[文書名] 日中韓サミット成果文書「次の10年に向けた3か国協力に関するビジョン」
日中韓サミット成果文書「次の10年に向けた3か国協力に関するビジョン」(仮訳)
日中韓協力20周年の機会に,李克強中華人民共和国国務院総理,文在寅大韓民国大統領,安倍晋三日本国総理大臣が,2019年12月24日,中国・成都において,3か国協力の方向性を振り返り,明るい未来を見据えるべく第8回日中韓サミットを開催した。
20年前,アジア金融危機の発生に伴い,先見性を持つ日中韓の指導者たちが3か国協力を立ち上げたことを想起した。過去20年にわたり,3か国は相互理解を強化し,協力を深化させ,共通の発展を追求してきた。我々は,21の閣僚級会合と70以上の対話メカニズムを立ち上げ,これらは3か国のより大きな協力に向けた議論の主たるプラットフォームとなっている。我々はまた,3か国協力の更なる促進を目的として,2011年に日中韓協力事務局を立ち上げた。3か国間の貿易量は,1999年の1300億米ドルから,2018年には7200億米ドルにまで増加した。3か国のGDPの合計が世界の総GDPに占める割合は,17%から24%にまで上昇した。3か国協力は,地域及び世界の経済成長を促進し,地域統合プロセスを推進する上で重要な役割を果たした。
我々は,次なる10年において,国際社会における重大な変化,新たな世界の成長の担い手の出現,そして科学技術の革新及び産業構造の変化の急速な進展が起こるとの認識を共有した。全ての国の利益と未来はかつてなく連関している。アジアの平和と安定に責任のある主要国として,3か国協力を強化するとともに,他の国々とも協力して,地域及び国際社会が直面する幅広い課題に積極的かつ相応の貢献していくことは我々にとってますます重要になっている。より強固な3か国協力は,3か国及び国民の共通の利益に資するとともに,地域と世界の平和と発展に大いに貢献する。我々は,健全な2国間関係は3か国協力の重要な基盤を構成すること,また3か国協力の深化は,同時にそれぞれの二国間関係に寄与することについての認識を再確認した。3か国が悠久の歴史及び久遠の未来を共有していることを再確認しつつ,2018年の日中韓サミットで達成された共通認識に従って引き続き協力していく。我々は,3か国協力を長期的かつ戦略的な観点から計画し,3か国協力を平和,安定そして地域協力のプラットフォーム,及び世界の発展と繁栄の重要な力とするために,平和,友好及び互恵を特徴とする未来志向の協力を発展させるよう努力するべきである。我々は,他の関係者の参加を得て,3カ国協力の枠組みの下で,学術的な対話を開催することを含め,地域の対話と信頼を更に強化するために共同の努力を継続する。
以上を念頭に,我々は以下を決意した。
I.3か国協力の改善。我々は,健全かつ安定した3か国協力の発展を促進するために,日中韓サミット及び日中韓外相会議を定期的に開催することの重要性について一致した。我々は日中韓サミット及び日中韓外相会議を定例化するよう前向きな雰囲気を醸成するべく努力する。日中韓協力事務局が達成した成果を認識し,事務局の継続的な能力構築を支援する。日中韓協力基金(TCF)が3か国協力の促進を目的としたプロジェクトに対する支持を提供し得るとの認識を共有した。
II.持続的な平和と安定の維持。我々は,相互信頼の精神の下,戦略的な事項に関する意思疎通及び政治的相互信頼を強化し,違いを適切に管理し,平和及び友好の長期的な関係を発展させる。我々は,朝鮮半島の完全な非核化にコミットしている。我々は,朝鮮半島及び北東アジアの平和と安定の維持は,我々の共通の利益及び責任であることを再確認する。この観点から,我々は,2018年の南北首脳会談に関する日本,中華人民共和国及び大韓民国の首脳による共同声明を想起する。我々は,朝鮮半島の平和,安定及び繁栄を達成するために努力を行い,関係国の諸懸念に関する,関連国連安保理決議に従った,対話及び外交を含む国際的な協力並びに包括的な解決によってのみ,朝鮮半島の完全な非核化及び恒久的な平和を達成できることを強調する。中華人民共和国及び大韓民国の首脳は,日本と北朝鮮との間の拉致問題が対話を通じて可能な限り早期に解決されることを希望する。
III.開かれた,双方にとって利益となる協力。相互の発展を好機ととらえ,我々は,それぞれの発展戦略が相乗効果を持つようにし,相互協力をより高いレベルへ引き上げる。この目標に向けて,3か国は自由,公正,無差別で透明性があり予測可能な安定した貿易及び投資環境を実現し,我々の開かれた市場を維持するよう努力する。我々は,世界貿易機関(WTO)の機能を改善するために必要な改革への支持を再確認する。
ルールに基づく多角的貿易体制の極めて重要な役割を理解しつつ,我々は自由貿易及び多国間主義の精神を支持するとともに,経済主体が能力を発揮できるビジネス環境を醸成するため,既存の国際ルールを実施し,また,公平な競争条件(level playing field)を確保するように共に取り組んでいく。我々は,2019年に発出された,東アジア地域包括的経済連携(RCEP)に関する共同首脳声明のコミットメントを再確認する。我々は,RCEP交渉に基づき,独自の価値を有する,包括的な,質の高い互恵的な協定の実現にむけて,日中韓FTA協定の交渉を加速していく。
我々は,既存の枠組みを通じた,地方政府と民間企業の間の3か国協力をより推進する。我々は,新たな協力分野や協力モデルを探求し,経済のグローバル化と自由貿易を推進し,世界経済の安定性と確実性を高めるために協力する。
大阪サミットを含むG20サミットの成功裏の開催と成果を歓迎しつつ,3か国はG20の枠組みの下で,引き続き協力を強化し,リーダーシップを発揮していく。
IV.科学技術に関する変革の主導等。我々は,既存のメカニズムを通じて,世界や地域に共通する課題に取り組むために科学・イノベーション協力を推進していく。我々は,情報通信及びデジタル経済分野における協力を奨励していく。我々は,あり得べき金融の不安定性に対応するために3か国間での高度な意思疎通と協調を継続していく。我々は,チェンマイ・イニシアティブ(CMIM)の強化やASEAN+3マクロ経済調査事務局(AMRO)の能力の強化等により地域金融協力を強化していく。
V.交通及び物流を含めた地域の連結性並びにインフラ協力の向上。インフラは経済成長及び繁栄の原動力である。我々は,持続可能な成長と開発を達成するためのインフラの正のインパクトの最大化の重要性,プロジェクトの経済的,社会的,金融・財政的及び環境的な持続可能性の重要性を強調し,地域の貿易,投資及びサービスにおける競争を円滑にするため,広く受け入れられた国際原則に従い,持続可能で質の高いインフラを促進する必要性を再確認する。
VI.持続可能な開発のための2030アジェンダに対する我々のコミットメントの再確認。我々は,極度の貧困を含むあらゆる形態と分野の貧困を根絶することは,最大のグローバルな課題であり,持続可能な開発のために必要不可欠な条件であることを強調する。我々は経済,社会,環境分野における協力を更に促進する。我々は循環型経済,資源効率性,農林水産,及び北極における協力の重要性を強調する。我々は海洋プラスチックごみや大気汚染,生物多様性の損失,侵略的外来種の管理,そして国境を越える動物の疾患を含む共通の課題に対処する共同の努力を支持し,促進する。我々は包括的な政策を通じて,健康で活力ある高齢化を促進する。我々は「仙台防災枠組2015-2030」に沿った災害リスクの軽減と,持続可能な方法による健全な財政に基づくユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)における協力を引き続き強化する。我々は実行可能かつ具体的行動によって気候変動に対処する喫緊の必要性を認識する。我々は国連気候変動枠組条約及びパリ協定の完全な実施への強いコミットメントを再確認する。
VII.文化・人的交流分野において互いに学び合うことの推進。我々は東アジアの文化的伝統を維持し,東アジアの互いに利益となる協力を促進する。我々は,3か国が連続してオリンピック・パラリンピックを開催する歴史的な瞬間を捉え,スポーツ協力の強化を通して,友好・協調の精神を更に促進する。我々は,人と人とのエンゲージメントのための多様な文化と教育交流活動を通して,我々の国民間の相互理解と信頼を強化し,3か国協力のための,安定した,健全な,かつ友好的な社会的基盤を築く。我々は積極的に観光交流を促進し,我々の国民間の相互信頼を深める。
VIII.全体的な再活性化と共通の発展の達成。我々は3か国協力の深さと幅を拡大し,お互いの比較優位性を十分に活用して,3か国協力の利益を他の国や地域に広げていく。我々は他国との協力を拡大するために共同で計画を立て,集団的行動をとることによって「3か国+X」の協力を進展させ,地域間の開発格差を縮小することを支援し,共通の発展を達成する。