[文書名] アフリカ開発に関する東京宣言 21世紀に向けて(TICAD I(第1回アフリカ開発会議))
我々、アフリカ諸国及びアフリカの開発パートナーからなるアフリカ開発会議(以下TICADという)の参加者は、新たな繁栄の時代に向けてアフリカの開発に対して引続き献身していくことを声を一つに宣言する。したがって、我々は、この宣言がアフリカ諸国の自助努力及びアフリカの開発パートナーの支援に基づく持続可能な開発に向けて、現れつつある新たなパートナーシップの強化に役立つことを期待しつつ、この宣言を厳粛に採択する。
(背景)
1.1980年代におけるアフリカの経済的、社会的危機は、この大陸が直面している開発面でのチャレンジに焦点を当てることとなった。これらのチャレンジに取り組むために、多くのアフリカ諸国は広範な政治及び経済の改革に乗り出してきた。我々、TICADの参加者は、これらの改革の結果生じた、手ごたえのあるマクロ経済的実績及び政治的進展という近年の兆しに勇気づけられている。しかしながら、我々は、アフリカの政治・経済の構造及び現状は引き続き脆弱かつ傷つき易いものであり、それが持続可能な開発の達成を妨げていると認識する。TICADは「1990年代のアフリカ開発のための国連新アジェンダ(UN-NADAF)」を考慮に入れつつ、これらの改革に一層の弾みを与えることを意図するものである。
2.冷戦の終焉と共に、今日、アフリカ諸国及び国際社会は、活力ある開発協力の必要について、より幅広い共通の理解を共有する機会を得ている。アフリカ大陸の開発は、より良い未来を我々が模索するにあたっての命題として姿を顕してきた。
3.アフリカが直面する障害に対しては特別の考慮が払われるべきであるが、他方、我々は、アフリカ大陸の開発のための集団として前向きの努力を強化する決意である。かかる精神で、我々は、アフリカにおける持続可能な開発の中心に位置する諸問題を今回議論した。
4.これらの諸問題には、同時並行して進行する政治・経済改革の現過程、民間セクターの国内経済活動への参加を増大する必要性、地域協力・地域統合の促進及び人道上の緊急事態がアフリカの社会経済的開発に及ぼす有害な影響が含まれる。我々は、アジアの経済開発の経験及び国際協力の触媒的役割がアフリカの経済的変容に向けての希望を与え、チャレンジを提示するものと認識する。
(政治・経済改革)
5.国際的な新時代の到来を確信しつつ、我々、アフリカ諸国の参加者は、政治・経済改革、特に民主化、人権の尊重、良い統治、人的・社会的開発、経済の多様化並びに自由化を遂行し、更に強化するとのコミットメントを再確認する。持続可能かつ基盤の広い経済成長を達成するために、我々、TICADの参加者は、市民社会のより強固な役割を含め、より開かれた、貴任の所在の明らかな、参加型政治制度が極めて重要であると信じる。我々は、政治、経済及び社会の改革は、アフリカ諸国自身によって、彼らのビジョン、価値及び個々の国の社会経済的背景に根ざして、開始され、また実行されなければならないことを認識する。したがって、アフリカの開発パートナーは、こうした分野におけるアフリカのイニシアティブを支援するべきである。
6.我々、TICADの参加者は、政治・経済改革を同時並行して実施することは、開発に資する一方で、しばしば痛みを伴う過渡的プロセスを招来することを認識する。政治・経済改革の間の相互作用は、長期的には相乗的であるべきものであるが、複雑なプロセスであり、前進をもたらすためには支援を必要とする。我々、アフリカの開発パートナーは、効果的かつ効率的な政治・経済改革に着手している国々に対して優先的支援を与えるとのコミットメントを再確認する。また、我々、TICADの参加者は、この改革プロセスを促進するため、建設的対話を強化するとのコミットメントを再確認する。
7.我々、アフリカ諸国の参加者は、統治の質、特に公的行政の透明性及び責任性を向上するとのコミットメントを再確認する。我々は、公的支出の基準が、社会経済的開発全般の強化及び非生産的支出の削減を目的とすべきであることを認識する。持続可能な開発のための人的及び組織的能力の強化増進はこれら全ての目的に不可欠である。我々は、人的資源の訓練、保持並びに効果的利用及び組織的能力の向上のために、それが可能となるような環境を作り上げることを約束する。我々、アフリカの開発パートナーは、技術援助の改善を含め、アフリカの能力向上への支援を強化する意向である。
8.我々、TICADの参加者は、構造調整計画は、それぞれの国の個別の条件と必要をより積極的に考慮に入れるべきであることを再確認する。我々は、政治・経済改革は最終的には貧困の軽減及び全国民の福祉の向上をもたらすべきであることを改めて強調する。そのような効果を得るために、構造調整計画は、これまで以上に、所得を得る機会及び効果的な社会サービスへの特に貧困者のアクセスを改善する方策を含むと同時に、彼らを出来る限り社会的な悪影響から守るための努力が払われるべきである。特に女性及び児童の置かれている状況を改善するために、栄養摂取、健康及び教育プログラムを通じた人的資本への投資に更なる優先順位が与えられるべきである。更に、アフリカの全般的な経済開発がアフリカの急激な人口増加に対応してきていないことに留意して、我々は、健全な人口政策の重要性を認識し、アフリカ諸国政府及び国際社会に対し社会経済的開発プロセスの中でこの問題に取り組むよう呼び掛ける。
(民間セクターの活動を通じた経済開発)
9.民間セクターは持続可能な開発の原動力として極めて重要である。我々、TICADの参加者は、外国からの援助は開発に影響を及ぼすものの、その役割は規模において補完的なものであり、また性質において触媒的なものに過ぎないことに同意する。我々は、政府と民間セクターの実効的かつ現実的な協力が、開発の一つの重要な要素であることを認識する。この両者の間の信頼関係を奨励し、相互作用を促進すべきである。我々は、政治的及び経済的安定が長期的投資に向けてのコミットメントの前提条件であることを認識する。
10.我々、アフリカ諸国の参加者は、民間セクターのより広汎な役割を育成し、企業家精神を奨励する政策を継続する決意である。我々は、規制緩和措置を拡大しつつ、アフリカの開発パートナーと協力して、インフラストラクチャー、並びに適切に機能する行政、司法及び財政機構を提供し、また維持する。我々は、一般に、インフォーマル・セクターはアフリカ経済の活力源の一つであり、企業家的能力を一層活用し、雇用を創出し、フォーマル経済への移行を促進するために支援するに値すると考える。
11.我々、TICADの参加者は、財政制度及びその運営における更なる改善が、国内の貯蓄及び投資を刺激し、資本逃避を防止し、また環流させるために必要であることを確信する。
12.これらの努力を支持すべく、我々、アフリカの開発パートナーは、経済改革及び民営化、人的及び組織的能力の向上並びに財政的介入の進展が可能となるような環境を改善するために支援の供与を継続していく。我々は、アフリカに投資する民間企業が政治的及び経済的リスクから保護されるよう、適切な保険、保証措置の重要性を認識する。
13.我々、アフリカ諸国の参加者は、将来の開発に向けての展望にとって国際貿易が中心的重要性を有することを確認する。我々、アフリカの開発パートナーは、アフリカ産品の世界的な市場アクセスを促進し、アフリカ諸国の輸出品の質の向上及び多様化を支援することに取り組む。我々、TICADの参加者は、アフリカン・ビジネス・ラウンドテーブルなどの民間組織の重要な役割を支持し、また、アフリカ内及びアフリカと世界の他の各国との間の投資及び貿易を促進するためのイニシアティブの有用性を確認する。
(地域協力・地域統合)
14.我々、アフリカ諸国の参加者は、アフリカ経済共同体の設立に関するアブジャ条約で体現されているように、最終的な地域統合及び地域協力の目標へのビジョン及び願望を再確認する。我々、TICADの参加者は、これらの目標が、独立当初以来、そのほとんどが小さな国内市場を有するアフリカ諸国にとっての論理的な開発戦略の一つであったものの、域内貿易及び投資の促進に関して、より多大な努力が払われなければならないことを認識する。
15.我々、アフリカ諸国の参加者は、これら地域スキームへの我々のコミットメントが、各国の開発計画、政策及びプログラムに十分組み込まれることを確保する。
16.我々、アフリカの開発パートナーは、アフリカ諸国が近年示しているような地域協力及び統合への新たなコミットメントを歓迎し、支持する。これらの地域的取極は、引き続き多角的開放貿易システムと合致し、また貿易の拡大に貢献すべきである。我々は、貿易及び投資の障壁の除去並びに政策調和といった方策を通じて統合に対する障害を減らすことを目的としたアフリカ諸国の努力、及び、特に、インフラストラクチャーの開発と能力向上における実行可能な地域的努力に対する支援を引き続き拡大する。また、我々、TICADの参加者は、地域統合は既存のスキームの交流の拡大及び合理化に向けての一貫したかつ漸進的なアプローチをとりつつ、民間セクターのイニシアティブを勧奨することにより遂行されるべきであると信じる。
(緊急援助と開発)
17.我々、TICADの参加者は、過去20年間、特に近年において、多くのアフリカ諸国が自然災害及び人的災害に苦しみ、また現在も苦しんでいることを大きな懸念をもって留意する。国際社会は、1970年代の初期の危機以来、こうした状況に寛大に対応してきた。
18.こうした災害は、多くのアフリカ諸国の開発の制約となり、発展の正に基礎を破壊し、難民の数を増大させ、また本来であれば開発目的に使われたであろう人的、財政的資源を別の用途に振り向けさせてきた。
19.我々、TICADの参加者は、人的災害は政治的、経済的及び社会的要因の複雑な相互作用の結果であると認識する。これに関連して、民主化並びに人権及び少数民族の権利への尊重の欠如が、これらの災害の根本的原因の一部である。
20.我々、TICADの参加者は、災害の予防及び管理に係る責任は第一義的にアフリカ諸国自身にあることを受け入れる。したがって、我々、アフリカ諸国の参加者は、こうした災害の根本的原因に対処するための努力を払う決意である。我々は、また、過去に示されたように地域協力の重要な役割を確認する。我々、TICADの参加者は、一般に人的及び自然災害に対する予防、準備及び管理のための効果的なメカニズムを確立すること、また、特に、食糧安全保障のスキームを強化することの必要性を強調する。したがって、我々は、紛争予防、管理及び解決のためのメカニズムの設立に関するアフリカ統一機構(OAU)の決定を歓迎し、またこのメカニズムの効果的な機能の強化に対する支援を誓約する。我々は、また、災害の犠牲者を援護する意思を再確認し、緊急援助物資の効果的な配給に対するあらゆる障害の除去を求める。
21.我々、アフリカの開発パートナーは、緊急援助と開発の間の関連性の存在を認識しつつ、影響を受けるコミュニティーの再定住、復旧及び再建のための人道的支援が引き続き供与されることを確保する。
(アジアの経験とアフリカの開発)
22.過去30年以上にわたり、アフリカとは対照的に、東アジア及び南東アジア諸国は、一人当り所得において高い成長率を達成した。我々、TICADの参加者は、国際的及び国内的状況の違いを考慮すれば、どの開発モデルもある地域から他の地域へと単純に適用できるわけではないことに留意する。しかしながら、我々はアジアの経験がアフリカの開発に多少の関連性を有することを認める。成功を遂げつつあるアジア諸国の多様性こそが、アフリカの開発のために教訓を引き出せるとの希望を与える。
23.我々、TICADの参加者は、アジアにおける開発経験の成功例に示されるように、開発が成功する背景には、経済的繁栄に対する指導者層及び一般国民の強いコミットメント、適切な長期開発戦略及びそのような戦略を一貫して遂行するための機能的な政府行政の組合せがあることに留意した。
24.我々はまた、東アジア及び南東アジアの顕著な実績に寄与した政策要因には、(1)マクロ経済政策の合理的適用及び政治的安定の維持、(2)社会経済開発の堅固な基礎として技術研究及び革新を通じる農業生産の促進、(3)開発戦略の優先分野としての教育及び人的資源の開発への長期的投資、(4)貿易及び経済成長の機会増大のため生産様式の促進及び適応といった市場指向かつ輸出主導の政策、(5)財政的介入の発展及びコミュニティー・レベルでの銀行サービスの拡大による国内貯蓄及び国内資本形成を刺激するための方策、(6)成長及び開発の動力として民間セクターを強調する政策、(7)土地改革の早期実施、が含まれることに留意した。
25.我々、TICADの参加国は、東アジア及び南東アジアにおける開発の達成は、アフリカとの南南協力の機会を増大させてきたと認識する。我々は、幾つかのアジア諸国及びアフリカ諸国によって示された南南協力促進に対する関心を歓迎する。
(国際協力)
26.我々、TICADの参加者は、アフリカの現在の状況の中では、この現状に取り組むために十分なパートナーシップのもとで行動するよう、一層団結することが必要であるとの結論に達した。この新たなパートナーシップは、一方において自助努力を達成するとのアフリカの目標に、他方においてそれに呼応するアフリカの開発パートナーによる支援に基礎を置くべきである。
27.我々、TICADの参加者は、安定及び安全保障が持続可能な開発の前提条件であり、また、希少な資源を効率的に利用し、軍事的または他の非生産的支出を最小化することが極めて重要であることに同意する。
28.我々、TICADの参加者は、あらゆるレベルの人々の十分な参加が開発に必要であり、また、彼らは進歩のための主体として行動するよう駆り立てられるべきであることを認識する。その関連で、我々は、様々な経済分野におけるアフリカ女性の重要かつ多様な役割を認識し、男女間の公平を強め、また女性の地位向上に向けてあらゆる法的、社会的及び文化的障害を取り除くためにその権利及び役割を促進するよう、特別の方策がとられることを勧告する。更に、我々は、アフリカ開発のために建設的な役割を果たしている現地のNGO及び他の市民社会の組織との協調的努力を強化する必要性を認識する。
29.我々、アフリカの開発パートナーは、現在の世界的な経済困難にも拘らず、アフリカに対する開発支援を強化するためあらゆる努力を払う。この支援は、アフリカ諸国によって定められた優先順位を一層指向するべきである。継続的かつ更なる協力へのコミットメントをなす際に、我々は、資源が最大の開発効果を持つよう最も効率的に用いられるべきとの我々の有権者の期待を考慮に入れる。
30.アフリカ諸国は様々な開発段階にあり、また、異なった文化的、歴史的背景を有するが故に、我々、アフリカの開発パートナーは、援助の調整を適切に配慮して、開発協力の計画、実施に当たってディファレンシエイティド・アプローチ(発展段階に応じた効率的で木目細かい協力)を採用する。
31.我々、アフリカの開発パートナーは、援助、貿易、債務戦略及び投資を含む包括的アプローチを採用する。我々、TICADの参加者は、債務及び債務返済が依然として多くのアフリカ諸国に深刻な問題を投げかけていることを再確認する。我々は、債務救済及び開発のための新たな資金供与という全体的な文脈の中で早急に債務問題に取り組む必要性を強調する。我々は、国際的債務戦略の有効性を確認し、パリ・クラブに対し、特にケース・バイ・ケースでのより早期の債務ストックの削減に関し、最貧重債務国のための債務救済の問題を引続き検討することを促す。我々は、債権国に対してアフリカの重債務国が現在直面している困難を考慮にいれるよう要請する。
32.我々、TICADの参加者は、ガット・ウルグァイ・ラウンド交渉の成功裡の妥結の重要性を改めて強調し、また、他のアフリカ諸国への輸出を含むアフリカの輸出拡大を妨げる貿易障壁及び他の貿易慣行の除去のためにあらゆる努力を払う。我々は、多くのアフリカ諸国の輸出収入にとって一次産品が重要であること及びこれら収入の変動を緩和するために多様化が必要であることを強調する。
33.我々、TICADの参加者は、農業、人口及び環境政策の間のバランスのとれた関係、特に旱魃及び砂漠化を特に強調しつつ、国連環境開発会議(UNCED)の合意が着実に実施されるべきであることを確認する。
34.我々は、また、既にいくつかの国では災害的規模となっているHIV/AIDS及び関連の疾病の流行によってアフリカにおいて得られた成果の多くが脅かされていることを認識する。これらの病気の社会経済的影響に対処する方策とともに、その予防、及び、看護施設を含んだ管理のために、アフリカ及びその開発パートナーによる一層強力な対応が必要である。
(フォローアップ)
35.我々、TICADの参加者は、効果的政策及び行動を通じ、この宣言の精神を前進させる目的を持った方策を各々の責任の範囲内で実施することを誓約する。我々は、TICADの共催三者に、この宣言の実施に向けた進捗状況の評価、再検討を委託する。最後に、我々は、同様の規模とメンバーによる会議を遅くとも今世紀の終わりまでに開催する意図を有する。
今次会議の議論、指針及びコンセンサスによって、我々は、アフリカの重要な開発の展望が大いに強化されたと信じる。