データベース『世界と日本』(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] いわゆる従軍慰安婦問題に対する日本政府の施策

[場所] 
[年月日] 2003年1月
[出典] デジタル記念館 慰安婦問題とアジア女性基金
[備考] 
[全文]

いわゆる従軍慰安婦問題に対する日本政府の施策

2003(平成15)年1月

外務省アジア地域政策課

 日本政府は、いわゆる従軍慰安婦問題に関して、平成3年(1991年)12月以降、全力を挙げて調査を行い、平成4年(1992年)7月、平成5年(1993年)8月の2度にわたり調査結果を発表、資料を公表し、内閣官房において閲覧に供している。また、平成5年(1993年)の調査結果発表の際に表明した河野洋平官房長官談話において、この問題は当時の軍の関与の下に、多数の女性の名誉と尊厳を深く傷つけた問題であるとして、心からのお詫びと反省の気持ちを表明し、以後、日本政府は機会あるごとに元慰安婦の方々に対するお詫びと反省の気持ちを表明している。

 いわゆる従軍慰安婦問題が多数の女性の名誉と尊厳を深く傷つけた問題であることから、日本政府及び国民のお詫びと反省の気持ちを如何なる形で表すかにつき国民的な議論を行った結果、平成7年(1995年)7月19日、元慰安婦の方々に対する償いの事業などを行うことを目的に財団法人「女性のためのアジア平和国民基金」(略称:「アジア女性基金」)が設立された。日本政府としても、この問題に対する道義的な責任を果すという観点から、同年8月、アジア女性基金の事業に対して必要な協力を行うとの閣議了解を行い、アジア女性基金が所期の目的を達成できるように、その運営経費の全額を負担し、募金活動に全面的に協力すると共に、その事業に必要な資金を拠出する(アジア女性基金設立以降平成13年度末まで、約38億円の予算を支出)等アジア女性基金事業の推進に最大限の協力を行っている。

1.アジア女性基金への協力

 日本政府はアジア女性基金と協力し、慰安婦問題に関連して各国毎の実情に応じた施策を行ってきている。アジア女性基金の事業は着実に進展しており、このうち、フィリピン、韓国、台湾における償い事業は平成14年9月末に終了したが、事業を受け取った元慰安婦の方からは感謝の声が寄せられている。

 また、アジア女性基金は、オランダ及びインドネシアにおいてもそれぞれ国情に応じた事業を実施しており、このうちオランダにおける事業は平成13(2001)年7月に成功裏に終了した。日本政府は、今後ともアジア女性基金と協力しつつ、引き続き、関係各国・地域における政府・当局及び関係者の理解を得るよう努力したいと考えている。

(1)フィリピン、韓国、台湾

   アジア女性基金は、各国の政府等が元慰安婦の認定を行っているフィリピン、韓国、台湾においては、既に高齢である元慰安婦個々人の意思を尊重し、事業を受け取りたいとの意思を表す方がいれば事業を実施するとの基本方針の下、元慰安婦の方々に対し、国民の募金を原資とし日本国民の償いの気持ちを表す「償い金」をお届けするとともに、日本政府からの拠出金を原資とし元慰安婦の方々の医療・福祉分野の向上を図ることを目的とする医療・福祉支援事業を実施している。その際、日本政府を代表し、この問題に改めてお詫びと反省の気持ちを表す内閣総理大臣の手紙が元慰安婦の方々に届けられている。これらの国・地域における事業は平成14年(2002年)9月末に終了したが、事業内容は以下の通り。

  (イ)総理の手紙

     日本政府は、これまで様々な機会に、いわゆる従軍慰安婦問題について、お詫びと反省の気持ちを表明してきたが、以下(ロ)(ハ)のアジア女性基金の事業が行われる際に、この問題に関し、総理が日本政府を代表して改めて心からのお詫びと反省の気持ちを表す手紙を直接元慰安婦の方々にお届けすることとしている。

  (ロ)国民的な償いの事業

     日本政府は、いわゆる従軍慰安婦問題について、国民の啓発と理解を求める活動を行い、アジア女性基金が行ってきた国民的な償いを行うための民間からの募金活動に最大限協力してきた。

 その結果、アジア女性基金は、国民個人、民間企業、労働団体さらには、政党、閣僚などからの共感を得て、現在までに基本財産への寄附を含め、総額約5億9,800万円の募金が集まっている。

 アジア女性基金は、それらの募金を原資とし、平成8年(1996年)7月、韓国、フィリピン、そして台湾における元慰安婦の方々に対して、一人当たり200万円の「償い金」をお渡しすることを決定した。

 上記「償い金」をお渡しするに際しては、総理の手紙とともに償いの事業の趣旨を明らかにしたアジア女性基金理事長の手紙及び国民から寄せられたメッセージを併せて届けている。

  (ハ)政府資金による医療・福祉支援事業

     日本政府は、道義的責任を果す事業の一つとして、韓国、フィリピン、台湾における元慰安婦の方々に対するアジア女性基金による医療・福祉支援事業に対して、5年間で総額約7億円規模の財政支出を行うこととしている。

 本事業の内容は、例えば、(a)住宅改善、(b)介護サービス、(c)医療、医薬品補助等であるが、元慰安婦の方々の置かれている実情に沿うものとすべく、相手国政府、さらには関係団体等と協議しつつ、更なる具体化を図り実施している。

(2)インドネシア

   日本政府は、アジア女性基金とともに、日本国民の償いの気持ちを表すためにインドネシアにおいてどのような事業を行うのが最もふさわしいかにつき検討してきたが、インドネシア政府が、元慰安婦の特定が困難である等と していることから、元慰安婦個人を対象とした事業ではなく、同国政府から提案のあった高齢者社会福祉推進事業(保健・社会福祉省の運営する老人ホームに付属して、身寄りのない高齢者で病気や障害により働くことの出来ない方を収容する施設の整備事業)に対し、日本政府からの拠出金を原資として、10年間で総額3億8千万円規模の支援を行うこととし、平成9年(1997年)3月25日にアジア女性基金とインドネシア政府との間で覚書が交わされた。

 なお、同施設への入居者については、元慰安婦と名乗り出ている方や女性が優先されることとなっており、また、施設の設置も、元慰安婦が多く存在したとされる地域に重点的に設置されることとなっている。これまでに20カ所の高齢者福祉施設が完成し、計約200名(平成14年(2002年)9月現在)が入寮している。

(3)オランダ

   オランダにおいては元慰安婦の方々の認定が行われていないことを踏まえ、日本政府は、アジア女性基金とともに、日本国民の償いの気持ちを表すために如何なる事業を行うのがふさわしいかにつきオランダ側の関係者と協議しつつ検討してきた。その結果、平成10年(1998年)7月15日、アジア女性基金とオランダ事業実施委員会との間で覚書が交わされ、いわゆる従軍慰安婦問題に関し、先の大戦中心身にわたり癒しがたい傷を受けた方々の生活状況の改善を支援するための事業を同委員会が実施することとなった。

 アジア女性基金は、この覚書に基づき、日本政府からの拠出金を原資として、同委員会に対し3年間で総額2億4150万円の財政的支援を行い、同委員会は79名の方に事業を実施した。この事業は、平成13年(2001年)7月14日、成功裏に終了した。

(4)歴史の教訓とする事業

   アジア女性基金は、このような問題が二度と繰り返されることのないよう歴史の教訓として未来に引き継いでいくべく、日本政府と協力しつつ、慰安婦問題に関連する資料の収集・整理等を積極的に行っている。

2.女性の名誉と尊厳に関わる今日的な問題への積極的な取り組み

 日本政府は、女性に対する暴力などの今日なお存在する女性問題を解決すべく積極的に取り組んでいくことも、将来に向けた日本の責任であると考えており、アジア女性基金が行っている今日的な女性問題の解決に向けた諸活動に政府の資金を拠出する等の協力を行っている。

 アジア女性基金は、このような活動として、既にこれまでにも、

(1)今日的な女性問題をテーマとする国際フォーラムの開催(平成9年(1997年)11月には、女性及び子供に対する国際的人身売買並びに商業的性的搾取をテーマにフィリピン政府と共催にて、UNICEF、ILO、ESCAP等の後援を得て開催。平成10年(1998年)11月には、国際的人身売買をテーマにタイ政府、ESCAP、ILO、IOMと共催。平成11年(1999年)9月には、日本政府の後援の下、女性に対する暴力をテーマに開催)。

(2)今日的な女性問題に取り組むNGOが行う広報活動の支援。

(3)女性に対する暴力など今日的な女性問題の実態や原因究明及びその予防についての調査研究事業。

(4)このような問題に悩む女性へのカウンセリング事業及び効果的なカウンセリングを行うためのメンタルケア技術の研究、開発事業などにも積極的に取り組んできている。今日的な女性問題に関する国際的な相互理解の増進という観点からも、今後ともこのような活動の実施が期待される。

3.国連人権フォーラムでの議論

 日本のいわゆる従軍慰安婦問題に対する以上のような取り組みは、平成9年(1997年)8月、国連人権委員会の下部機関である差別防止・少数者保護小委員会において、本問題の解決に向けてこれまでなされた「前向きの措置(positive steps)」であると評価する趣旨の決議がなされている。更に、平成10年(1998年)のクマラスワミ報告書も、日本の慰安婦問題に対する取り組みを「歓迎すべき努力(welcome efforts)」と評価しており、我が方としては、本問題に関する日本のこれまでの取り組みに対し、国際社会が一定の理解を示していると考えている。今日的な女性問題に関する国際的な相互理解の増進という観点からも、今後ともこのような活動の実施が期待される。