データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] トルドー首相主催晩餐会における田中内閣総理大臣挨拶

[場所] 
[年月日] 1974年9月23日
[出典] 田中内閣総理大臣演説集,518ー519頁.
[備考] 
[全文]

 トルドー首相閣下、御列席の皆様

 本日は、私どものためにかくも盛大な晩餐会を催していただぎ、厚く御礼申し上げます。

 私は貴国を訪問するたびに、貴国の美しい大自然、広大な土地及び人情味あふれる国民性に深い感銘を受けております。カナダの雄大な大自然を見事に描写した言葉として、アルプスのマッターホルンの第一登頂者として名高い英国の登山家エドワード・ウィンパーが、カナディアン・ロッキーを「さながら五十のスイスを一堂に集めた景観」と覚嘆したことを想起するものであります。

 本年四月、パリにおいて貴首相に初めてお目にかかった際、私は貴首相の若々しい力強さと知性に深い感銘を受けました。今回、貴首相の御招待により、こうして貴国を訪問し、貴首相に再びお目にかかることができましたことは、この上ない喜びであります。

 私は、一九四七年、二十八歳で衆議院議員に当選して以来、二十五年間衆議院議員を勤めた後、一九七二年に五十四歳のとき首相に就任しました。自分では若くして首相になったと思っておりましたが、貴首相は一九六五年下院議員に当選されてからわずか三年後、私よりも六歳も若い四十八歳のとき首相の座につかれたのであります。これは貴首相が政治家として卓越した資質を持っておられるからにほかなりません。

 先般のカナダ総選挙において貴首相の率いる自由党が大勝利を収められたのは、貴首相が七つのタイム・ゾーンを待った広大なカナダ全土において若々しい行動力に満ちた選挙戦を繰りひろげられ、加えて美しい令夫人の内助の功に負うところ大であったためと伺っております。

 私は、二つのかけがえのない土産をわが国に持ち帰ります。一つは、カナダ国民の日本国民に対するかわらぬ友情であります。他の一つは、今日世界の困難な局面に、進取の気性をもって取り組もうとしておられる貴国の姿であります。貴首相は、機会あるごとに「若さと挑戦の国力ナダ」と国民に呼びかけられておりますが、これこそわが国民に紹介しなくてはならない次代のカナダを代表するイメージではないかと思います。

 トルドー首相の御健康と御繁栄のために皆様と乾杯したいと思います。