データベース『世界と日本』(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 第9回日中韓サミット共同宣言

[場所] 
[年月日] 2024年5月27日
[出典] 外務省
[備考] 仮訳
[全文] 

1. 岸田文雄日本国総理大臣、李強中華人民共和国国務院総理、尹錫悦大韓民国大統領は、2024年5月27日、第9回日中韓サミットの機会に、大韓民国のソウルで一堂に会した。

2. 本年が日中韓協力の25周年に当たることを想起し、我々は、2008年以降開催された過去8回の日中韓サミット及び2011年の日中韓協力事務局(TCS)の設立が、3か国協力を制度化するための強固な基礎を築いてきたとの認識を共有した。我々は、第8回日中韓サミットで採択された「次の10年に向けた3か国協力に関するビジョン」の実施に向けた我々のコミットメントを再確認した。我々は、3か国協力が様々な分野において深化し、3か国及び国民に利益をもたらすとともに、地域協力のための意味のあるプラットフォームとして位置付けられていることを評価した。

3. 我々は、国連憲章の目的及び原則並びに法の支配及び国際法に基づく国際秩序に対する我々のコミットメントを再確認した。この文脈で、我々は、国家が国際法及び国家間の合意の下でのコミットメントを遵守することの重要性を共有した。

4. 我々は、第9回日中韓サミットが3か国協力を活性化させるための価値ある意義を有するとの見解を共有した。日本と中華人民共和国は、日本と中華人民共和国との緊密な協働の下での3か国協力を軌道に乗せるための議長国としての大韓民国の取組に感謝の意を表明した。

5. 日本、中華人民共和国及び大韓民国は、悠久の歴史及び久遠の未来を共有する隣国であり、複数の領域にわたる協力の大きな可能性を有すると認識しつつ、我々は、3か国協力を発展させるに当たり、以下の、ただしこれらに限定されない、3つの方向性について一致した。

6. 第一に、我々は、日中韓サミット及び閣僚級会合を定期的に開催することで3か国協力の制度化に努めるとともに、日中韓協力事務局の能力構築を引き続き推進する。

7. 第二に、3か国の国民の支持が3か国協力を深化させる重要な原動力であることを認識しつつ、我々は、3か国の国民がこの協力から生まれる実質的な利益を享受できることを確保するように努力する。

8. この目標に向けて、我々は、国民の日常生活に密接に関連する6つの主要分野(人的交流、気候変動への対応等を通じた持続可能な開発、経済協力と貿易、公衆衛生と高齢化社会、科学技術協力とデジタル・トランスフォーメーション、災害救援と安全)を中心に、互恵的な協力プロジェクトを特定し、実施する。特に、我々は、将来世代間の交流が3か国協力の長期的な基盤を強固にする上で極めて重要であるとの見解を共有しており、この交流の分野における協力の絆を深めることを追求する。

9. 第三に、我々は、3か国が他の地域と共に繁栄できるよう3か国協力の利益が他国に広がることを確保するために、「三か国+X協力」を推進する。

10. 以上を念頭に、我々は以下を決意した。

3か国協力の制度化

11. 3か国が、第1回日中韓サミットにおいて採択された「三国間パートナーシップに関する共同声明」を通じて、日中韓サミットを定期的に開催することを決定し、第6回日中韓サミットにおいて採択された「北東アジアにおける平和と協力のための共同宣言」を通じてこれを再確認したことを想起し、我々は、3か国協力をさらに前進させるため、日中韓サミット及び日中韓外相会議を中断することなく定期的に開催する必要性を再確認する。我々は、3か国協力の制度化を促進することが、それぞれの2国間関係を強化し、北東アジア地域の平和、安定及び繁栄を促進し、国の大小にかかわらず普遍的に利益を受けることのできる世界を促進することに資することを改めて表明する。

12. 我々はさらに、教育、文化、観光、スポーツ、貿易、公衆衛生及び農業を含む分野におけるハイレベル会合や閣僚会合等の政府間協議メカニズムを通じて、実質的な3か国協力を強化する。その際、我々は、我々の国民が3か国協力の具体的な利益を享受できるよう緊密に協力することにコミットする。

3か国の国民のための3か国協力プロジェクト

13. (人的交流)相互理解及び信頼を促進するために人的交流を活性化する必要性に留意し、我々は、あらゆる層の人々、特に将来世代間の交流を促進することにより親善及び友好を増進し、それにより将来の3か国協力の基盤を強化する道を開くことの重要性について一致する。我々はまた、文化、観光及び教育を含む交流を促進することを通じ、2030年までに3か国間の人的交流の人数を4,000万人に増やすよう努める。

14. 我々は、将来世代間の交流を促進する上での教育分野における協力の重要性を認識し、2011年度に開始され、ASEAN加盟国の大学を含むまでに拡大した大学間交流プログラムであるキャンパス・アジアの模範的な役割を評価する。我々は、このプログラムが15,000人の大学生の参加を集めてきたことに留意し、2030年度末までに30,000人の学生の参加を得ることを目標に、このプロジェクトを積極的に支援していく。

15. 我々は、3か国の青少年間の交流及び友好を促進することが、3か国協力のより明るい未来を形作るための重要な第一歩となるとの見解を共有する。この目的のため、我々は、日中韓子ども童話交流事業、ジュニアスポーツ交流、日中韓ユースキャンプ、若手公務員交流プログラム等の様々な交流プログラムを継続する。我々はさらに、日中韓ユースサミット、青年大使プログラム、日中韓若手農村指導者交流プログラム等、様々な青少年交流事業を実施している日中韓協力事務局の取組を評価する。

16. 文化が3か国の国民を繋ぐ架け橋の役割を果たすことを認識し、我々は、東アジア文化都市、日中韓芸術祭、日中韓文化コンテンツ産業フォーラム等のイニシアティブを通じ、3か国の国民が共通理解を培い、相互に交流するためのプラットフォームを引き続き拡大していく。我々はまた、2025-2026年を3か国間の文化交流年と定める。

17. 我々は、3か国の賢人が一堂に会する、日中韓協力事務局主導の日中韓ビジョナリーグループの発足を歓迎し、3か国プロセスをさらに改善するための建設的な取組及び提案が発出されることを期待する。我々は、日中韓三国協力研究所連合が3か国協力における関わりを高めることを支持する。我々はまた、広報文化外交が3か国の国民間の相互理解を高め、友好を深める上で重要な役割を果たすという見解を共有する。

18. (気候変動への対応等を通じた持続可能な開発)我々は、持続可能な開発のための2030アジェンダの実現に向けた我々のコミットメント及び人々が地球と調和して生きる平和と繁栄の未来を築くことの重要性を再確認する。我々は、温室効果ガス排出ネット・ゼロ/カーボンニュートラルで、グリーンな経済及び社会への移行において協力する必要性を認識する。2023年11月の第24回日中韓三カ国環境大臣会合において共同コミュニケが採択されたことを歓迎し、我々は、8つの優先分野における我々の協力を継続する。我々はまた、2024年5月の第4回日中韓水担当大臣会合において、気候変動に対処し、強靭な水インフラを構築するための3か国の水に関する協力のコミットメントを再確認する共同声明が採択されたことを歓迎する。

19. 我々は、この決定的に重要な10年において気候危機に対処するため、パリ協定の温度目標を達成するための確実な行動をとり、その取組を支持するとともに、第1回グローバル・ストックテイクの結果を反映した、野心的な次期国が決定する貢献を提出する。我々はまた、多様な道筋によるクリーンで持続可能かつ低廉なエネルギー移行に向けた世界的な取組に貢献する。

20. 「三か国+X協力」の枠組みを通じて、我々は、東アジア地域における黄砂の削減についてモンゴルと協調する。我々は、将来世代のための海洋の持続可能性を実現するため、海洋環境保全に関する協調を推進する。我々は、2024年11月に大韓民国の釜山で開催されるプラスチック汚染に関する法的拘束力のある国際文書の策定に向けた政府間交渉委員会(INC)の第5回会合(INC-5)において、同委員会の作業を完了させるという野心に向けて協働する。

21. 海洋生物資源の保全及び持続可能な利用に対する最も深刻な脅威の一つである違法・無報告・無規制(IUU)漁業を終わらせるという我々のコミットメントを認識し、我々は、多様な手段を通じて、IUU漁業を防止し、抑止し、撲滅するための強固で効果的な措置を実施する。我々は、昆明・モントリオール生物多様性枠組(GBF)の迅速、完全かつ効果的な実施にコミットする。

22. (経済協力と貿易)我々は、3か国間の経済及び貿易分野における共同の取組が、地域及び世界経済の繁栄及び安定にとって重要な役割を果たすとの認識を共有する。我々は、地域の開発格差を縮小し、共通の発展を実現するよう努める。

23. 我々は、世界貿易機関(WTO)を中核とする、開かれた、透明性のある、包摂的で、無差別かつルールに基づく多角的貿易体制を支持することを再確認する。我々は、2024年までに完全なかつよく機能する紛争解決制度を実現することを含め、WTOの全ての機能の改革及び強化にコミットする。我々は、開発のための投資円滑化に関する協定についての共同声明イニシアティブ(JSI)がWTOの法的枠組みに組み込まれることを支持するよう全てのWTO加盟国に求めるとともに、電子商取引JSI交渉の迅速な妥結に向けて取り組むことにコミットする。

24. 我々は、日中韓自由貿易協定(FTA)の基礎となる地域的な包括的経済連携

(RCEP)協定の透明性のある、円滑な、及び効果的な履行を確保することの重要性を確認し、独自の価値を有する、自由で、公正で、包括的で、質の高い、及び互恵的なFTAの実現に向け、交渉を加速していくための議論を続ける。RCEPが、開かれた包摂的な地域的エンゲージメントであることを再確認しつつ、我々は、RCEP合同委員会に対し、RCEPへの新たなメンバーシップの加入手続に関する議論を加速するよう奨励する。

25. 我々は、自由で、開かれた、公正で、無差別な、透明性のある、包摂的かつ予測可能な貿易及び投資環境を促進するため、グローバルに公平な競争条件を確保するための取組を継続する。我々はまた、市場の開放を維持し、サプライチェーンの協力を強化し、サプライチェーンの混乱を回避することへのコミットメントを再確認する。我々は、輸出管理の分野で意思疎通を継続する必要性を共有する。我々は、2024年に開催される日中韓起業家フォーラムを歓迎する。我々は、引き続き地方レベルの協力を奨励し、環黄海経済・技術交流会議を含む協力プラットフォームを強化する。

26. 地域金融協力を促進することの重要性を認識し、我々は、とりわけ、チェンマイ・イニシアティブ(CMIM)の下での、選択通貨として適格な自由利用可能通貨が導入された緊急融資ファシリティの創設の承認といった、ASEAN+3財務大臣・中央銀行総裁会議における進展を歓迎する。我々はまた、ASEAN+3マクロ経済リサーチオフィス、アジア債券市場育成イニシアティブ及び災害リスクファイナンスの下での他のイニシアティブに関する進展も歓迎する。我々は、地域金融セーフティネットのためのCMIMの有効性を強化するための我々のコミットメントと支持を再確認し、我々の財務大臣及び中央銀行総裁に対して、より強固な資金構造を探索し、相互に及びASEAN加盟国とともに様々な資金構造の選択肢を議論することを指示する。

27. 我々は、ASEAN+3協力基金を活用し、日中韓及びASEAN加盟国のスタートアップ企業のための情報交換シンポジウムを開催する等、スタートアップ企業を支援することを計画する。我々は、電気自動車エコシステムの開発に関するASEAN+3首脳声明の実施の重要性を認識する。

28. 日本特許庁(JPO)、中国国家知識産権局(CNIPA)及び韓国特許庁(KIPO)の間で開催された第23回日中韓特許庁(TRIPO)長官会合において、3か国は、新たな技術分野を包含するよう協力の範囲を拡大し、「三か国+X知的財産協力」を追求するために協力を広げることで一致したことに留意し、我々は、このサミットの機会に、「3か国知的財産協力の10年ビジョンに関する共同声明」を採択した。

29. (公衆衛生と高齢化社会)我々は、新興・再興感染症への対応における協力を含む、保健分野における3か国協力の重要な役割を認識し、このサミットの機会に、「将来のパンデミックの予防・備え・対応に関する共同声明」を採択した。2023年12月に開催された第16回日中韓三国保健大臣会合における成果に沿って、我々は、日中韓感染症対策フォーラム及び臨床専門家のシンポジウム等を通じ、3か国の疾病管理のための国家公衆衛生機関の間で、感染症を含む健康危機への対処における協力を強化することを決意する。

30. 我々はさらに、低出生率及び高齢化社会が直面する共通の課題に共同で取り組む。3か国の政府及び専門家間の交流を通じて、我々は、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジの達成及び維持の観点から、技術開発、人材育成、医療及び長期ケア並びに所得保障の分野における経験に関するものを含め、健康な高齢化を促進するための政策的専門知識を共有することについて一致する。

31. (科学技術協力とデジタル・トランスフォーメーション)人工知能(AI)を含む科学技術における協力の重要性の高まりを認識し、我々は、日中韓科学技術協力担当大臣会合及び日中韓情報通信大臣会合を再開するよう努める。

32. 我々は、AIが人類の日常生活に与え得る影響に迅速に対処する必要性及び

AIに関する相互の意思疎通の重要性に留意する。我々はまた、5月のAIソウル・サミットの開催により、安全、安心で、信頼でき、革新的で、包摂的かつ責任あるAIの確保を目的としたグローバル・ガバナンスの確立に向けた韓国政府の貢献に留意する。

33. 我々の研究能力及び産業技術の競争力を向上させるための科学及びイノベーションにおける協力の重要性を共有し、我々は、3か国の研究者間の学術交流、並びにグリーン及び低炭素社会等の分野における共同研究開発の重要性を認識する。

34. (災害救援と安全)我々は、日中韓防災担当閣僚級会合及び日中韓テロ対策協議メカニズムの今後の再開を通じて、3か国の国民にとってより安全な環境を促進する。災害対応及び被害軽減における女性の参加及びリーダーシップの重要性を認識し、我々は、ASEAN加盟国との対話等を通じ、女性・平和・安全保障(WPS)アジェンダに関連する3か国協力を強化する。我々はさらに、詐欺及び薬物関連犯罪を含む国境を越えた犯罪の防止及び取締りのため、日中韓警察局長級会議を通じた協力を強化する。

地域及び世界の平和と繁栄

35. 我々は、朝鮮半島及び北東アジアにおける平和、安定及び繁栄の維持が我々の共通の利益となり、また、我々の共通の責任であることを再確認した。我々は、地域の平和と安定、朝鮮半島の非核化及び拉致問題についてそれぞれ立場を強調した。我々は、朝鮮半島問題の政治的解決のために引き続き前向きに努力することに合意する。

36. 我々は、日中韓協力がASEANとの緊密なパートナーシップの下で発展してきたことを認識し、ASEAN+3(APT)、東アジア首脳会議(EAS)及びASEAN地域フォーラム(ARF)といったASEANの枠組みの文脈において、日中韓協力を引き続き拡大する必要性について一致する。我々はまた、ASEANの中心性及び一体性に対する強い支持を表明する。我々は、2024年のASEAN議長国としてのラオスの取組を評価する。

37. アジアの平和、安定及び繁栄に責任を有する重要な国々として、我々は、3か国間の枠組みのみならず、2024年に3か国が国連安全保障理事会理事国を務めることを踏まえ、国連安保理のような3か国全てが参加する多国間の枠組みにおいても緊密な意思疎通を図るという我々の決意を新たにする。この文脈において、我々は、大韓民国における2025年のアジア太平洋経済協力(APEC)首脳会議が成功裏に開催されるよう協力する。我々はまた、日本における2025年の大阪・関西万博及び中国における2025年第9回ハルビン冬季アジア競技大会の開催を支持する。

38. 我々は、日本による第10回日中韓サミットの開催に期待する。