経済タスクフォースがデジタル経済ワーキンググループ(DEWG)に変わることを歓迎する。デジタル経済ワーキンググループは、規約(付属書3)に基づいて活動し、議長国が決定したアジェンダに基づき、少なくとも年2回会合を開催する。