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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 福田総理大臣とロペス・ポルティーリョ・メキシコ大統領との間の共同コミュニケ

[場所] 東京
[年月日] 1978年11月2日
[出典] 外交青書23号,404−407頁.
[備考] 
[全文]

 ホセ・ロペス・ポルティーリョ・メキシコ合衆国大統領及びカルメン・ロマーノ・デ・ロペス・ポルティーリョ同令夫人は日本国政府の招待により、1978年10月30日から11月4日まで国賓として日本を訪問した。

 大統領には、ロドルフォ・ゴンサレス・ゲバラ下院大委員会委員長、アグスティン・テリェス・クルセス最高裁判所長官、ホアキン・ガンボア・パスコエ上院大委員会委員長、サンティアゴ・ロエル・ガルシア外務大臣、ダヴィド・イバラ・ムニョス大蔵大臣、ホセ・アンドレス・デ・オテイサ国有財産・工業振興大臣、ギリェルモ・ロセール・デ・ラ・ラマ観光大臣、フェルナンド・ラフール・ミゲル漁業長官、ホルヘ・ディアス・セラーノ石油公社総裁、アドリアン・ラユウス・マルティネス外国貿易庁長官、エドムンド・フローレス科学・技術審議会長官、グスタボ・ロメロ・コルペック・メキシコ中央銀行総裁、エクトル・エルナンデス外国貿易担当次官が随行した。

 大統領夫妻は、10月30日皇居において天皇・皇后両陛下と会見した。

 滞在中、大統領は日墨議員連盟の議員と会談し、最高裁判所長官及び判事と会見した。また、第10回日墨経済協会議に参加するとともに、日本の経済団体の指導者と会談を行つた。名古屋及び大阪においては、商工会議所会員、指導者、名古屋・メキシコ友好協会会員と会合するとともに、港湾及び工業施設を訪問する。京都外国語大学では、同大学の名誉総長の称号が授与される。

 福田総理大臣とロペス・ポルティーリョ大統領は友好的かつ建設的な雰囲気の下に、二度にわたつて、国際問題及び両国関係につき、広範な会談を行つた。

 両首脳は、アジアと米州の情勢に言及しつつ国際情勢についての、全般的な検討を行つた。また、両首脳は国際連合が国際平和の維持及び国際協力の促進に果してきた役割を高く評価し、国際連合の重要性を再確認した。

 総理大臣と大統領は、かかる目的のため、「憲章及び国際連合の役割強化に関する特別委員会」が、その討議において、国際連合の重要な任務をより活動的かつ効果的に遂行できるような方法を検討し、採択すべきことを強調することに合意した。

 両首脳は、先般ニュー・ヨークにおいて開催された国際連合軍縮特別総会において採択された最終文書に基づき、究極的な目的である効果的な国際管理下での全面完全軍縮を達成するため両国政府が各国の安全保障に留意しつつ最善の努力を行うことが重要であることを強調した。

 一方、総理大臣は、ラテン・アメリカにおける核兵器の禁止に関する条約(トラテロルコ条約)が完全な有効性を達成しつつあることの重要性を認識し、全面的軍縮の一環として、特定通常兵器の使用の禁止もしくは制限、ならびにこれら兵器の移転の禁止に関し、20カ国のラテン・アメリカ諸国による努力が開始されたことを評価した。

 大統領は、すべての諸国間に衡平な経済関係を達成するため、国際連合によつて決議された新国際経済秩序を樹立する緊急性を表明したのに対し、総理大臣はこれを注意深く聞くとともに、この重要な問題について広範にわたつて日本の考えを述べた。

 総理大臣と大統領は、政治、経済及び文化面における2国間関係を詳細に分析するとともに、政府並びに民間レベルでの接触が恒常的に増大していることに対し満足の意を表明した。

 両首脳は、メキシコ大統領の訪問により日本とメキシコとの間の友好関係がより高い次元のものに発展するとの確信を表明した。両首脳は、両国間の交流を相互扶助により行うことを保証するような総合的な観点より両国関係を律することを決意することにより、実り多い相互補完関係を達成しうる可能性が大きいことに意見の一致をみた。さらに、両首脳は、両国関係は貿易の促進にとどまらず、両国が関心を有する経済の各分野において、両国相応の能力により共同投資が促進されることを含め、総合的な考えに基づき補完関係を体系的に探求することにある旨意見の一致を見た。また、大統領はかかる分野として鉄鋼、資本財生産、漁業、技術、金融、観光、天然資源の利用等の分野を指摘した。

 両首脳は、石油及び天然ガスの分野における両国の関心を強調した。また日本に対する輸出のため相当量の原油をメキシコで生産することの可能性について関心をもつて話し合つた。この観点より両首脳は、メキシコが実施し多量の埋蔵量を確認した石油及び天然ガスの探鉱と開発計画について話し合うとともに、日本企業との間で量について将来決定される石油の売買のための弾力的な契約を結ぶ可能性についても話し合つた。

 両首脳は、経済協力の主要な分野につき詳細に検討し、メキシコにおける開発計画に協力する可能性につき関心をもつて話し合うと共に、港湾、運輸、船舶、鉄鋼、石油化学、工作機械の分野における協力の可能性についても話しあつた。メキシコ側は、この関連においてコアツァコアルコス、サリナ・クルス及びラサロ・カルデナスにおける工業港の建設計画につき説明した。両首脳は、石油産業をはじめ既存の産業部門の一層の発展及び新たな産業部門の振興につき両国間の関係が今後とも順調に進展することを希望する旨表明した。

 総理大臣と大統領は、両国の公的及び私的機関間の、メキシコの開発のための投資計画に対する資金協力に関する取決めが締結されたことに満足の意をもつて言及した。これ等の資金はインフラストラクチャーの整備を通じメキシコの経済を強化する開発のための投資計画、即ち電力、石油のエネルギー部門及び機械工業等の重工業に使用される。両首脳はまた各々の国の目的を達成するに当つて双方に利益となるような協力が今後も引続き行われるよう希望する旨表明した。

 両首脳は、メキシコ大統領の臨席の下に閉会された第10回日墨経済協議会の成果、日墨共同投資促進セミナーの開催及び中小企業の分野における共同投資を促進する目的を有する共同投資基金の創設に祝意を表し、又両国の経営者間の提携が実りある成果をあげるとともに相互理解の下に行われる投資及び共同投資が両国相応の能力により推進されることが期待されることに留意した。

 両首脳は、両国間の貿易の現状及び今後の見通しについて意見を交換し、これが着実に増大していることを確認するとともに、相互利益の下により基本的な貿易関係を増大させるためには、製品の輸出増大に関するメキシコ側の意向に留意しつつ品目の多様化及び2国間直接貿易を推進し、かつそれぞれの国がもつ可能性を周知させるための広報手段が必要であることに意見の一致をみた。

 両首脳は、漁業の分野における協力の重要性を再確認した。メキシコ側は、優先度の高い、現在推進中の漁業計画を説明するとともに、漁船の建造及び陸上設備の建設に対する技術的及び資金的協力について関心を表明したのに対し、日本側はこの計画についての説明を関心をもつて聴取した。両首脳はまた、漁業分野における共同投資に対し満足の意を表するとともに、今後ひき続き協力が行われるよう希望を表明した。

 両首脳は、日本にとつて最初の観光協定である「観光の分野における協力に関する日本国政府とメキシコ合衆国政府との間の協定」が締結されたことに祝意を表明するとともに同協定が相互に人の往来を促進し、観光に関する経験を交換するとともに、観光分野における新しい協力体制を樹立することによつて両国民の理解と友好関係を増進することにつき言及した。

 両首脳は、科学及び技術が両国間のきずなを強化するため大きな役割を果すことから日本とメキシコの間で科学技術交流を増大させることが重要であることに意見の一致をみた。両首脳はまた1971年に開始された研修生・学生等交流計画を今後とも継続することが望ましいことに合意した。

 両首脳は、両国間の文化交流が着実に進展していることを満足の意をもつて確認した。さらに両首脳は、最近開催され、教授、学生、運動選手、情報と刊行物、公演、展示等の文化的催物、フィルム等視聴覚分野における交流の増進を含む広範な検討を行つた文化混合委員会の成果に言及した。1976年に設立された日本・メキシコ学院が相互理解を促進する上で重要な成果を収めていることを評価した。さらに、視聴覚教育機材購入のため最近日本国政府よりメキシコ合衆国政府に対し行われた協力に満足の意を以つて言及した。

 ホセ・ロペス・ポルティーリョ大統領は家族及び随員一行とともに、日本国政府及び日本国民によつて与えられた厚遇に対し深い感謝の念を表明するとともに、かかる厚遇と親愛の情は、日本国民とメキシコ国民とが相互に抱いている友情のしるしであるとの意向を表明した。

 メキシコ大統領は福田総理大臣がメキシコを訪問するよう公式に招待した。福田総理大臣はこの招待を感謝の念をもつて受諾した。訪墨の具体的期日は外交チャネルを通じて決定される。