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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] G20教育大臣会合 成果文書及び議長総括

[場所] インド,プネー
[年月日] 2023年6月22日
[出典] 文部科学省
[備考] 
[全文] 

 成果文書は、全てのG20諸国が全会一致で合意した、パラグラフ1から6、及びパラグラフ 9から34に関するものを指す。議長総括は、パラグラフ7及び8を指す。

序文

1. 我々、G20加盟国及び招待国の教育大臣は、2023年6月22日にインドのプネーで会合を実施し、人間の尊厳とエンパワーメント、公平性・平等性・包摂性、持続可能な経済成長、積極的な市民参加・繁栄、平和、ウェルビーイングを実現するものとして、質の高い教育・訓練の重要な役割について再確認する。

2. 我々は、あらゆる段階においてアクセス可能な質の高い教育及び訓練、並びに全ての人々の生涯学習の機会の促進を通じて、より強靭で公平、包摂的、かつ持続可能な未来の実現に向けて協働するという我々の責務を再確認する。この決意表明は、2023年のG20のテーマである「一つの地球、一つの家族、一つの未来」という我々の目指すビジョンへと、我々を導くものである。

3. 我々は、国連の持続可能な開発のための2030アジェンダに沿って、また、過去のG20教育大臣宣言や声明で示されたように、教育は人権であり、その他の権利の実現に貢献するものであることを再確認する。いかなる状況下においても、教育を継続することは持続可能な発展の達成に不可欠なものである。

4. 我々は、2022年の国連教育変革サミットで呼びかけられたように、年齢層、性別、経済的、社会文化的、民族的、宗教的、地域的な背景に関わらず全ての学習者が、そして身体や精神の障害、学習困難を有する人や特別な支援を必要とする人々が、質の高い、包摂的かつ公平な教育・訓練へのアクセスを得られるよう努める。加えて、緊急事態やあらゆる危機的状況において、ウェルビーイングのための支援を行い、彼らが強靭な未来を築くことができるよう努める。

5. 我々は、教育が学問的な学習のみならず、学習者が将来に向けて準備をし、社会への有意義な貢献を可能とする教育・訓練プログラムを通じて、生活、技術、職業能力を開発することであることを強調する。我々は、このような観点から、包括的な戦略と機動的な政策を策定し続ける。

6. 我々は、デジタル変革、女性・女児のエンパワーメントの推進、グリーン経済への持続可能な移行の支援、持続可能な開発のための教育(ESD)、ライフスタイルが、SDGsの達成に向け、進歩を加速するものとしての役割を果たすことを認識する。我々は、我々が思い描く教育主導の成長を実現するために、下記に示す主要な手段の重要性を認識している。

7. ウクライナにおける戦争は世界経済に更なる悪影響を与えている。この問題に関して議論が行われた1。我々は、2022年3月2日に賛成多数で採択された国連総会決議ES―11/1(141か国が賛成、5か国が反対、35か国が棄権、12か国が欠席)においてロシアのウクライナ侵略を最も強い言葉で遺憾の意を表明し、同国のウクライナ領土からの完全なかつ無条件での撤退を要求している国連総会及び国連安全保障理事会を含む他のフォーラムで表明してきた自国の立場を改めて表明した。ほとんどのG20メンバーは、ウクライナにおける戦争を強く非難するとともに、この戦争が計り知れない人的被害をもたらし、また、成長の抑制、インフレの増大、サプライチェーンの混乱、エネルギー及び食料不安の増大並びに金融安定性に対するリスクの上昇といった世界経済における既存の脆弱性を悪化させていることを強調した。この状況及び制裁について、他の見解及び異なる評価があった。我々は、G20が安全保障問題を解決するためのフォーラムではないことを認識しつつ、安全保障問題が世界経済に重大な影響を与え得ることを認識する*2*。

8. 平和及び安定を守る国際法及び多国間システムを堅持することが不可欠である。これには、国際連合憲章に謳われている全ての目的及び原則を擁護し、武力紛争における市民及びインフラの保護を含む国際人道法を遵守することが含まれる。核兵器の使用又はその威嚇は許されない。紛争の平和的解決、危機に対処する取組及び外交・対話が極めて重要である。今日の時代は戦争の時代であってはならない。

ブレンド型教育の文脈における基礎的な読み書き、計算能力の確保

9. 我々は、質の高い幼児教育・保育(ECEC)が学習者の教育と発達の基礎となることを認識する。したがって、我々は、包摂的で安全であり、ジェンダーに配慮した、手頃な料金の、公平で質の高い幼児教育環境へのアクセスを拡大するよう努める。我々は、全ての学習者の健康、栄養、社会情動的なウェルビーイングに取り組むことや、学習者の総合的な発達を支援する必要性を認識する。この観点から、我々は、幼児教育・保育(ECEC)における保護者、地域社会、その他関係者の役割が重要であることを認める。

10. 我々は、基礎的な学び(読み書き、計算、社会情動的スキル)が、教育、雇用、生涯学習を成功させるための重要な構成要素であることを認識する。私たちは、基礎的な学習抜きには、こどもや若者の可能性を最大限に引き出すことはできないことを認識する。

11. 我々は、SDG4の達成を支援するための取組の一環として、特に学校の役割と全ての学習者、特に最も脆弱な立場にある人々の就学率を高め、学校への定着率を高める必要性を再確認する。また、2030年までに、小学校2あるいは3年までに簡単な文章を読んで理解することができず、また、簡単な計算ができない児童、特に女児と障害のある児童の割合を大幅に減少させるため、全ての学習者が基礎的な学習を確実に習得できるように、即時に共同で行動する必要性を再確認する。

12. 我々は、発達段階上適切なアプローチや教材(該当する場合は地域の言語、手話を含む)の使用を含む革新的な技術を通じて学習を支援する必要性を強調する。また、全ての児童生徒の多様なニーズに迅速に対応できるよう、正規の教育環境における網羅的かつ継続的な学習評価を行う仕組みを開発する必要性を強調する。教育と学習のプロセスにおけるブレンド型のアプローチを促進するため、デジタル技術を活用することを改めて表明する。

13. 我々は、初期段階の訓練に特に焦点を当て、革新的な教育・学習過程を支えるための能力構築を含め、全ての教師が継続的に専門的な資質能力を向上する機会の提供を含め、より良い基礎学習を確保する上で、全ての教師と教育支援関係者が中心的な役割を果たすことを高く評価している。我々は、教師が本来の職務に専念できる環境の整備に努める。

あらゆる教育段階におけるICTを活用した学びを、より包摂的で、質が高く、協働的なものに

14. 我々は、文脈に応じた、包摂的で、公平かつアクセス可能な質の高い教育と訓練を実現するものとして、また、対面教育を支援するツールとして、デジタル技術が有する変革の可能性を再確認する。我々は、手頃な価格で容易にアクセスできるテクノロジー・エコシステムと学習リソースを、該当する場合は地域の言語を含めて構築するために、一丸となって取り組む必要性を認識する。

15. 我々は、ICTを活用した学びの実施や、質・効果・安全性の確保のため、教育内容、技術、教育方法のための標準化されたフレームワークの必要に応じた開発・活用、学習成果を評価する効果的なメカニズム、教員・訓練者の能力開発を奨励する。

16. 我々は、アクセス可能で、公平、包摂的、倫理的、プライバシーが保護された安全な技術インフラへの障壁に対処することにより、全ての学習者のデジタル格差を克服するという決意を改めて表明する。我々は、デジタル環境における、学習者のプライバシー、保護、安全性の確保に取り組みながら、学習者がデジタル学習の利点を享受するために必要なスキルを習得する機会を提供するよう努める。

17. 我々は、プライバシーとセキュリティを保護しつつ、教育におけるデータと分析の利点を活用できるよう、必要に応じて、開かれた教育資源の促進や、デジタル資源の相互運用性を強化し、教育におけるデジタル技術の活用における倫理的な実践を奨励する。

能力の構築、仕事の未来に関連する生涯学習の促進

18. 我々は、生活、仕事、持続可能な開発のために必要となる新たな能力を、全ての学習者が備えられるように、教育・訓練制度を変革する必要性を認識する。

19. 我々は、特に脆弱な立場にある人々や過小評価されている人々のために、スキルの習得、リスキリングの促進、スキルアップに焦点を当てた、柔軟で発展的なキャリアパスによる生涯学習を可能とすることの重要性を強調する。また、学術的な教育・訓練と職業教育・訓練との間の双方向の移動可能性、既習内容や代替的な資格の認定、正規の教育を超えて、生涯を通じたスキル、職務経験、知識の認定を行うことの重要性を強調する。

20. 我々は、労働市場と社会のニーズに対して効果的に対応可能な、職務を通じた学びの拡大、デジタル学習環境の整備、グリーンへの移行の促進を含め、質の高い技能・職業教育訓練(TVET)へのアクセスの拡大を目指す。

21. 我々は、技術が基盤となる未来と、環境面で持続可能な経済と社会への公正かつ包摂的な移行に備えるため、デジタルスキル・環境リテラシー・金融リテラシー・認知スキル・市民的スキル・社会情動的スキル・起業するためのスキル・STEAM*3* スキルの習得において、あらゆる年齢の学習者の支援に取り組む。

22. 人工知能(AI)は、教育と学習のあり方を根本的に再定義し、その結果、知識とスキルに関して求められるものの形を変えつつある。このため、我々は、生成AIも含むAIの進化について、協調し、計画的な評価を行うことを奨励する。AIは、教育制度に対する挑戦であると同時に、教育制度を改善する可能性を持っている。我々は、教育・訓練において、人権を尊重しながら公正かつ包摂的にAIを活用することを支持する。

23. 我々は、これまでのG20議長国によって行われた取組や、トルコ議長下において採択され、インドネシア議長下において改訂されたG20スキル戦略について認識し、これに関する更なる取組を期待する。

教育・訓練における連携の充実による研究の強化とイノベーションの推進

24. 今日、世界が直面している課題に対処するためには、学際的な研究と各国間の協調的な取組が必要である。したがって、我々は、持続的かつ包摂的な成長が可能で、競争力のある知識を基盤とする経済には、知識に関するトライアングルの3つの側面(教育・研究・イノベーション)の統合が必要であると認識している。

25. 我々は、G20加盟国及び招待国の高等教育機関間の連携を促進し、教育・訓練における共同での学術・研究の取組を促進することを目指す。この協力は、以下の形式が考えられる。:ジョイント・デュアル・ツイニングの学位プログラム/学生、教職員の交流/学術的知識へのアクセスの拡大/必要に応じた教育機関間における研究・エビデンス・資源の共有と各国の優先事項や法令に則った教育機関間の協力。

26. 我々は、各国が、学際的な研究とイノベーションを促進するために、産学官の連携を強化することにより、自国内のセクター間の連携を促進することを奨励する。

今後に向けて

27. 我々は、人材開発を支援するための投資の重要性を認識し、21世紀の課題に対応するための教育制度の変革のために、「一つの地球、一つの家族、一つの未来」の真の精神に基づき、互いに協力し支援し合うことを継続する。私たちは、調和と協調に基づくウェルビーイングの実現に向けて、より公平で包摂的、強靭で、適応力のある質の高い教育とスキル習得のための制度を構築するために、互いに協力し合う。

28. 基礎的な読み書きと計算能力を、将来の全ての教育・訓練のための基礎的な構成要素であると認識し、特に世界で最も脆弱な立場にあるこどもたちのために、2030年までに学習者がそれらの能力を、十分に習得できるように支援するために協力することを目指す。

29. 我々は、ジェンダーに配慮したプログラムを通じた質の高い教授・学習・スキル習得を促進するための協力的な解決策とイノベーションを引き続き、奨励する。また、我々は、教訓や経験、エビデンスの共有、将来に備えたスキル戦略の構築を通じて、グローバルに重要な能力を構築し、生涯学習の促進のために相互に支援する。

30. 我々は、共同プログラムの実施、学生・職員の交流等の施策を通じて、教育機関間の学術的な協力関係の促進に努める。

31. 我々は、自国内外における教育が主導する成長というビジョンと使命を支持し、この方針で協働することへの強い決意を表明する。

32. 我々は、G20教育ワーキンググループ(EdWG)の成果文書を歓迎する。

  a. G20EdWG報告書:G20加盟国の教育政策とプログラム

  b. G20EdWG付属文書:G20加盟国の教育政策とプログラム

33. 我々は、参加した国際機関である経済協力開発機構(OECD)、国連教育科学文化機関(UNESCO)、国連児童基金(UNICEF)の貢献を認識し、感謝する。

34. 我々は、2023年におけるインド議長国のリーダーシップに感謝するとともに、2024年のブラジル議長国下での次回会合を期待する。本日歓迎されたパラグラフ32の成果文書は、2023年9月9日-10日にニューデリーで開催されるG20サミットの宣言の附属文書として、首脳による検討のため提出される。


{*1* 中国は、G20の技術的なワーキンググループは地政学的問題を議論する正しいフォーラムではないと表明した。

{*2* ロシアは、パラグラフ7及び8への言及を理由に、この文書の共同成果としての位置付けから離脱した。}

{*3* STEAM: Science, Technology, Engineering, Arts and Mathematics}