[文書名] G20農業大臣会合 2023 成果文書及び議長総括
すべての G20 農業大臣は、パラグラフ1,2、及びパラグラフ6から26並びに付属文書に合意した。
前文
1 我々G20農業担当大臣は、2023年6月16-17日にインドのハイデラバードに参集し、包摂的、強じん、かつ持続可能な農業及び食料システムの発展を通じて、すべての人々の食料安全保障と栄養にコミットすることを再確認した。
2 我々は、増え続ける世界人口の需要を満たすために世界の食料生産が長期的に増加してきたことを認識する一方、多くの開発途上国や後発開発途上国において、世界的な食料不安の状況悪化や栄養不良率の増加が見られることを深く懸念する。それは、貧困、新型コロナウイルスのパンデミック、深刻化する気候変動や生物多様性損失の危機、及び世界各地で続く紛争により、悪化している。
3 *1* ウクライナにおける戦争は世界経済に更なる悪影響を与えている。この問題に関して議論が行われた。我々は、2022年3月2日に賛成多数で採択された国連総会決議ES―11/1(141か国が賛成、5か国が反対、35か国が棄権、12か国が欠席)においてロシアのウクライナ侵略を最も強い言葉で遺憾の意を表明し、同国のウクライナ領土からの完全なかつ無条件での撤退を要求している国連総会及び国連安全保障理事会を含む他のフォーラムで表明してきた自国の立場を改めて表明した。ほとんどのG20メンバーは、ウクライナにおける戦争を強く非難するとともに、この戦争が計り知れない人的被害をもたらし、また、成長の抑制、インフレの増大、サプライチェーンの混乱、エネルギー及び食料不安の増大並びに金融安定性に対するリスクの上昇といった世界経済における既存の脆弱性を悪化させていることを強調した。この状況及び制裁について、他の見解及び異なる評価があった。我々は、G20が安全保障問題を解決するためのフォーラムではないことを認識しつつ、安全保障問題が世界経済に重大な影響を与え得ることを認識する。
4 平和及び安定を守る国際法及び多国間システムを堅持することが不可欠である。これには、国際連合憲章に謳われている全ての目的及び原則を擁護し、武力紛争における市民及びインフラの保護を含む国際人道法を遵守することが含まれる。核兵器の使用又はその威嚇は許されない。紛争の平和的解決、危機に対処する取組及び外交・対話が極めて重要である。今日の時代は戦争の時代であってはならない。
5 我々は、世界的な食料不安を軽減し、必要とする途上国に食料や肥料がスムーズに届くよう、2022年7月22日にトルコ及び国連によってパッケージとして仲介された「黒海穀物イニシアチブ」及び「ロシアと国連(UN)事務局間の覚書」が、すべての関連する利害関係者によって、完全に、時宜を得て、改善され、継続的に実施されることの重要性を強調した。
6 我々は、気候変動や生物多様性の損失といった危機に強じんな、持続可能な農業・食料システムへの変革に向けた取組を強化することにより、世界の食料安全保障と栄養を高めることにコミットする。G20マテーラ及びバリ首脳宣言は、食料安全保障と栄養の促進に向けて協働する必要性を強調しており、我々は、これらの宣言が特に言及した緊急性を再確認する。我々は、その達成のために、脆弱な国々、とりわけ食料純輸入開発途上国を支援することにコミットする。現在の危機は多次元的であるため、「ひとつの地球、ひとつの家族、ひとつの未来」の精神に基づき、一貫性があり効果的な短、中、長期的な対応を組み合わせた多層的なアプローチが必要であり、すべての危機に同等の緊急性を以て取り組むことが必要なことを、我々は認識する。
求める行動
食料安全保障と栄養
7 我々は、高価格や、世界的なサプライチェーンの継続的な混乱、及び食料や肥料の過度な価格変動を懸念する。強じんで、途切れがなく、信頼性の高いサプライチェーンは、すべての人の食料の入手可能性や手頃さを安定させるために必要不可欠であり、緊急時や人道危機の最中においては、女性や女児等の脆弱な状況にある人々にとって特に重要である。制度的ショック、地政学的な緊張及び紛争の文脈において、我々は、世界の食料安全保障と栄養のニーズを満たすこと、そして食料と肥料の健全な供給を促進することの緊急性を強調する。
8 我々は、食料安全保障と栄養を改善するためには、多様で、安全、かつ持続的に生産された栄養価の高い食料が重要であることを強調する。我々は、気候に強じんで、栄養のある、地元に適応した、土着で未活用の穀物を含む作物の開発、生産及び消費パターンのイノベーションを促進するイニシアチブを奨励する。持続可能な方法での農業生産性の向上に向けた研究開発の重要性を強調し、我々は、雑穀、キヌア、ソルガムやコメ、小麦、トウモロコシを含む、その他の伝統的な作物等、気候変動に強じんで栄養価の高い穀物の研究協力を強化する取組を促進する。その観点と2011年にG20で承認された「小麦改良のための国際研究イニシアチブ(IRIWI)」を元に、我々は、第12回G20MACSでの雑穀とその他古代穀物に関する研究のための国際イニシアチブの立上げを歓迎する。
9 我々は、全体的に見て十分な栄養を達成するには、先ず多様な食料の消費に基づくべきことを強調する。また、我々は、生物学的栄養強化が栄養改善に効果的な方法となり得ることに留意する。この観点から、我々は、作物の生物学的栄養強化に関する研究を奨励する。我々は、生物学的に栄養強化された作物品種に関し、引き続き証拠を集め、関連する情報を農業者に普及するとともに、消費者、特に低所得者層への働きかけを強化することにコミットする。
10 我々は、持続可能な農業・食料システム、食料安全保障プログラム及び国際貿易が、持続可能な開発目標、とりわけSDG2「飢餓をゼロに」達成に向けた2030アジェンダの実施や、十分な食料への権利の漸進的な実現のために必要不可欠であることを認識する。我々は、開発途上国の持続可能な食料生産、備蓄、マーケティング及び損失軽減の能力向上を支援すべきである。我々は、また、貧困の中で生活し、食料不安を経験している人々の割合がいまだに大きいことを認識する。我々は、食料及び現金ベースの栄養安全保障セーフティーネットプログラムが、購買力を強化し、困窮を解消し、栄養状態の改善に貢献し得ることに留意する。食料安全保障及び栄養プログラムを促進するために、我々は、優良事例や経験を互いに共有することに同意する。
11 我々は、農業市場の透明性を高め、食料安全保障と栄養のための協調的な政策対応を支援するに当たり「農業市場情報システム(AMIS)」イニシアチブ、及び「地球観測に関する政府間会合による全球農業モニタリング(GEOGLAM)」の重要な貢献を認識する。我々は、食料価格の乱高下による悪影響を防ぐため、さらに透明性を高めるべくAMIS及びGEOGLAMの強化を支援するとのコミットメントを再確認する。我々は、肥料に関する作業を含むAMISの取組を支持し、取組をさらに拡大して植物油を含むことを支持するとともに、早期警鐘システムとのより緊密な連携確立を求める。我々は、必要なデータ及び資源の提供やドナーベースの拡大を通じてAMISを積極的に支援するとのコミットメントを再確認する。
気候スマートなアプローチによる持続可能な農業
12農業にとっての主要な課題として、食料安全保障と栄養への対応を前進させるための農業生産の拡大、気候変動への適応、そして、温室効果ガスの排出や生物多様性の損失、土壌劣化の要因を少なくすること、などがある。これには強じんで持続可能な農業慣行への変革が必要であり、そのため、各国がお互いの取組を補完し支援し合いながら、各国に適した道筋を進む必要がある。これらの課題に対処するためには、優良農業慣行や科学、根拠に基づく革新的な解決策を地域、国、地元の状況に応じて活用、調整し、試験的に実施していくべきである。我々は、気候変動に強じんな技術、自然を基盤とする解決策や生態系に基づくアプローチといった分野において協働し、持続可能な農業のための既存の伝統的・地域的知識をよりよく普及させていくことを決意する。
13 我々は、人間、家畜や野生動物、植物、及び(生態系を含む)より広範な環境の健康は密接に関連しており、相互依存的であるということに留意する。我々は、パンデミックの可能性のある新興・再新興の、また現在発生中の人獣共通感染症やその他の世界的な公共の健康安全保障への脅威によるリスク低減に向けて、人間、動物、植物、及び生態系の健康を同時にバランス・最適化し、薬剤耐性(AMR)と闘うために、統合的かつ多部門に渡るワンヘルスアプローチを求める。我々は、ワンヘルスアプローチに沿ってAMRに対処するための重要なツールとして、コーデックスの「食品由来のAMRの統合的モニタリング及びサーベイランスに関するガイドライン」の採択を歓迎するとともに、「食品由来のAMRの最小化及び抑制のための実施規範」改訂版の実施に向けた我々のコミットメントを再確認する。我々は、「国連食糧農業機関(FAO)」、「国際獣疫事務局(WOAH)」、「世界保健機関(WHO)」、及び「国連環境計画(UNEP)」の四者機関の取組を評価するとともに、持続可能な農業及び食料システムの達成に向け、このアプローチを実施するための政策・戦略の策定におけるこれら国際機関の支援を奨励する。
14 我々は、持続可能で、多様、かつ強じんな農業・食料システムが、飢餓と栄養不良に立ち向かうための長期的な解決策を提供するとともに、気候変動、土地劣化、水資源の過剰搾取、生物多様性及び森林の損失に対処するための重要な機会をもたらすことに留意する。我々は、「昆明・モントリオール生物多様性枠組」に沿って生物多様性の損失を食い止め、回復させることにコミットし、同枠組の効果的な実施にコミットする。健康な土壌は食料生産の鍵であり、頻繁に起こる異常気象の影響にも強じんであることから、我々は、持続可能な栄養分及び土壌の管理へのコミットメントを再確認する。我々はまた、地元の栄養循環や肥料の効率的な利用を促進する必要性を認識する。我々は、環境的・経済的な成果を高めるための持続可能な慣行及び生態系サービスに向け、イノベーションを促進し、責任ある投資を推進するための政策を支持し、あらゆる財源から資金を動員し、WTO上の義務に沿って適切に農業者にインセンティブを与えることにより、気候に強じんで持続可能な農業・食料システムへの変革を可能にする環境を整備する必要性を強調する。
15 我々は、食料安全保障を強化するために、農業における気候変動への適応及び緩和が重要であることを強調する。我々は、気候変動への適応及び緩和を加速させるための共同の取組を強化することが肝要であることを認識する。我々は、UNEPの適応ギャップ報告書2022、そして、適応ギャップを埋めるために財政と実施の取組の拡充が必要なことに留意する。我々は、G20の指導的役割に留意するとともに、衡平性と、各国の異なる状況に照らした共通だが差異ある責任及び各国の能力に関する原則を反映した形で、パリ協定とその気温目標の完全かつ効果的な実施を強化することによって気候変動に立ち向かうという、我々の首脳の確固たるコミットメントを再確認する。我々は、UNFCCCとCOPにおける決定、特にCOP27での「農業及び食料安全保障に係る気候行動の実施に関するシャルム・エル・シェイク共同作業」の設立を歓迎し、これらの継続的で包摂的な議論を期待する。
包摂的な農業バリューチェーンと食料システム
16 我々は、強じんで持続可能な農業・食料システム及びサプライチェーンを促進する政策が、幅広い栄養ある食料を提供し、栄養や健康を向上させ、働きがいのある仕事を創出し、貧困を削減することによって、包摂的な福祉と持続可能な開発を促進し、その結果食料安全保障を達成する大きな可能性を有していることを強調する。我々は、持続可能で強じんな食料システムを構築し、食料、農業投入材及び生産品への手頃なアクセスを支援するよう地元、地域及び世界の農業・食料バリューチェーンを多様化し強化するために、集合的な取組が急務であることを強調する。我々は、食料安全保障及び栄養に貢献するよう、市場の予測可能性を向上させ、貿易関係者の信頼感を増し、農業・食料貿易を円滑にするため、世界貿易機関(WTO)を中核としたルールに基づく、開かれ、予見可能、透明性があり、無差別で、包摂的、公平かつ持続可能な多国間貿易システムを強化することの重要性を再確認する。我々はまた、このようなシステムは、供給ショックにより引き起こされる価格の乱高下を緩和させるのに役立ち、消費者により多くの選択肢をもたらすとの価値があると認識する。我々は、第12回WTO閣僚会合(MC12)で達成された進捗の重要性を再確認し、「食料安全保障の不安への緊急対応についての閣僚宣言」においてなされたコミットメントを再確認する。同宣言は、貿易を円滑化し、世界の食料・農業市場の機能や長期的な強じん性を向上させるための具体的な措置を講じる必要性を強調しており、とりわけ、関連するWTOの規定に非整合的な輸出禁止・規制を課さないことの重要性を強調している。我々はまた、世界食糧計画(WFP)による、非商業的な、人道目的のために購入される食料品に対して、加盟国が輸出禁止・規制を課さないことを定めたWTO閣僚決定を想起する。我々はまた、SPS協定の適用に関する新たな課題に対処するための「現代のSPS上の課題への対応に関するMC12衛生植物検疫宣言」を想起する。我々は、WTOの重要な役割を認識しつつ、農業貿易ルールの改革プロセスを継続することに合意する。
17 SDG12.3を達成するため、我々は、食料の損失・廃棄の削減を優先することにコミットする。食料生産のかなりの割合が失われており、それは経済的、社会的、環境的に大きな影響を伴い、とりわけ脆弱なグループの生計、食料安全保障及び栄養に影響を与えている。生産とサプライチェーンを通じて食料の損失・廃棄を削減するため、我々は、関係者(農業者、政府、民間部門、市民社会、学術団体、開発パートナー)間の連携を促すとともに、トレーニングや資金へのアクセスの向上、市場連携の改善を通じ、小規模農業者を支援する。我々は、「食料の損失・廃棄の測定・削減に関する技術プラットフォーム(TPFLW)」及びG20MACSで立ち上げられた「FLWとの共同イニシアチブ」による取組を評価し、さらに技術革新の最適な利用、知識共有、意識の喚起、支持の獲得、国を超えた優良事例の共有を通じて、バリューチェーン全体での食料の損失・廃棄を最小化することにコミットする。人々の意識を高めるため、我々は、行動プログラムを強化すること、及び2023年9月29日に制定されている「食料ロス・廃棄啓発のための国際デー」を促進することにコミットする。
18 我々は、農業バリューチェーンを強じんで持続可能なものにするに当たり、小規模農家、家族農業者、女性、若者、あてはまる場合には先住民、その他の少数グループ、及び中小企業(SMEs)の重要な役割を認識する。我々は、農業者団体、農業を基盤とする女性自助グループ、起業家としての若者参画の形成・強化といったプログラムによって、これらのグループをエンパワーし、農業・食料バリューチェーンに取り込み、ジェンダー格差に対処し、規模の経済を達成するよう、包摂的で多様なアプローチを促進する。我々は、生産及び生産性を持続的に高めていくべく、情報の普及を促し、イノベーションや新技術・慣行の採用を促進するため、これらの人々の能力構築、訓練、普及サービスを支援する。我々は、農業・食料システムにおいて、彼らが行動、関与、政策及び意思決定のすべての段階で完全、対等で意味のある参画を行い、リーダーシップを発揮することにコミットする。これに関連し、我々は、包摂的で多様な利害関係者の対話のグローバルプラットフォームとして「世界食料安全保障委員会(CFS)」の重要な役割を強調する。
農業の変革に向けたデジタル化
19 適切なデジタルインフラによって支えられた農業におけるデジタル化は、農業分野を変革するとともに、政府やその他の関係者が、現在の食料、環境及び社会経済の課題に対処することの助けとなり得る。我々は、すべての関係者がブロードバンドインターネットに接続できることや、デジタル著作権、そしてデータ接続、利用、及び本分野のプライバシーに関するルールの重要性を強調する。
20 農業におけるデジタル技術を使った解決策に誰もが手頃にアクセスできるよう、我々は、デジタルのツール・技術を普及したり、農業者、とりわけ零細、小規模、家族農業者、女性、若者、あてはまる場合には先住民、高齢農業者やその他の少数グループによるこれら技術の採用を促進するなど、すべての関係者と連携し、能力構築の取組を強化することにコミットする。
21 我々は、農業・食料システムにおけるデジタル技術の使用に向け、経験と知見の交換における国際的な協力を強化する必要性を強調する。
22 我々は、新興のデジタル技術を使い農業におけるイノベーションをけん引する助けとするために、デジタルインフラへの官民による十分な資金提供が必要であると認識する。我々は、農業において、そして農業・食料バリューチェーンに沿って、とりわけ女性、若者、その他の少数グループによる起業を可能にすることに重点を置き、スタートアップ、インキュベーター、アクセラレーターへの責任ある投資を増加することが必要であると強調する。
食料安全保障及び栄養に関するデカンハイレベル原則2023
23 我々は、世界の食料不安に対処する取組の指針となるよう、2022年G20農業・財務大臣の要請に基づき、食糧農業機関(FAO)、世界銀行グループ(WBG)及び世界貿易機関(WTO)が作成したマッピング作業報告の結果と提言に留意する。食料安全保障と栄養に向けた道筋には幅広い課題が伴うことを認識しつつ、我々G20農業大臣は、同報告の成果に基づき、別添の「食料安全保障と栄養に関するデカンハイレベル原則2023」を支持する。同原則は、持続可能な成長を促進しつつ、協調を助長し、世界の飢餓と栄養不良の軽減に向け一致したアプローチをとりやすくするとの、我々の共通のコミットメントを具体的に示したものである。
24 我々は、世界の食料安全保障と栄養を高めることを目指した、G20の具体的な成果-「食料安全保障と栄養に関するデカンハイレベル原則」及び第12回G20MACSによる雑穀とその他古代穀物の研究のための国際的なイニシアチブ-のためのインドのイニシアチブを評価する。我々は、農業生態系の社会経済的な変革や農業者中心の官民デジタルイノベーションのための触媒となるよう、包摂的なデジタルインフラを整備することに重点を置くことを認識する。
25 我々は、G20メンバーの参画による以下の成果を歓迎する:(i)農業に関するG20イニシアチブのストックテイキング、(ii)食料安全保障のための気候スマート農業に関するグローバルフォーラム、(iii)AMISの迅速対応フォーラム、(iv)第12回G20首席農業研究者会議(MACS)、(v)「利益、人、地球のためのアグリビジネス経営」に関するパネルディスカッション、及び(vi)「デジタル上の断絶を接続する:農業におけるデジタル技術の力の活用」に関するパネルディスカッション。
26 我々は、2023年に農業アジェンダを取り仕切った議長国インドのリーダーシップに対して深く感謝する。我々は2024年のG20議長国ブラジル、2025年の議長国南アフリカに期待する。
{*1* パラグラフ3及び4は、バリ首脳宣言からの引用。ロシアは本成果文書及び議長総括のパラグラフ3から5から離脱した。中国は本会合の成果物にウクライナ危機への言及を含めるべきでないと表明した。}
G20農業大臣成果文書及び議長総括2023の付属文書
食料安全保障と栄養に関するデカンハイレベル原則2023
我々G20各国は、インド、ハイデラバードでの2023年農業大臣会合において、
世界の食料安全保障の状況や、気候変動、地政学的緊張、紛争及びその他制度的ショックによりさらに悪化したあらゆる形の栄養不良の存続は、共同の課題であり、2030アジェンダ下の飢餓ゼロ(SDG2)達成のために、一致した行動が必要なことを認識する。
主要農業生産国、消費国及び輸出国としてのG20メンバー国の独特の役割、そして、透明性があり、持続可能で公平、強じんかつ包摂的な農業・食料システムに向けた移行を加速すべく、短期・長期的な政策対応を構築するための連帯責任を認識する。
食料安全保障と栄養を高め、現在と過去のG20農業大臣会合で合意した成果を前進させるための世界的な取組を強化することを承認し、コミットする。
世界的な食料安全保障上の危機へ対応して、地理上の位置に関わらず取組を強化し補完するに当たっての我々の責任を示す、本ハイレベル原則に尽力することにコミットする。
原則1:脆弱な状況にある国々や人々への人道的支援を促進する
危機や紛争に対応して人道的食料支援の水準や効率を高めるための取組に積極的に協調するなど、多分野にわたる人道的支援を強化する。脆弱な状況にある人々が直面する課題に対処するために、革新的な戦略を策定し、政策協調を通じて先を見越した行動を主流化する。
原則2:栄養価の高い食料の入手可能性とアクセスを向上させ、食料セーフティネットを強化する
純食料輸入途上国への支援を含め、持続可能な食料生産に的を絞った政策やプログラムを促進する。国家の食料安全保障の文脈で、十分な食料への権利の漸進的な実現を促しつつ、安全で手頃、多様かつ栄養価の高い食料への継続的なアクセスと入手可能性を改善する。
原則3:気候変動に強じんかつ持続可能な農業・食料システムに向けた政策や協働行動を強化する
持続可能な農業生産と生産性の向上を促進するために、天然資源や農業投入財の持続可能な管理と効率的な使用に向け、政策を強化し、協力を加速する。気候変動や生物多様性の損失に対処するために、持続可能で拡大可能、包摂的な技術、慣行及びイノベーションを協働して発展させる。
原則4:農業・食料バリューチェーンにおける強じん性と包摂性を強化する
短期的な混乱やショックに耐えるため、インフラを強化すること、食料の損失・廃棄を削減すること、リスク管理政策を策定・実施すること、また、関係者、特に女性、小規模農家、中小企業やその他少数グループの能力をバリューチェーンに沿って向上することによって、地元、地域及び世界レベルでのバリューチェーンの強じん性を強化する。食料市場をモニタリングするため信頼できる情報を適時に共有することにより市場の透明性を改善し、これを踏まえた政策対応を行うべく協働する。関連するWTOルールに沿って、開かれた、公正で予見可能かつルールに基づく農業・食料貿易を促し、輸出規制を避け、市場の歪曲を削減する。
原則5:ワンヘルスアプローチを推進する
薬剤耐性(AMR)との世界的な闘いを加速させること、人獣共通感染症やその他農業や食料安全保障に対する生物学的脅威のリスクを予防・削減・管理することにより、「ワンヘルス」アプローチを実施する。
原則6:イノベーションとデジタル技術活用を加速させる
持続可能な食料システムに向けた変革を支える、大規模に実施可能なイノベーションや技術を促進し、手頃な価格で誰もがアクセス可能なデジタルインフラを促進し、農業分野の多様なニーズに応じたデジタルツールの開発と安全な適用を促進する。小規模農家を含むすべての農業コミュニティに力を与える技術の採用・活用やデジタル・ソリューションのための能力構築を強化する。
原則7:官民による責任ある農業投資を拡大させる
持続可能で、気候変動に強じんかつスマートな、生産性を向上する技術や慣行の開発、食料システムの多様化、技術の普及、農村地域の活性化及びバリューチェーンの効率改善を支援するために、インフラ、研究及びイノベーションに対するあらゆる財源からの責任ある投資を促進する。民間投資を活用するための官民パートナーシップを促進する。農業への若者の参画を促し、補完的なビジネスを発展させるために、民間投資を刺激し、資金へのアクセスを容易にする。
上記のハイレベル原則は、持続可能で包摂的な食料システムに向けた各国の道筋を策定・実施する世界・地域・地元のイニシアチブの間の結びつきを構築・強化することによって、また、FAO、IFAD、WFPや他の関連する国際機関及びCFSのような組織と協力して、我々が食料安全保障及び栄養の課題に対処するための行動を導く基礎を提供するものである。
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農業に関するG20イニシアチブのストックテイキング
議長総括声明
2023年2月13日、インドのインドールにて開催された第1回農業高級実務者会合中に、G20農業大臣が立ち上げた6つのイニシアチブのストックテイキングを実施。これらのイニシアチブの事務局が2021年以降の進捗についてプレゼンしたところ、概要は以下のとおり。
1. 農業市場情報システム(AMIS)
i. AMISは、COVID-19期間中、世界の食料市場へのパンデミックの影響評価における先駆者。世界の食料供給は十分であり、大量の食料品貿易が円滑に行われていると事務局が確認したことは、世界の食料市場を安定化させる役割を果たしたと多くの関係者が認識。さらに、市場関係者は、前回の危機時に比べ、輸出規制等の貿易措置の導入例は限定的で、より短期間であったと評価。
ii. ウクライナにおける紛争勃発に対応し、世界の食料市場や食料安全保障への影響について議論するため、2022年3月5日に臨時のAMIS迅速対応フォーラムを開催。このような緊急会合は、AMISが創設されて以来、初めて。当該会合は、紛争中でも食料や肥料の市場を守る措置の必要性や、世界の食料貿易を開かれた状態に維持することの重要性等、主要なメッセージを確立する上で重要な役割を果たした。これらのメッセージは、新旧AMIS議長(メキシコと米国)による共同声明において強調され、本イニシアチブのこれまでのすべての議長から支持を受けた。
iii. 将来の危機に対するAMISの対応を強化するため、本活動の拡大の可能性について関係者と生産的な議論を実施。モニタリング対象を肥料や植物油にも拡大すること、早期警鐘指標の策定、及び食料危機に対する迅速分析対応メカニズムの構築を議論。
iv. 2022年、AMIS事務局は、加盟国からのバランスシート収集を開始し、肥料市場のモニタリングの改善に取り掛かるとともに、入手可能な情報の評価と知識ギャップの特定を開始。
2. 地球観測に関する政府間会合による全球農業モニタリング(GEOGLAM)
i. GEOGGLAMは、作物モニターを作成するためにAMISと緊密に連携し、AMIS加盟国における主要商品作物について、衛星を利用した生育状態の評価を毎月提供。この評価は、市場と貿易の洞察に役立っている。
ii. 人道コミュニティと連携し、GEOGLAMは早期警鐘のための作物モニターを策定・改善し、食料不安にある国々の食料安全保障作物について、衛星を利用した生育状態の評価を毎月提供。さらに、GEOGLAMは、食料危機と見通しに関する特別レポートを作成。
iii. 作物評価のための合同実験(JECAM)を支援するため、GEOGLAMの研究・開発部門が設立され、全世界のデータが豊富な40地点で相互比較研究を実施。目標は、分析アプローチを調和し、監視・報告プロトコールを策定し、世界の農業システムのための優良事例を確立すること。
iv. COVID-19の期間中、GEOGLAMは、トーゴ政府を支援し農地の分配状況の詳細な地図を提供。これは、COVID-19の影響を受けた小規模農業者の救済プログラムを実施するために利用された。
v. さらに、GEOGLAMは、ウクライナ農業を支援するために、官民機関と連携し、特別作業部会を設置。主要目的は、分析の成果を調整して合意あるものにするとともに、必要な場合には相違点の説明を含めて、ウクライナ農業省に示すこと。また、民間のコンソーシアムと共同で、農家のデータを活用して訓練や評価を提供する作業に積極的に従事。
3. 小麦イニシアチブ
i. 小麦イニシアチブは、ドイツ連邦食料・農業省からの支援を受けたほか、JKI(Julius Kühn-Institute)からの支援は2027年まで更新された。また、新戦略研究アジェンダ(SRA)を公表した。「熱波や干ばつへの小麦適応同盟」(AHEAD)は、英国、スイス、エジプト、フランス、モロッコ、米国、カナダからの新たなメンバーを迎えた。
ii. 2021年、小麦イニシアチブは、小麦の研究者、組織、プロジェクトに関する情報をオープンに提供するウェブポータルの「WheatVIVO」を開設。また2022年には、世界的な疾病の診断や監視のための標準的な方法を開発することを目的とした「小麦イニシアチブ作物健康同盟(WATCH-A)」を開設。
iii. さらに小麦イニシアチブは、中国において第2回国際小麦会議(IWC)をハイブリッド形式で開催し、遺伝子学データへのアクセスを高めるためのWheatISポータルを更新。
4. 熱帯農業プラットフォーム(TAP)
i. TAPは、2021年2月エルサルバドルで、コーヒー、豆、トマト、プランテンの4品目の農業イノベーションを支援する、「農業イノベーションシステムのための能力開発(SDAIS)」を成功裡に終了。EUの拠出によるTAP-AISプロジェクトは、9か国中7か国(ブルキナファソ、コロンビア、エリトリア、マラウイ、パキスタン、ルワンダ及びセネガル)で活動を継続、カンボジアとラオスは終了。
ii. アフリカ、アジア及びラテンアメリカにおける「地域農業研究・普及機関(RREOs)」は、これらの地域の「農業イノベーションシステム(AIS)」を強化するために、迅速な調査法について連携。その結果は、2021年8月に発行された統合報告書にまとめられ、ウェビナーや講習会を通じて共有。
iii. 2021年10月と2022年6月に、TAPの共通枠組みとアプローチに基づき、農業イノベーションシステムの強化に関するトレーナーのためのバーチャルトレーニング(ToT)を開催し、RREOsから78人の専門家が参加。パートナー組織(IICA及びRELASER)は、ラテンアメリカにおける農業イノベーションのための能力開発に関して、スペイン語で利用できる実務指針を策定。
iv. TAPは、2021年7月の国連食料システムサミット(UNFSS)のサイエンス・デイ期間中にサイドイベントを開催。農業イノベーションシステムのための能力開発に焦点を当て、今までに得られた教訓やTAPパートナーシップの将来的な取組について共有。
5. 農業リスク管理のためのプラットフォーム(PARM)
i. The Insu-Resilience Global Partnership Climate Risk Financing との国際的 なパートナーシップが構築され、スウェーデン国際開発協力庁(SIDA)の拠出による、IFADの保険制度(INSURED)を管理。ブルキナファソにおいて、参加型アプローチを活用し、総合的で包摂的な「総合リスク評価スタディ(RAS)」を実施。同様に、マダガスカルにおいても総合的なバリューチェーン方法論を活用し、RASを実施。
ii. 農業リスク管理(ARM)について意識を高め、能力を構築するための取組は、良好な結果をもたらしている。ワークショップには300人の各国利害関係者が出席、600人がARMに関する訓練を受け、各国から2100人以上がウェビナーに参加。フェイスブック、ツイッター、リンクトインやインスタグラム等のソーシャルメディアプラットフォームは、1万5千人を超えるフォロワーを獲得。
iii. ARMの投資計画・プログラムは、PARMの技術的リーダーシップと支援の下、政府や戦略的パートナーと共同で策定され、結果としてエチオピアでは12百万ドル、ブルキナファソでは48.5百万ドル、ニジェールでは61百万ドルの投資。
iv. ARMの能力開発の持続的な効果を目指し、セネガルとブルキナファソで、大学のカリキュラムや民間部門(例:農業団体、ミクロ金融機関)の慣行にARMを組み込むパイロットイニシアチブを実施。投資計画/プログラムやARMの制度化のパイロットテストの実施を支援する目的で、PARMと政府が資金動員のために共同の取組を実施。
6. 食料の損失及び廃棄の測定及び削減に関する技術的プラットフォーム(TPFLW)
i. TPFLWは、継続的な利用者が12%増と大きく増大しており、また利用者が様々な国々に拡大していて、2021年の100か国から、2022年末には210か国に拡大。G20各国はプラットフォームの顕著な利用者。
ii. TPFLWは、食料の損失及び廃棄(FLW)に関する世界的な啓発イベントを通じ、効果的にウェブトラフィックを獲得し、結果的にウェブサイトへの訪問数が急増。特に、2021年と2022年の9月には、「食料ロス・廃棄啓発のための国際デー」と連動し、ウェブトラフィックが急増。また、2022年11月の国連気候変動枠組条約(UNFCCC)第27回締約国会議(COP27)開催期間中も、FLWと気候変動の関連に焦点を当てた議論が初めてなされたことから、ウェブトラフィックが増加。
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