データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 第5回日中韓サミット 三国間の包括的な協力パートナーシップの強化に関する共同宣言

[場所] 中国・北京
[年月日] 2012年5月13日
[出典] 外務省
[備考] 
[全文]

1. 我々,日本・中華人民共和国・大韓民国の首脳は,第5回日中韓サミットにおいて,三国間協力を更に強化し,共通の発展を促進し,地域及び世界全体の安定・発展・繁栄に貢献するための綿密な意見交換を行うため,2012年5月13日に中国・北京に集まった。

2. 我々は,1999年に三国間協力が開始されてから,特に2008年に初めて他の多国間会合と独立して開かれた第1回日中韓サミットからの進展を歓迎した。我々は,2008年の「三国間パートナーシップに関する共同声明」,2009年の「日中韓協力10周年を記念する共同声明」,2010年の「日中韓三国間協力ビジョン2020」の実施を満足の意をもって見直し,三国間協力が三国の国民にもたらす多大な恩恵を喜んで目の当たりにした。

3. 我々は,世界経済の不確実さ,先進国経済における債務危機の深刻化,継続する西アジア・北アフリカにおける不安,継続する東アジアの成長の勢いによって,三国間協力の更なる強化が,三か国の着実な経済成長に寄与し,北東アジアの経済統合を加速化してきたことを十分認識した。それは東アジア協力に新鮮な精力と活力を注入し,地域の平和,安定,繁栄に資するものであり,世界の経済回復と成長を促進するものである。我々は,戦略的な観点から三国間協力をとらえ,取り組むことを再確認した。我々は,相互尊重,平等,共通利益,開放性,透明性に基づき,善隣友好,相互信頼,包括的協力,相互主義,互恵及び共通発展の方向に三国間関係を前進させることを強調した。

4. 以上を念頭に,我々は三国間の未来志向で包括的な協力パートナーシップを更に強化することで一致した。

政治的相互信頼の強化{前10文字太字}

5. 我々は,ハイレベルの交流を更に増加させ,三国間の関係と協力の着実な進展に,継続的で強力な政治的サポートを与えることを強調した。

6. 我々は,本年行われた第1回アジア政策対話及び三国間のアフリカ,ラテンアメリカ,テロ対策に関するこれまでの協議の前向きな成果を歓迎した。我々は,三か国がこれらの協議を持ち回りによって継続的に開催し,より多くの分野で意思疎通と調整を強化するための方途を積極的に探求し,相互理解と信頼を絶えず促進することへの支持を表明した。

7. 我々は,防災,原子力安全,地震に関する共同研究の分野における広範な協力に留意した。我々は,海賊,エネルギー安全保障,サイバーセキュリティ,感染症,テロ,大量破壊兵器の拡散といった非伝統的安全保障分野において,三か国が協力を進めることを奨励した。

8. 我々は,2011年に発出された首脳宣言及び付属文書に則った,特に東日本大震災以降の防災及び原子力安全に関する強化された協力についても歓迎した。日本は,中韓両国の政府と国民からの支援に感謝の意を示した。中国及び韓国は,「大規模自然災害に関するハイレベル国際会議」を2012年7月に被災地である東北地方で開催するとの日本のイニシアティブへの支持を表明した。

9. 我々は,最近の日中海上捜索救助協定の原則合意を歓迎し,海の安全確保のため,捜索救助に関する協力強化の重要性を再確認した。

10. 我々は,2011年9月の大韓民国ソウルにおける日中韓協力事務局の設立を歓迎し,事務局が質の高いサービスを提供し,協力の推進に積極的な役割を果たすことへの支持を表明した。

経済貿易協力の深化{前9文字太字}

11. 我々は,経済貿易関係を更に強化し,利益の一致を深める。我々は本年5月に北京で開かれた第9回日中韓経済貿易大臣会合の成果を支持した。我々は,貿易・投資にとって魅力的な環境を作るために協力を強化することを再確認した。

12. 我々は,三国間のFTAに関する共同研究の結論と提言を支持した。日中韓三国間のFTAは三か国の経済成長と繁栄に貢献することを認識し,我々はここに日中韓FTA交渉を年内に開始するとの貿易大臣からの提言に支持を与えた。そして,この目的を達成するため,三か国は,国内手続や事務レベルの協議を含む準備作業を直ちに開始することとする。

13. 我々は,「投資の促進,円滑化及び保護に関する三国間の協定」への署名を歓迎し,この協定が三国間相互の投資の促進,円滑化及び保護を強力に後押しするとの意見を共有した。我々はこの協定が最も早期に発効するよう,可能な限り早くそれぞれの国内手続を完了させることで一致した。

14. 我々は,地域の金融市場の安定を確保し,持続可能な成長を追求するため,地域の金融協力の促進に向けて協力することにコミットしている。この点から,我々は,規模の倍増,IMFデリンク部分の増加,危機予防機能の導入を含むチェンマイ・イニシアティブ・マルチ化の強化に関する実質的な進展を歓迎した。我々は,アジア債券市場育成イニシアティブ(ABMI)の更なる強化及びASEAN+3マクロ経済リサーチオフィス(AMRO)の監視活動の開始を歓迎した。

15. 我々は,三国間の金融協力強化へのコミットを再確認した。この関連で,昨年の三国間における二国間通貨スワップの拡充が,地域金融市場の安定化に大きく貢献したことを歓迎した。我々は,三か国の外貨準備当局による相互の国債への投資を促進し,情報交換を含む協力を一層強化し,これにより三か国の地域経済関係を強めることで一致した。

16. 我々は,三か国の税関当局に対し,2011年に改訂された日中韓三か国税関の協力に係る行動計画を積極的に実施し,知的財産権の保護,税関手続及び貿易円滑化,AEO相互承認,税関取締り及び密輸情報,人材育成に関する実務的な協力を進展させ続けることを奨励した。

17. 我々は,産品の安全性に係る措置は,WTO・SPS協定及びWTO・TBT協定の要件を満たすべきであり,それらの措置は人間・動物の健康と衛生状況を向上させ,三国間の貿易の健全な発展に促進するために取られることを再確認した。

18. 我々は,三か国に対し,貿易の健全な発展を促進し,それに資するよう,品質検査及び検疫に関する協議と協力のためのメカニズムを設置することを奨励した。

19. 我々は,陸と海を結ぶ輸送の発展や北東アジア物流情報サービスネットワークの設立に関する進展を歓迎し,地域における陸と海を結ぶ輸送の包括的な進展を奨励し,ネットワークサービスの拡大を加速した。

20. 我々は,三か国の社会的・経済的発展のための情報通信分野の協力の重要性を強調し,更なる交流と協力に対する支持を表明した。

21. 我々は,環黄海経済・技術交流会議などの,三か国の経済貿易協力の更なる発展を推進するための三国間の地方レベルでの協力を奨励し,支持した。

持続可能な発展の促進{前10文字太字}

22. 我々は,三か国の長期的かつ着実な経済成長のために循環経済を発展させること及び経済発展と環境保護を調和させることの重要性を強調した。我々は,循環経済モデル基地建設の重要性を認識した。我々は,中国内の循環経済モデル基地の候補地を提案する中国の努力を評価し,モデル基地が早期に実証的な役割を果たせるよう,より多くの努力がなされることを期待した。同時に,我々は綿密な協議を続け,三か国それぞれの必要性に応じた異なる特徴を持った複数の循環経済モデル基地の設立に向けて探求することを決めた。

23. 我々は,本年5月に北京で行われた第14回日中韓三カ国環境大臣会合(TEMM14)の成果を称賛し,「三カ国共同行動計画」の実施に係る進展を歓迎した。我々は,電気電子機器を含む廃棄物の不法越境移動に共同で対処するための三国間協力メカニズムの設立に向けた進展を歓迎し,協力メカニズムをより有効に活用すべく,この分野における共同研究により一層取り組むよう期待を表明した。我々は,黄砂が地域の環境課題の一つであることに留意し,黄砂に関する三国間での共同研究を強化する必要性を確認した。また,我々は,地域における越境大気汚染に取り組む重要性を認識した。我々は,三か国が,環境保全技術に関してだけでなく,遺伝資源へのアクセスと利益配分に関する協力にも取り組んでいくよう奨励した。我々は,TEMM14で支持された,2012年に災害対策に関するセミナーをホストするとの日本の提案を歓迎した。

24. 我々は,グリーン成長と低炭素成長が持続可能な発展及び環境保護と経済成長との両立にとって必要不可欠であるとの点で一致した。2011年の第4回サミットで採択された「再生可能エネルギー及びエネルギー効率の推進による持続可能な成長に向けた協力」を参照し,我々は,同文書に基づく,2012年3月に日本で行われたグリーンテクノロジーフォーラム,若手実務者間の活発な人的交流,クリーンエネルギー閣僚会合,APEC,IPEECなどの既存の国際的な枠組みを活用した協力を含む,グリーン成長と低炭素成長を実現するための三国間の協力を歓迎した。

25. 我々は,三か国を含む東アジアのグリーン成長と低炭素成長に関する大きな潜在力と課題を認識した。この文脈で,我々は2011年11月にAPEC首脳によって発出されたホノルル宣言や4月15日に日本の東京で開催された東アジア低炭素成長パートナーシップ対話について,この地域における協力の深化に向けた更なる対話の継続への期待と共にその成果を歓迎した。

26. 我々は,その他の国際機関や開発実施機関と共に,発展途上国のグリーン成長戦略に関する支援を提供するグローバルグリーン経済研究所(3GI)の重要な役割を認識した。

27. 我々は,愛知目標の達成及び「遺伝資源へのアクセスと利益配分に関する名古屋議定書」の早期発効に向けた三か国の努力を歓迎し,緊密な三国間協力の重要性を確認した。

28. 我々は,昨年11月の日本における第4回原子力安全上級規制者会合の開催とその進展を歓迎した。我々は,三か国の原子力安全当局に対し,「日中韓原子力安全協力イニシアティブ」の別添の「行動項目」に沿って実質的な協力を実施することを奨励した。また,我々は,国際的な原子力安全の更なる進展に向けて,2012年12月に日本で行われる原子力安全に関する福島閣僚会議の成功の重要性についても確認した。

29. 我々は,あり得べき大規模な地震,津波,火山噴火に対処するための三国間協力の重要性を認識した。我々は,三国間の貿易量の増加や旅行客の数に照らし,気象観測及び予報のデータを交換することの重要性に留意し,世界気象機関(WMO)の枠組みにおける地域の気象データの交換の方途についての議論を奨励した。

30. 我々は,三か国の保健大臣間の定期的な協議メカニズム,及び感染症・非感染症疾患の予防と対策,食品安全,臨床試験,緊急時の対策と対応,保健分野におけるミレニアム開発目標に関する三国間の実務的な協力の重要性を認識した。我々は,人々の健康と福利の強化のため,より良い保健分野の協力の必要性を再確認した。

31. 我々は,三か国の科学的・技術的水準,イノベーション能力,産業的・技術的競争力の向上のための共同研究プログラム及び日中韓フォーサイト事業の進展の重要性を強調し,三か国に対し,これら2つのプログラムの効果と影響力を強化するため,財政的及び人的資源を増加させることを奨励した。

32. 我々は,持続可能な発展を実現するための,男女の平等と女性の社会的地位の向上の重要性を再確認し,男女平等を推進するための三国間の協力を強化することを決定した。

33. 最近の世界的なエネルギー価格の高騰に対する懸念を共有し,我々は,エネルギー市場の安定に向けた協力強化を目指す。

34. 我々は,持続可能な発展及び農業生産や生産性の向上を確保するための取組として,4月14日から15日に済州島にて第1回日中韓三国間農業大臣会合が成功裏に開かれたことを歓迎した。我々は,同会合で,三国間農業大臣会合を毎年開催するとの決定を含む共同声明が採択されたことを評価した。

35. 我々は,農業,持続可能な森林経営・砂漠化対処・野生生物保全についての三国間の協力強化の重要性を再確認し,付属文書にあるとおり,これらの協力を推進することを決定した。

社会・文化・人的交流の拡大{前13文字太字}

36. 我々は,2008年以降に三国間で計画され,組織され,実行された多数の文化交流事業が三国の国民間の理解,相互信頼,友好を効果的に強化してきたことに留意した。我々は,三か国の文化大臣に対し,特に「東アジア文化都市」事業を適切な時期に立ち上げ,中長期的に「日中韓文化芸術祭」事業についての協議を開始するなど,より多くの活動を行うことを奨励し,支持した。我々は,三か国に対し,文化遺産保護や文化産業の発展に関する交流と協力を強化することを奨励した。

37. 三国間の教育協力を更に促進するため,我々は日中韓教育大臣会合メカニズムの立ち上げに向けた努力を継続することを決定した。我々は,三か国によって立ち上げられた「キャンパス・アジア」の大学間交流パイロットプログラムを歓迎し,プログラムの成功を期待した。我々は,三か国がプログラムを通じてアジアの共有された質保証枠組みの立ち上げに貢献し,地域のより多くの,より良い人材の育成に向けてプログラムの規模と範囲を更に拡大することを奨励した。

38. 我々は,国民間の理解と相互信頼を更に強化するための方途としてのパブリック・ディプロマシーの重要性を共有した。我々は,三か国の外務当局に対し,この分野における協力の方途を更に探求し,適切な時期にパブリック・ディプロマシーに関する三国間のフォーラムについての協議を開始することを奨励し,支持した。

39. 我々は三国間の観光交流の重要性を確認し,将来の観光についての共通のビジョンを共有しつつ,三か国が長期的な視点から観光を促進するため,それぞれの手続の見直しを含む様々な措置を通じて,共同の取組を行うべきことで一致した。我々は,三か国に対し,2015年までに三国間の人的交流規模を2600万人にするとの目標を達成するため,ビザの要件を更に緩和し,姉妹・友好都市交流を拡大することを奨励した。

40. 我々は,2005年に人事行政ネットワークメカニズムが設立されてから,三か国が人事閣僚会合を開催し,三か国の人事行政分野の改革や発展を効果的に推進する,若手公務員交流プログラムを立ち上げたことに留意した。我々はこの分野において三か国が交流と協力を更に強化することを期待した。

41. 我々は,国交正常化40周年を記念するために日中両国が立ち上げた友好行事及び国交正常化20周年を記念するために中韓両国が実施する友好行事,並びに2002年FIFAワールドカップ日韓共催10周年を祝うための行事を歓迎した。我々は,あらゆる階層の人々,特に三か国の若者の間での友好行事を歓迎し,三か国に対し,平和と友好の精神を促進し,国民間の友好関係を強化し,三国間の友好と協力の社会的な基礎を確立するため,メディア,学術界,ビジネス界,スポーツ,その他の非政府間の交流を拡大することを奨励した。

地域・国際情勢に関する意思疎通・調整の強化{前21文字太字}

42. 我々は,平和で安定的かつ繁栄した東アジアを実現するとの観点から,東アジアで進展している地域アーキテクチャーにおける,三国間協力とASEAN+1,ASEAN+3,東アジア首脳会議,ARF,APECといった地域の枠組みとの間の相互に強化し,補完する役割を強調した。

43. ASEANを地域協力における重要なパートナーとみなし,我々は東アジア地域協力におけるASEANの主導的な役割に対する支持を再確認した。我々は,ASEAN諸国の発展とASEAN共同体構築を支持するために,共に取り組むことへの意欲を表明した。我々は,「ASEAN連結性マスタープラン」の実施に係るASEANの努力を支持し,食料,エネルギー,科学技術,環境保護,防災などに関するASEANとの協力を強化する。我々はASEAN+3の枠組みにおける金融協力を深めるためASEANと協力することへの意欲を表明した。

44. 東アジアにおける経済統合の進展に関し,我々は,東アジア自由貿易圏構想(EAFTA)及び東アジア包括的経済連携構想(CEPEA)のイニシアティブに留意しつつ,交渉の開始に向けて地域の包括的経済連携構想の議論を加速化するため,ASEANプラス作業部会が遅滞なく設立される必要があることを再確認した。

45. 我々は共通の発展を促進し,相互利益とウィン・ウィンの結果を実現するため,三か国が気候変動,金融リスク,エネルギー・食料安全保障,公衆衛生,自然災害,テロ,軍縮・大量破壊兵器の拡散といった地球規模の課題に共同で対処するための意思疎通と調整を強化することを支持した。

46. 我々は,2015年までのミレニアム開発目標(MDGs)の達成に向けた努力を加速することが最も重要であることを再確認した。我々は,新たな地球規模課題の文脈で,現在のMDGsの評価と経験に十分に留意しつつ,2015年以降の地球規模の開発アジェンダの策定に関する議論において更に協力する。そして,我々は,2015年以降の地球規模の開発アジェンダの策定において国連が主導的役割を果たすことを支持する。我々は,G20開発アジェンダがこれらの地球規模の取組に寄与することを認識した。

47. 我々は,核セキュリティを更に強化する2012年のソウル核セキュリティサミットの成功を歓迎した。日本と中国は韓国の大統領に祝意を示し,韓国は同サミットの間の日本と中国の積極的な貢献に感謝した。

48. 我々は,意思疎通と調整を強化し,年内に行われるG20サミット,APEC首脳会議,ASEM首脳会議,ASEAN+3首脳会議,東アジア首脳会議の成功に向けて前向きな貢献をするべく協力する。

49. 我々は,G20の役割強化に向けた努力を強化することを決定した。我々は,経済回復と成長を促進し,世界金融の安定を確保し,合意された期間内に2010年のIMFのクオータとガバナンスを実施し,貿易保護主義を抑止し,開発アジェンダを更に促進しつつ,世界経済の最も喫緊の課題に焦点を置き,ロスカボスサミットの成功に向けて貢献することにコミットしている。我々は,強固で持続可能かつ均衡ある世界の成長を実現するため,G20サミットのプロセスを共に進めるための緊密に協力する。

50. 我々は,2013年に大韓民国で開かれる第6回日中韓サミットに期待する。