[文書名] 日本国とアルゼンティン共和国との間の友好通商航海条約
日本国政府及びアルゼンティン共和国政府は、
両国の国民を結合する伝統的友好関係を一層強化し、及び両国の国民の文化関係を強化することを希望して、
両国間の通商関係を促進し、並びに相互に有益な投資及びその他の形態の経済的協力を助長することを希望して、
友好通商航海条約を締結することに決定し、そのため、次のとおりそれぞれの全権委員を任命した。
日本国政府
外務大臣 小坂善太郎
アルゼンティン共和国政府
外務宗務大臣 ドクトル ミゲル・アンヘル・カルカノ
これらの全権委員は、互いにその全権委任状を示し、それが妥当であると認められた後、次の諸条を協定した。
第一条
日本国とアルゼンティン共和国との間及び両国の国民相互の間には、堅固なかつ永久の平和及び友好の関係が存在するものとする。
第二条
1 いずれの一方の締約国の国民も、他方の締約国の領域に当該他方の締約国の法令の規定に従って入ることを許され、かつ、その入国に関するすべての事項について最恵国待遇を与えられる。
2 いずれの一方の締約国の国民も、他方の締約国の領域内における滞在、旅行及び居住並びに同領域からの出国に関するすべての事項について、内国民待遇及び最恵国待遇を与えられる。ただし、この待遇を受けるに当っては、当該他方の締約国の法令の規定に従わなければならない。
第三条
1 いずれの一方の締約国の国民も、他方の締約国の領域内において、(a)良心の自由を享有し、(b)公私の宗教上の儀式を行ない、(c)国外の公衆に周知させるため資料を収集し、及び送付し、並びに(d)当該領域の内外にある他の者と郵便、電信その他一般に公衆の用に供される手段によって通信することを許される。
2 この条の規定は、公の秩序を維持し、並びに公衆の道徳及び安全を保護するため必要な措置を執る締約国の権利の行使を妨げるものではない。
第四条
1 いずれの一方の締約国の国民も、他方の締約国の領域内において、自己の身体の保護及び保障に関して、内国民待遇及び最恵国待遇を与えられる。
2 いずれか一方の締約国の領域内で他方の締約国の国民が抑留された場合には、もよりの地にあるその者の本国の領事官は、その者の要求に基づき、直ちにその旨を通告され、かつ、当該一方の締約国の法令の規定に従って、その者を訪問し、及びその者と通信することが許される。その者は、(a)人権を完全に享有することができる待遇を受け、(b)自己に対する被疑事実を正式にかつ直ちに告げられ、(c)自己の弁護のための適当な準備に支障がない限りすみやかに裁判に付され、及び(d)自己の弁護に必要なすべての手段(自己が選任する資格のある弁護人の役務を含む。)を与えられる。
3(a) いずれの一方の締約国の国民も、他方の締約国の領域内において、すべての強制軍事服役及びその代りに課されるすべての課徴金を免除される。
(b) いずれの一方の締約国の国民及び会社も、他方の締約国の領域内において、強制公債、軍事取立金、軍用徴発または強制宿営に関して、内国民待遇及び最恵国待遇を与えられる。
第五条
1 いずれの一方の締約国の国民及び会社の財産も、他方の締約国の領域内において、不断の保護及び保障を受けるものとする。
2 いずれの一方の締約国の国民及び会社も、その住居、事務所、倉庫、工場その他の建造物で他方の締約国の領域内にあるものについては、不法な侵入及び妨害を受けないものとする。当該建造物及びその中にある物件について必要がある場合に行なう当局の捜索及び検査は、占有者の便宜及び業務の遂行に周到な考慮を払い、法令に従ってのみ行なうものとする。
3 いずれの一方の締約国も、他方の締約国の国民または会社がその設立した企業、その資本又はその提供した技能、技芸若しくは技術に関し適法に取得した権利又は利益で当該一方の締約国の領域内にあるものを害するおそれがある不当な又は差別的な措置を執ってはならない。
4 いずれの一方の締約国の国民及び会社の財産も、他方の締約国の領域内において、公共のためにする場合を除くほか、収用し、又は使用してはならず、また、正当な補償を迅速に行なわないで収用し、又は使用してはならない。
5 いずれの一方の締約国の国民及び会社も、他方の締約国の領域内において、2及び4に定める事項に関し、内国民待遇及び最恵国待遇を与えられる。
6 いずれか一方の締約国の国民又は会社が実質的な利害関係を有する企業は、他方の締約国の領域内において、私有企業を公有に移し、又は公の管理の下に置くことに関するすべての事項について、内国民待遇及び最恵国待遇を与えられる。
第六条
1 いずれの一方の締約国の国民及び会社も、他方の締約国の領域内において、すべての種類の租税、手数料又は課徴金の賦課並びにすべての審級の裁判所の裁判を受け、及び行政機関に対して申立てをする権利に関して、内国民待遇及び最恵国待遇を与えられる。
2(a) いずれの一方の締約国の国民及び会社も、他方の締約国の領域内において、研究及び調査、財産権、法人への参加並びに一般にあらゆる種類の商業上、産業上、金融上その他の事業活動及び職業活動の遂行に関するすべての事項について、最恵国待遇を与えられる。
(b) いずれの一方の締約国の国民及び会社も、他方の締約国の領域内において、特許権の取得及び保有並びに商標、営業用の名称及び営業用の標章に関する権利並びにすべての種類の工業所有権に関して、内国民待遇を与えられる。
3 1の規定にかかわらず、各締約国は、相互主義に基づき、又は二重課税の回避若しくは脱税の防止のための協定により、租税に関する特別の利益を与える権利を留保する。
第七条
一方の締約国の国民又は会社と他方の締約国の国民又は会社との間に締結された仲裁による紛争の解決を規定する契約は、いずれの一方の締約国の領域内においても、仲裁手続のために指定された地がその領域外にあるという理由又は仲裁人のうちの一人若しくは二人以上がその締約国の国籍を有しないという理由だけでは、執行することができないものと認めてはならない。その契約に従って正当にされた判断で、判断がされた地の法令に基づいて確定しており、かつ、執行することができるものは、公の秩序及び善良の風俗に反しない限り、いずれの一方の締約国の管轄裁判所に提起される執行判決を求める訴えに関してもすでに確定しているものとみなされ、かつ、その判断についてその裁判所から執行判決の言渡しを受けることができる。その言渡しがあった場合には、その判断に対しては、その締約国の領域内でされる判断に対して与える特権及び執行の手段と同様の特権及び執行の手段を与えるものとする。
第八条
1 各締約国は、次のものに関するすべての事項について、他方の締約国に即時にかつ無条件に最恵国待遇を与えなければならない。
(a) 輸入若しくは輸出について若しくはそれらに関連して課され、又は輸入品若しくは輸出品のための支払手段の国際的移転について課されるすべての種類の関税及び課徴金
(b) それらの関税及び課徴金の賦課の方法
(c) 輸入又は輸出に関連する規則及び手続
(d) 輸入貨物について又はそれらに関連して課されるすべての内国税その他すべての種類の内国課徴金
(e) 輸出貨物に対する内国税の適用
(f) 輸入貨物の国内における販売、販売のための提供、購入、分配又は使用に影響をおよぼすすべての法令及び要件
2 したがって、いずれか一方の締約国の産品で他方の締約国の領域内に輸入されるものには、1に掲げる事項について、いずれかの第三国の同様の産品に課されているか又は将来課される関税、内国税又は課徴金より一層高額の関税、内国税又は課徴金が課されることはなく、また、同産品に適用されているか又は将来適用される規則又は手続より一層厳重な規則又は手続が適用されることはない。
3 同様に、いずれか一方の締約国の領域から輸出され、かつ、他方の締約国の領域に仕向けられる産品には、1に掲げる事項について、同様の産品がいずれかの第三国の領域に仕向けられる場合に課されているか又は将来課される関税、内国税又は課徴金より一層高額の関税、内国税又は課徴金が課されることはなく、また、同産品が同様の場合に適用されているか又は将来適用される規則又は手続より一層厳重な規則又は手続が適用されることはない。
第九条
1 いずれの一方の締約国の国民及び会社も、両締約国の領域の間における支払、送金及び資金又は金銭証券の移転に関して、並びに他方の締約国の領域と第三国の領域との間における支払、送金及び資金又は金銭証券の移転に関して、最恵国待遇を与えられる。
2 いずれの一方の締約国も、他方の締約国のすべての産品の輸入に対し、又は当該他方の締約国の領域に仕向けられるすべての産品の輸出に対し、割当によると、輸入又は輸出の許可によると、外国為替の割当によると、その他の措置によるとを問わず、いかなる制限又は禁止をも設定し、又は維持してはならない。ただし、すべての第三国の同様の産品の輸入又はすべての第三国への同様の産品の輸出が同様に制限され、又は禁止されている場合は、この限りでない。
3 1の規定は、いずれか一方の締約国が、国際通貨基金協定の締約国として有するか又は有することがある権利及び義務に合致するような為替制限を課することを妨げるものではない。
4 2の規定にかかわらず、いずれの一方の締約国も、貨物の輸入及び輸出について、当該一方の締約国が、3の規定に基づいて当該時に課することができる為替制限と同等の効果を有する制限又は統制をすることができる。
第十条
両締約国は、両国間の貿易を発展させ、及び経済関係を強化すること並びに、特にそれぞれの領域内における経済の発展及び生活水準の向上に資するため、科学及び技術に関する知識の交換及び利用を促進することを目的として、相互の利益のため、協力することを約束する。
第十一条
各締約国は、国家企業を設立し、若しくは維持し、又はいずれかの企業に対して排他的の若しくは特別の特権を正式に若しくは事実上与えるときは、その企業を、輸入又は輸出を伴う購入又は販売に際し、民間貿易業者が行なう輸入又は輸出に影響を及ぼす政府の措置についてこの条約で定める無差別待遇の一般的原則に合致する方法で行動させることを約束する。この目的のため、前記の企業は、この条約の他の規定に妥当な考慮を払った上で、前記の購入又は販売を商業的考慮(価格、品質、入手可能性、市場性、輸送その他購入又は販売の条件等に関する考慮をいう。)によってのみ行なわなければならず、かつ、他方の締約国の企業に対し、前記の購入又は販売に参加するために競争する適当な機会を通常の商慣行に従って与えなければならない。
第十二条
1 いずれか一方の締約国の国旗を掲げる船舶で、国籍の証明のため当該締約国の法令により要求される書類を備えているものは、公海並びに他方の締約国の港、場所及び水域において当該一方の締約国の船舶と認められる。
2 いずれの一方の締約国の商船も、他方の締約国の商船及び第三国の商船と均等の条件で、外国との間における通商及び航海のため開放されている他方の締約国のすべての港、場所及び水域に旅客及び積荷とともに入ることができる。これらの船舶は、当該他方の締約国の港、場所及び水域において、すべての事項に関して、最恵国待遇を与えられる。
3 いずれの一方の締約国の商船も、他方の締約国の領域に又はその領域から船舶で輸送することができるすべての貨物及び人を輸送する権利に関して、最恵国待遇を与えられる。また、これらの貨物及び人は、(a)すべての種類の関税及び課徴金、(b)税関事務並びに(c)奨励金、関税の払いもどしその他この種の特権に関して、当該他方の締約国の商船で輸送される同様の貨物及び人に与えられる待遇よりも不利でない待遇を与えられる。
4 前諸項の規定は、沿岸貿易には適用しない。沿岸貿易は、各締約国の法律に従って規制される。もっとも、いずれの一方の締約国の商船も、外国で積載した旅客若しくは積荷の全部若しくは一部を陸揚げし、又は外国向けの旅客若しくは積荷の全部若しくは一部を積載する目的をもって、他方の締約国の領域内のいずれかの港から他の港に向かって航海を続けることができる。
5(a) いずれの一方の締約国も、他方の締約国の船舶に対し、難破、海上損害又は不可抗力による寄航の場合には、同様の場合に自国の船舶に与えると同一の援助、保護及び免除を与えるものとする。それらの船舶から救い上げられた物品は、すべての関税を免除される。ただし、それらの物品が国内消費のため搬入されない場合に限る。
(b) いずれか一方の締約国の船舶が他方の締約国の沿岸で座礁し、又は難破した場合には、当該他方の締約国の当局は、もよりの地にある船舶所属国の権限のある領事官にそれを通告するものとする。
6 いずれか一方の締約国の権限のある当局が発給した船舶の積量測度に関する証書は、他方の締約国の権限のある当局によって、同当局が発給した証書と同等のものと認められる。ただし、両締約国が船舶の測度のために同様の規則又は制度を用いる場合に限る。
7 この条において「商船」とは、漁船及び捕鯨船を含まない。
第十三条
1 この条約のいかなる規定も、いずれか一方の締約国が関税及び貿易に関する一般協定若しくは国際通貨基金協定又はそれらを修正し若しくは補足する多数国間の協定の締約国として有するか、又は有することがある権利及び義務については、両締約国が当該協定の締約国である限り、影響を及ぼすものではない。いずれか一方の締約国がそのいずれかの協定の締約国でなくなった場合には、両締約国は、その時の事情に照らし、この条約の貿易、為替又は関税に関する規定について修正を必要とするかどうかを決定するため、直ちに相互に協議するものとする。
2 この条約は、次の措置を執ることを妨げるものではない。
(a) 金又は銀の輸入又は輸出を規制する措置
(b) 核分裂性物質、核分裂性物質の利用若しくは加工による放射性副産物又は核分裂性物質の原料となる物質に関する措置
(c) 武器、弾薬及び軍需品の取引又は軍事施設に供給するため直接若しくは間接に行なわれるその他の物資の取引を規制する措置
(d) 国際の平和及び安全の維持若しくは回復に関する自国の義務を履行し、又は自国の重大な安全上の利益を保護するため必要な措置
(e) 美術的、歴史的または考古学的価値のある国宝の保護のために執られる措置
(f) 人命、健康及び道徳の保護並びに動物又は植物の生命又は健康の保護に関する措置
3 第八条及び第九条の規定は、いずれか一方の締約国が与える次の特別の利益には適用しない。
(a) 国境貿易に与える利益
(b) 当該一方の締約国が加盟国となる関税同盟又は構成地域となる自由貿易地域の構成国に与える利益。ただし、その利益が関税及び貿易に関する一般協定の規定に従って与えられることを条件とする
4 第八条及び第九条の規定は、アルゼンティン共和国が関税及び貿易に関する一般協定のわく内で隣接国又はペルー共和国に与える特権又は利益には、適用しない。
第十四条
各締約国は、他方の締約国がこの条約の実施から又はこれに関連して生ずる問題について行なう申入れに対して好意的考慮を払わなければならず、また、協議のため適当な機会を他方の締約国に与えなければならない。
第十五条
1 この条約は、千八百九十八年二月三日にワシントンで署名された日本国とアルゼンティン共和国との間の修好通商航海条約を廃止し、これに代わるものとする。
2 この条約は、批准されなければならない。批准書は、できる限りすみやかにブエノス・アイレスで交換されるものとする。
3 この条約は、批准書の交換の日の後一箇月で効力を生ずる。この条約は、五年間効力を有し、その後は、4に定めるところに従って終了するまで効力を存続する。
4 いずれの一方の締約国も、他方の締約国に対し一年前に文書による予告を与えることによって、最初の五年の期間の終りに又はその後いつでもこの条約を終了させることができる。
以上の証拠として、各全権委員は、この条約に署名調印した。
千九百六十一年十二月二十日に東京で、日本語、スペイン語及び英語により本書二通を作成した。解釈に相違がある場合には、英語の本文による。
日本国のために
小坂善太郎
アルゼンティン共和国のために
M・A・カルカノ