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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] G20外相会合上川外務大臣臨時会見記録

[場所] ブラジル・リオデジャネイロ
[年月日] 2024年2月22日
[出典] 外務省
[備考] 
[全文] 

冒頭発言

【上川外務大臣】 21日から22日の2日間にわたり、ここリオデジャネイロにおきまして、G20外相会合が開催をされました。今回議長国ブラジルが設定した2つの議題うち、第1セッションの「現在の国際的な緊張への対処におけるG20の役割」では、中東情勢とともにロシアも参加する中で、ウクライナ情勢が正面から扱われました。また、第2セッションの「グローバル・ガバナンス改革」でも、ウクライナ情勢について多くの発言が行われ、ウクライナ侵略から2年を経て、この問題の重要性が改めて確認されたと言えます。

 まず1日目に行われました「現在の国際的な緊張への対処におけるG20の役割」に関する第1セッションでは、私(大臣)から、日本は、法の支配及び人間の尊厳が守られる世界を実現すべく取り組んでいく考えであると説明した上で、こうした考え方に基づき、ウクライナ、中東、WPSの3点について考えを述べました。ロシアは今なおウクライナ侵略を継続しており、これは法の支配への大いなる挑戦であります。私からロシアが侵略を止め、一日も早くウクライナにおける公正かつ永続的な平和を実現する必要があると発言いたしました。また、今週行われました日・ウクライナ経済復興推進会議の成果を紹介いたしました。中東情勢につきましては、私から全ての当事者に国際人道法を含む国際法の遵守や人道的な観点からの行動を呼びかけました。また、パレスチナへの日本の人道支援についても説明し、現在3200万ドル規模の新たな緊急無償資金協力を検討していることも紹介いたしました。加えて、日本として「二国家解決」の実現に向けて積極的に貢献していく旨を説明をいたしました。これらの紛争下では、女性や子どもの保護が喫緊の課題であります。また、女性自身が主導的立場で紛争の予防や復興、平和構築に参画することが重要です。今回の会合では、私からG20において、こうしたWPSの視点を踏まえた議論がなされるよう、積極的に協力したいと発言をいたしました。

 2日目に行われました「グローバル・ガバナンス改革」に関する第2セッションでは、私(大臣)から、「人間の尊厳」という原点に立ち返り、人間の安全保障の理念に基づく人間中心の国際協力を推進していく必要があることを主張し、こうした観点に立って、国連、多国間開発金融機関(MDBs)、WTO改革とAIという新しい課題について、考えを述べました。世界で最も普遍的な国際機関であります国連につきましては、安保理の構成が現在の国際社会の現実を反映するための具体的な行動を呼びかけました。また、途上国の支援強化のためのMDBsの改革の重要性、これを強調するとともに、来週の第13回WTO閣僚会議でWTO改革に関する成果を出すことが重要であることを強調をいたしました。

 加えて、我々が直面いたします新しい課題であるAIにつきましては、日本が昨年G7の議長国として、「広島AIプロセス」を立ち上げ、国際社会のルール作りを主導していることを紹介し、こうした経験も踏まえまして、G20での議論にも貢献をしていくと発言いたしました。

 今回の機会に、フランス、韓国、アンゴラ、メキシコ、英国、ボリビアの各外務大臣や、UNESCO事務局長と会談し、また、日米韓外相会合も実施しました。これらの会合で、二国間関係や地域情勢、国際場裡での協力等につきまして、有意義かつ率直な意見交換を行うことができました。この後、G20議長国でありますブラジルとも会談をする予定であります。

 今回、私が外務大臣に就任して初めて中南米を訪問しておりますが、これからパナマに向かいます。パナマ訪問時には、「中南米外交イニシアティブ」を発表する予定であります。2014年の3つのJuntos(ジュントス)」を始めとするこれまでの日本の中南米外交の実績と培った信頼を踏まえつつ、国際社会の今日的なテーマにつきまして、中南米諸国との新たな連携を構築することを目指すものであります。

 「中南米外交イニシアティブ」の一環として、パナマとの間で、外交関係樹立120周年という機会を捉え、二国間関係の強化を確認するとともに、価値や原則を共有し、そして海上交通の要衝であります同国との間で、「自由で開かれた海洋」をこれを維持・発展させていくための連携、そして、パナマ政府も力を入れているWPSにおける連携を強化したいと考えております。

 本年は中南米諸国がG20や、またAPEC議長を務め、国際社会をリードする中南米イヤーであります。こうした対話を通じまして、本中南米外交イニシアティブを発展させ、具体化させて参りたいと考えております。  

 私(大臣)からは以上であります。

質疑応答

(記者)ロシアによるウクライナ侵攻から2年となる中で、G20外相会合が開催されましたが、まずは、外相会合に出席したことの成果と課題について、どのようにお考えでしょうか。また、これまでの日本外交の経緯や大臣がウクライナを訪問したことなどを振り返った上で、改めてウクライナ情勢に対する日本政府の立場と方針について聞かせください。

(大臣)先程も述べたとおりでありますけれども、ロシアによるウクライナ侵略は、法の支配への大いなる挑戦であります。今回の会合では、私自身の1月のウクライナ訪問にも触れつつ、ロシアが侵略を止め、一日も早くウクライナにおける公正かつ永続的な平和を実現する必要があるということを強調いたしました。こうした点については、他の多くの国からも発言があったところでもあります。加えまして、私からは、ロシアの核による威嚇は断じて受け入れることはできない、ましてやその使用はあってはならないことも強調をいたしました。

 また、2月19日に開催した日・ウクライナ経済復興推進会議について、56本の成果文書の署名をしたことを紹介をいたしました。日本の官民一体となったウクライナ支援について説明した上で、さらに、ウクライナ政府、企業、市民社会の現場で活躍する女性達との間で有機的な議論を展開したことも紹介したところであります。

 日本がウクライナと共にあるという立場は決して揺るがない。このことについては今回の会合でも、私自身確信をしたところであります。戦争が続く中におきましても、ウクライナの方々は生活をしている、その現場があります。そのためには、復旧・復興支援を着実に続けることが必要であると改めて実感いたしました。日本として、経済復興推進会議の成果もしっかりと踏まえた上で、ウクライナに公正かつ永続的な平和を実現すべく、引き続きリーダーシップを発揮してまいりたいと考えております。

(記者)ブラジルを始めとしますグローバル・サウスとの連携強化についておうかがいします。グローバル・サウスと呼ばれる国の中には、日米欧を中心とする対ロ制裁に参加せず、ロシアとの関係を維持しようとする国がある。中東情勢を巡りましても、イスラエルに非常に厳しい言葉で批判している国々があり、日本とは立場が異なるような国もあります。経済発展を取り込む観点などから、グローバルサウスの国々と連携強化をしたいという国々も増えているように思うのですが、日本とは少し立場が違うグローバル・サウスの国々と今後どのように連携を深めて行くのか、グローバル・サウスと言っても一緒くたにはできないと思いますので、日本の方針を聞かせていただきたいと思います。

(大臣)まず「グローバル・サウス」でありますが、こうした国々が急速に発言力を増しているということでありまして、ある意味では国際社会の多様化が進んでいることを実感しております。これら諸国の意見、また課題、置かれた状況は様々でありまして、決して一括りに考えることができないということであります。各国の多様性を理解し、様々なニーズに応じまして、きめ細かに対応するアプローチが重要であると実感をしております。  私自身、昨年9月の外務大臣就任以来でありますが、東南アジア、中東、大洋州島嶼国、そして今回のブラジル訪問を始め、多数のグローバル・サウスと呼ばれる国々との間で会談を重ねてきたところであります。その際、日本外交への高い信頼そして期待、ということにつきましても肌で感じてきたところでありますし、また、日本との協力をさらに進めていきたい、こうした声もきかれてきたところであります。

 重要なことは、様々な国の考えや意見が異なったとしても、それに真摯に耳を傾けることでありますので、その際、「法の支配」や「人間の尊厳」を中心に据えた外交を展開し、多様化する国際社会の分断や対立を協調に導くことの基本的考え方は堅持をして参りたいと考えております。今回のG20や二国間会談におきましても、私(大臣)は、このような視点に立って、各国のカウンターパートの話を真剣に聞き、そして、私(大臣)から法の支配などの国際社会の諸原則の重要性を強調した次第であります。

 今回のG20や二国間会談を通じての私(大臣)の印象を申し上げれば、グローバル・サウスと呼ばれる国々も、もちろん表現は色々様々ではありますが、国連憲章を始めとする国際法の順守、そして領土保全や主権、人権などこうした国際社会の諸原則を尊重すべきという点ではおよそ一致していたのではないかと考えております。今後も、グローバル・サウスと呼ばれる国々と積極的な会談を重ねて参りたいと考えまして、それを通じまして様々な意見に触れ、また共有した課題や問題につきましても率直に意見交換を行いながら、対応していく、ということを努めて参りたいと考えております。

(記者)生成AIについておうかがいします。今日のG20外相会合で大臣から生成AIを巡る国際ルール作りの必要性について言及されました。日本はG7議長国としてこの分野で初歩的な役割を果たしてきたかと思うのですが、これをG20でも打ち出したことの意図・意義をお聞かせください。併せて今後日本がどういった役割を果たしていきたいかもお聞かせください。

(大臣)AIの発展は我々に生産性の向上などの機会をもたらす一方で、偽情報の拡散といったリスクも生じさせており、国際社会としての対応が必要な新たな課題と認識しています。G20では、昨年のニューデリー・サミットにおいて、AIのための国際的なガバナンスについての協力を促進していくことが確認されているところであります。今回の会合では、安全保障上のリスクやガバナンスのあり方といった点も含めまして、各国は関心を持ってAIに関する議論を展開していました。

 日本は、昨年G7議長国としてAIのガバナンスに関する「広島AIプロセス」を立ち上げまして、国際社会のルール作りを主導してきているところです。こうした経験も踏まえ、安全、安心で、信頼できるAIの実現に向け、このG20での議論にも反映をし貢献していきたいと考えております。

(記者)今日、日米韓外相会合が行われましたけど、その成果について大臣の御見解をお願いいたします。

(大臣)今回ブリンケン米国務長官及びチョ・テヨル韓国外交部長官との間で、日米韓の外相会合を約60分開催をいたしました。北朝鮮は様々な発信を行うとともに、核ミサイル活動を引き続き進展をさせている状況にあります。また、北朝鮮からロシアへの弾道ミサイルの供与が行われまして、これがウクライナに対して使用されてもおります。今回の会合におきましては、こうした緊張の高まり、これを踏まえまして、北朝鮮への対応に関する3か国の連携を確認をしたところであります。

 法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序がある意味で試練を迎える中にありまして、日米韓のこの戦略的連携、これはこれまで以上に重要となっていると認識をしております。本日の会合におきましても、日米韓の協力のあり方にとどまらず、ロシアによるウクライナ侵略、また力による一方的な現状変更の試み、また中東情勢を含む地域情勢等につきましても非常に充実した率直な意見交換をすることができたと思っております。昨年8月のキャンプデービッドにおきましての日米韓の首脳会合の成果、これに基づきまして、ブリンケン長官、チョ長官と共に3か国の連携につきましては更に、強化を深めて参りたいと考えております。