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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] ムガベ・ジンバブエ大統領訪日歓迎午餐会における海部内閣総理大臣の挨拶

[場所] 
[年月日] 1989年10月16日
[出典] 海部演説集,314−316頁.
[備考] 
[全文]

 大統領閣下、並びにご列席の皆さま

 このたびジンバブエ共和国より、貴大統領とそのご一行をお迎えし、ここに歓迎午餐会を催すことができましたことは、大きな喜びであります。殊に貴大統領は、私が総理就任以来、初めてお迎えする国賓でありますだけに、一層嬉しく思います。

 貴大統領は、ジンバブエ共和国建国の英雄であり、幾多のかん難を克服しつつ、アフリカ民族解放の闘争を貫徹されました。また、貴大統領は、貴国独立以来人種・部族間の融和を図り、国家発展のために卓抜した指導力を発揮するとともに、南部アフリカを始めとする国際問題について積極的に外交活動を展開しておられます。

 大統領閣下

 貴国と我が国との間には、幸いにして緊密な友好協力関係が維持されてきています。特に一九八〇年の独立の年には、当時のムゼンダ副首相が、そして、翌八十一年には当時首相であられた貴大統領が我が国を訪問されるなど、両国間の人物交流も活発に行われております。また、昭和天皇の大喪の礼に際し、貴国よりムゼンダ副大統領及び令夫人の参列を頂き、この機会に日本政府及び国民を代表して改めてお礼申し上げます。

 明年は、貴国の独立以来、そして日・ジンバブエ外交関係開設以来、十年となりますが、私は貴大統領の訪日により両国の絆が更に深みを増す新たな十年の幕開けとなることを確信致します。その関連で、今般、一九八〇年の貴国独立式典に我が国を代表して参列した山中卓則衆議院議員を会長として、日・ジンバブエ友好議員連盟が発足をみたことは誠に慶ばしいかぎりであります。経済協力については、我が国は引き続き、重点国たる貴国の経済開発努力に対する支援を拡充して参る所存であります。午後の貴大統領との会談に際し、交換公文の署名が行われる潅漑計画に対する無償資金協力もその一例であり、この協力が貴国の農業開発に寄与することを期待致します。また、昨年両国間で海外青年協力隊派遣取極が締結されたことは、私自身が協力隊の創設に携わっただけに、誠に慶ばしく、今後多くの日本の若者が貴国国民と共に貴国の発展に向けて働いていくことを念願致します。

 大統領閣下

 我が国のアフリカ外交は、今大いなる飛躍に向けて重要な転機にあると申しても過言ではありません。我が国は、構造調整努力支援のためのノンプロジェクト無償資金協力の導入等により同大陸に対する二国間ODAは一九八四年からの五年間で約四倍近い伸びを見せております。特に南部アフリカについては、南アからの経済的自立を図らんとする域内国の努力を引き続き支援していく考えであります。政治面については、我が国としてもアフリカ最後の植民地であるナミビアの独立過程を円滑に進めるべく、国連ナミビア独立支援グループに対し積極的に資金協力を行うとともに、来月の制憲議会選挙に際し、選挙監視要員の派遣を行います。

 ここで南アについて付言すれば、アパルトヘイトは「改革」ではなく「撤廃」されなければなりません。我が国は、南アの新政権がアパルトヘイト撤廃に向けて実質的且つ具体的な行動を示すことを強く求めており、そのための第一段階として、南ア政府が、非常事態宣言の撤廃、マンデラ氏を含む政治犯の釈放、反アパルトヘイト団体への規制撤廃等の措置をとり、人権主義を排した民主的な政府の樹立に向けて、黒人指導者との対話を早急に開始するよう求めています。

 大統領閣下

 先にも述べました通り、日・ジンバブエ関係、日・アフリカ関係は、大きな進展を見ております。そのような時に貴大統領をお迎えできることは大変意義深いことであり、これから、貴大統領とともに協力していくことを楽しみにしています。

 ご列席の皆さま

 ではここに、ムガベ大統領のご健康と、ジンバブエ共和国の繁栄、そして日本とジンバブエの友好協力関係の発展を願ってここに杯を挙げたいと思います。