データベース『世界と日本』(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 貿易と投資に関するG20閣僚声明

[場所] イタリア・ソレント
[年月日] 2021年10月12日
[出典] 外務省
[備考] 仮訳
[全文] 

1 我々G20貿易・投資大臣は、10月12日に、貿易・投資を、国民、地球、グローバルな繁栄に貢献させるために、また、法に基づく、無差別で、開かれ、公正で、包摂的で、公平で、持続可能で透明性のある、WTOを中心とする多角的貿易体制を強化するために、G20イタリア議長の下、イタリア・ソレントで一同に会した。

2 我々は、グローバルで調和のとれた対応の促進により、強靱で、力強く、持続可能で包摂的な経済回復のための確かな基礎を築き、新型コロナウイルス感染症のパンデミックが国際貿易及び投資に及ぼす影響を緩和するために、我々が積極的に関与することを再確認する。新型コロナウイルス感染症の発生が世界経済にもたらした混乱にもかかわらず、多角的貿易体制は安定の源泉であり、新型コロナウイルス感染症が人々にもたらす影響の緩和を助ける上で、重要な役割を果たしている。グローバル・サプライチェーンの更なる強化の重要性を認識し、それをより強靱で、安全で持続可能なものとし、需要を満たすべく生産を拡大し、調達源を多様化する一方で、我々は、パンデミックの発生以降、多角的貿易体制が達成した前向きな結果を認識する。我々は、WTO加盟国が、半分以上の新型コロナウイルス感染症の貿易制限的な措置を撤廃したことを歓迎し、またそれを継続するよう促す。

3 我々は、自由で、公正で、包摂的で、無差別で、透明性があり、予見可能な安定した貿易・投資環境を実現するためのコミットメントを改めて強調する。我々は、この試練の時代が、より持続可能で、より公平で、より包摂的な成長のための重要な機会を提供すると考える。

WTO改革

4 「WTOの将来に関するリヤド・イニシアティブ」を想起しつつ、我々は、WTOの必要な改革を実施するために、全てのWTO加盟国と積極的かつ建設的に取り組むことに引き続きコミットし、開発課題への取組を含め、包括的で透明性のあるアプローチを通じて、このコミットメントを実施に移す必要性を強調する。

5 WTOの根本的な諸原則を再確認しつつ、我々は、WTOの全ての機能を向上させるための改革を思い描く。我々は、貿易交渉を促進し、世界貿易のルールブックの改訂を促すことにより、WTOのルール形成機能を強化することに引き続きコミットするとともに、WTOで現在進んでいる交渉の重要性を強調する。我々は、正しく機能するWTOの紛争解決制度は、多角的貿易体制に安定性及び予見可能性を与えることに貢献すべきであることを想起する。我々は、長期にわたって続いてきた諸問題への対応を必要としているWTOの交渉機能及び紛争解決制度について、その適切な機能を促進させるべく、WTOの場において、またより広範なWTO加盟国とも協力していく。我々は、効果的な多数国間のルールに基づいたシステムの完全性を維持するためには、コミットメントの的確な実施とモニタリングが不可欠であることを強調し、それゆえ、バランスがとれ包括的な形での、WTO加盟国間の強化された透明性と対話を支持し、促進する。

6 我々は、WTO改革を前に進めWTOを活性化するための重要な機会として、成功し生産的なWTO第12回閣僚会議にコミットする。我々は、前進に必要な政治的モメンタムを与えるため、この作業に積極的に関与することに約束する。

貿易と保健

7 今回のパンデミックは、安全かつ手頃な価格で有効な新型コロナウイルス感染症のワクチン、治療、診断及び個人防護具への、適時で公平な世界全体でのアクセスの強化に向けて取り組むことの重要性を浮き彫りにした。我々は、国際的な連帯の精神をもって、「新型コロナウイルスに対して世界貿易・投資を支えるためのG20による行動」を引き続き実施する。

8 我々は、5月のグローバル・ヘルス・サミットで作成された「ローマ宣言」を想起する。我々の首脳は、WTOの中心的な役割と、開かれ、強靱性のある、多様で、安全で、効率がよく、信頼がおける、ワクチン生産のための原材料も含めた公衆衛生危機に関連するバリューチェーン全体に及ぶ、グローバル・サプライチェーンの重要性に留意しつつ、公衆衛生危機に対処するための医薬品、診断ツール、医療機器、非医薬品及び原材料の製造とアクセスのため、多角的貿易体制を促進することにコミットした。

9 我々は、新型コロナウイルス感染症に対処するための貿易上のいかなる緊急措置も、必要と認められる場合でも、的を絞り、釣り合いのとれた、透明かつ一時的なものであって、最も脆弱な人々を守る上での我々の関心を反映し、貿易に対する不必要な障壁又はグローバル・サプライチェーンへの混乱を生じさせず、WTOのルールと整合的なものであることの重要性を改めて強調する。我々は、貿易及び投資が、これらのサプライチェーンの強靱性の強化及び向上に積極的に貢献することを、確保する。

10 我々は、第12回WTO閣僚会議に向けて、そしてその後も、多面的な対応をとることでパンデミック及び災害に対する準備及び強靱性を高める多角的貿易体制の能力を強化するために、全てのWTO加盟国とともに積極的及び建設的に取り組む。知的所有権の貿易関連の側面、ワクチン・治療法・不可欠な医療物品の生産と分配を拡大するための国際的な努力への貢献、生産拠点の多様化及び公平な分配、貿易円滑化措置、輸出規制及び規制適合性の促進は、我々のWTOにおける建設的な関与の一部である。とりわけTRIPS理事会、物品理事会、サービス貿易理事会並びにその他の関連機関及びプロセスにおいて、グローバルな公衆衛生への取り組みを高めることができる。

サービス及び投資

11 我々は、サービスが復興、成長、経済の多様化のチャネルとして大きな役割を担っていると確信している。我々は、サービス分野を発展させ、サービス貿易を促進し、そのコストを削減するためには、GATSの目的を達成するとともに、健全で予見可能かつ透明性のある国内規制の枠組みが重要であることを認識する。

12 我々は、デジタル・デバイドが依然として存在すること及び開発途上国や後発開発途上国におけるインフラ整備に関連する課題に留意しつつ、パンデミックにおいてデジタル化が世界貿易に良い影響をもたらしたことを評価する。我々は、包摂的な成長に向けて、経済活動を維持し、開発を促進し、全ての市民と企業に新たな機会を提供するために、デジタル貿易は強化されるべきだと考える。我々は、8月の「G20デジタル大臣宣言」及び「G20リヤド首脳宣言」を想起する。

13 我々は、とりわけ途上国向けの投資のフローを再活性させることの重要性を認識する。持続可能な投資を促進するために、開かれ、無差別で、透明かつ予見可能な環境を改善することの価値を再確認する。また我々は、良好なビジネス環境及び貿易・投資を支える政策は、目まぐるしく変化するグローバルな環境における課題に対処するために必要となる、経済的な変革のための投資を動員することができると認識する。

14 電子商取引、開発のための投資円滑化及びサービスの国内規制に関する共同声明イニシアティブに参加しているG20メンバーは、全てのWTO加盟国の同イニシアティブへの積極的な参加を奨励し、支持し、第12回WTO閣僚会議に向けた有意義な進展を期待する。共同声明イニシアティブ(JSI)に参加していないいくつかのG20メンバーによって、ルール形成への懸念が表明されていることに留意する。

政府支援と公平な競争条件

15 我々は、リヤドとつくばで確認されたように、ビジネスを可能にする環境を促進し、ルールに基づいた多角的貿易体制の全体性及び持続可能性を支えるために、公平な競争条件を確保するべく努力を続けていく。「WTOの将来に関するリヤド・イニシアティブ」の文脈で認識したように、我々は、公正な競争の重要性を強調する。貿易摩擦を緩和し、貿易及び投資における歪曲に取り組み、サプライチェーンの分断に対応し、互恵的な貿易関係を促進することは、経済が新型コロナウイルス感染症のパンデミックに対応し、そこから回復する上で極めて重要である。我々は、過剰生産能力など、一部のセクターにおける構造的な問題が負の影響を引き起こし得ることを再確認する。

16 G20メンバーの多くは、産業補助金に関する国際ルールを強化する必要性を確認し、農業に影響を与える貿易ルールを改善するための現在行われている国際的な努力を歓迎する。我々の多くは、農業補助金と農業市場アクセスを強調する。

17 我々は、政府支援の透明性及びWTO加盟国が透明性に関する義務を守ることの重要性を認識する。我々は、それらの義務を果たすという我々のコミットメントを再確認し、他のWTO加盟国にも同様にするよう求める。

貿易と環境の持続可能性

18 我々は、多角的貿易体制が、「持続可能な開発のための2030アジェンダ」及び持続可能な開発目標(SDGs)を、経済・社会・環境の3つの側面から促進することへの貢献の重要性を主張する。我々は、UNFCCC及びパリ協定への支持を再確認する。我々は、貿易及び環境政策は相互に支え合い、持続可能な開発の目的に従って世界の資源の最適活用に貢献すべきであると信じる。我々は、気候変動に取り組むための措置は、WTOと整合的であるべきであることを再確認する。

19 我々は、有害な漁業補助金に関する、包括的かつ実効的で、持続可能な開発目標(SDGs)14.6に沿った規律をもって、第12回WTO閣僚会議までに有意義な合意に到達するため、現在行われているWTO漁業補助金交渉を支持する。これらの規律は、海洋・海洋資源の持続可能性という命題に対応する。

20我々は、持続可能な発展を確かなものとし、貿易保護主義及び不必要な貿易障壁を回避し、多角的貿易体制を守るという目的を通じた、WTOの環境保護・保全への貢献を認識する。我々は、貿易措置と環境措置の関係に関する政府間の対話が行われる常設の場としてのWTO「貿易と環境委員会」の役割を支持する。

21 我々は、途上国及び後発開発途上国が、資源効率のよい、持続可能な、気候及び環境にやさしい発展へ各々移行するのを助け、これらの国の強靱性を高め、貿易のための援助を通じた持続可能な貿易の機会を手にしやすくするための適切な支援の提供の重要性を確認する。

22 「貿易及び環境に関する持続可能な構造的議論(TESSD)」及び「プラスチック汚染及び環境的に持続可能なプラスチック貿易に関する非公式対話」に参加するG20メンバーは、全てのWTO加盟国のこれらのイニシアティブへの積極的な参加を奨励し支持する。

中小零細企業

23 我々は、経済において中小零細企業が果たす極めて重要な役割を認識する。その役割は、持続可能な開発目標、とりわけ、女性のエンパワーメント、働きがいのある適正な仕事と経済成長、産業、イノベーションとインフラ、貧困撲滅及び不平等の緩和に関連する目標を実現するために重要である。

24 我々は、中小零細企業は、我々の貿易・投資協定によって促進される成長市場へのアクセス向上から利益を得る立場にあり、グローバル市場が中小零細企業の成長の重要な源であることを認識する。中小零細企業が有する国際貿易への関与のための資源は限られているため、ユーザー・フレンドリーな様式での情報へのアクセスは極めて重要である。我々は、中小零細企業の情報アクセスを円滑化するプラットフォームの活用を促進することの認識を高める重要性を強調する。

25 我々は、様々な国、とりわけ途上国及び後発開発途上国の中小零細企業が直面する様々な課題を認識する。我々は、中小零細企業が、より競争力を持ちよりグローバル経済に統合されるよう、中小零細企業の能力及び戦略的資源を強化することが重要であることを強調する。

26 「中小零細企業の国際的競争性増進に関するG20政策指針」を想起し、我々は、G20イタリア議長国の拘束力を持たない中小零細企業政策ツール・キットに留意する。

今後に向けて

27 国際貿易と投資が、国民、地球、グローバルな繁栄に役立つグローバル経済の回復への効果的な貢献を確実にすることを期待し、我々は我々の首脳に、ローマ首脳会議でこれらの重要な議題を検討するよう共同で提言する。

28 我々は、各国際機関に対して、我々の議論への貢献に感謝するとともに、貿易と投資を更に推進するG20の取組を支援する、それら機関の更なる分析を歓迎する。

29 我々はG20議長国としてのイタリアの確固した努力とリーダーシップに感謝し、この宣言を2021年G20首脳会議に提出するとともに、インドネシアが議長を務める2022年のG20及びそれ以降に向け、協力を継続する。

(了)