[文書名] 総理主催晩餐会における田中内閣総理大臣挨拶
トルドー首相閣下、並びに御来賓の皆様
本日をもって私共一行のオタワにおける行程を終えますが、オタワ滞在中私共に寄せられました暖かい御歓待に対し、トルドー首相はじめカナダ政府関係者並びにオタワ市民に対し衷心より謝意を表したいと思います。
貴首相が一九七〇年の大阪万国博覧会の「カナダデー」に際し、「カナダ国民にとり太平洋はニュー・ウェストである。」といわれたことは、いまだわれわれ日本国民の記憶に新しいところであります。世界に欧州中心の考えが強かった時代以来、日本を含む東アジアは、「極東」と呼ばれて来ましたが、貴首相のことばは今日の時代にふさわしい新しい認識を示すものであります。貴首相との率直な意見交換を通じ、私は貴首相がいかにアジア太平洋地域、とりわけわが国に対し深い理解と関心を寄せておられるかということをあらためて感じた次第であります。
現在、日本においては将来の発展の可能性を無限にひめたカナダとの友好協力関係を一層拡充強化したいとの気運が急速に高まっております。
わが国において貴国は自然に恵まれた国として知られております。湖水と河川に恵まれているカナダには、世界の淡水量の約二割があるといわれています。ちなみにカナダには地図にのる程度の大きさの湖水が二千万余あるといわれておりますから、カナダ人一人が湖ひとつを所有している計算になります。水資源とともに豊富な森林資源については、カナダには事業用森林だけで六億エーカーあるといわれますが、日本の国土の七倍にわたるこの森林から生じる酸素は、年間世界の人口の三倍以上にあたる百二十億人に十分な量であるといわれております。
「居は気を移す」という諺が東洋にあります。私は、広大で豊かなカナダに来て、活力と知性にあふれた素晴しい指導者の方々に接し、日加関係の将来について壮大なビジョンと確固たる自信を抱きました。
貴首相との対話により、日加関係は大いにその地平をひろげ、日加新時代の幕あけにふさわしいものとなりました。私は、太平洋にかかる平和のかけ橋をゆるぎないものにするため、トルドー首相御夫妻をカナダのニュー・ウェスト日本にお招きしたく、ここに皆様の御賛同を得たいと思います。
貴首相の御健康と御繁栄並びに日加関係の飛躍的な発展を祈念して乾杯したいと思います。