データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 田中総理大臣とエチェベリーア・メキシコ合衆国大統領の共同コミュニケ

[場所] メキシコ市
[年月日] 1974年9月15日
[出典] 外交青書19号,78−80頁.
[備考] 
[全文]

 田中角栄日本国内閣総理大臣は、ルイス・エチェベリーア・アルバレス・メキシコ大統領の招待により、1974年9月12日より同15日までメキシコを公式訪問した。

 大統領と総理大臣との会談は、終始極めて親密かつ率直に行なわれたことが特色であつた。

 大統領と総理大臣は、両国間の関係を検討するに当たり、1972年のメキシコ大統領の訪日の成果として両国間の協力と交流が高い水準に達したことを確認した。この点に関し、両国首脳は、両国間に現に存在するきずなは一層強化、拡大されねばならないことについて意見の一致を表明した。

 大統領と総理大臣は、現在の世界情勢について意見の交換を行ない、最近のメキシコ大統領のラテン・アメリカ及びカリブ諸国訪問に関連して、ラテン・アメリカ及びカリブ諸国の連帯が持つ重要性及びこれら諸国が相携えて世界の平和と繁栄になし得る貢献を強調した。

 大統領と総理大臣は、両国が恒久的かつ社会正義を伴う平和の達成のために続けてきた努力を一層強化する必要があることについて意見が一致し、国際連合の事業、特に、国際の平和と安全を強化し維持するために軍備拡張主義をおさえる努力に対するそれぞれの国の支持を再確認した。

 大統領は、平和と人類の福祉の達成のためには先進国と開発途上国との間に真の経済的均衡が達せられることが不可欠であることを強調した。この点に関連し、大統領は、今月開催される国際連合総会において、国家間の経済権利義務憲章が採択されることが必要である旨表明した。

 総理大臣は、世界のすべての国の協力により、相互利益を伴つた人類の調和ある進歩と発展の理想を効果的に追求する発意に対し、深い関心を表明した。

 両国首脳は、次期国際連合総会において憲章が上記の線に従い採択されることを希望する点で一致し、そのために努力を払うことにつき合意した。

 通商関係に関しては、大統領と総理大臣は、日墨間の通商の発展を満足の意をもつて確認するとともに、かかる関係が両国の利益のために一層強化されることが望ましい点について意見の一致をみた。

 両国首脳は、特に満足の意をもつて日墨両国の官民代表の交流を通じて達成された成果に言及し、またすでに存在するきずなと意思の疎通を強化する目的をもつて、かかる交流が促進されることが望ましいことを確認した。

 大統領と総理大臣は、メキシコにおいて実施されている投資計画に対する日本の公的及び私的の資金協力を高く評価し、今後資金協力の対象分野を広げることが望ましいことにつき意見の一致を見た。

 両国首脳は、投資計画の審査とそれに対する融資が、メキシコについてはナショナル・フィナンシェラ、また日本については輸出入銀行等の機関を通じ行われることが望ましいとし、この意味において、一例として前記の機関を通じて成功裡に実施されている発電及び製鉄の分野における融資案件を指摘した。

 大統領と総理大臣は、コリマ州マンサニーリョ港開発のために日本輸出入銀行より供与される借款が近く具体化されることにつき満足の意を表した。

 両国首脳は、日本の資本市場及び国際収支の事情が許す限り、メキシコ政府の新規の公債を前記市場において発行することを支持することに意見の一致を見た。

 大統領と総理大臣は、両国の企業がメキシコ及び日本の経済の発展のために望ましい部門において、新規の共同投資計画を実施することを期待する旨表明した。また、両国首脳は、両国の企業交流を促進するために、両国の企業の活動に関し適切な支持を与えることについて合意した。

 メキシコ及び日本の両国首脳は、文化、教育、科学及び技術の分野において一層交流を促進することについて意見の一致をみた。

 大統領と総理大臣は、1971年に開始された日墨研修生・学生等交流計画は相互の理解と協力を通じて、両国民の間の緊密な友好関係を強化することに、また、個々の人材養成計画の目標を達成することに寄与する効果的な手段であることを評価した。よつて、両国がこの計画をその目的と優先度とに沿うものとするために行つてきた努力を継続することに合意した。

 両国首脳は、日墨学院設立は、両国民の間の相互理解の増進のために画期的重要性を有する計画であるとして、その早期創設を支援する決意を表明した。

 同様に、総理大臣は、日本がメキシコにおける日本研究の促進及び日本語の普及の上で従来の協力を継続するであろう旨を述べた。

 両国首脳は、日墨技術研修センターの設立が望ましく、そのために日本は可能な範囲で技術協力を行うことについて合意した。

 両国首脳は、環境汚染につき、両国が類似の問題をかかえていることにかんがみ、関係機関が科学技術情報を交換すること及びこの問題の専門家を交流することの可能性を検討することについて合意した。

 両国首脳は、科学技術協力基本協定を近い将来において締結するため、意見の交換を続けてゆくことが望ましいことを認めた。

 総理大臣は、大統領に対し、メキシコ滞在中に総理大臣及び随員一行が受けた友情に満ちた暖いもてなしに対し衷心より感謝の意を表明した。同時に、メキシコの独立記念式典行事に参列し、その機会に日本国民の名においてメキシコ国民に直接祝意を表明することができたことを喜びとするとともに、メキシコ国民及びメキシコ国の繁栄と幸福を心から祈念した。

 エチェベリーア大統領は、田中総理大臣がこの国民的行事へ参加されたことに満足の意を表明するとともに、日本国民及び日本国の繁栄と幸福に対するメキシコ国民及びメキシコ国の祈念を重ねて表明した。