[文書名] 田中角栄総理大臣とピエール・エリオット・トルドー・カナダ首相との間の共同声明
1. 田中角栄日本国総理大臣は、ピエール・エリオット・トルドー・カナダ国首相の招待により、9月23日から26日までの日程で、カナダを訪問中である。田中総理大臣は、オタワ、トロント及びヴァンクーヴァーを歴訪中、1974年9月23日及び24日、オタワにおいてトルドー首相と会談した。両者の会談はうちとけた友好的な雰囲気のもとで進められた。田中総理大臣は、9月25日にトロントを、9月25日及び26日にヴァンクーヴァーを訪問し、ヴァンクーヴァーにおいては、トルドー首相の名において催される晩餐会に出席する。田中総理大臣は、9月26日カナダの公式訪問を終了し、同日夕刻日本への帰途につく。
2. 両国首相は、両国間の関係が近年緊密の度合いを深めつつあり、特に経済、貿易面での交流が着実に拡大していることに満足の意を表明した。両者は、日加両国が今後さらに政治、経済、文化、科学技術等多岐にわたる分野で協力関係を育成、拡大し、かつ、充実したものとすべく不断の努力を行い、もつて日加関係の基盤を一層幅広く、かつ、深みのあるものとすることに合意した。両者は、かくして日加関係の新時代の幕が開かれることを希望した。
3. 両国首相は、二国間の問題から多数国間の問題及び世界の各地における最近の動向にわたる広範な問題について討議し、今後とも両国政府間で緊密な協議を続けて行くことに合意した。この関連で、両者は、10年以上の歴史をもつ日加閣僚委員会の役割を高く評価し、明年の早い機会に同委員会の次回会合を日本で開催することに合意した。両者は、政府レベル及び他のレベルでの両国間の協議の慣行が確立されつつあることに意を強くし、かかる協議が将来一層大きな役割を果すであろうとの確信を表明した。
4. 両国首相は、多くの政治的経済的な願望及び理念を同じくする先進工業民主主義諸国間の協力関係の進展が近年ますます必要となつていることに留意し、日加両国が諸々の国際機関及び国際会議の場において、世界のあらゆる国の利益のために、先進工業民主主義諸国間の協力関係を一層実りあるものにするよう、今後とも努力を続けてゆくことに合意した。
5. 国際情勢を検討するにあたり、両国首相は、太平洋に面する両国が特別の関心を有するアジア・太平洋地域の情勢に特に注意を払つた。両者は、平和と安定を志向する世界の動きの中で、アジア・太平洋地域が、関係諸国間の対話の進展と地域協力の増進により全体として一層安定化の方向に向つて行くであろうと信ずる根拠が存在するが、局地的には依然として不安定要因が存続していることに意見の一致をみた。両者は、同地域が直面している諸問題について引続き緊密な協議を行つてゆくことに合意した。
6. 両国首相は、最近のすべての核実験に対し深い憂慮の念を表明し、日加両国はすべての核実験の停止を強力に追求することを再確認した。両者は、核兵器保有国になることを排するとの両国政府の決意を確認しつつ、軍縮、なかんずく核軍縮の促進及び核拡散の防止のため、すべての国による献身的な努力が必要であることを再確認した。両者は、かかる分野におけるすべての核保有国の責任を強調した。さらに、両者は、国際的安定と世界平和の推進のために、アメリカ合衆国及びソヴィエト社会主義連邦共和国が軍備管理の分野において一層の進展を達成することを希望した。
7. 両国首相は、最近ニューヨークにおいて日加国連協議が開催されたことを歓迎しつつ、日加両国がそれぞれ国際連合においてとつている立場は大要において類似していることに留意した。両者は、国際連合が国際平和及び国際協力の促進に果しうる重要な役割を認識し、両国が国際連合に関する諸問題につき引続き緊密に協議してゆくことに合意した。
8. 両国首相は、昨年秋以降の新たな情勢の進展により世界経済に重要な変化が起りつつあることを認識し、世界的性格を持つた経済問題に対処するために、すべての国が緊密な協力を行うことが緊要であるとの確信を表明した。両者は、特に世界経済の順調な発展に脅威を与えているインフレーションに対処するために、国際的な協調を維持する必要性を再確認した。両者は、このために両国が積極的な貢献を行うとの決意を表明した。両者は、かかる認識に基づき、より良き国際経済関係の確立を目的として、貿易、エネルギー及び国際通貨の分野において多角的枠組みの中で現在進められている作業が成功裡に完了することを重要視していることを再確認した。
9. 両国首相は、両国政府が1973年9月東京において採択された大臣宣言を支持していることを再確認し、なかんずく世界貿易の拡大と一層の自由化及び世界の諸国民の生活水準と福祉の向上を達成することを目的とする多角的貿易交渉の一層の進展をはかる必要性が各国政府にとつて増大していることにつき意見の一致をみた。両者は、通貨問題に関し、国際通貨基金の20カ国委員会における討議を検討し、1974年6月に同委員会が採択した国際通貨改革のための漸進的アプローチにつき賛意を表明した。両者は、本年5月の経済協力開発機構閣僚理事会において採択された、加盟各国は昨秋以降の石油価格高騰に伴う困難に対処する目的で、貿易その他経常収支上の取引について一方的制限等の措置をとることを今後1年間回避する旨の宣言に対する支持を再確認した。
10. 両国首相は、現下の世界経済情勢の下で、発展途上国、なかんずく国際収支の問題に起因する深刻な困難に直面している非産油国を援助するために、従来にも増した国際的協力が必要であることに留意した。両者は、これらの国を援助するために両国がとつた措置並びにとることを計画している措置を説明した。両者は、食糧及び肥料援助問題が特に重要であることに意見の一致をみ、世界食糧会議が、世界の、なかんずく発展途上国の、食糧供給能力の増大に寄与することを両国とも希望している旨表明した。
11. 日加貿易経済関係は世界の経済事情と密接な関連を有しており、かつ、日加両国の経済的相互依存関係を深めることは両国が変動する世界経済の情勢に対処することをより容易にするとの認識の下に、両国首相は、より自由で互恵的な日加貿易経済関係を促進することの重要性を確認した。両者は、この目的のため、また両国間の関係を一層広く、かつ、深みのあるものとするとの見地から、日加両国があらゆるレベルにおいて頻繁に意見と情報の交換を行うことが両国にとり重要であることを確認するとともに、日加両国間には閣僚委員会に加え、資源小委員会、農業問題に関する会合等の有益な対話の場があることを満足の意をもつて留意した。両者は、この関係で、資源小委員会を早期に開催することに合意した。
12. 両国首相は、日加両国間の貿易規模が過去10年間に7倍近くに拡大したことに満足の意をもつて留意するとともに、両国間の貿易関係を一層拡大することの重要性につき意見の一致をみた。トルドー首相は、カナダの輸出中原材料の比重が大きいことに言及し、高度の技術を必要とする品目を含む製品の販売の増大に関するカナダの関心を表明した。田中総理大臣は、日本の市場はこれらの製品のために開放されており、従つて、一層の努力を行うことにより、カナダから日本へのこれらの製品の輸出を拡大する余地が大きいことを強調した。
13. 両国首相は、民間航空関係を互恵的に拡大することが必要であることに留意した。両者は、また、両国政府の科学技術使節団の相互訪問を通じ、科学技術の分野における両国間の協力関係が一層拡大しつつあることに留意し、今後もかかる分野においてさらに両国にとつて利益になる形で交流を拡大する余地が大きいことを強調した。
14. 両国首相は、世界経済において鉱物・エネルギー資源及び農林産品が引続き重要であることを認めた。トルドー首相は、カナダ政府の原材料の加工度向上政策を説明し、カナダは加工品及び製品の輸出を増大することに関心を持つていることについて敷衍した。田中総理大臣は、日本の産業構造の発展に関する同国の見解及びその対外経済政策を説明した。両国首相は、従つて両国にとつて利益となる形で経済関係の緊密化をはかるために、この分野において引続き協力する余地が大きいことに合意した。
15. 両国首相は、それぞれの国の外貨政策及び両国間の資本の流れが相互にとつて利益になる形で促進されるような環境を両国が保証しうる方法について討議した。トルドー首相は、カナダはカナダ国民が相当の利益を享受するような外国投資を引続き歓迎することを強調した。
16. 両国首相は、西部カナダにおけるタールサンドの開発の可能性について討議し、両国政府がこの問題について緊密な連絡を維持すべきことに合意した。
17. 両国首相は、通商に関する日本国とカナダとの間の協定がすでに20年以上にわたり施行されてきていることに留意し、両国間の経済関係を一層促進するために、同協定改訂の可能性を積極的に探究することに合意した。
18. 両国首相は、原子力の平和的利用における協力のための日本国政府とカナダ政府との間の協定の枠組みの中で、原子力の分野における両国間の協力を一層促進することに合意した。
19. 両国首相は、主として漁業問題に焦点をあてて第三次国連海洋法会議(カラカス会期)の結果について協議した。両者は、今後とも海洋法問題につき緊密な協議を続けてゆくことに合意した。
20. 両国首相は、相互理解を促進するために、すべてのレベルにおいて両国間の意思疎通を拡大し、かつ、実り多いものとする努力を行うことが重要であることに合意した。田中総理大臣及びトルドー首相は、かかる目的に向かつて払う努力の一環として、学術上の関係を促進するためそれぞれ約100万ドルから成る相互に同等、かつ、補完的な計画を創設する意向を表明した。前記金額は、主としてカナダにおける日本研究及び日本におけるカナダ研究の発展のために使用される。両者は、日加両国間の文化交流を一層拡大するために両国間に文化協定を締結することが望ましいことに合意し、このため適当な時期に交渉を開始することについて意見の一致をみた。
21. 田中総理大臣は、トルドー首相に対し日本国政府よりの訪日招待を伝達し、トルドー首相は、右招待を喜んで受諾した。両国首相は、日加閣僚委員会の次回会合及びその後のトルドー首相の訪日を通じて、日加関係の一層の発展を求める気運がますます高まつて行くことを期待した。