[文書名] 二月十二日付広田外務大臣より岡田內閣総理大臣宛公信米二普通第六四号 中米諸国との通商関係維持・増進のため在メキシコ公使をして中米五カ国兼任について(昭和十年二月十二日付広田外務大臣より岡田内閣総理大臣宛公信米二普通第六四号 中米諸国との通商関係維持・増進のため堀義貴在メキシコ公使をして中米五カ国(エルサルバドル共和国、グアテマラ共和国、ホンジュラス共和国、ニカラグア共和国、コスタリカ共和国)兼任について)
米二普通第六四號
昭和十年二月十二日
外務大臣 廣田弘毅
內閣總理大臣 岡田啓介殿
在墨西哥帝國公使ノ在「サルヴァドル」、「グアテマラ」、「ホンデユラス」、「ニカラグァ」及「コスタ、リカ」五國公使兼任ニ關スル件
今般在墨西哥帝國公使ヲシテ「サルヴァドル」、「グアテマラ」、「ホンデュラス」、「ニカラグァ」及「コスタ、リカ」各國駐箚公使ヲ兼任セシメ度ク別紙理由書ヲ具シ此段及請議候也
(別紙)
理由書
中央亞米利加ニ國ヲ爲ス「グアテマラ」、「サルヴァドル」、「ホンデュラス」、「ニカラグァ」及「コスタ、リカ」ノ五共和國ハ十九世紀ノ初頭西班牙ヨリ分離獨立シテ建國セル中米聯邦ノ各一部タリシ地方ニシテ人種言語風習ヲ等シクスルハ素ヨリ政治經濟等ノ形態ヲモ軌ヲ一ニシ天產資源ニ至ル迄相類似シ大體同樣ノ貿易ヲ營ミツツアリ今之等諸國ノ主要產物ニ就テ觀ルニ槪ネ珈琲若ハバナナノ一カ又ハ其兩者カ總輸出額ノ九割餘ヲ占メ珈琲ハ主トシテ獨、英、バナナハ北米ヲ輸出先トス然ルニ是等諸國ニ於ケル工業ニ至テハ何等掲クヘキモノ無ク未タ純然タル農產國ノ域ニ在リテ殆ント總テノ加工製造品ハ他國ヨリノ輸入ニ俟チツツアリ
我國ノ是等中米諸國トノ通商關係ヲ見ルニ我方ノ輸入ハ目下殆ト皆無ナルモ我方ヨリノ輸出ハ最近逐年增加ノ趨勢ニアリ現ニ「サルヴァドル」國ヘノ我輸出額ハ昭和七年ノ三十九萬圓、同八年ノ六十八萬圓ヨリ同九年ニハ一躍二百二十九萬圓ニ增加シ居リ又「グアテマラ」、「ホンデュラス」兩國ヘモ昭和九年度ニ於テ夫々二百二十八萬圓及百十萬圓ノ輸出ヲ見タリ素ヨリ別表(省略)掲記ノ通中米諸國全般ノ現勢ニ照ラシ是等地方ハ我商品ノ大市場トハ稱シ難シト雖モ尚我販路地トシテ開拓ノ餘地充分アルノミナラス我對外一般通商政策上好箇ノ市場タルヲ失ハス然ルニ之等諸國モ自國產品ノ輸出先國側トノ關保持ノ必要上或ハ伸縮的差別關稅ノ設置或ハ爲替管理制ノ採用等已ムヲ得サル事態ニ逢着シツツアリ其ノ結果我國ノ如ク是等諸國產品ノ輸入皆無ナル國ノ商品ハ甚タ敷不利ナル取扱ヲ受ケントスルニ至リ現ニ「サルヴァドル」國ハ客年七月伸縮關稅法ヲ公布シ爲ニ同國向我商品ハ同年八月ニ九十萬圓ノ輸出ヲ見タルヲ最後トシ爾來殆ト輸出杜絕の情勢ニ在リサレハ此際此方面ニ於ケル我商權ノ擁護及擴張ノ爲何等措置ヲ講スルコト緊要トナレリ。
飜テ中米五ケ國ニ對スル諸外國ノ外交關係ヲ見ルニ世界主要國ニシテ尠クトモ中米ノ一國ニ公使ヲ駐箚セシメサルモノハナク米國ハ特ニ五ケ國ニ對シ各別ニ公使ヲ派遣シ英國ハ「グアテマラ」ニ公使ヲ駐箚セシメ隣邦「サルヴァドル」、「ホンデュラス」及「ニカラグァ」ノ三國ヲ兼任セシメ「コスタ、リカ」ハ在「パナマ」公使ノ兼轄下ニ置キ獨佛ノ兩國ハ何レモ在「グアテマラ」公使ヲシテ他ノ四ケ國ヲ兼任セシメ居レリ又和蘭、チエツコ、デンマーク等ハ在墨公使ヲシテ中米五ケ國ヲ兼任セシメ居レリ然ルニ我國ニ在テハ從來邦人ノ渡航在留スル者殆ント皆無ニシテ通商關係亦謂フニ足ラス實際上彼我ノ關係疏遠ナリシ爲特ニ正式外交關係ヲ設定スルニ至ラサリシ處近時中米地方ニ對スル商權ノ伸張前顯ノ通ナルノミナラス汎ク我國運ノ伸展ト共ニ中米五ケ國トノ國交關係モ漸ク親善ヲ加ヘントシ特ニ「サルヴァドル」國ノ如キハ旣ニ數年前ヨリ我國ニ總領事ヲ派遣シ又一昨年移民法ヲ改正シ以テ我國民ニ對シ從來ノ蒙古人種ナル名目ニ依ル入國禁止取扱ヲ是正スル處アリ更ニ客年他國ニ先ンシテ滿洲國ヲ承認スル等我國ニ對シ好意表明ノ態度ニ出テツツアリ又「ニカラグァ」ハ先般東京ニ於テ開催セラレタル萬國赤十字會議ニ特ニ副大統領ヲ代表トシテ參列セシメ續テ總領事ヲ新ニ東京ニ駐派セシメタリ依テ此際尠クトモ右兩國ニ對シテハ正式ニ外交關係ヲ開始センコト機宜ノ策ト認メラルル處右以外ノ諸國ニ對シテモ我商權ノ進出著シキモノアルハ前顯ノ通ニシテ之カ維持伸張上右二國ニ對スルト同樣正式ノ外交關係ヲ設定シ置クコト得策ナルハ論ナキノミナラス由來中米五ケ國ハ動モスレハ相互ニ相拮抗セントスル微妙ナル間柄ニ在レハ我國カ初メテ外交關係ヲ開始セントスルニ當リテハ此ノ間ノ事情ヲ考慮セサルヘカラス就テハ前顕諸外國ノ例ニ倣ヒ中米五ケ國ニ對シ同時ニ同一ノ措置ニ出ツルヲ何トス而シテ從來我國ト中米諸國トノ間ニハ條約ノ締結ヲ見サリシ處「サルヴァドル」及び「コスタ、リカ」二國トハ目下通商條約ノ締結方商議中ナルモ我方ニ於テ正式ノ外交機關ヲ有セサル等ノ爲不便多ク其ノ遲々タルヲ免レサルニ鑑ミ右促進ノ爲ニモ外交關係ノ開始ハ愈々急務ト爲レリ以上ノ理由ニ依リ尠クトモ中米五ケ國中ノ一國ニ公使館ヲ開設シ隣邦諸國ヲ兼轄セシメ以テ彼我ノ國交ヲ益々緊密ナラシムルト共ニ我通商上ノ利益ノ擁護及擴張ヲ期スルコト最モ機宜ニ適シタル儀ト思量セラルルモ右ハ豫算其ノ他ノ都合ニ依リ卽急實現困難ナルヘキヲ慮リ差向ノ便法トシテ明年度豫算ニ在マサトラン領事館ノ「サン、サルヴァドル」移轉費を計上し愈々右開館ノ上ハ在ハバナ領事ノ例ニ做ヒ對外的ニハ代理公使トシテ本件五ケ國ヲ兼轄セシムルコトトシタキ處之カ爲ニハ先以テ最寄地方駐箚ノ公使ヲシテ之等ノ諸國ヲ兼任セシメ在「サン、サルヴァドル」領事ヲシテ右公使ノ代理タラシムル必要モアリ旁々此際從來在亞公使カ「ウルグァイ」國(中米諸國同樣未タ我國トハ無條約ノ關係アリ)及「パラグァイ」國ヲ又最近在祕公使カ「エクアドル」國ヲ兼任スルニ至レルノ例ニ做ヒ中米五國トハ地理的ニ近接シ居リ且ツ歷史的ニモ關係深キ墨西哥國駐箚ノ帝國公使ヲシテ頭記中米五ケ國兼任セシムルコトトシ右兼任ニ關シ予メ關係五國ノ意嚮ヲ夫々問合セタル處何レモ在墨公使ノ兼任ニ差支ナキ旨及堀公使ヲ右各國駐箚公使ト認ムルコトニ異存ナキ旨囘答シ來リタルニ付テハ同公使ノ之等諸國駐箚公使兼任方至急取計フコトト致度