データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 日亜共同コミュニケ

[場所] 
[年月日] 1966年3月15日
[出典] 外交青書10号,33−36頁.
[備考] 
[全文]

 アルゼンティン外務大臣ミゲル・アンヘル・サバラ・オルティス博士は本年三月九日より一五日まで日本を訪問した。

 同外務大臣夫妻は滞在中,天皇,皇后両陛下に謁見を賜わり,また佐藤総理大臣,山口衆議院議長,および重宗参議院議長と会見した。

 アルゼンティン外務大臣は更に両国に関心ある諸問題について,椎名外務大臣,三木通産大臣,その他の日本政府関係当局と会談した。

 アルゼンティン外務大臣は日本の総理大臣および外務大臣に対してアルゼンティン国独立一五〇周年を機会に同国を訪問するよう招請した。

 アルゼンティン外務大臣および三木通産大臣は日・ア民間合同委員会の発会式において挨拶し,この民間活動に対する両国政府の支持を表示した。

 これらの公式会談は友好的な雰囲気のうちに進められ,日・ア間に従来から存在している伝統的友好関係が確認され,また国際連合との緊密な協力のもとに世界の平和と繁栄の促進を対外政策の基本原則として維持することに合意を見た。

 両外務大臣は,核兵器は人類の生存に対し恐るべき壊滅的な力を持っているので有効な国際管理のもとに現在の世界における安全の均衡を維持しつつ漸減され究極的にはこれが廃棄されるべきであるとの願望を表明した。

 日本の外務大臣は,日本の国際連合加盟以来アルゼンティンが終始日本の国際連合における活動に協力と支持を与えたことに深謝した。両外務大臣は両国がともに安保理事国としてできる限り速やかにヴィエトナムに平和を回復するために協力する意向があること,またその他の重要問題に関しても安保理事会において密接な協力を保つことを確認した。

 両外務大臣は文化交流が両国民の相互理解のための基本的に重要な方策であることを確認し,従来より行なわれている芸術,学術,スポーツ等の諸文化活動を一層活発化し,人的,物的交流を推進することに合意した。同時に日・ア間の著作権に関する問題解決について交渉を開始することに合意した。

 日本の外務大臣は日本からの移住者に対するアルゼンティン官民の好意に謝意を表した。これに対して,アルゼンティン外務大臣は,日本からの移住者は,アルゼンティンの国法がアルゼンティンの全ての住民に与える保護を等しく享受し,従って,完全な自由をもってその活動を行ない得るものである旨を述べた。

 また,同大臣は,同国の工業化および経済開発計画が企業の進出プログラムに伴い日本よりの技術移住に対し広汎な機会を与えている旨を述べた。同発言に対して,日本の外務大臣は日本としても相手国の経済開発に寄与しうるような国際協力の形であるべき新しい移住理念にもとづいて移住を促進したい旨を述べた。

 両国間の経済協力に関して,アルゼンティン外務大臣はアルゼンティンで現在実施中の開発計画について述べ,同計画の主たるプロジェクトと分野を明らかにするとともに,上記のプロジェクト及び分野に対して日本において示された大きな関心及びこれが実現への協力についての好意的態度に対し大きな満足の意を表明した。

 アルゼンティン外務大臣はラテン・アメリカ特にアルゼンティンの農牧産品はアジアの慢性的食糧不足の解決に活用されるべきでありこの意味において日本はアジアとラテン・アメリカとの橋渡しの役を果すことができ,このようにして日・ア両国間の経済協力関係の強化に貢献できるであろうと述べたのに対し日本の外務大臣は一般的にはアジアとラ米特に日・アの将来関係の見通しに関する同構想は日本政府もこれを高く評価し検討に値するものである旨を述べた。

 更に,アルゼンティン外務大臣はアルゼンティンの国際収支に短期的に強い圧迫を加えている同国対外債務の構造を改善するため日本政府のなした貢献につき感謝の意を表明すると共に,一九六六年分についても同様の配慮を要請したのに対し,日本の外務大臣は債権国会議が開催されて債権繰延べ問題が討議される場合には好意的に検討すべき旨を述べた。

 経済関係に関しては,両国の貿易拡大,小麦その他のアルゼンティンの伝統的及び非伝統的産品及び日本の工業製品,食肉衛生協定,日・ア民間合同委員会,友好通商航海条約の諸問題につき両外務大臣は会談した。即ち,

1 両外務大臣は両国は両国の工業製品の輸出の伸長とアルゼンティンの小麦を含む伝統的産品の買付を基礎とし,貿易の拡大を目指して必要な措置を講ずべきであることを明らかにした。

2 日本の外務大臣は,日本政府はアルゼンティン産小麦につき,運賃及び保険料を含む価格が国際的にコンペティティヴであり,かつ日本の実需者の要求する品質であれば,コンスタントな供給の保証のもとに,これを輸入する用意がある旨を述べた。

 両外務大臣は両国の関係官庁がアルゼンティン産小麦の品質,価格及び数量に関し,直ちに具体的検討を開始することにつき意見の一致をみた。

3 両外務大臣は動物産品がアルゼンティンの主要輸出品目の一つであること,及び両国間の食肉貿易を円滑化することが両国通商関係を発展せしめる上に望ましいことに意見の一致をみた。この点に関し,両外務大臣は,一九六一年一二月二〇日に署名された両国政府間の動物衛生協定及びその付属交換公文の実施について両国政府の間で討議する用意がある旨を表明するとともに,両国の国内法令の範囲内で,両国政府間の食肉衛生協定を速かに締結することが望ましいことに意見の一致をみた。また,両外務大臣は,日本政府の専門家がアルゼンティン政府の招待により,同国における動物の疾病に対する防疫措置並びに動物衛生及び食肉衛生の状態を視察するため,近い将来に同国を訪問することを確認した。アルゼンティン外務大臣は,特に前記日本の専門家が,アルゼンティン政府によって口蹄疫が存在しない旨宣言されたパタゴニア地方の食肉衛生状態を分析するよう希望した。

四 両外務大臣は,アルゼンティン外務大臣の訪日を契機として,その審議を開始した日・ア民間合同委員会の任務が新たな通商関係を刺激するために必要且つ有益であることを認めた。

五 両外務大臣は,両国間におけるより活発な貿易の諸条件の政善に対する一切の障碍を排除することを欲しつつ,一九六一年一二月二〇日に東京で署名された日本国とアルゼンティン共和国との間の友好通商航海条約の両国による批准を新たに促進することに意見の一致をみた。また,両外務大臣は,両国政府が同条約の諸規定を適用するに当っては,同条約が他方の締約国を差別的に待遇しないという原則を一般的に基礎として作成されていることを尊重する旨を確認した。さらに,両大臣は,本条約に関連して次のとおり表明することに合意した。

 本条約第一二条の適用に際しては,両国が加盟国であるところの一九四八年三月六日にジュネーヴで署名された政府間海事協議機関条約第一条(b)項が,同機関の目的の一つは,海運業務が世界の通商に差別なしに利用されることを促進するため,政府による差別的な措置及び不必要な制限で国際貿易に従事する海運に影響のあるものの除去を奨励することである旨,並びに政府が自国の海運の発展及び安全保障のために行なう援助及び奨励は,その援助及び奨励が,すべての国籍の船舶が国際貿易に自由に参加することを制限するような措置に基づいていない限り,差別的待遇とはならない旨を規定していることを考慮に入れるものとする。

 同条約の第一三条第四項に関し,アルゼンティン共和国が,同国の関税及び貿易に関する一般協定への正式加入に際して,同国が隣接国またはペルー共和国に同協定への仮加入前に与えた利益を留保する旨を表明する場合は,日本国政府は,同協定の締約国団の会議において賛成投票を行なう用意がある。