データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 田中総理大臣のブラジル連邦共和国公式訪問に際しての日本とブラジルの共同発表

[場所] ブラジリア
[年月日] 1974年9月17日
[出典] 外交青書19号,80−83頁.
[備考] 仮訳
[全文]

1. 日本国総理大臣田中角栄閣下は、ブラジル連邦共和国大統領エルネスト・ガイゼル陸軍大将閣下の招待により、ブラジル国を公式訪問した。田中総理大臣は、1974年9月16日から18日まで、ブラジリアに滞在した後、18日から21日までイパチンガ(ミナス・ジェライス)、リオ・デ・ジャネイロ及びサンパウロを訪問する予定である。

2. 田中総理大臣のブラジリア滞在中、大統領と総理大臣は率直かつ友好的な雰囲気の中で、二度の会談を行ない両国間に存在する友誼と相互信頼を再確認した。

3. 大統領と総理大臣は相互に関心を有する国際情勢、なかんずく米州及びアジアの情勢に関する広範囲の問題につき検討した。

 ガイゼル大統領は米州関係と世界情勢に関するブラジル外交政策の基本方針につき説明したのに対し、総理大臣はブラジルが果たすべきますます重要な役割を高く評価した。

 田中総理大臣は日本の外交政策との関連において、アジア及び太平洋地域における情勢と日本の同地域における立場について説明した。大統領は総理大臣に対して、同国の最近の中華人民共和国との外交関係樹立を含めアジア問題に関するブラジル政府の見解について説明した。総理大臣は、この地域におけるブラジルの増大する関心を歓迎する旨述べた。

 大統領と総理大臣は諸国家の行動の調和のための基本的な場としての国際連合の重要性を再確認し、両国外交政策の主要目的である平和、開発及び安全保障に対する努力への引き続いての支持を誓約した。

 また、両者は現下の国際的緊張緩和、ヨーロッパ情勢の進展、及びアフリカ大陸における非植民地化の進行に関する最近の出来事について意見の交換を行なつた。

 両者は、国際連合及び国際社会が中東問題を不断の検討の下に置くべきであり、関連あるすべての問題に対し正当な解決が見い出されるべきであるとの確信を再確認した。

4. 大統領と総理大臣は、継続する軍備競争、わけても核兵器競争に対する憂慮を表明し、有効な国際管理の下における全面軍縮に対する努力への両者の支持を重ねて明らかにした。

5. 大統領と総理大臣は国際貿易関係について検討した。両者は1973年9月東京において採択された閣僚宣言に対する両国政府の支持を再確認するとともに、世界貿易の拡大とより一層の自由化を達成し開発途上国の国際貿易に追加的利益を確保するために多国間貿易交渉をさらに促進する必要性が増大していることに同意した。

6. 大統領と総理大臣は二国間貿易が著しく増大し、往復10億ドルを越えたことに満足の意をもつて留意するとともに、二国間貿易の一層の増大と多様化を促進するための努力が引続き必要であることを認めた。

7. 大統領は総理大臣に対して外国投資に関するブラジルの政策について説明し、ブラジル経済に対する日本の資本投資はブラジル国家開発計画の枠内において特に歓迎される旨表明した。

 大統領と総理大臣はブラジルに対する日本の投資が増大し、引き続き両国に対して利益をもたらすことを期待する旨表明した。

 大統領と総理大臣はブラジルの経済開発とアマゾン地域の開発に大きく寄与すると期待されるアマゾン地域の水力発電及びアルミニウム精錬計画について討議し、両者は日本の民間業界とブラジル側当事者との間でその最終段階において年産64万トンに達することが計画されているアルミニウム精錬計画の調査実施のための合弁会社設立につき合意が成立した事実に満足の意を表明した。

 さらに、両者は本日リオ・ドーセ社と日伯紙パルプ資源開発会社との間で調印された取極の対象である森林・パルプ開発事業を達成するために両国政府が共同の努力を行うことについて、同様に満足の意を表明した。本事業は年間300万トンのチップと100万トンのセルローズを生産し、1万5千人に対し直接雇用の機会を創り出すことが見込まれる。

 大統領と総理大臣は、ブラジルの農業事業におけるブラジル資本と日本の民間資本との間の一層の提携の可能性を歓迎した。これらの事業はブラジル側の過半数の資本参加を得て農産物の生産、企業化及び商品化に従事し、ブラジル国内市場の需要に優先度を与え、かつ生産の一部は輸出向けに計画される。両国政府はこれらの農業事業に対する適切な支援について検討する予定である。

 大統領と総理大臣は、漁業開発のために、日本とブラジルの民間部門が共同の努力を行うことを歓迎した。これに関連し、総理大臣は、ブラジルにおける漁業調査に対する日本の技術的支援の可能性を考慮しつつ、中断されている日伯漁業協定交渉が近い将来再開されることを期待する旨表明した。

8. 大統領と総理大臣は、また、日本とブラジルとの協力の強化、とりわけ科学、技術及び原子力の平和利用の分野における協力を強化することの相互利益についても検討した。

 両者は、日本とブラジルとの間の技術協力基本協定の枠内で両国間における専門家及び技術的情報の交換を促進することに合意した。両者は、更に、原子力の平和利用の分野におけるより一層の協力の必要を認め、できる限り早期に両国政府間において事務レベルの協議を開始することにつき合意した。

 日本及びブラジル両国政府は、産業汚染規則及びエネルギー消費節約の分野における政府及び民間レベルの技術の交流の可能性についても検討する。

9. 大統領と総理大臣は、自国の経済見通しに関して意見交換を行い、国際的及び国内的問題を勘案しつつ、両国が安定的かつ持続的成長を目標としていく意向であることに留意した。

10. 総理大臣は両国間の文化交流の拡大と友好関係の強化を希望し、日本国政府はサンパウロ大学日本文化研究所を建設するために、同大学に対し資金を贈与する意図であることを表明した。

11. 総理大臣は、ブラジル政府が、1975年沖縄で開催される国際海洋博覧会への正式参加を求めた日本政府の招待を受諾したとの決定を大いなる満足の意をもつて確認した。

12. 大統領と総理大臣は両国間関係の全般にわたり再検討を行つた結果、両国関係の一層の強化の見通しが存在することに満足の意をもつて留意するとともに、両国の利益のためにあらゆる分野において一層の接触の促進を図るとの固い決意を表明した。この目的のため両者は次の要件に基づき日伯閣僚協議会を設立することを決定した。

(1) 本協議会は両国が共通の利益と関心を有する諸問題につき検討することを目的とする。

(2) 本協議会は両国の外務大臣のほか他の閣僚が討議事項に応じ参加する。

(3) 本協議会は相互の協議に基きブラジリア又は東京において開催される。

13. 総理大臣は、大統領に対し、1975年秋の双方にとり都合のよい時期に国賓として訪日されるようにとの招待を重ねて行つた。大統領は、この招待を喜んで受諾する旨表明した。

14. 総理大臣はブラジル滞在中に総理大臣および随員一行が受けた友情に満ちた暖かいもてなしに対し、衷心より感謝の意を表明した。