データベース『世界と日本』(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 第1回G20財務大臣・中央銀行総裁会議議長総括

[場所] ブラジル・サンパウロ
[年月日] 2024年2月29日
[出典] 財務省
[備考] 仮訳
[全文] 

1. 我々、G20諸国の財務大臣・中央銀行総裁は、2024年2月28-29日にブラジルのサンパウロで会合を開いた。ブラジル議長国によってG20に提案された2024年の3つの包括的な優先事項である(1)社会的包摂と飢餓と貧困との闘い、(2)エネルギー移行と持続可能な開発、(3)グローバルなガバナンス・機関の改革、を考慮しつつ、我々は世界経済の進展について意見を交換し、また、経済の回復は予想されていた以上に堅調であることに留意した。しかし、中期的な成長見通しは引き続き低調である。困難な状況は、世界中で長期にわたる社会経済的・環境的な圧力を悪化させ、新興市場・発展途上経済(EMDEs)にその多くが住む貧しく脆弱な人々に不均衡に影響している。したがって、我々は、世界的な課題に対処し、開かれた、豊かな世界経済を促進するため、国際経済協力の強化が極めて重要であることを強調する。*1*

2. 我々は、2023年のG20ニューデリー首脳宣言による野心的なマンデートに従い、強固で、持続可能で、均衡ある、かつ包摂的な成長を促進し、持続可能な開発目標(SDGs)の達成に向けた進捗を加速させることへのコミットメントを再確認する。その目的のため、2024年には、我々は、政策面での主な関心として格差の主流化;より効果的で、信頼性があり、説明責任のある正当な機関を実現するための、地球規模の経済及び金融機関の意思決定における途上国の代表制及び発言力の強化;イタリア、インドネシア及びインドのG20議長国から受け継いだものを基礎とした、より良く、より大きく、より効果的な国際開発金融機関(MDBs)のための取組;2024年6月末までの署名を目指す第1の柱の多数国間条約の適時の合意を含む二つの柱の解決策の最終化と、公平かつ累進的な課税に関する国際的な対話の促進の継続;明確な配分枠組の下、限られた譲許的資金が、必要としている低・中所得国に持続的に流れることの促進;適時に、秩序立ち、予測可能かつ連携した方法で「共通枠組」の実施を強化することを含め、効果的、包括的かつ体系的に国際的な債務脆弱性に対処するとともに、債務の透明性を向上する;金融包摂の促進及び金融上のウェルビーイングの議論;パンデミックへの予防・備え・対応の強化;国内歳入及び民間資金の動員の強化と、持続可能な開発の社会的、経済的、環境的な側面に沿ったインフラと公正な移行への投資を支援するための、官民資本間の適切なリスク配分メカニズムの議論、に焦点を当てる。

3. 世界経済は、互いに強めあう複数の課題に引き続き直面しており、これらの解決には多国間協力の再強化が必要である。それらの課題には、世界の多くの地域での紛争、地経学的緊張、脆弱なグループ、特に子どもに不均衡に影響する持続的な格差・貧困・栄養不良・疾患、途上国に特にみられる非公式、低生産性、低賃金の雇用、債務脆弱性の高まりとEMDEsへの低調な長期的資金フロー、よりタイトな資金調達環境、生物多様性の大規模な喪失、気候変動によってもたらされた課題が含まれる。我々は、喫緊の財政制約の中、持続可能な開発のための資金供給の拡大のため、開発援助、国内資金動員、技術協力、そして民間資金動員を含む、幅広いテーマを議論した。我々は、G20の他のワーク・ストリームにおける取組と協調しつつ、飢餓と貧困に対するグローバル・アライアンスの立上げのためのタスクフォース、気候変動に対する世界的な資金動員のためのタスクフォースを通じた協力の強化により、これらの喫緊の課題のいくつかへの緊急の解決策を追求する、ブラジルG20議長国による提案に関する議論に期待する。

4. 我々は、国や地域ごとにばらつきがありつつも、成長が堅調性を示す中で世界経済のソフトランディングの可能性が高まっていることに留意する。しかし、不確実性は引き続き高い。世界経済の成長は、2024年に横ばいとなり、その後数年間は低調な水準になると予測され、SDGsの達成への課題が増大している。労働市場のダイナミクスは、国ごとにばらつきがある。同時に、適切な金融政策、サプライチェーンのボトルネックの緩和、一次産品価格の落ち着きを主な要因として、多くの国でインフレ率は沈静化してきている。インフレ率を、それぞれのマンデートに沿って目標に収れんさせることは、引き続き、中央銀行にとって重要な焦点である。財政の持続可能性を強化し、財政バッファーを確保しつつ成長を支えることは、引き続き多くの国にとっての課題である。

5. これを背景として、我々は、強固で、持続可能で、均衡ある、かつ包摂的な成長を促進し、マクロ経済と金融の安定を維持し、負の波及効果の抑制に資するためには、十分に調整され、よく意思疎通の図られた財政、金融、金融規制・監督政策、そして構造政策が必要であることを再確認する。我々は、潜在成長率の向上を可能にして、雇用の創出を促し、生活水準の向上機会を増やし、公正な移行のための投資を促進する、イノベーション、多様化、生産性の高い産業・サービス部門の発展を含む、構造転換及び国際的な収束を促進する政策を採用する重要性を強調する。我々は、中期的な財政の持続可能性を維持しつつ、貧困層及び最も脆弱な人々を保護するために、一時的で的を絞った財政措置を引き続き優先する。我々は、保護主義に抵抗することにコミットし、世界貿易機関(WTO)を中核とする、ルールに基づく、無差別的で、公正で、開かれた、包摂的で、公平で、持続可能かつ透明性のある多角的貿易体制を支持するための協調努力を奨励し、第13回閣僚会議での加盟国による同機関の改革に向けた取組を支持する。我々は、国内の手続を通じた、第16次クォータ一般見直し(GRQ)の適時の実施を優先することにコミットし、第17次クォータ一般見直しの下での、新たなクォータ計算式を通じたものを含む、更なるクォータシェア調整に向けた指針としての可能な複数のアプローチを2025年6月までに策定するための、IMF理事会による取組に期待する。我々は、2021年4月の為替相場についてのコミットメントを再確認する。金融安定及び金融分野の課題に焦点を当てることは引き続き不可欠であり、我々は、FSBやその他の基準設定主体による作業計画を引き続き支持する。我々は、ノンバンク金融仲介セクターの強靭性を向上することの重要性に合意する。我々は、また、トークン化、人工知能(AI)を含むデジタル・イノベーションがもたらす恩恵と脆弱性の理解、及び、暗号資産に関するG20ロードマップ及びクロスボーダー送金の改善に向けたG20ロードマップの実施の重要性にも合意する。

6. 世界経済の見通しに対するリスクは、更に均衡している。上振れリスクには、予想よりも早いインフレ率の鎮静化、信頼に足る財政枠組みに支えられ、より成長に配慮した財政健全化、世界的な協調の強化、責任あるかつ秩序だったAIの導入を含む技術革新による生産性の向上、が含まれる。世界の経済活動への下振れリスクには、戦争と激化する紛争、地経学的分断、保護主義の高まり、貿易ルートの混乱、一次産品価格や資本フローのより高い変動、資金調達環境のタイト化につながるインフレ率の逆方向への動向、公的及び民間部門における過剰債務、拡大する格差を背景として減少する社会の一体性、増加する気候変動の経済的コスト、が含まれる。

7. 我々は、2024年1月及び2月のG20財務トラックのワーク・ストリームの第1回会合における有望な結果に留意する。我々は、各作業部会及びタスクフォースにおいて、伯議長国及び共同議長によって提案され、メンバー国によって議論された作業計画で特定された優先事項を歓迎する。我々はまた、近年のG20における技術的な議論に知識を提供するため国際機関及びその他のナレッジパートナーに委託されたインプットの広範なリストについても歓迎するとともに、彼らの助言への感謝を改めて表明する。このコミュニケの附属書は、各ワーク・ストリームにおいて議論されている優先事項と、金融分野の課題への貢献を載せている。

8. 我々は、率直な対話、妥協の精神、及びメンバー構成の多様性が、G20が極めて重要な世界的なコンセンサスを築くことを可能とする貴重な資産であることを認識しつつ、我々の代表性を強化し、G20におけるアフリカ大陸の声とアフリカ大陸への関心を高める、アフリカ連合の常任メンバー入りを温かく歓迎する。我々は、アフリカに対する強力な支持を再確認し、G20イニシアティブであるアフリカとのコンパクトを通じたものを含め、アフリカ大陸との我々の作業を強化する。更に、我々は、議論に直接的に貢献し議論を強化するため、市民社会を並行する対話に参加させるブラジルの包摂的な戦略を認識する。

9. 我々は、継続的な協力と連帯に基づき、世界的な対話を促進し、我々の多くの地球規模の課題に対する具体的な解決策を追求するための我々の野心を改めて表明し、4月のワシントンDCで再び会合することを楽しみにしている。


{*1* 世界経済の見通しに関する発言において、大臣間で、ウクライナ及びガザをハイライトしつつ、進行中の戦争、紛争、及び人道危機に関する意見交換を行った。ブラジルG20議長国は、財務トラックが地政学的問題を解決するための最も適切なフォーラムではないことに留意し、関連するフォーラム及び会合においてこれらの問題が引き続き議論されることを提案した。}