データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 日中韓共同記者会見

[場所] 
[年月日] 2009年10月10日
[出典] 首相官邸
[備考] 
[全文]

■冒頭発言

温家宝総理

 プレスの皆さん、こんにちは。皆さん、こんにちは。私は、たった今、李明博大統領と鳩山総理と第2回日中韓サミットを開催しました。サミットでは、日中韓協力と重大な地域問題、国際問題について、率直な意見交換を行い、幅広い合意に達しました。議長として、私は今回の成果に満足しており、李明博大統領と鳩山総理の大きな貢献に心から感謝しています。

 今年は日中韓協力の10周年です。これまでの歴史を振り返ると、私達が得た巨大な成果は喜ばしく、長期的な視点及び戦略的高所から三国間系を把握することが大変重要であるという認識で一致しました。相互に尊重し、友好近隣、お互いの重大な関心と核心的な利益を尊重することが、日中韓協力の政治的な基礎です。また、ウィン・ウィンの協力を強化し、三国間の国民に実際に裨益することが三国間協力を深める重要な推進力となります。さらに、三国人民の連絡を密にし、世代友好を堅持していくことが重要です。そして、地域及び国際事務における協議のメカニズムを強化することは、共通の利益を維持することに有利となります。

 私達は、世界が経験している大変革、大調整、大発展の時代を目の当たりにし、日中韓三国は新しいチャンス、新しい挑戦に直面しています。全面的に協力を深めることで初めてそれぞれの発展をより促進できるし、東アジアの地域統合と一体化の過程を推進し、世界平和と発展のために相応の貢献ができます。このため、私達は政治的な約束を履行し、戦略的な相互信頼を増進することに合意しました。貿易、投資、金融、交通、情報、環境保護、グリーン経済、公衆衛生及び文化等の分野において三国間の協力の水準を全面的に高めます。ASEAN統合を支持し、様々な方式での地域、サブ地域の協力を推進します。また、対話・協議のメカニズムを通じた問題解決を堅持し、北東アジアの平和、安定及びバランスを促進し、共に手を携えて国際金融危機、気候変動等グローバルな挑戦に対応し、世界の持続可能な発展を促進していきます。

 本サミットでは、「日中韓協力10周年を記念する共同声明」及び「持続可能な開発に関する共同声明」を発表し、10項目のイニシアティブに合意しました。

 日中韓は近隣であり、アジアの大国でもあり、協力を強化することは、三国それぞれの利益に合致するのみならず、アジアないしは世界にとっても有利です。本サミットを通じて、日中韓の協力の方向性がより明確になり、中身がより一層豊富となり、決心が更に固まりました。三国の首脳、政府及び国民の共同努力により、日中韓協力の明日が更に一層美しくなると信じています。

李明博大統領

 まず、サミットの成功に対し、温家宝総理に感謝します。日中韓三カ国は、この10年でいい協力関係を築きあげてきましたが、これからの10年に向けて、新たな時代を切り開いていきたいと思います。

 経済発展と安全保障の問題は、それぞれの独自のとり組みだけでは対応できず、全ての国が協力してこそ克服できるのです。現在の世界経済危機には、先進国と途上国が共に協力していますが、私達は、アジア地域の三国として様々な課題にも共にとり組んでいくことで一致しました。日中韓三国は人口、GDP等が高く、NAFTA等他の地域の枠組みと比べても位置づけが高く、それゆえに協力することの重要性も高く、世界の平和に貢献する上でも重要なのです。本サミットでは、「日中韓協力10周年を記念する共同声明」、「持続可能な開発に関する共同声明」に合意しました。今後、日中韓三カ国で、グローバルな問題を含む様々な合意事項を実践に移し、実務的な協力を進めることが重要です。

 北朝鮮問題についても意見交換しました。温家宝総理より、北朝鮮訪問に関する詳しい説明があり、その結果につき、三カ国は高く評価しました。北朝鮮問題については、より一層の連携と協力が必要であり、そのために北朝鮮の核廃棄を含む問題の一括妥結方式、すなわちグランド・バーゲンについて説明をしました。

 また、金融・世界経済については、11月に韓国で開催されるG20の成功のために、三国の協力が重要である旨述べました。三国が世界経済危機を克服し、持続可能な発展を実現するためには、地域における協力が重要なのです。

鳩山総理

 中国の皆様、こんにちは。李明博韓国大統領とともに、初めて日中韓サミットに参加いたしました鳩山由紀夫です。まず、初めに、温家宝総理の見事なご配慮で素晴らしい会議を主催し、成功に導いたこと、及び会議のリードに心から感謝いたします。それぞれから話したように、最終的に共同声明が発出されることができました。持続的な成長についての共同声明を発出することができたことも、何より素晴らしいことです。日中韓は、アジアの7割というGDPを占めております。それだけに、三国が今まで以上により積極的に協力を進めていくことは、東アジア、ひいては世界の経済のために、また平和のために不可欠であると思っており、新参者として初めての参加でしたが、参加してよい意見交換ができたことを本当に感謝しています。4点だけ簡単に説明します。

 それぞれ経済の状況は違っております。それだけにお互いに単独で行動するというのではなく、むしろ、だからこそ経済的な協力が必要であるという認識が一致しました。日本は雇用環境が厳しい状況にあり、韓国も似たような状況にあるのではと思います。そのような状況の中で、出口戦略というものは、まだ時期尚早であるという認識で一致しました。温総理からも早い出口戦略は、逆に世界を失敗に導いてしまう懸念があるというお話がありました。その通りだと思います。それだけに、日本としては内需主導、それぞれの特色を活かし、科学技術の協力を含めた様々な協力関係を深めていくことによって、三国ができる限り早く経済を立ち直ることができるように努力しようじゃないかと話をしました。また、日中韓のFTAが進展することを期待しております。そのためにも日中韓の投資協定が来年の早い内に妥結することを申し入れました。保護主義に陥らないような形での三国間の協力を形作ることができるのではないかと思います。

 2点目は気候変動です。私、胡錦涛国家主席、李明博大統領も、それぞれ国連で演説をしました。それぞれ互いに評価するという理解を得られたと思っています。日本としては大胆な提案をして、世界をリードしたいと考えており、コペンハーゲン、いわゆるCOP15というものを失敗に導いてはいけない、そのためにぎりぎりの努力を積み重ねていこうではないか、共通の目標を持ち、それぞれの差というものを互いに認め合いながら、地球をぞれぞれ守っていこうという理解が得られたのではないかと考えています。

 それから、三カ国の協力のために不可欠なのは、青少年の交流であり、特に大学生の交流ではないかと述べました。大学生の交流の一環として、例えば大学間の単位の互換性を認めることをこれから積極的に考えるべきではないか、そのためには当然質がそれなりに揃っている必要があり、全ての大学という訳にはいかないと思っていますが、質のレベルを揃える中で協力を進めていきます。こうした協力を通じて、三国間に残っている様々な政治的な障害、心の意識が変革され、乗り越えることができるのではないかと提案しました。その一環として知識人の会議を開催することも述べました。

 最後に北朝鮮問題に関して、温家宝総理からご丁寧に金正日総書記との会談様子の説明がありました。改めて感謝申し上げます。この問題に関して、核開発、弾道ミサイル開発に加えて、拉致問題が韓国と同じくあります。この問題を包括的に捉えて解決していくというのが日本の考えであり、李明博大統領が提唱するグランド・バーゲンとも共通すると考えております。それぞれのアプローチは異なり、中朝で会談が行われ、近いうちに米朝でも会談が行われるのは、先に六者会合の再開があり、さらにその先に北朝鮮の核放棄が具体的な行動として作り上げていく道筋ができることを期待しています。そのためには、この三カ国が、そして米国を含めた四カ国が密に北朝鮮の問題に協力をすることの必要性をお互いに認め合いました。

 ちなみに、いくつかの問題に関して、三国間協力が重要であるという意識を三カ国首脳がもったことは重要ですし、李明博大統領から、このことを進めていくためには実務的な事務所を設置するという提案がありました。日本としてもそのことを支持します。サミットを更に高める1つの方法として強い声援をいただければと思います。あらためて、熱心な討議をリードした温家宝総理に対して感謝を申し上げ、サミットが更に発展することを祈念します。

■質疑応答

(問)

 温家宝総理は李明博大統領と鳩山総理に訪朝の結果を説明したと述べていましたが、北朝鮮の非核化に対する成果と三国間で合意した事項を説明願います。

(温家宝総理)

 今回の訪問では、私は金正日総書記と何度も会見し、合計10時間に達し、最も長い会見では4時間近くに及ぶものもありました。中朝関係については、これまでプレスの皆様に説明をしてきましたが、説明が足りないこともあったかもしれないと考えています。この機会に私の訪朝の詳細を説明し、個人的な感想を述べたいと思います。プレスの皆さんが詳細について理解することは、今後の六者会合再開のプロセスにも重要な影響を与えると思います。

 北朝鮮は、六者会合の再開については柔軟性を示し、多国間を通じた問題解決に意欲を示しました。また、米国、日本、韓国との関係改善を望んでおり、これが今回の訪朝で最も印象に残りました。

 六者会合の再開に向けては、各国のより一層の現実的な協力が必要となります。現在、目の前にあるチャンスは一瞬にして消えてしまう可能性もあります。このチャンスを掴み、活かすことができれば、この問題は進展を遂げると思います。チャンスを失えば、今後はより多くの時間と努力が必要になるでしょう。関係各国は、より高所からこの問題を捉えて把握する必要があります。六者会合のメカニズムの中でも、二国間対話は重要であり、お互いに矛盾する関係ではありません。二国間対話により、相互信頼を高めることは、六者会合再開の促進にとっても重要なことです。私は米朝の建設的な協議を支持します。日本と韓国もこれからは接触の機会を増やし、関係改善に努めることを期待します。

 中国はこれまで朝鮮半島の非核化及び六者会合の再開に向けて努力をしてきました。このプロセスは国連安保理の決議を遵守し、常任理事国としての義務によるものです。中国は北朝鮮に経済発展と民生の安定のための援助も実施しています。これも国連の考えと一致しています。中国のこれらの協力の目的は、朝鮮半島の非核化と六者会合の再開なのです。北東アジアの安定のために、各国と引き続き努力していきます。

 2つ目の質問については、日中韓三国は、サミットで真剣に北東アジアの情勢、非核化、六者会合再開について議論し、重要な認識を共有しました。六者会合のメンバーとして、北東アジアの平和と安定、非核化の実現は日中韓の関心の高い重要な問題です。三カ国はサミットにおいて、対話と協議を通じた平和的解決が重要との認識を共有し、六者会合の再開に向けて努力し、地域の平和に貢献していくことで一致しました。午後には、日本、韓国と二国間会談がありますので、更に協議したいと思います。

(問)

 三国間で実務的な常設の事務局を設置することで合意したというお話がありましたが、詳細について説明願います。また、李明博大統領が提唱したグランド・バーゲンについて三国間でどのような話をしたのでしょうか。

(李明博大統領)

 提案した常設の事務局では、衛生・疾病、地域情勢、国際情勢等の協力について協議するものとして説明をしました。正式な事務局の設置の前には、サイバー上に事務挙を設けて運営し、その評価をしてから、常設の事務局の設置について検討したいと考えています。三国間の協力は重要であり、それを行動に移すべきであるというのがこの考えの基本にあります。

 北朝鮮に関しては、北朝鮮の六者会合への復帰ではなく、その参加を通じて核を放棄させることを目的としています。核の問題は世界全体の関心事項であり、核のない世界を作るためには、北朝鮮の核開発を阻止する必要があります。そのために、南北関係とともに、六者会合の再開が重要となります。

 グランド・バーゲンについては、米国のオバマ大統領、ロシアのメドヴェージェフ大統領にも詳細に説明をしました。昨日、鳩山総理にも説明し、協議をしました。これは、六者会合の三カ国が考えることを行動に移すべきということなのです。温家宝総理より、北朝鮮が韓国とも関係を改善したい旨のお話がありましたが、私は歓迎します。南北が会う目的は核放棄であり、北朝鮮にも協力を求めていきたいと思います。本日、この場に金正日総書記も一緒にいればいい結論がでたのではと思いました。北朝鮮の非核化は世界の関心事であり、六者会合の議長国としての中国の引き続きの努力を期待します。

(問)

 日中韓の3カ国には多くの課題があると理解しており、地球温暖化、経済危機、テロとの戦いといったグローバルな課題、北朝鮮問題、中国の環境問題など地域的な課題について、それぞれ3国でどう協力して取り組むのか説明願います。

(鳩山総理)

 大変大きなテーマだと思います。一言で申し上げれば、三カ国の首脳の信頼関係がさらに向上して、まず政治的な問題の解決に向けて常に連携をしていくことです。したがって、このようなサミットは意味のあるものですし、李明博大統領が提案した常設の機関をつくることによって、グローバル課題、地域の課題をそれぞれ解決することが肝要だと思います。地球環境の話もありました。私の国連での発言もあり、かなりモメンタムが出てきたと思っています。多くの国々がコペンハーゲンを失敗に終わらせてはならないと考えるようになってきました。これまでは、なかなか難しいのではないかという諦めに似たものがありましたが、諦めから成功に導こう、そのための工夫をしようという流れになっています。その意味で、今日も気候変動に対する日本の立場を述べ、それぞれの国から前向きな発言がありました。すなわち、コペンハーゲンを成功に導こうという意欲を結集させることが一番大事で、それぞれが様々なレベルの目標を持っており、必ずしも一致するとは思いませんが、政治的なメッセージとしてコペンハーゲンを成功に導くことは十分に可能性があるのではないかと感じています。

 経済危機に関しても、冒頭で述べたとおり、それぞれの経済の状況は違いますが、むしろ違うからこそ、それぞれが協力する意義があると思っています。日中韓FTAを進展させ、この議論を民間レベルから政治レベルに高めていく過程の中で、日中韓投資協定を来年のできる限り早い内に成立させることが、経済的な三カ国の協力を高める、ひいては経済的な危機を乗り越えることに資するのではないかと考えています。

 北朝鮮問題に関しては、温家宝総理、李明博大統領から詳しい説明があり、私も冒頭で述べました。日本としては北朝鮮の核の廃棄の他に、弾道ミサイル、さらには拉致問題があることを述べたいと思います。この問題を包括的に解決していこうということを、グランド・バーゲンとして李明博大統領は提案していますが、その目的を共にしながら、北朝鮮に具体的な行動を求めるために、二国間の交渉、会談は意義があると思います。すなわち、温家宝総理の努力を高く評価しております。その中で、日朝間も改善をしたいのだという金正日総書記の言葉も伝えてもらいました。私どもとしてはその言葉を信頼していこうと考えています。そのためにも、できる限り早い時期に二国間の会談から、六者会合につなげてほしいと思います。オバマ大統領との会談でも、米朝も大いに結構だが、できる限り早く六者会合を作り上げてほしいと述べました。温家宝総理から、二国間の協議は六者間の協議と矛盾するものではないというお話がありました。その通りだと思います。是非、六者会合に導くための大きなステップとして評価しますし、六者協議につなげて、パッケージとして北朝鮮の具体的な行動を開始することを期待します。

 最後に、中国の環境問題に関して、例えば水処理問題での民間レベル協力も大変不可欠であると考えています。大事なのはお互いにウィン・ウィンの関係を作ることです。様々な日本の企業で問題解決に向けて努力をしている企業があります。そのノウハウを中国で活かして、それぞれの問題を解決しながら、経済発展にもつながる状況を作ることが重要です。現在、経済サミットが開催されているようですが、経済サミットから政治サミットを含んで取り組んでいくことが大事だと思います。

 サミットが現実的に実行力のあるものとして動いていくことが、グローバルな問題、地域的な問題の解決に資すると思います。