[文書名] エルネスト・ガイゼル・ブラジル連邦共和国大統領夫妻の訪日に際しての共同コミュニケ
1.ブラジル連邦共和国大統領エルネスト・ガイゼル閣下及びルシイ・マルクス・ガイゼル夫人は,日本国政府の国賓として1976年9月15日より20日までの日程で日本を公式訪問した。
大統領には,アントニオ・F・アゼレド・ダ・シルヴェイラ外務大臣,セヴェロ・ファグンデス・ゴメス商工大臣,シゲアキ・ウエキ鉱山・動力大臣,ジョアン・パウロ・ドス・レイス・ヴェローゾ企画庁長官,ウーゴ・デ・アンドラーデ・アブレウ国務大臣(陸軍中将,大統領府武官長)ほか政府の高官が随行した。大統領には,また,ビルジリオ・タボラ上院外交副委員及びジョアキン・コウティンニョ下院外交委員長が随行した。
2.ブラジル連邦共和国ガイゼル大統領夫妻は,9月16日日本国天皇・皇后両陛下と会見した。
3.ガイゼル大統領と三木総理大臣は,9月17日及び18日の両日率直で友好的な雰囲気の中で会談した。大統領と総理大臣は両国関係の現状と国際情勢に関する日伯両国の立場を検討し,特に米州及びアジアの両大陸における情勢について特別な関心を払つた。
両首脳は,この会議が非常に有益かつ時宜を得たものと考えた。
両首脳は,ガイゼル大統領の訪日が両国間の協力関係を強化することとなろうと確信した。
4.大統領と総理大臣は,世界の諸問題に対する両国政府の基本的な関心事について広範に亘り見解の一致を示したことに満足をもつて留意した。両国首脳は,ともに地域的かつ世界的な分野における日伯両国の増大する責任を認識した。この意味において両国は,最も広範な国際的連帯に役立つような開放的かつ建設的な対話を基本として,それぞれの外交政策を実施する。
5.大統領と総理大臣は,両国政府が平和主義に徹しており,その平和主義は全ての国家間の政治的経済的関係において正義の下に追求されるべきことを再確認した。両首脳は,国民の福祉が経済成長の終局的目標であり,国際社会は,真に安定した世界秩序のため永続的な基礎として,相互依存の考え方へより一層向うべきであるとの共通した見解を表明した。このため日伯両国は,可能な範囲内で先進諸国と開発途上国間の現在の対話に自ら積極的に参加することを再確認した。諸国家間の協調が人類の生存のための必須の条件となつている現在の歴史的時点において,日伯両国政府は,国連等国際機関における協力を含めて国際政治,経済,文化面において両国の協力を緊密化してゆくとの決意を新たにした。
6.大統領と総理大臣は,両国が伝統的友好に従つてその関係を拡大しつつある事実に満足の意を表明した。この増大しつつある関係は,平等の原則と互恵的協力に基礎をおくものである。両国政府は,相互に国家主権と独立を尊重しつつ,両国間の紐帯を一層強化すべきことを決意した。
7.大統領と総理大臣は,大統領訪日の機会に両国の第1回閣僚協議会が開催されたことに満足の意を表するとともに,両国間の全般的関係の増大しつつある重要性に調和して,更に両国関係を強化しようとする意図を再確認した。
総理大臣は,このような意図の具体的表現として,閣僚協議会において取挙げられた諸協力案件をはじめ,各種案件を推進するため,今後対伯輸出信用供与の総額はかなり増加するであろうと述べたのに対し,大統領はこれを歓迎し,同信用はブラジル工業が未だ供給するに至つていない設備及び資本財の購入に充当することでブラジル産業を発展させるのに貢献するであろうと述べた。他方,大統領は,ブラジルはきたる数年間にかなりの量のブラジル産品の対日輸出を期待すると述べた。
更に,両首脳は日伯間の貿易が量的に著しい水準に達したが,両国経済の補完性を考慮し,産品の実情をふまえつつ,長期的かつ安定的な基礎の上に更に一層調和して拡大されるべきことに意見の一致をみた。
8.大統領と総理大臣は,第1回閣僚協議会において,特にブラジルの第2次経済社会開発に関連して,日本側とブラジル側双方が経済・通商金融及び工業技術に関し明確な見解の一致をみたことを高く評価し,このことが21世紀に至る日伯間の協力関係を飛躍的に発展させる上で大きく貢献するであろうとの認識で一致した。
(8−1)日本側とブラジル側の双方は,1977年着工予定のパラ州ベレン地区におけるアルミニュウム工場の建設に協力し,また,経済性の高いプロジェクトとして成功裡に実施されるために協力することで意見の一致をみた。更に双方は,当事者間の取決めに従い,アルミ生産物の一部が長期安定的に対日輸出されることを確認した。
(8−2)双方は,両国官民の協調の下に,ブラジルのセラード地帯における農業開発推進計画の検討が着実に進捗しつつあり,この度両国政府の代表は,試験的事業(Pilot Project)に関する具体的枠組に関し共通の立場に到達したことに満足をもつて留意した。
両国に設立される投資会社を通じ,農業生産活動の支援及び推進を図るため,前記枠組を推進する中核的機関たる農業開発会社が近々ブラジルにおいて設立されることが期待される。
また,双方は,セラード地帯における日伯農業研究協力プロジェクトに関する取極が近く両国政府間で締結される運びとなつたことを歓迎した。
かくして,今後セラード地帯の農業開発をめぐつて日伯間の協力が今後とも進展するであろうとの期待が表明された。
(8−3)双方は,ツバロン製鉄所の第1期工事の建設に協力し,また経済性の高いプロジェクトとして成功裡に実施されるため協力することで意見の一致をみた。
更に,双方は当事者間の取決めに従い,生産物のスラブの一部が長期安定的に対日輸出されることを確認した。
(8−4)ブラジル側は,日伯相互の関心である若干の合弁事業計画をも裨益するであろうプライアモーレ港建設計画の実施のため,日本国政府の協力を要請した。日本側は,ブラジル大統領の日本への公式訪問という前例のない機会に特別の考慮を払いつつ,日本国の関係法令に従つて,資金協力及び技術協力を行なう用意のある旨表明した。
(8−5)双方は,森林・パルプ資源の開発に関連した合弁事業の進展状況を討議した。この分野における最初のプロジェクトたるCENIBRAが,本年末操業開始の運びとなつたことを満足をもつて留意した。
他方,双方はバイア,エスピリオ・サント及びミナス・ジェライスの各州にまたがつて実施の緒についたFLONIBRAのプロジェクトが一層の成果を挙げるために,CENIBRAの場合と同様に引続き当事者間において最善の努力が払われるべきことに留意した。
更に双方は当事者間の取決めに従い,パルプ及びチップの年産量の中の一部が長期安定的に対日輸出されることを確認した。
(8−6)双方は,従来日伯間の協力のシンボルとなつてきたウジミナスの第2期拡張工事に関する増資に対する日本資本の参加が決定したことに留意した。
双方は,ウジミナスの第3期拡張計画についても討議したが,この点について日本側は,日本からの機材購入のための輸出信用が供与されるであろう旨を表明した。
(8−7)双方は,日本鉄鋼業に対するブラジル鉄鉱石の安定供給の拡大を図ることが両国の利益になるという認識で一致した。
双方は,カパネマ等のブラジル鉄鉱山開発計画に関し,両国の当事者間で協力が進展していることを認めた。
(8−8)双方は,1977年後半に操業開始予定となつており,現在両国の当事者間の協力により順調に進展しているニブラスコ合弁事業が当事者間の取決めに従い長期安定的にペレットを対日輸出する見通しであることを認めた。
(8−9)双方は,工業技術協力の分野における協力を強化することに合意し,最近東京において日本の関係当局とブラジル側ミッションとの間でかかる協力の分野と目的について実りある討議が行われたことに満足をもつて留意した。
双方は,この協力が,両国政府間の全般的経済協力の下に調和されて,実施されることに合意し,工業技術協力が両国間に現存する友好的かつ協力的な関係に新時代を画するものであるよう希望を表明した。
(8−10)ブラジル側は,ブラジル農産品の対日輸出が,ブラジル経済にとつて大きな意義を有するものであることを強調し,主要な農産物について安定的な対日輸出を確保するため,両国民間ベースによる長期契約を推進したいとの希望を表明した。
日本側は,ブラジル側の発言に留意しつつ,今後ブラジル農産品の日本への輸入が増大し,ブラジルが日本に対する農産品の重要な供給国の1つとなる可能性がある旨述べた。
(8−11)双方は,両国間の投資分野における協力が進展していることを歓迎し,かかる協力を一層促進する環境を醸成するために共同で必要な措置について検討を開始することに合意した。
この点について,両首脳は,両国間の情報交換を促進する措置が両国間の全般的な協力の一環として検討されるであろうことを認めた。
(8−12)双方は,現在東京市場における円建ブラジル国債発行のための交渉が行われていることに言及し,最近日本の資本市場に対するアクセスの機会がブラジルにとつて増大しつつあることに留意し,この点についてブラジル側は満足の意を表明した。
(8−13)双方は,海運同盟が安定輸送に果たす役割を高く評価するとともに,その運営に当つては互恵平等の考え方が漸進的に受入れられる方向に向うべきであることを確認した。
(8−14)日本側は,現在ブラジル経済開発銀行(BNDE)に供与中の日本輸出入銀行による現行借款に基づく契約承認が完了した段階でブラジル民間業界が日本製機械,施設,役務を購入できるようBNDEに対する借款を検討すること,また,ブラジル銀行に対しても借款供与を検討する用意がある旨を示唆した。
(8−15)双方は,ブラジル企業の優先プロジェクトを実施するため,日本市場において資金調達を目的とした日本の銀行借款団を組成する話合いが進められていることに留意した。この点について日本側は,民間銀行の意向を尊重しつつ本件を好意的態度をもつて検討する用意がある旨述べた。
(8−16)双方は,ともに日伯間の航空業務の秩序ある発展が奨励されるべきことを認めた。
9.大統領と総理大臣は,文化交流が日伯両国民間の相互理解の上で重要な役割を果しつつあることに満足の意を表明した。両首脳は,両国が今後とも各般の分野における両国間の文化及び学術交流を増進すべき旨を再確認した。
10.大統領と総理大臣は,一方の国民の他国への入国及び滞在を容易にすることの有用性を認め,両国政府が右を目的として適当な措置をとる可能性を検討することを決定した。
11.大統領は,ブラジルが多くの日本人移住者を歓迎してきた国であり,これら移住者がブラジルの発展に重要な貢献をなしてきたことを想起した。総理大臣は,この発言を深い満足をもつて受けとめ,両国間の人的交流が今後更に増大することを希望した。
12.ガイゼル大統領閣下及びガイゼル夫人は,日本国官民より受けた厚遇に謝意を表明するとともに天皇・皇后両陛下並びに皇室の御多幸と日本国民の繁栄を衷心より祈念する旨述べた。