[文書名] 対外メキシコ経営者評議会主催レセプションにおける田中内閣総理大臣挨拶
対外メキシコ経営者評議会会長、全国工業会議所連合会会頭、日墨経済協議会委員長
御列席の皆様
只今レゴレタ会長並びにヤルサ会頭より暖かい歓迎の辞を頂き、心から感謝しております。
サボテンとピラミッドの国として親しまれているメキシコを訪問し、メキシコ経済界を代表する皆様にお目にかかれましたことは私の無上の喜びとするところであります。
両国交流の歴史は古く数世紀前に遡りますが、その端緒は、両国間に横たわっている太平洋を媒介として、お互いを交易の相手として意識し合ったことによると史実は伝えております。近年の通商関係もこの天与の海洋の活用により着実に伸長して参りました。両国の貿易は昨年で往復五億ドルの規模になり、貴国にとってわが国は米国に次ぐ第二の輸出先、米国、西独に次ぐ第三の輸入先となっており、今後とも順調な拡大発展が見込まれております。
資金協力では、輸出入銀行による数次の電力借款のほか、製鉄所、原子力発電所建設計画等に対するバンクローン供与に加え、太平洋岸・港湾近代計画への政府借款供与が合意されております。この計画が実現した暁には、太平洋が飛躍的に活用され、経済交流の一届の緊密化が遂げられることになります。
技術協力では、従来とも貴国をラ米における最重点国の一つと目して参りました。両国にとり画期的なのは、エチェベリーア大統領の提唱によって実現しました研修生、学生の大規模な交流計画であり、技術での交流を主体に、広く経済、文化交流の面においても計り知れない成果が期待されております。
貴国は強力な経済発展を目指し、高度の技術導入、各種国内産業育成の見地から、外資法その他の整備による投資環境の改善に努めておられ、わが国からの参加企業数は今後とも増加の一途をたどるものと思われます。貴国の国内経済では地域別、産業別の所得格差是正が急務と聞いておりますが、これらに対しわが国が過去の経験や現在の技術を役立てうる分野があれば大いに協力してゆきたいと考えております。
以上両国の経済関係を通観しますと、一昨年の大統領訪日を期に数々の発展があったことが一目瞭然で、一九七二年は両国経済関係新時代の幕開けと呼ぶにふさわしい歴史的な年でありました。私も今回の訪問を、両国経済発展史の一頁に記録されるべき意義深いものとし、大統領が先年わが国で成し遂げられた成果へのお返しにしたいと念願しております。
昨日日本より直接メキシコに飛来して参りました私は、日付変更線の関係もあって、東京出発と同日、同時刻に既にメキシコ・シティの人となっており、われわれは太平洋を瞬時にまたぐ最も近い隣国同志の間柄にあることを実感致しました。今朝の大統領との会談におきまして、環太平洋国家として広く深い協力を確認し合ったのでありますが、この中枢的実力国家である両国間には相互に経済関係を緊密化してゆくべき多くの共通因子が存在しており、既にかなりの契約を挙げております。これまでも経済関係の一層の増進のための手段として、官民それぞれの常設の協議機関が活躍しております。われわれ両国民は太平洋を無二の媒介として、今後とも経済関係を中核とした協力の度合いを拡充、深化させていかなければならないと思います。
私は、日墨協力関係強化の中心的担い手である皆様の御健康と、その属しておられる関係諸団体の一層の御繁栄を祈念しまして御挨拶を終わります。
御静聴ありがとうございました。