[文書名] モイ・ケニア大統領訪日に際しての日本とケニアの共同コミュニケ
1.ダニエル・トロイティッチ・アラブ・モイ・ケニア共和国大統領は,日本国政府の招待により1982年4月5日から9日まで国賓として日本を訪問した。
2.大統領には,オウコ外務大臣,カリウキ国土開発計画大臣,ビウオット地域開発科学技術大臣,カモソ高等教育大臣,コスゲイ運輸通信大臣,ムニ外務副大臣,エジョレ協同組合振興副大臣,ニャチャエ内閣官房次官,デグワ・ケニア商業銀行総裁,マサハリア経済企画開発次官,シャマラ外務次官,オニョニ駐日大使,ゲニ大統領府秘書官その他高官が随行した。
3.友好と深い理解の雰囲気の中で行われた今回の訪問中に,大統領は1982年4月6日皇居において,日本国の天皇陛下と会見した。
4.ケニア共和国大統領と鈴木善幸日本国総理大臣は,両国関係について広範な討議を行った。また両首脳は,共通の関心を有する国際問題につき意見を交換した。同会談は,相互の友好と信頼の雰囲気の中で行われた。
5.大統領は,日本の経済団体の指導者と会談し,また各種産業施設,文化的関心の地及び東京都心身障害者福祉センターを訪問した。
6.総理大臣及び大統領は,両国間の関係が近年着実に発展しつつあることに満足の意を表明した。両首脳は,将来かかる関係が拡大かつ多様化されていくことにつき意見の一致を見た。
7.大統領は,日本のケニアに対する経済技術協力が近年順調な進展を見,もってケニアの経済社会開発に対して貢献していることを評価するとともに,日本の経済・技術協力が将来一層推進されることを希望した。
8.総理大臣は,ケニアの経済・社会開発を支援し,ケニア国民の福祉の向上に貢献するため,ケニアに対し日本国政府の経済協力の基本方針の下で,可能な限りの経済・技術協力を引き続き供与していくつもりである旨述べた。
9.総理大臣は,両国間の友好関係を一層強化する観点から,通信施設拡充計画及び穀物貯蔵庫建設計画(第1期)を対象として,日本国政府が総額103億9,000万円までの円借款をケニアに対し供与することを決定した旨述べた。総理大臣は,また,本件円借款供与に関する書簡交換が大統領の日本訪問の期間中に両国の外務大臣の間で行われたことは喜ばしい旨述べた。総理大臣は,同円借款がケニアの経済・社会開発のために効果的に使用されることを希望する旨述べた。大統領は,この円借款に対して感謝の意を表明するとともに,日本国政府に対して穀物貯蔵庫建設計画の第2期の追加資金をケニアに供与するよう要請した。総理大臣は,日本国政府が大統領の要請を検討する旨述べた。
10.総理大臣は,ケニアの医療開発に資するため,中央医療研究所建設計画に対する無償援助が供与されるよう所要の措置をとる意図がある旨述べた。また,ケニアに対し,食糧援助を無償援助として供与し,及びケニアの農業開発に資する観点から農業関連物資による食糧増産のための無償援助が供与されるよう所要の措置をとる用意がある旨述べた。総理大臣は,更に日本国政府が1978年3月の国連貿易開発会議第9回特別貿易開発理事会閣僚会議において採択された決議に留意して,債務救済のための無償援助を供与する用意がある旨述べた。
11.総理大臣は,日本がケニアの人造り及び農村開発に対する協力の一環として,日本国政府が,ジョモ・ケニヤッタ農工大学及び伝染病研究対策プロジェクトに対し引き続き技術協力を供与していく旨述べた。
12.大統領は,総理大臣の声明を歓迎するとともに,ケニアに対する日本の経済・技術協力に対して,感謝の意を表明した。
13.また,大統領は,現在ケニアが国際収支上の困難に遭遇している旨述べるとともに,日本国政府に対し,ケニアがこの困難の軽減のために行っている努力に対する支援を要請した。総理大臣は,大統領の要請に留意した。
14.両首脳は,現下の国際情勢を検討し,両国の外交政策の目的は,世界の平和と安全の維持を基本とするものである点を再確認した。
15.総理大臣及び大統領は,南部アフリカ情勢について討議を行い,アパルトヘイト制度が廃止され,かつナミビアが国連憲章の原則,及び特に国連安全保障理事会決議435(1978年)に従って解放されるまでは,この地域の緊張と対立は解消され得ず,また平和も達成され得ないとの点で意見の一致をみた。
16.総理大臣は,ケニアが世界の平和と安定を推進するために果たしてきた役割を高く評価するとともに,特に,モイ大統領がアフリカ統一機構議長の資格においてチャド,西サハラ及びナミビアといったアフリカの諸問題に適正かつ永続的な解決策を見出すために払っている努力に敬意を表明した。
17.大統領は,日本が国家間の平和と繁栄を育{はぐくとルビ}むために行っている外交努力及び特にアフリカの社会・経済開発に対するその寄与努力を評価した。また,大統領は,近年日本のアフリカ諸国に対する開発援助が着実に増大していることを歓迎した。
18.アフガニスタン情勢に関し,総理大臣と大統領は,国連憲章と国連の関連決議に従い,アフガニスタンから外国軍隊が即時に撤退し,内政不干渉の原則及びアフガン国民の自決権の尊重の原則に基づく政治的解決が早期に達成されることの重要性を再確認した。
19.両首脳は,カンボディア問題の包括的政治解決への希望を表明するとともに,同解決の主要素は,すべての外国軍隊のカンボディアからの撤退とカンボディア国民による 自決権行使であることを強調した。
20.中東情勢に関し,総理大臣と大統領は,中東の,ひいては世界の平和と安全の確保にとってその実施が不可欠な国連の関連諸決議に応ずるよう,すべての関係当事者に呼び掛けた。両首脳は,中東における包括的,公正かつ永続的な平和のために努力を行う必要性を再確認した。その目的達成のため,両首脳は,パレスチナ人の民族自決権がこの地域のすべての諸国の生存権と同様に承認される必要性を強調した。この点に関し,さらに両首脳は,西岸及びガザ地区の占領地における最近の情勢に対して重大な懸念を表明するとともに,イスラエル当局がパレスチナ人住民に対してとった措置を平和への可能性を損なう恐れがあるとして非難した。
21.両首脳は,大統領の今回の日本訪問が両国間の相互理解の促進に大きく貢献するとともに,両国間の友好関係を強化した旨述べた。
22.大統領は,日本訪問中に大統領及びその一行が受けた厚遇につき天皇陛下並びに日本国政府及び国民に対し,深い感謝の念を表明した。
23.ケニア共和国大統領は,日本国総理大臣がケニアを訪問するよう招請した。この招請は,快諾された。訪問の具体的時期は,外交チャネルを通じて決定される。