[文書名] 所得に対する租税に関する二重課税の回避のための日本国とブラジル連邦共和国との間の条約(日伯租税条約,日・ブラジル租税条約,ブラジルとの租税(所得)条約)
所得に対する租税に関する二重課税の回避のための日本国とブラジル連邦共和国との間の条約/
日本国政府及びブラジル連邦共和国政府は、
所得に対する租税に関し、二重課税を回避するための条約を締結することを希望して、
次のとおり協定した。
第一条
(1) この条約の対象である租税は、次のものとする。
(a) ブラジル連邦共和国については、連邦所得税(以下「ブラジルの租税」という。)
(b) 日本国については、所得税及び法人税(以下「日本国の租税」という。)
(2) この条約は、(1)に規定する租税と実質的に類似の租税で、この条約の署名の日の後にいずれか一方の締約国において設けられるものについても、また、適用する。
第二条
(1) この条約において、文脈により別に解釈すべき場合を除くほか、
(a) 「ブラジル」とは、ブラジル連邦共和国をいう。
(b) 「日本国」とは、地理的意味で用いる場合には、日本国の租税に関する法令が施行されているすべての領域をいう。
(c) 「一方の締約国」及び「他方の締約国」とは、文脈により、日本国又はブラジルをいう。
(d) 「租税」とは、文脈により、日本国の租税又はブラジルの租税をいう。
(e) 「者」には、個人、法人及び法人以外の社団を含む。
(f) 「法人」とは、法人格を有する団体又は租税に関し法人格を有する団体として取り扱われる団体をいう。
(g) 「一方の締約国の企業」及び「他方の締約国の企業」とは、それぞれ一方の締約国の居住者が営む企業及び他方の締約国の居住者が営む企業をいう。
(h) いずれかの締約国について「権限のある当局」とは、その締約国の大蔵大臣又は権限を与えられたそ
の代理者をいう。
(2) 一方の締約国がこの条約を適用する場合には、特に定義されていない用語は、文脈により別に解釈すべき場合を除くほか、この条約が適用される租税に関するその締約国の法令上有する意義を有するものとす
る。
第三条
(1) この条約の適用上、「一方の締約国の居住者」とは、その締約国の法令の下において、住所、居所、本店又は主たる事務所の所在地、管理の場所その他これらに類する基準によりその締約国において課税を受けるべきものとされる者をいう。
(2) (1)の規定により双方の締約国の居住者となる者については、権限のある当局は、合意により、この条約の適用上その者が居住者であるとみなされる締約国を決定する。
第四条
(1) この条約の適用上、「恒久的施設」とは、事業を行なう一定の場所で、企業がその事業の全部又は一部を行なつているものをいう。
(2) 「恒久的施設」には、特に、次のものを含む。
(a) 管理所
(b) 支店
(c) 事務所
(d) 作業場
(e) 工場
(f) 倉庫
(g) 鉱山、採石場その他天然資源を採取する場所
(h) 建物工事現場又は建設若しくは組立ての工事で、六箇月をこえる期間存続するもの
(3) 「恒久的施設」については、次のことは、含まれないものとする。
(a) 企業に属する物品又は商品の在庫を、もつぱら他の企業による加工のため、保有すること。
(b) 企業のためにもつぱら物品若しくは商品を購入し、又は情報を収集するため、事業を行なう一定の場所を保有すること。
(c) 企業に属する物品又は商品をもつぱら保管し、展示し、又は引き渡すため、施設を使用すること。
(d) 企業に属する物品又は商品の在庫を、もつぱら保管し、展示し、又は引き渡すため、保有すること。
(e) 企業のためにもつぱら広告、情報の提供、科学的調査又はこれらに類する準備的若しくは補助的な性質の活動を行なうため、事業を行なう一定の場所を保有すること。
(4) 一方の締約国内で他方の締約国の企業に代わつて行動する者((5)の規定が適用される独立の地位を有する代理人を除く。)は、次の場合には、当該一方の締約国内における恒久的施設とされる。
(a) その者が当該一方の締約国内で、当該企業の名において契約を締結する権限を有し、かつ、これを常習的に行使する場合。ただし、その者の行動が当該企業のために物品又は商品を購入することに限られる場合は、この限りでない。
(b) その者が、当該企業によりあらかじめ締結された契約で引き渡すべき数量又は引渡しの日及び場所を確定していないものに従つて行なわれる注文に当該企業に代わつて通常応ずるため、当該企業に属する物品又は商品の在庫を当該一方の締約国内に保有する場合
(5) 一方の締約国の企業は、仲立人、問屋その他独立の地位を有する代理人でこれらの者としての業務を通常の方法で行なうものを通じて他方の締約国内で事業活動を行なつたという理由のみでは、当該他方の締約国内に恒久的施設を有するものとされることはない。
(6) 一方の締約国の居住者である法人が、他方の締約国の居住者である法人又は他方の締約国内において恒久的施設を通じ若しくは通じないで事業を行なう法人を支配し、又はこれらにより支配されているという事実のみによつては、いずれの一方の法人も、他方の法人の恒久的施設であることとはならない。
(7) 一方の締約国の企業は、他方の締約国内で第十五条にいう芸能人の役務を提供することを事業の全部又は一部として行なう場合には、当該他方の締約国内に恒久的施設を有するものとされる。
第五条
(1) 一方の締約国の企業の利得に対しては、その企業が他方の締約国内にある恒久的施設を通じて当該他方の締約国内で事業を行なわない限り、当該一方の締約国においてのみ租税を課することができる。一方の締約国の企業が他方の締約国内にある恒久的施設を通じて当該他方の締約国内で事業を行なう場合には、その企業の利得に対し、当該恒久的施設に帰せられる部分についてのみ、当該他方の締約国において租税を課することができる。
(2) 一方の締約国の企業が他方の締約国内にある恒久的施設を通じて当該他方の締約国内で事業を行なう場合には、各締約国において、当該恒久的施設が同一又は類似の条件で同一又は類似の活動を行ない、かつ、当該恒久的施設を有する企業と、全く独立の立場で、取引を行なう別個のかつ分離した企業であるとすれば、当該恒久的施設が取得するとみられる利得が、当該恒久的施設に帰せられるものとする。
(3) 恒久的施設の利得を決定するに際しては、経営費及び一般管理費を含む費用で、その恒久的施設のために生じたものは、経費に算入することを認められるものとする。
(4) 恒久的施設が企業のために行なつた物品又は商品の単なる購入を理由としては、いかなる利得もその恒久的施設に帰せられることはない。
(5) (1)から(4)までの規定の適用上、恒久的施設に帰せられる利得は、毎年同一の方法によつて決定するものとする。ただし、別の方法を用いることについて正当な理由があるときは、この限りでない。
(6) 他の条で別個に取り扱われている種類の所得が企業の利得に含まれる場合には、これらの条の規定は、この条の規定によつて影響されることはない。
第六条
(a) 一方の締約国の企業が他方の締約国の企業の経営、支配若しくは資本に直接若しくは間接に参加する場合又は
(b) 同一の者が一方の締約国の企業及び他方の締約国の企業の経営、支配若しくは資本に直接若しくは間接に参加する場合
であつて、そのいずれの場合においても、両企業間に、その商業上又は資金上の関係において独立の企業間に設けられる条件と異なる条件が設けられ又は課されるときは、その条件がなかつたならば一方の企業の利得となつたはずである利得で、その条件のために当該一方の企業の利得とならなかつたものは、その企業の利得に算入して課税することができる。
第七条
(1) 一方の締約国の企業が船舶又は航空機を国際運輸に運用することによつて取得する利得に対しては、当該一方の締約国においてのみ租税を課することができる。
(2) ブラジルの居住者である企業は、船舶又は航空機を国際運輸に運用することについて、日本国における住民税及び事業税を免除される。
第八条
(1) 不動産から生ずる所得に対しては、当該不動産が存在する締約国において租税を課することができる。
(2) 「不動産」の定義は、当該財産が存在する締約国の法令によるものとする。不動産には、いかなる場合にも、不動産に附属する財産、農業又は林業に用いられている家畜類及び設備、不動産に関する一般法の規定の適用がある権利、不動産用益権並びに鉱石、水その他の天然資源の採取又は採取の権利の対価として料金(金額が確定しているかどうかを問わない。)を受け取る権利を含む。船舶及び航空機は、不動産とはみなさない。
(3) (1)の規定は、不動産の直接使用、賃貸その他のすべての形式による使用から生ずる所得について適用する。
(4) (1)及び(3)の規定は、企業の不動産に係る所得及び自由職業の活動に使用される不動産に係る所得についても、また、適用する。
第九条
(1) 一方の締約国の居住者である法人が他方の締約国の居住者に支払う配当に対しては、当該他方の締約国において租税を課することができる。
(2) (1)の配当に対しては、これを支払う法人が居住者である締約国において、その締約国の法令に従つて租税を課することができる。その租税の額は、当該配当の金額の十二・五パーセントを超えないものとする。
(3) (2)の規定は、配当に充てられる利得についての当該法人に対する課税に影響を及ぼすものではない。
(4) この条において「配当」とは、株式、受益株式、鉱業株式、発起人株式その他利得の分配を受ける権利(信用に係る債権を除く。)から生ずる所得及びその他の持分から生ずる所得であつて、分配を行なう法人が居住者である締約国の税法上株式から生ずる所得と同様に取り扱われるものをいう。
(5) (1)から(4)までの規定の適用上、ブラジルについては、日本国の居住者である企業のブラジルにある恒久的施設が行なうすべての形態による利得の処分も、また、配当とされる。この場合には、そのような利得の処分についての租税は、(2)にいう税率をこえないものとする。
(6) (2)及び(5)の規定は、ブラジルの重要性の少ない経済活動に対する税及び超過送金税には、適用しない。
(7) (1)及び(2)の規定は、一方の締約国の居住者である配当の受領者が、その配当を支払う法人が居住者である他方の締約国内に、その配当の支払の基因となつた株式又は持分を実質的に保有する恒久的施設を有するときは、適用しない。この場合には、第五条の規定が適用される。
第十条
(1) 一方の締約国内で生じ、他方の締約国の居住者に支払われる利子に対しては、当該他方の締約国において租税を課することができる。
(2) (1)の利子に対しては、当該利子が生じた締約国において、その締約国の法令に従つて租税を課することができる。その租税の額は、当該利子の金額の十二・五パーセントを超えないものとする。
(3) (2)の規定にかかわらず、一方の締約国内で生ずる利子で、他方の締約国の政府若しくはその地方政府若しくは地方公共団体又はこれらの政府若しくは地方政府若しくは地方公共団体が所有する機関(金融機関を含む。)に支払われるものについては、当該一方の締約国の租税を免除する。
(4) この条において「利子」とは、公債、債券又は社債(担保の有無及び利得の分配を受ける権利の有無を問わない。)その他のすべての種類の信用に係る債権から生じた所得及びその他の所得で当該所得が生じた締約国の税法上貸付金から生じた所得と同様に取り扱われるものをいう。
(5) (1)及び(2)の規定は、一方の締約国の居住者である利子の受領者が、その利子が生じた他方の締約国内に、その利子を生じた債権を実質的に保有する恒久的施設を有するときは、適用しない。この場合には、第五条の規定が適用される。
(6) 利子は、その支払者が一方の締約国又はその地方政府若しくは地方公共団体若しくは居住者であるときは、その締約国内で生じたものとされる。ただし、利子の支払者(一方の締約国の居住者であるかどうかを問わない。)が一方の締約国内に恒久的施設を有する場合において、その利子を支払う基因となつた債務が当該恒久的施設について生じ、かつ、その利子を当該恒久的施設が負担するときは、その利子は、当該恒久的施設が存在する締約国内で生じたものとされる。
(7) 支払者と受領者との間又はその双方と第三者との間の特別の関係により、支払われた利子の金額が、その支払の基因となつた債権を考慮する場合において、その関係がなかつたならば支払者及び受領者が合意するとみられる金額をこえるときは、この条の規定は、その合意するとみられる金額についてのみ適用する。この場合には、支払われた金額のうち超過分に対し、この条約の他の規定に妥当な考慮を払つた上、各締約国の法令に従つて租税を課することができる。
第十一条
(1) 一方の締約国内で生じ、他方の締約国の居住者に支払われる使用料に対しては、当該他方の締約国において租税を課することができる。
(2) (1)の使用料に対しては、当該使用料が生じた締約国において、その締約国の法令に従つて租税を課することができる。その租税の額は、次のものを超えないものとする。
(a) 商標権の使用又は使用の権利から生ずる使用料にあつては、当該使用料の金額の二十五パーセント
(b) 映画フィルムの著作権及びラジオ放送用又はテレビジョン放送用のフィルム又はテープの著作権の使用又は使用の権利から生ずる使用料にあつては、当該使用料の金額の十五パーセント
(c) その他の使用料にあつては、当該使用料の金額の十二・五パーセント
(3) この条において「使用料」とは、文学上、美術上若しくは学術上の著作物(映画フィルム及びラジオ放送用又はテレビジョン放送用のフィルム又はテープを含む。)の著作権、特許権、商標権、意匠、模型、図面、秘密方式若しくは秘密工程の使用若しくは使用の権利の対価として、産業上、商業上若しくは学術上の設備の使用若しくは使用の権利の対価として、又は産業上、商業上若しくは学術上の経験に関する情報の対価として受け取るすべての種類の支払金をいう。
(4) (1)及び(2)の規定は、一方の締約国の居住者である使用料の受領者が、その使用料が生じた他方の締約国内に、その使用料を生じた権利又は財産を実質的に保有する恒久的施設を有するときは、適用しない。この場合には、第五条の規定が適用される。
(5) 使用料は、その支払者が一方の締約国又はその地方政府若しくは地方公共団体若しくは居住者であるときは、その締約国内で生じたものとされる。ただし、使用料の支払者(一方の締約国の居住者であるかどうかを問わない。)が一方の締約国内に恒久的施設を有する場合において、その使用料を支払うべき債務が当該恒久的施設について生じ、かつ、その使用料を当該恒久的施設が負担するときは、その使用料は、当該恒久的施設が存在する締約国内で生じたものとされる。
(6) 使用料がその支払の基因となつた権利に関する公正かつ合理的な対価をこえるときは、この条の規定は、その使用料のうち公正かつ合理的な対価となる額についてのみ適用する。支払者と受領者との間又はその双方と第三者との間の特別の関係により、支払われた使用料の金額が、その支払の基因となつた使用、権利又は情報を考慮する場合において、その関係がなかつたならば支払者及び受領者が合意するとみられる金額をこえるときは、この条の規定は、その合意するとみられる金額についてのみ適用する。これらの場合には、支払われた金額のうち超過分に対し、この条約の他の規定に妥当な考慮を払つた上、各締約国の法令に従つて租税を課することができる。
第十二条
(1) 第八条(2)に定義する不動産の譲渡から生ずる収益に対しては、当該不動産が存在する締約国において租税を課することができる。
(2) 一方の締約国の企業が他方の締約国内に有する恒久的施設の事業用資産の一部をなす動産(この条においては、(1)の不動産以外の財産をいう。)又は一方の締約国の居住者が自由職業を行なうため他方の締約国において使用することができる固定的施設に係る動産の譲渡から生ずる収益(単独に若しくは企業全体とともに行なわれる当該恒久的施設又は当該固定的施設の譲渡から生ずる収益を含む。)に対しては、当該他方の締約国において租税を課することができる。ただし、一方の締約国の居住者が国際運輸に運用する船舶若しくは航空機又はこれらの船舶若しくは航空機の運用に係る動産の譲渡によつて取得する収益については、他方の締約国の租税を免除する。
(3) 一方の締約国の居住者が(1)及び(2)の財産以外の財産の譲渡によつて取得する収益に対しては、当該一方の締約国においてのみ租税を課することができる。
第十三条
(1) 一方の締約国の居住者が自由職業その他これに類する独立の活動に関して取得する所得については、その者が自己の活動を遂行するために通常使用することができる固定的施設を他方の締約国内に有しない限り、他方の締約国の租税を免除する。その者がそのような固定的施設を有する場合には、当該所得に対しては、当該固定的施設に帰せられる部分についてのみ、当該他方の締約国において租税を課することができる。
(2) 「自由職業」には、特に、学術上、文学上、美術上及び教育上の独立の活動並びに医師、弁護士、技術士、建築士、歯科医師及び公認会計士の独立の活動を含む。
第十四条
(1) 第十八条、第十九条及び第二十条の規定を留保して、一方の締約国の居住者が勤務に関して取得する給料、賃金その他これらに類する報酬については、その勤務が他方の締約国内で行なわれない限り、当該他方の締約国の租税を免除する。勤務が他方の締約国内で行なわれる場合には、その勤務から生ずる報酬に対しては、当該他方の締約国において租税を課することができる。
(2) (1)の規定にかかわらず、一方の締約国の居住者が他方の締約国内で行なう勤務に関して取得する報酬については、次のことを条件として、当該他方の締約国の租税を免除する。
(a) その報酬の受領者がその年を通じて合計百八十三日をこえない期間当該他方の締約国内に滞在し、
(b) その報酬が当該他方の締約国の居住者でない雇用者又はこれに代わる者から支払われ、かつ、
(c) その報酬が当該他方の締約国内に雇用者が有する恒久的施設又は固定的施設により負担されないこ
と。
(3) (1)及び(2)の規定にかかわらず、一方の締約国の企業が国際運輸に運用する船舶又は航空機において行なわれる勤務に関する報酬に対しては、その締約国において租税を課することができる。
第十五条
第十三条及び第十四条の規定にかかわらず、演劇、映画、ラジオ又はテレビジョンの俳優、音楽家その他の芸能人及び運動家がこれらの者としての個人的活動により取得する所得に対しては、その活動が行なわれる締約国において租税を課することができる。
第十六条
大学、学校その他の教育機関において教育又は研究を行なうため一方の締約国を訪れ、二年をこえない期
間一時的に滞在する教授又は教員で、現に他方の締約国の居住者であり、又は訪れる直前に他方の締約国の居住者であつたものは、その教育又は研究に関して取得する報酬につき、当該一方の締約国の租税を免除される。
第十七条
もつぱら教育又は訓練を受けるため一方の締約国内に滞在する学生又は事業修習者で現に他方の締約国の居住者であり、又はその滞在の直前に他方の締約国の居住者であつたものがその生計、教育又は訓練のため受け取る給付又は所得については、当該一方の締約国の租税を免除する。ただし、当該給付が当該一方の締約国外から支払われるものであること、又は当該所得が当該一方の締約国内で行なう人的役務に関して取得するものであつて、継続して三課税年度をこえない期間、いずれの課税年度についても千アメリカ合衆国ドル若しくは日本国若しくはブラジルの通貨によるその相当額をこえないものであることを条件とする。
第十八条
一方の締約国の居住者が他方の締約国の居住者である法人の役員の資格で取得する報酬に対しては、当該他方の締約国においてその締約国の法令に従つて租税を課することができる。
第十九条
政府の職務の遂行として一方の締約国又はその地方政府若しくは地方公共団体に提供された役務について、当該一方の締約国の国民である個人に対して、当該一方の締約国若しくはその地方政府若しくは地方公共団体が支払い、又は当該一方の締約国若しくはその地方政府若しくは地方公共団体の支出に係る基金から支払われる賃金、給料及びこれらに類する報酬並びに退職年金又はこれに類する給付に対しては、当該一方の締約国においてのみ租税を課することができる。
第二十条
(1) 一方の締約国の居住者である個人に支払われる民間の退職年金及び保険年金に対しては、当該一方の締約国においてのみ租税を課することができる。
(2) この条において「退職年金」には、過去の勤務に対する対価として、又は過去の勤務に関連して受けた傷害に対する補償として行なわれる定期的な給付を含む。
(3) この条において「保険年金」には、適正かつ十分な対価としての給付を行なう義務に基づき、終身又は特定の年数の間一定の時期において定期的に支払われる一定の金額を含む。
第二十一条
一方の締約国の居住者が他方の締約国における源泉から取得する所得で前諸条の規定の適用を受けないものに対しては、両締約国において租税を課することができる。
第二十二条
(1) ブラジルの居住者がこの条約の規定に従つて日本国において租税を課される所得を取得するときは、ブラジルは、日本国において納付された所得に対する租税の額と等しい額をその者の所得に対する租税から控除するものとする。ただし、その控除の額は、所得に対する租税として当該控除が行なわれる前に算出された額のうち、日本国において租税を課される所得に対応する部分をこえないものとする。
(2)(a)(i) 日本国の居住者がこの条約の規定に従つてブラジルにおいて租税を課される所得をブラジルにおいて取得するときは、その所得について納付されるブラジルの租税の額は、その居住者に対して課され
る日本国の租税から控除する。ただし、その控除の額は、日本国の租税の額のうちその所得に対応する部分を超えないものとする。
(ii) ブラジルにおいて生ずる所得が、ブラジルの居住者である法人がその議決権のある株式又はその発行した全株式の少なくとも十パーセントを所有する日本国の居住者である法人に対して支払う配当である場合には、日本国の租税から(i)の控除を行うに当たり、当該配当を支払う法人がその所得について納付するブラジルの租税を考慮に入れる。
(b)(i) (a)(i)に規定する控除の適用上、ブラジルの租税は、常に、
(A) 第九条(2)及び(5)の規定が適用される配当並びに第十一条(2)(b)及び(c)の規定が適用される使用料については二十五パーセント
(B) 第十条(2)の規定が適用される利子については二十パーセント
の率で納付されたものとみなす。
(ii) (a)に規定する控除の適用上、ブラジルの租税は、ブラジルの経済開発を促進するための特別の奨励措置であつて千九百七十六年三月二十三日に実施されているもの又はその修正若しくはそれへの追加としてブラジルの租税に関する法令にその後導入されることがあるものに従つて免除又は軽減が行われないとしたならば納付されたであろうブラジルの租税の額を含むものとみなす。ただし、両締約国の政府が当該奨励措置によつて納税者に与えられる特典の範囲について合意することを条件とする。
(c) (b)(ii)の規定の適用上、いかなる場合においても、特別の奨励措置に基づく租税の免除又は軽減がなかつたならば千九百七十六年三月二十三日において有効なブラジルの租税に関する法令の適用の結果課されることとなる租税の額よりも多額の租税が納付されたものとはみなされない。
(d) (2)の規定の適用上、「日本国の租税」には、住民税を含む。
第二十三条
(1) 一方の締約国の国民は、他方の締約国において、同様の状況にある当該他方の締約国の国民に課されており又は課されることがある租税又はこれに関連する要件と異なり又はそれよりも重い租税又はこれに関連する要件を課されることはない。
(2) 「国民」とは、いずれか一方の締約国の国籍を有するすべての個人並びに当該一方の締約国の法令に基づき設立され又は組織されたすべての法人及び法人格を有しないすべての団体で当該一方の締約国の租税に関し当該一方の締約国の法令に基づき設立され又は組織された法人として取り扱われるものをいう。
(3) 一方の締約国の企業が他方の締約国内に有する恒久的施設に対する租税は、当該他方の締約国において、同様の活動を行なう当該他方の締約国の企業に対して課される租税よりも不利に課されることはない。
この規定は、一方の締約国に対し、家族の状況又は家族を扶養するための負担を理由として自国の居住者に対して認める租税上の人的控除、救済及び軽減を他方の締約国の居住者に対して認めることを義務づけるものと解してはならない。
(4) 一方の締約国の企業で資本の全部又は一部が他方の締約国の一又は二以上の居住者によつて直接又は間接に所有され又は支配されているものは、当該一方の締約国において、当該一方の締約国の類似の他の企業が課されており又は課されることがある租税又はこれに関連する要件と異なり又はそれよりも重い租税又はこれに関連する要件を課されることはない。
(5) この条において「租税」とは、すべての種類の租税をいう。
第二十四条
(1) 両締約国の権限のある当局は、この条約を実施するために必要な情報を交換するものとする。このようにして交換された情報は、秘密として取り扱わなければならず、この条約が適用される租税の賦課及び徴収(司法上の決定を合む。)に関与する者(当局を含む。)以外のいかなる者にも漏らしてはならない。
(2) (1)の規定は、いかなる場合にも、一方の締約国に対し、次のことを行なう義務を課するものと解してはならない。
(a) 当該一方の締約国若しくは他方の締約国の法令又はその行政上の慣行に抵触する行政上の措置を執ること。
(b) 当該一方の締約国若しくは他方の締約国の法令の下において又はその行政の通常の運営において入手することができない資料を提供すること。
(c) 営業上、事業上、産業上、商業上若しくは職業上の秘密若しくは取引の過程を明らかにするような情報又は公開することが公の秩序に反するような情報を提供すること。
(3) 両締約国の権限のある当局は、この条約が適用される租税に関し、両締約国における脱税を防止するため、適当な措置を執り、かつ、情報を交換することができる。
第二十五条
(1) 一方の締約国の居住者は、他方の締約国において執られる措置によりこの条約の規定に適合しない課税を受け又は受けるに至ると認めるときは、両締約国の法令で定める救済手段とは別に、自己が居住者である締約国の権限のある当局に対し、その事件について申立てをすることができる。
(2) その申立てが正当であると認められ、かつ、その権限のある当局が適当な解決を与えることができないときは、その権限のある当局は、この条約の規定に適合しない課税を回避するため、他方の締約国の権限のある当局との合意によつてその事件を解決するように努めるものとする。
(3) 両締約国の権限のある当局は、この条約の解釈又は適用に関して生ずる困難又は疑義を合意によつて解決するように努めるものとする。両締約国の権限のある当局は、また、この条約に規定されていない場合における二重課税を除去するため、相互に協議することができる。
(4) 両締約国の権限のある当局は、この条約の規定を実施するため、直接相互に通信することができる。
第二十六条
この条約の規定は、国際法の一般原則又は特別の協定の規定に基づく外交官又は領事官の租税上の特権に影響を及ぼすものではない。
第二十七条
(1) この条約は、批准されなければならない。批准書は、できる限りすみやかにリオ・デ・ジャネイロで交換されるものとする。
(2) この条約は、批准書の交換の日の後三十日目の日に効力を生じ、かつ、この条約が効力を生ずる年の翌年の一月一日以後に開始する各課税年度において生ずる所得について適用する。
第二十八条
いずれの一方の締約国も、この条約の効力発生の日から三年の期間を経過した後に、外交上の経路を通じて他方の締約国に対し書面による終了の通告を与えることにより、この条約を終了させることができる。ただし、その通告は、各年の六月三十日以前に与えなければならず、この場合には、この条約は、終了の通告が与えられた年の翌年の一月一日以後に開始する各課税年度において生ずる所得について効力を失うものとする。
以上の証拠として、下名は、それぞれの政府からこのために正当な委任を受け、この条約に署名した。
千九百六十七年一月二十四日に東京で、ひとしく正文である日本語、ポルトガル語及び英語により本書二
通を作成した。解釈に相違がある場合には、英語の本文による。
日本国政府のために
三木武夫
ブラジル連邦共和国政府のために
ジュラシ・マガリャンエス