データベース『世界と日本』(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 20か国財務大臣・保健大臣合同会議共同声明

[場所] イタリア・ローマ
[年月日] 2021年10月29日
[出典] 厚生労働省
[備考] 仮訳
[全文] 

 新型コロナウイルスのパンデミックは、世界中で大きな影響を与え続けている。感染患者の深刻な死亡率、罹患率、入院率は、パンデミックに対する予防、備え及び対応(PPR)、保健システムやサービス、情報、教育の脆弱性を明らかにした。同時に、パンデミックは世界経済にも大きな打撃を与えている。経済の回復は、国によって、また一国の中でも大きく異なり、新興・開発途上国の経済や、貧困家庭、女性、少女、障がい者、高齢者、子供を含む脆弱な状況にある人々に、特に深刻な影響を与えている。パンデミックは、世界的な保健対応への調整能力に重大な不足があることを明らかにした。これらの不足のために、パンデミックとその社会経済的影響への対応という課題への準備不足を招き、国際連合(UN)2030アジェンダ及び持続可能な開発目標(SDGs)の前進を妨げている。またパンデミックは、我々の保健システムのギャップをより良く理解し、埋める必要性も明らかにした。

 我々は、あらゆる場所で可能な限り早期にパンデミックを制御し、人々を備えの中心に置き、健康危機への備え、予防、検出、報告、対応のための我々の共同の取組を強化し、特に保健システムとコミュニティの強靭性を促進するという我々のコミットメントを再確認する。我々は、新型コロナウイルスの広範なワクチン接種の国際公共財としての役割を認識する。我々は、特に低・中所得国(LMICs)において、安全で入手可能で質が高くかつ効果的なワクチン、治療薬、診断薬及び個人防護具への適時で公平なアクセスを確保するためのあらゆる協働の取組を支持することを再確認する。世界保健機関(WHO)の世界ワクチン接種戦略において推奨されているように、全ての国において、2021年末までに少なくとも人口の40%、また2022年半ばまでに人口の70%にワクチンを接種するという世界全体の目標に向けて前進するために、我々は開発途上国におけるワクチンや必要不可欠な医療製品・原材料の供給を後押しし、関連する供給や資金調達の制約を取り除くための措置をとる。我々は、サプライチェーンの強靭性を強化し、ワクチンの配布、接種、更に南アフリカ、ブラジル及びアルゼンチンにおいて新たに立ち上がった「mRNAハブ」のような様々な地域における自主的な技術移転ハブや共同生産及び製剤を通じることも含めて、低・中所得国(LMICs)における現地及び地域の製造能力を強化するための我々の支援を再確認する。我々は、「新型コロナウイルス対応ツールへのアクセス加速事業(ACT-A)」及びそのマンデートを2022年まで延長することへの支援を継続し、ACT-AのCOVAXのピラー、アフリカ連合の「アフリカ・ワクチン入手トラスト(AVAT)」、汎米保健機構の「RevolvingFund」、グローバルファンドの「新型コロナウイルス対応メカニズム」を含め、世界や地域のイニシアティブとの協働を前進させる。我々は、ワクチン提供の透明性と予測可能性を高め、責任ある官民連携の育成に取り組む。我々は、多国間リーダーズ・タスクフォース(MLT)の取組に感謝し、ギャップの特定や新型コロナウイルス対応ツールへのアクセス及び現場での提供の加速に取り組むことを奨励する。これらの取組は無数の命を救うとともに、世界各地でのワクチン接種を加速させ、経済回復の礎となる。我々は、COVAXと協働している国際開発金融機関に対し、ワクチンの調達と提供の支援を継続するよう求める。

 我々は、新型コロナウイルスの危機から学んだ教訓をもとに、国際保健・財務の政策立案者及び多国間保健・金融機関の間の対話と連携を改善するとともに、国内外での多部門間の協働に基づき、国際公共財としての広範なワクチン接種に資金提供するための多国間アプローチを強化することにより、長期の保健能力への投資を拡大し、将来の保健危機への強靭性を高め、人々のニーズに対応していくことに引き続きコミットする。我々は、各国の保健システムをより包摂的で強靭なものに強化し、SDGsに沿って性と生殖に関する健康を含む医療サービスへの普遍的なアクセスを確保し、全てのレベルで質の高い医療を実現するためにプライマリ・ヘルス・ケアに焦点を当てることにより、健康的で持続可能な回復を促進することにコミットするとともに、「途上国におけるユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)ファイナンスの重要性に関するG20共通理解」に対するコミットメントを含めてUHCの実現にコミットする。

 我々は、包括的なワン・ヘルス・アプローチに沿って、三機関(Tripartite)、国連環境計画及びこれらの機関が新たに立ち上げた「ワン・ヘルス・ハイレベル専門家パネル」の作業を踏まえ、薬剤耐性に取り組むG20のコミットメントにも沿って、断固として、パンデミックに対する予防、備え及び対応を前進させるとともに、パンデミック後の強固な経済の回復への道を準備する。

 我々は、PPRのための資金調達が、より適切で、より持続可能で、より調整されたものでなければならず、また既存の多国間資金メカニズムを適切な組み合わせで動員して潜在的な資金ギャップに対処するとともに、新たな資金メカニズムの設立を検討することを含め、保健と財務の政策決定者間の継続的な協力を必要とすることを認識する。

 ローマ宣言に沿って、我々は、我々の取組が次の原則に基づくことに同意する。各国のニーズと状況に立脚すること。次のパンデミックに対する第一線として、保健システムの強化のために国内の資金動員を促進すること。国境を越えた健康危機に対処するために、共同で取り組む喫緊の必要性を認識し、ジェンダーの側面を含むギャップへの対処に焦点を当てること。国際保健事業におけるWHOの重要な指導的役割を認識すること。既存の機関それぞれの強みとマンデートを活かし、ACT-Aのような既存の協働ネットワークを活用すること。グローバル・ヘルス・アーキテクチャー(国際保健の枠組み)の強化のために継続中の取組と整合性がとれ、支援するものであること。迅速で柔軟な対応を可能にし、衡平性を促進し、世界、地域、国レベルの保健機関の対応を遅らせる可能性のあるマンデートの重複を避けるため、グローバルな連携の改善に努めること。パンデミックへの備えと対応に関するWHOの文脈において、国際保健規則(2005)の強化と合わせて、可能性のある条約、協定、その他の国際文書への支持を検討するプロセスを考慮すること。

 以上の原則に基づき、また、G20非公式財務・保健専門家グループの活動を踏まえ、我々は、ワン・ヘルス・アプローチを採用しつつ、パンデミックPPRに関係する課題についての対話と国際的な協力の強化、経験とベストプラクティスの共有の促進、財務省と保健省の間の連携体制の発展、協力体制の促進、国境を越えて影響を及ぼす健康危機の評価と対処、及びパンデミックPPRのための資金の効果的な管理の奨励を目的として、「G20財務・保健合同タスクフォース(タスクフォース)」を設立する。

 タスクフォースは、健康危機に対するWHOの備えと対応の強化に関する世界保健総会での今後の議論と決定を踏まえつつ、財務省と保健省の間の連携体制のオプションを策定する。タスクフォースは参加国主導でコンセンサスによって運営される。タスクフォースの参加者は、保健省と財務省の職員である。タスクフォースは、包摂性、代表性、地理的範囲を確保するため、また、2021年5月に開催されたグローバル・ヘルス・サミットの経験を踏まえ、G20以外の参加国、地域機関、国際機関(IOs)からの参加をコンセンサスに基づき検討する。タスクフォースは、脆弱国、地域機関、市民社会、学界、民間セクターに対して調査活動を行い、意義のある関与を行う。

 タスクフォースは当初、2021年と2022年のG20議長国が共同で議長を務める。タスクフォースは、2022年初めに保健大臣及び財務大臣に報告し、世界銀行の支援を受けWHOに事務局を置く。事務局は、G20参加国、関連する国際機関及び国際金融機関の専門性を活用する。

 我々は、タスクフォースに対し、保健と財務の協働が、国際保健規則(2005)の枠組みの中で、国境を越えて発生する可能性のある将来の健康危機への予防、検出及び対応の取組をどのように強化できるかを報告することを期待する。タスクフォースは、G20ハイレベル独立パネルの活動やその他の関連活動を参考にしつつ、パンデミックPPRに割り当てられている既存の公的及び民間の資金や、関連する資金ギャップについて議論すべきである。タスクフォースは、パンデミックPPRに対する資金調整及び資源動員の機会を特定する。また、タスクフォースは、関連する法的枠組みを考慮し、資源配分の優先順位を特定する。

 我々は、タスクフォースに対し、当面のロードマップに合意し、事務局を任命するため、2021年末までに会議開催するよう要請する。