データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] カナダ側連邦政府主催晩餐会における田中内閣総理大臣挨拶

[場所] 
[年月日] 1974年9月25日
[出典] 田中内閣総理大臣演説集,531ー533頁.
[備考] 
[全文]

 べロー上院院内総務閣下、バスフォード国税大臣閣下並びに御列席の皆様

 本日は、私共一行のために、かくも盛大な晩餐会を催していただき、一同に代わり厚く御礼申し上げます。総理就任以来楽しみにしておりましたカナダの旅もいよいよ明日で幕を閉じますが、その前に皆様とこうして親しくお話しできる機会を得ましたことは、私の大きな喜びとするところであります。

 私は、本日オタワよりヴァンクーヴァーまで、カナダを横断してまいりました。十八世紀にアレクサンダー・マッケンジーが、アサバスカ湖を出てから約十ヵ月後に、多くの困難を克服して遂に太平洋岸にたどりついたとき、彼の先にはもう道はありませんでした。しかし、本日、私はこのヴァンクーヴァーの地に立って、目前の太平洋をこえて日本につながる大きな橋がかかっているのを見るような思いであります。太平洋は、今や、日本とカナダをわけ隔てているのではなく、両国を結びつけている回廊であります。

 私にとりまして、五回目のこの度の貴国訪問は、トルドー首相との会談、トロント大学の名誉学位授与、日本研究に輝かしい業績を有するブリティッシュ・コロンビア大学訪問等、まことに実り多いものでありました。皆様の心暖まる御歓待、御親切は、貴国の美しい大自然とともに私の生涯忘れ得ない思い出となるでありましょう。

 国家間の関係といってもそれ自体は抽象的なものであり、何よりも重要なことは、人間相互のつながり、国境を越えた国民一人一人の友情と信頼関係の存在であります。私はトルドー首相との会談においても、このことを強調し、日加両国民の間の交流を深めるために何ができるか真剣に話し合いました。その成果の一つとして、日加間の文化の交流を深めるため、具体的な合意に達しましたことは、私の欣快とするところであります。

 ブリティッシュ・コロンビア州とわが国の交流の歴史は、今後の日加両国民の交流と相互理解に明るい展望を与えるものであります。それは、十九世紀後半の日本移住者の当州上陸、わが国のヴァソクーヴァー総領事館開設から最近のバレット首相をはじめ州要人の訪日に至るまで、ブリティッシュ・コロンビア州は日加両国民の直接の接触の舞台として、常に先駆的役割を果たして来たからであります。

 私は、新しい日加協力関係のひとつの重要な側面を示す例として、当州首相ヴィクトリアに建設されるピアソン・カレッジに日本政府が協力することになったことを喜びをもって報告したいと思います。カナダの生んた世界的政治家の一人であるピアソン氏の遺志に則り、国際人の養成と国際理解の涵養・促進を目的として設立されるこのカレッジに、日加両国か相携えて参画することは、両国の協力関係を広くアジア・太平洋地域、ひいては世界のために実らせて行こうとの意気込みを示す象徴的な出来事であり、私はこの事業の成功を心から念願するものであります。

 日本への帰国を目前に控えて、私は、この魅力に富んだカナダを本当に去りがたく思っております。私は、ここにあらためて、日本国民を代表してカナダ国民に対する日本国民の揺ぎない友情と信頼の念を表明いたしたいと思います。

 最後に、皆様の御健康とカナダの繁栄をお祈りしつつ、乾杯いたしたいと思います。