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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 南アフリカ共和国のアパルトヘイト問題に関する安倍外務大臣談話

[場所] 
[年月日] 1985年10月9日
[出典] 外交青書30号,413−414頁.
[備考] 
[全文]

1.南アフリカ共和国 (南ア) のアパルトヘイト問題は,人類が叡知を結集し,力を合わせてその平和的解決に取り組むべき問題であり,アパルトヘイトのない南アの実現のための痛みはひとり南アのみならず,ひろく国際社会全体がわかち合うべきものと考える。

2.現在南アにおいては騒擾の長期化と過去1年間に700名を越す犠牲者を出すに至った暴動と抑圧の連鎖という憂慮すべき事態が見られるが,かかる事態を前にして,我が国としては,南ア政府がアパルトヘイト撤廃への基本的姿勢を明らかにするとともに,その実現への具体的方策につき黒人を代表する指導者との間で無条件に話合いに入ることが現下の急務であると考える。また,すべての関係者が話合いを通じた問題の解決に向けて全力を結集するよう強く訴えるものである。

3.我が国はアパルトヘイトに強く反対するとの立場から,各国の対南ア措置の中でも特に厳しい態度を取っており,また,その想起撤廃を求めるとの立場から,これまで南アとの間に外交関係を有さず領事関係にとどめ,対南ア投融資を規制し,南アとの間のスポーツ・文化・教育交流を制限し,さらに対南ア武器輸出を禁止しており,また武器の輸入を行っていない。我が国政府としてはアパルトヘイトに対する断固たる立場から今後ともこの方針を堅持していく。

 しかし,最近の国連および諸外国の動き,アフリカ統一機構(OAU)諸国,特に南部アフリカ諸国との率直な意見交換,また最近の南アの国内改革の動き等現下の情勢の急速な展開に鑑み,我が国としては上記に加えて南アのアパルトヘイト撤廃に資するためにいかなる行動をとり得るかにつき慎重に検討を重ねてきた。

4.その結果,我が国政府は諸外国との協調の下に南ア政府に対しアパルトヘイトの撤廃に向けて具体的かつ抜本的措置をとるべく勇気ある決断を重ねて促すとともに,アパルトヘイトのない南アへの以降が円滑に行われるための基盤強化に資するとの立場から従来の方針を堅持するとともに,これに加え以下の措置をとることを決定した。

(1)現行法令の運用を強化することにより,南アの軍隊,警察等アパルトヘイト執行機関の活動に資する電子計算機の輸出を認めないこととする。

(2)クルーガーランド金貨その他の南ア産金貨の輸入を自粛するよう関係企業に対し協力を要請する。

(3)黒人の地位向上のために南部アフリカに対する人造り協力を拡充する方途を積極的に検討する。

(4)南アに事務所を有する企業に対し平等かつ公正な雇用慣行を遵守して行くよう要請する。

5.ここに発表する諸措置により,我が国は改めてアパルトヘイト反対との我が国の明確な立場およびアパルトヘイトのない南アが1日も早く実現することに対する強い希望を表明するものである。