データベース『世界と日本』(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] G20女性活躍担当大臣会合 議長声明

[場所] 
[年月日] 2023年8月3日
[出典] 内閣府 男女共同参画局
[備考] 日本語仮訳
[全文] 

 我々、ジェンダー平等と全ての女性と女児のエンパワーメントを担当するG20担当大臣、招待国、国際機関の代表、そしてG20の公式エンゲージメントグループ及びイニシアティブ、すなわちG20EMPOWERのハイレベルな代表者たちは、2023年8月2日から4日にかけ、インドのG20議長運営のテーマである「ひとつの地球、ひとつの家族、ひとつの未来」の下、グジャラート州ガンディナガルで会合を開催した。

 世界が多元的な危機に直面している今、我々は、ジェンダー平等の達成と全ての女性と女児のエンパワーメントに向けたコミットメントを再確認する。この観点から取られる以下の行動は、すべての持続可能な開発目標(SDGs)の進展を加速させる一助となる。


1. 私たちは、ジェンダー差別、性的・ジェンダーに基づく暴力、協力的な政策介入や構造的な支援の欠如、既存の有害な社会的偏見、否定的な社会規範、差別的な法律や関連する法律の執行の欠如、指導的地位における代表者の不足、資源へのアクセスや管理の不足が多くの国々においてすべての女性と女児がその人権を享受し、潜在能力を十分に発揮することを阻んでいることを憂慮し、十分に認識している。


2. 私たちは、既存のジェンダー格差と課題を悪化させる構造的障壁を克服することの重要性を認識する。この点に関して、私たちは、全ての女性と女児を活動的かつ積極的な変革の担い手として認識し、グローバルな課題に効果的に、決断力をもち、かつ包摂的に取り組む意思決定者として、完全、平等、効果的かつ意義ある参加を確保することによってジェンダーの役割におけるパラダイムシフトを求める。女性活躍担当大臣/代表団のトップとして、私たちは、ジェンダー平等の進展は女性だけの問題ではなく、全ての人々によって進められる必要があることを強調する。


3. 私たちは、断固たるジェンダー主流化のアプローチを適用するG20メンバーの、高まるコミットメントと具体的な行動なくしては、ジェンダー平等の実現、女性のエンパワーメント、女性主導の開発は実現されない目標にとどまると信じ、強調する。この観点から、我々は、G20開発大臣会合において、「ジェンダー平等と女性のエンパワーメントを通じた持続可能な開発に関するG20アクションプラン」が採択されたことを歓迎する。

 誰一人取り残されることのないよう、我々は、G20の全ての関連する作業部会に対し、それぞれの権限の範囲内で、(i)質の高い教育、技能訓練、適正な労働、社会保障への安全かつ平等なアクセスを可能とすること、(ii)男女間のデジタル格差の解消、(iii)ジェンダーに基づく偏見を排除及び草の根レベルを含むあらゆるレベルでのリーダーシップやその他の意思決定の役割における男女共同参画の促進、(iv)気候変動緩和、適応行動、災害リスク軽減における有意義な男女共同参画及びリーダーシップの促進、(v)安全で十分な栄養と食料安全保障へのアクセスの促進により、2030アジェンダの適時、完全かつ効果的な実施及びに向けた進展を軌道に乗せ、加速させるとともに、全ての女性と女児のための平等で包括的かつ持続可能な開発を実現するため、ジェンダー平等と全ての女性と女児のエンパワーメントに関する既存及び新たなG20の集団行動を推進することを求める。


4. 我々は、インドのG20議長国期間中に開催されるG20女性活躍担当大臣会合において、「世代間変革を先導する女性主導の包摂的な開発」というテーマが選択されたことを評価し、全ての女性と女児のジェンダー平等とエンパワーメントを推進するため、関連する全てのG20作用部会に対し、それぞれの権限の中で以下の重点分野に引き続き取り組むことを奨励する:

 (i)教育、女性のエンパワーメントへの変革する道

 (ii)女性の起業、平等と経済の双方に利益をもたらすもの

 (iii)草の根を含むあらゆるレベルにおける女性のリーダーシップ促進に向けたパートナーシップの構築

 (iv)気候行動における変革者としての女性・女児

 加えて、これらの優先事項を支えるデジタル・スキリング


5. 教育、全ての女性と女児のエンパワーメントへの道を変えるもの

 私たちは、すべての女性と女児のエンパワーメントと生活の変革における、教育の重要な影響を認識し、以下の必要性について、すべての責任者に呼びかける:

 i. 下記へのアクセスを改善するための投資を増加させ、STEM教育へのすべての女性と女児のより多くの入学を推奨する。

 (i)STEM(科学、技術、工学、数学)および生涯学習のための職業教育を含む、安価で包括的、公平、安全かつ質の高い教育

 (ii)スキリング、スキルアップ、リスキリング、および指導プログラム(iii)基礎的なリテラシー

 (iv)金融リテラシー

 ii. 特にジェンダーに対応した子育てや教員研修戦略、暴力のない環境づくりを通じて、教育カリキュラムに存在する有害なジェンダー規範や固定観念に取り組む

 iii. 下記の取組、手段を通じ、男女間のデジタル格差解消、デジタル経済への女性の参画を推進する。

 (i)接続性を含む、安価で安全かつ質の高いデジタル技術へのアクセスを改善。

 (ii)デジタルリテラシーと技能訓練に投資する。

 (iii)デジタル世界におけるすべての女性と女児にとって、有害なジェンダーの偏見、例えば、ジェンダーに関連する先入観と固定観念を永続させるAIやアルゴリズムに起因して起こりうる潜在的なリスクに対処し、これを防止すること。

 (iv)公的・私的な空間、オンライン・オフラインにおいて、すべての女性と女児に対するあらゆる形態の暴力を撤廃するための戦略を推進する。

 (v)ベストプラクティスの交換を促進、ロールモデルを提供し、この変化を促すための「チャンピオン」を活用するために、人工知能や機械学習のようなデジタル技術や新興技術を使用する分野への積極的な参加と雇用を増加させる。

 この点で、我々は、男女間のデジタル格差の解消に向けた進展を加速させるための協力的な取り組みである、米国の「デジタル経済における女性イニシアティブ」に留意する。

 iv. すべての女性と女児がデジタル化の進展から遭遇する潜在的なリスク(オンライン・オフラインを問わず、あらゆる形態の虐待を含む)を、デジタルツールやテクノロジーに関しセーフティーバイデザインの手法を採用することによって取り除く。

 v. 以下によって、関連する全ての社会・経済部門における男女格差を排除する。

 (i)指導的役割や意思決定の役割における女性の機会均等を含め、すべての部門にわたって、同一労働同一賃金、同一価値の仕事、ディーセント・ワーク、質の高い仕事を達成するための進展を加速すること。

 (ii)経済のすべての部門にわたって、家庭内暴力を含む性的・ジェンダーに基づく暴力、および仕事の世界におけるセクシュアル・ハラスメントに対処し、これを撤廃する。

 (iii)教育や雇用機会へのアクセスを促進するために、公共交通機関を含む公共インフラや公共空間への安全で平等なアクセスを確保する。

 (iv)手頃な料金で利用できる介護インフラへの投資を促進する。インフラへの投資を促進する一方で、無償の介護と家事労働の不平等な分配に取り組む。すべての女性の教育と仕事への参加を促進する。

 (v)ジェンダーに対応した社会的保護を提供する。

 (vi)女性がキャリアと家庭の選択を両立させることを支援し、男性に仕事量を分担することを奨励するために、公的部門と民間部門の両方から、適切な社会的、教育的、介護的サービスと政策を支援する。

 vi. 誰も取り残されることのないよう、エビデンスに基づき細分化された交差的なデータの収集、利用しやすさや利用促進をするほか、すべての女性と女児に関する代表的なデータの利用性における偏りに対処し、個人データの保護とプライバシーに配慮する。


6. 女性の起業、平等と経済の鍵となるもの

 起業家精神におけるすべての女性と女児の拡大を制限している既存のジェンダー格差と課題を解消するために、以下が必要である:

 i. 全ての女性、特に女性起業家や女性が経営し、女性が主導する中小企業を正式な金融システムに組み入れ、デジタルファイナンスやマイクロファイナンスのようなその他のニーズに合わせた金融サービスを含め、低コストで便利な、ニーズに基づいた、持続可能な金融へのアクセスを強化することにより、女性の金融包摂を促進する。

 ii. グローバル・バリューチェーンを含む市場へのアクセスを強化し、女性が主導するビジネスの認知度を高める。

 i

ii. 女性が所有し主導する全てのビジネスのための経済システムを構築するために、ネットワーキングとメンターシップの機会を含む能力開発とスキルトレーニングを促進する。


7. 草の根レベルでの女性のリーダシップ促進に向けたパートナーシップの促進

 私たちは、草の根レベルでのリーダーシップと意思決定の役割へのすべての女性の参加を制限する構造的障壁を、以下によって取り除くことの重要性を認識する:

 i. 政治制度とガバナンスにおけるすべての女性の平等な代表を促進するための公共政策を立案し、民間部門の貢献を奨励する。

 ii. 女性の権利団体をジェンダー平等と持続可能な開発を推進する重要な道すじの一つとして認識し、ジェンダーに対応した政策とプログラムの質の高い実施を確保するためにこれらの団体を支援する。


8. 気候変動対策、食料安全保障、栄養における変革者としての女性と少女

 私たちは、気候レジリエンスの構築におけるチェンジメーカーとしてのすべての女性と女児の役割を、以下により強化することの重要性を認識する:

 i. ジェンダーに対応した枠組みと政策介入を設計し、気候強靭化に関する取り組みを支援し、拡大するための投資を促進する。

 ii. 気候変動の緩和と適応、資金準備に関する政策と計画を含む災害リスク軽減戦略への女性の参加、リーダーシップ、意思決定を促進する。

 iii. 気候変動、生物多様性の損失、汚染がすべての女性と女児に及ぼす不釣り合いな影響に取り組むため、細分化されたデータの収集と使用を奨励する。

 iv. 気候変動の影響を緩和し、災害リスクの軽減を確実にするために、水と衛生(WASH)解決策を含む、ジェンダーに対応した気候・環境に強い解決策を促進する。

 v. 食料安全保障と栄養に関する成果や、幼児ケアサービスを改善するため、草の根レベルでの女性の権利団体との関与を促進する。この点で、私たちは妊娠中の女性、授乳中の母親、思春期の女の子、そして子どもたちのための栄養、保健サービス、幼児ケアサービスに関する運用状況を監視するための、技術展開の重要性を認識する。私たちは、インドのPOSHANTrackerに注目している。これは、データをデジタル化し、ほぼリアルタイムのモニタリングと、的を絞った介入の政策を可能にしようとする、ユニークなデジタル・プラットフォームである。


9. G20 EMPOWERによるイニシアティブとW20の提言

 i. 女性のエンパワーメントと経済参画促進のためのG20アライアンス(EMPOWER)は、教育、リーダーシップ、起業家精神、デジタル・スキリングという4つの優先分野の下、G20メンバーに提言を発表した。G20EMPOWERイニシアティブは、重要業績評価指標(KPI)ダッシュボード、ベスト・プラクティス・プレイブック、EMPOWERアドボケートのための誓約、G20EMPOWERコミュニケを発表した。インドの議長国としてのG20EMPOWERの成果には、デジタル・インクルージョン・プラットフォームやG20EMPOWERウェブサイトへのインスピレーション・ストーリーの掲載が含まれる。

 ii. W20は、G20メンバーに対し、女性の適正な労働と雇用機会へのアクセスを改善するため、2022年バリ首脳宣言、「ブリスベンゴール達成とその先へのG20ロードマップ」の下でのこれまでのコミットメントを前進させるよう提言した。W20は、G20の指導者たちに対し、ジェンダーに細分化されたデータを活用した「国家ジェンダー戦略」を策定し、改善するよう促し、各G20メンバーに対し、進捗、ギャップ、課題を評価するために、全ての主要なステークホルダーとW20代表団の各メンバーが一堂に会する、国家的な「年次レビュー・メカニズム」を設立するよう推奨した。さらに、W20は、全ての女性と女児を含むコミットメントの実施とその影響、そしてG20レベルでの結果を追跡するため、G20の年次的な「報告・レビューメカニズム」の創設を推奨した。


10. 地政学的課題

 i. ウクライナにおける戦争が世界経済に更なる悪影響を与えている。この問題に関して議論が行われた。我々は、3月2日の国連総会決議ES―11/1(141か国が賛成、5か国が反対、35か国が棄権、12か国が欠席)においてロシアのウクライナ侵略を最も強い言葉で遺憾とし、同国のウクライナ領土からの完全かつ無条件での撤退を要求している国連総会や、国連安全保障理事会を含む他のフォーラムで表明してきた自国の立場を改めて表明した。ほとんどのG20メンバーは、ウクライナにおける戦争を強く非難し、この戦争が計り知れない人的被害をもたらし、また、成長の抑制、インフレの増大、サプライチェーンの混乱、エネルギー及び食料不安の増大、金融安定性に対するリスクの上昇といった世界経済における既存の脆弱性を悪化させていることを強調した。この状況及び制裁について、他の見解及び異なる評価があった。G20が安全保障問題を解決するためのフォーラムではないことを認識しつつ、我々は、安全保障問題が世界経済に重大な影響を与え得ることを認識する。

 ii. 平和と安定を守る国際法と多国間システムを堅持することが不可欠である。これには、国際連合憲章に謳われている全ての目的及び原則を擁護し、武力紛争における市民及びインフラの保護を含む国際人道法を遵守することが含まれる。核兵器の使用又はその威嚇は許されない。紛争の平和的解決、危機に対処する取組、外交・対話が極めて重要である。今日の時代は戦争の時代であってはならない。

11. 将来へ向けて

 私たちは、ジェンダーに基づく差別を撤廃し、教育、起業家精神、リーダーシップ、気候変動に強い行動など、あらゆる開発分野におけるジェンダー格差を是正することへの強いコミットメントを再確認する。この目的のため、我々は、女性が主導する開発のアジェンダを推進するために、より大きな協力と協調に努める。私たちは、ジェンダーに対応した開発政策の効果的な進展・実施のための積極的な対策を促す。我々は、政府、国際機関、あらゆるレベルの機関、男性や少年を含む、全ての個人に対し、SDGsの進捗を加速するために、持続可能な開発の、積極的なエージェントとしての全ての女性と女児の完全かつ効果的で意義ある参加を確保するために、2023年のG20のテーマである「女性活躍担当大臣会合」を運用することを求める。