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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] モイ・ケニア共和国大統領歓迎午餐会における鈴木内閣総理大臣の挨拶

[場所] 東京(首相官邸)
[年月日] 1982年4月7日
[出典] 鈴木演説集,267−268頁.
[備考] 
[全文]

 モイ大統領閣下並びに御列席の皆様

 本日、ここにケニア共和国モイ大統領閣下をお迎えして歓迎の宴を催すことができますことは、私の心からの慶びとするところであります。

 四月は、貴国のジャカランダの花と並び称される桜が満開となり、日本で最も美しい季節に数えられる月でありますが、このような時期に閣下の御訪日が実現しましたことは、誠に喜ばしく、私は、ここに日本国政府及び日本国民を代表して心よりの歓迎の意を表明したいと思います。

 大統領閣下

 閣下は、着実かつ安定した貴国の国づくりに卓越した指導力を発揮されておりますが、国際関係においても世界の平和と安定の達成のために多大の貢献をされています。殊に昨年六月アフリカ統一機構議長に就任されてからアフリカの諸紛争の解決を求めて閣下が示されました熱意と指導力は、正に称賛に値するものであります。

閣下は、ケニアの人々の間の調和をはかる「ニャーヨ」精神を強調され、同精神に基づく「平和・愛・統一」の理念を国家の指導理念として掲げておられます。また御自身でも教育者としての深い経験を有される閣下は、大統領に就任した際初等教育学童全てに対し牛乳の無料配布を発表し、一般国民から高い評価を受けられ、また明日のケニアを築くのは若者達であるとの信念から特に教育問題に力を入れておられると伺っております。

 私は、我が国の施政において「和」の精神を重視しております。「和」の精神は、古来我が国国民が涵養してきた民族的英知の真髄であり、調和と統一をはかる理念であります。閣下の「ニャーヨ」精神は、「和」の精神とその根源において軌を一にするものであり、私は、ここで肝胆相照らす友人を得た思いが致します。

 大統領閣下

 スワヒリ語で、「山は遇わざれど人は遇う」という諺があると聞いております。ケニアと我が国は、太平洋及びインド洋によって隔てられ、地理的に遠く離れてはおりますが、海路を通じての交流は、昔より盛んであり、一九三〇年代はじめより、貴国のモンバサには、我が国の領事館もございました。また我が国国民の間でケニアは、アフリカにおける一大安定勢力として、また雄大な動物保護区を有するサファリの国としても、よく知られています。近年、益々多くの日本人が貴国の美しくかつ雄大な自然と人々の暖かい心に触れていますし、また、貴国の経済開発努力の一端に身をもって寄与すべく、貴国を訪れる我が国の技術協力の専門家や青年海外協力隊員の数も増えています。本席には、こういう方面で活躍した方々も何人かみえており、先程、大統領閣下に御挨拶する栄に浴した次第であります。

 大統領閣下

 私は、この度の閣下の御訪日が両国間の絆を飛躍的に強いものにすることを確信するとともに、我が国とケニアの関係、ひいては、我が国とアフリカの関係の一層の発展をもたらすことを念願しております。また閣下の指導の下貴国民が一丸となって取り組んでおられる国づくりの努力に対し、我が国としても今後ともできるかぎりの協力を惜しむものではありません。

 大統領閣下

 閣下は、明日より関西に向かわれる予定となっておりますが、特に千数百年の歴史を有する京都を御覧いただいて我が国の歴史、文化をより深く理解していただくよう願っております。

 御挨拶を終えるにあたり、大統領閣下の御健康と日本・ケニア友好関係の一層の発展を祈念してここに杯をあげたいと存じます。