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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] G20研究大臣会合 成果文書と議長総括

[場所] ムンバイ
[年月日] 2023年7月5日
[出典] 内閣府
[備考] 
[全文] 

成果文書は、G20の全ての代表団によって全会一致で合意されたパラグラフ1-14及びパラグラフ17-20に関するものであり、議長総括はパラグラフ15及び16に関するものである。

1. 我々、G20メンバー国及び招待国の研究大臣は、2023年7月5日、インドのムンバイにおいて、包括的で持続可能な開発、ジェンダー平等、多様性、市民権の付与、環境保全及び保護、Vasudhaiva Kutumbakam(One Earth、One Family、One Future)の精神に基づく平和、繁栄及び福祉の実現手段としての研究及びイノベーションの重要な役割を再確認するために会合を行った。

2. 我々は、利用可能な最良の科学に導かれた責任ある研究及びイノベーションの重要性、公正で包摂的な移行、デジタル技術及びその社会及び産業の変革への影響、持続可能な開発のための2030アジェンダの実施及び持続可能な開発目標(SDGs)の達成を加速するための持続可能な開発のためのライフスタイルを促進するイニシアティブ*1*の採択、パリ協定の目標及び国連気候変動枠組条約の目的、昆明・モントリオール生物多様性枠組の目標を認識し、強靱で包摂的かつ持続可能な未来を達成することにコミットする。

3. G20議長国として開催された Research and Innovation Initiative Gathering(RIIG)会合は、「公平な社会のための研究とイノベーション」というテーマの下で開催され、研究とイノベーションが社会経済的及び技術的進歩を達成するための重要な推進力であることを認識しつつ、政府及び非政府の利害関係者がアイデアを共有し、新たなパートナーシップを構築するためのプラットフォームを提供した。我々は、専用の多国間対話を通じて、開かれ、透明性があり、互恵的で説明責任のある国際的な研究協力を支える共通原則に向けて取り組むことを奨励する。我々は、研究及びイノベーションが、科学外交を通じて、世界の持続可能な開発に積極的に影響を与え、国家間のより良い理解を促進する可能性を有することを認識する。

4. 我々は、在任中にG20RIIGの優先課題であった、持続可能なエネルギーのための物質、循環型バイオ経済、エネルギー移行のためのエコイノベーション及び持続可能なブルー・エコノミーの分野における研究及びイノベーション協力を奨励する。

5. 我々は、開かれた、公平な、かつ、安全な科学的協力への我々のコミットメントを再確認し、社会的及び地球規模の課題に対処するための解決策の開発において、オープンサイエンス政策がもたらす重要な貢献を認識する。地球規模の課題に取り組むためのオープンサイエンスの分野横断的な価値は、RIIGの全てのテーマ別会合においてG20メンバーにより留意され、我々は、これらの課題に対処するための更なる行動を奨励する。

6. 我々は、オープンサイエンス政策を進展させる上での課題を特定し対処するため、特に開発途上国との互恵主義に基づく対話及び協力に関与する学術コミュニティにおける世界的な取組を支持し、各国に対し、オープンサイエンス政策及び必要な法的枠組みを策定するよう奨励する。オープンサイエンス政策及び協力が、学術出版物を含む適切な公的資金による研究成果の公平な普及、アクセス及び再利用を支援する国においては、特に先住民族及び地域社会の伝統的知識の不当な搾取又は歪曲のリスクを軽減するための努力が必要である。我々は、そのような政策がFAIR(Findable、 Accessible、Interoperable、and Reusable)原則と整合的であるべきことを勧告する。

7. 我々は、知識がもたらす重要な貢献を認識する。より良い公共政策を設計する上で研究とイノベーション活動が持つことができる科学の理解を促進する活動を奨励している。したがって、政策決定プロセスへの科学的証拠の取り込みを促進するための行動を奨励する。

持続可能なエネルギーのための材料とエネルギー移行のためのエコイノベーション

8. 我々は、持続可能な開発を追求する上で、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の見解に沿って、クリーンエネルギーの生産及び利用を拡大し、全ての人々のために、廉価で、信頼性があり、近代的で、持続可能なエネルギーを促進する必要があることを認識する。

9. 誰も取り残さない、豊かで、包摂的で、強靱で、安全で、持続可能な社会の実現に向けた進展を支援するとともに、今世紀半ばまでに、国が決定する貢献(NDC)の実施及び温室効果ガス(GHG)排出ネット・ゼロ/カーボンニュートラルに向けた公正な移行を加速するため、我々は風力や太陽エネルギー、クリーンな水素とその派生物を含む、持続可能でクリーンかつ再生可能なエネルギーの発電、変換及び貯蔵、エネルギー貯蔵装置のエンド・ツー・エンド生産、強靱(レジリエント)なサプライチェーン管理、技術的廃棄物の廃棄管理、技術廃棄物の寿命末期管理の分野における研究パートナーシップを奨励する。

循環型バイオ経済

10. 我々は、食料安全保障のニーズを満たしつつ、自然を活用した解決策を支援し、より循環的で持続可能なバイオ経済への移行及び原材料から最終製品までの全ての産業サプライチェーンにわたるイノベーションの必要性において、科学、技術及び研究が果たす重要な役割を認識する。

11. 我々は、更に、土地、水、エネルギー及びバイオマス利用への統合的アプローチと共に、より循環的で持続可能なバイオ経済を達成するため、能力構築を支援し、生産及び消費モデルを更新する観点から、直線的生産モデルを強化する現行の規制枠組みを見直すための世界的な取組が行われていることを認識する。

持続可能なブルー・エコノミー

12. 我々は、健全な海洋、沿岸及び海洋生態系並びに生物多様性が地球上の生命を維持する上で果たす重要な役割を認識し、自然及び社会に重要なサービスを提供する海洋環境を保護し、回復する必要性を認識する。我々は、持続可能な開発のための国連海洋科学の10年(2021-2030年)及び国連生態系回復の10年(2021-2030年)に対するコミットメントを再確認する。この文脈において、我々は、特に開発途上国との既存及び新たなパートナーシップを通じ、科学技術のベスト・プラクティス、技術的能力及び知識の構築を含む、得られた教訓及び開発された専門知識、並びに現在の、新たな及び新興海洋技術について、相互に合意された条件で自発的に共有することを奨励する。我々は、強化された国際的な調整及び協力を通じて、より多くかつより良く持続された沿岸及び海洋観測、監視及び予測システムのための世界的、地域的及び国家的能力を更に発展させる必要性を強調する。

13. 我々は、海洋環境等におけるプラスチック汚染を終わらせるための法的拘束力のある国際文書を2024年末までに策定する国連環境総会決議5/14を歓迎する。我々は、持続可能なブルー・エコノミー/海洋経済の目的のバランスをとり、効果的に達成するため、海洋空間計画及び統合的沿岸域管理のような科学及び生態系に基づく手段の利用を奨励する。

14. 我々は、国連海洋法条約の下の国家管轄権外区域の海洋生物多様性の保全及び持続可能な利用に関する協定の採択を歓迎し、この新たな協定の早期の批准及び発効並びに将来の実施に向けた取組を奨励する。

地政学的問題

15. ウクライナにおける戦争は世界経済に更なる悪影響を与えている。この問題に関して議論が行われた。我々は、2022年3月2日に賛成多数で採択された国連総会決議ES-11/1(141か国が賛成、5か国が反対、35か国が棄権、12か国が欠席)においてロシアのウクライナ侵略を最も強い言葉で遺憾とし、同国のウクライナ領土からの完全なかつ無条件での撤退を要求している国連総会及び国連安全保障理事会を含む他のフォーラムで表明してきた自国の立場を改めて表明した。ほとんどのG20メンバーは、ウクライナにおける戦争を強く非難し、この戦争が計り知れない人的被害をもたらし、また、成長の抑制、インフレの増大、サプライチェーンの混乱、エネルギー及び食料不安の増大、金融安定性に対するリスクの上昇といった世界経済における既存の脆弱性を悪化させていることを強調した。この状況及び制裁について、他の見解及び異なる評価があった。G20が安全保障問題を解決するためのフォーラムではないことを認識しつつ、我々は、安全保障問題が世界経済に重大な影響を与え得ることを認識する*2*。

16. 平和及び安定を守る国際法と多国間システムを堅持することが不可欠である。これには、国際連合憲章に謳われている全ての目的及び原則を擁護し、武力紛争における市民及びインフラの保護を含む国際人道法を遵守することが含まれる。核兵器の使用又はその威嚇は許されない。紛争の平和

的解決、危機に対処する取組、外交・対話が極めて重要である。今日の時

代は戦争の時代であってはならない。

今後の展開

17. 我々は、自然災害、災害及び極端な気象現象を含む我々が直面している社会及び環境の課題に責任をもって効果的に対応し、我々の研究及びイノベーションのエコシステムを変革するために、引き続き努力し必要な場合には、この目的のための共同の取組を支援する。この点に関し、我々は、より持続可能で、アクセス可能で、包摂的で、強靱で、かつ、適応的なシステムを構築するため、透明性のある方法でオープンに取り組む。

18. 我々は、移動プログラムを通じて、研究機関及び高等教育機関の間における学生、学者、研究者及び科学者の移動を奨励する。我々は、包摂的で持続可能な開発を達成し、活力があり持続可能な経済及び社会を創出するため、組織間協力に対する障壁を低減するよう努力する。

19. 我々は、2022年にG20議長国インドネシアの下で開始され、G20議長国インドの下で継続された議論を基礎として、シェルパグループに対し、G20RIIGの地位を正式な作業部会、すなわち、シェルパ・トラックの下でのG20研究・イノベーション作業部会(RIWG)に昇格することを検討するよう勧告する。提案されたRIWGは、とりわけ、研究大臣会合の下での年々の議題の継続性を維持する。

20. 我々は、2023年のG20RIIGにおける議長国のリーダーシップを称賛し、感謝する。我々は、2024年のブラジル議長国の下での次回会合に期待する。

(了)


{*1* 2023年6月12日、G20開発大臣会合は、持続可能な開発のためのライフスタイルに関するハイレベル原則を採択した。}

{*2* ロシアは、パラグラフ15及び16への言及を理由に、この文書の共同成果としての位置付けから離脱した。}