データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] アフリカ開発会議(TICAD)閣僚レベル会合における田中外務大臣演説

[場所] 東京
[年月日] 2001年12月3日
[出典] 外交青書45号,280−281頁.
[備考] 
[全文]

 議長

 ご列席の皆様

 アフリカ開発会議(TICAD)閣僚レベル会合を、アフリカのほぼ全ての国、アジア諸国及び先進国、国際機関・地域機関、更には民間部門の代表の方々の参加を得て開催できましたことを喜ばしく思います。

 議長、

 93年に開催されたTICAD Iは、東西冷戦終焉に伴い国際社会のアフリカへの関心が急速に薄まっていた中で、アフリカ諸国と開発パートナーが一堂に会し、アフリカ開発について議論する機会を提供しました。また、98年のTICAD IIは、包括的な行動目標である「東京行動計画」を提示しました。わが国は、過去二回のTICAD開催を通じて、アフリカ開発に対する国際社会の関心を高めることに大きく貢献することができたと自負しております。

 議長、

 TICAD II以降の状況を振り返ると、アフリカにおいては一部の地域紛争や内戦の解決がもたらされ、また、幾つかの国では高い経済成長が見られるなど、良い兆しも窺われます。しかしながら、多くの国において、また、多くの分野において、思うような進展がみられないのも事実です。加えて、エイズの加速度的な蔓延や、ITの普及に伴う格差拡大など、新たな課題にも直面しています。アフリカ開発の問題は、アフリカ諸国自身の努力と、国際社会全体による共同の取り組みをこれまで以上に必要としているといえます。

 議長、

 アフリカにおいて、二十一世紀の出発にあたる本年、二つの大きな決定がありました。第一に、アフリカ連合(AU)設立が決定されました。第二に、開発計画の青写真となる「アフリカ開発のための新パートナーシップ」(NEPAD)が策定されました。国際社会としてもこうした動きを支援する必要があります。また、こうした地域をあげた取り組みが進展すること、また、NEPADがアフリカ全ての政府、国民に浸透することを期待します。NEPADとTICADは、アフリカ自身による取り組み(オーナーシップ)と国際社会による幅広い協力(パートナーシップ)の双方を基本理念として共有しています。その観点から、TICADとNEPADという両プロセス間のより有機的な連携を念頭に置き、両イニシアティヴの関係者間の対話を深めていくことを提案します。

 議長、

 世界的な景気減速の中、わが国においても、厳しい経済状況に対応すべく、聖域なき構造改革を断行しており、ODAも例外ではありません。しかし、わが国のアフリカの開発に対する支援の決意は揺るぎ無いものであります。TICAD II以降の三年間に、わが国は「東京行動計画」に従い様々な支援を実施してきました。例えば、アフリカが直面する問題の根幹である基礎教育、人口・保健、安全な水の供給分野において、これまで532億円の無償資金協力を供与しました。これにより、約31万人のアフリカの学童が通学できる学校を提供するとともに、約270万人に安全な水を提供できるようになりました。更に、人口・保健分野での協力の受益者は、ワクチン接種を受けた子供などを含めると、1億7000万人に達するとみられます。

 また、昨年のG8九州・沖縄サミットにおいては、わが国は、議長国として、アフリカをはじめとする途上国首脳とG8首脳との対話を初めて実現させました。また、「沖縄感染症対策イニシアティブ」を打ち出すと共に、エイズをはじめとする感染症対策に光を当てました。同サミットが一つの契機となって設立された「世界エイズ・結核・マラリア基金」にわが国は2億ドルの拠出を表明しました。

 議長、

 わが国は、今後とも、アフリカ開発支援を行っていく考えであり、具体的支援策のうちいくつかについて紹介したいと思います。

 第一に、アフリカ開発においては、民間部門における更に幅広い協力が一層重要となってきております。わが国は、アフリカ各国の投資環境の整備に資するよう人材育成等の分野で積極的に支援を行っていきます。また、アジア・アフリカ間の投資の増進をはかるため、UNDPと共に、2002年には、政府間で「アジア・アフリカ・フォーラム」を、2003年には企業同士がビジネス機会を求め会合する「アフリカ・アジア・ビジネス・フォーラム」の第3回会合を開催する考えです。2001年7月にヨハネスブルグで開催された前回会合においては、8000万ドルにのぼる仮契約が取り結ばれました。

 また、UNIDOと共に、アジア・アフリカ間の貿易、投資、技術移転の促進をはかるため、マレイシアを拠点とした「ヒッパロス・センター」事業を一層充実させます。

 第二に、エイズ、マラリアなど感染症は、アフリカ諸国に計り知れない社会的・経済的・政治的影響を及ぼしております。こうした感染症への対策として、わが国は、ケニア、ガーナ、ザンビアに有する感染症対策プロジェクトを3つの拠点と位置付け、それらの連携をはかり、周辺国への協力にも活用していきます。また、仏語圏アフリカについても、例えばセネガルを保健分野の新たな拠点としていくことを検討します。その他、明2002年の早い時期に、南部アフリカにおけるHIV/AIDS対策ワークショップを開催します。

 第三に、情報技術、ITをアフリカにおいて普及させ、開発推進のため積極的に活用していくことが重要です。そのため、わが国は、昨年の九州・沖縄サミットで表明したITイニシアティブを踏まえ、「J−NET」と呼ばれる遠隔技術ネットワークを活用し、世界銀行と連携しつつ、アフリカにおいて協力を展開していきます。その他、先般UNDPに設立したIT基金の積極的活用や、第三国研修を進めていきます。

 第四に、わが国の協力拠点を相互にリンクさせることにより、ネットワーク化を進め、既存の協力プロジェクトをより広域な地域において積極的に活用していきます。具体的には、ケニアのジョモ・ケニアッタ農工大学内に「アフリカ人造り拠点構想」を発展させるためのセンターを設置し、アフリカの人材育成を促進する拠点としたいと考えています。

 議長、

 わが国は、第三回アフリカ開発会議を2003年の後半に開催することを表明いたしました。今回の閣僚レベル会合がTICAD IIIに向けた開発の戦略等について、有意義な議論を行い、アフリカの開発促進のための各々の努力を更に強化する契機となることを強く期待しています。

 ご静聴ありがとうございました。