データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 大平正芳総理大臣とピエール・エリオット・トルドー首相との間の共同声明

[場所] オタワ
[年月日] 1980年5月6日
[出典] 外交青書25号,424−428頁.
[備考] 
[全文]

1.大平正芳日本国総理大臣夫妻は,ピエール・エリオット・トルドー=カナダ国首相の招待により,5月4日から7日までの日程で,カナダを訪問中である。大平総理大臣は,オタワ及びヴァンクーヴァーを訪問し,両市においてトルドー首相及び他の連邦政府大臣と会談した。

2.両国首相は,5月5日及び6日に,国際間及び2国間の広範な諸問題につき建設的討議を行った。両者はトルドー首相の1976年10月の日本公式訪問以降の日加関係の進展を満足の意をもって振り返り,両国関係の多様性と豊かさが増大してきていることを歓迎した。両者は,両国の国会議員間の交流が増大しつつあることが,両国関係に重要な側面を付け加えるものであることに喜びの意をもって留意し,日加議員連盟設立へのカナダ議会における最近のイニシアティブに対し,少なからぬ満足の意を抱いている旨述べた。両国首相は,日加両国が共通の関心を有する国際問題につき,緊密な協議と協力を行うことに合意し,国際情勢の一層の安定のため,ともに努力していくとの両者の決意を再確認した。

3.両国首相は,国際不安が高まっていることに,深い憂慮の念を表明した。両者は,引続くイランによる米国人人質の拘束,ソ連のアフガニスタンへの軍事介入,及びヴィェトナムの軍事介入によりもたらされたカンボディア内の引続く紛争は,国際連合憲章の基本的原則及び国際法に従って,できるだけすみやかに解決されるべきであるとの共通の信念を再確認した。

4.両国首相は,イランにおいて引続いている米国人外交官の拘束は,国際平和に対する重大な脅威となっているとして深刻な憂慮の念を宣明した。両者は,人質問題の平和的解決のために,他の同様な考えを有する諸国とともに,あらゆる可能な努力を行うとの決意を確認し,また,人質の即時解放を強く求めた。

5.両国首相は,引続くソ連のアフガニスタンへの軍事介入に対する最も強い反対の念及びアフガニスタン国民の困苦に対する同情の念を表明した。両者は,アフガニスタン国民が自らの将来を外部からの介入なしに決定することを可能とするために,1月14日に採択された国連総会の決議により要求されている介入の即時停止,及びソ連軍のアフガニスタンからの撤退が必要であることを再確認した。

6.両国首相は,引続くソ連のアフガニスタンへの軍事介入にかんがみ,平和的かつ友好的なふん囲気の中で開催されるべきモスクワ・オリンピックに選手団を派遣することは望ましくないことに意見の一致をみた。

7.両国首相は,カンボティアにおいて引続いている不安定な状況が,同国国民のより一層の困窮と苦難をもたらしていること,及びこの地域の安全に重大な脅威をもたらしていることに,深刻な憂慮の念を表明した。両者は,これらの人道的かつ政治的な問題は,国際社会一般,なかんずく敵対行為の当事者が,カンボディアの主権,独立及び領土保全を保証するような政治的解決を見出すことに,ともに参画しない限り,解決することができないことに意見の一致をみた。

8.両国首相は,日加両国が朝鮮半島における平和と安定の維持を重視していることを再確認した。両国首相は,南北間の実のある対話への最近の動きを歓迎し,同半島における緊張の緩和に資する国際環境を醸成するため努力を続けることに意見の一致をみた。

9.両国首相は,中国が国際社会の活動的な一員として登場してきたことは,積極的展開であることにつき意見の一致をみた。この関連で,両者は,中国が最近,国際通貨基金に参加したことを歓迎した。両国首相は,中国が経済開発に重点を置いてきていることに満足の意を表明し,日加両国が,今後この分野における中国との協力の増大を期待していることを明らかにした。

10.両国首相は,東南アジア地域の平和,安定及び経済開発のための東南アジア諸国連合(ASEAN)の貢献が増大していることを歓迎し,自らの強靱性と連帯を強化するためのASEANの努力を支持するため,一層の協力を行うことを宣明した。両国首相は,ASEAN諸国がヴィエトナム,ラオス,カンボディアから逃れてきた数十万の難民に対し,第1次滞在地を提供することにより行っている人道的な貢献に留意し,引続きASEAN諸国に対し両国が支持を行っていくことに合意した。

11.大平総理大臣は,環太平洋構想についての総理の考え方の概略を説明し,また,両国首相は,太平洋地域において協力を促進することの重要性を強調した。トルドー首相は,他の太平洋諸国とともに,この構想を探求することに全面的に参画することについてのカナダ政府の関心を表明した。両国首相は,また,本構想は,長期的目標として広範な地域的コンセンサスに基づいてさらに発展させられていくべきであることにつき意見の一致をみた。両者は,また,この地域における一連の民間主催のゼミナールは,本構想の発展に貢献するものであることに留意した。

12.両国首相は,世界経済の現状及び今後の情勢について意見交換を行い,ヴェニス・サミットでの一層の討議に対する期待を表明した。両者は,各国政府が短期的に直面している最もさしせまった経済上の課題は,インフレ及びその影響の防あつ並びに国際エネルギー情勢への調整の必要性であるとの点につき意見の一致をみた。

 両者は,最近の石油価格の上昇が,大部分の非OPEC諸国における加速的インフレ,成長率の低下及び経常収支の赤字を助長し,また,石油輸入開発途上国が,特に深刻な影響をこうむっていることにつき留意した。

 より長期的にいって,また,広く認められている国際経済体制の相互依存性に照らして,両国首相は,安定した経済成長を確保するため,生産性を高め,かつ,代替エネルギー源の開発を促進する必要性を認めた。

 両者は,主要国による補完的かつ強調的行動がとられれば,各国が困難な経済情勢に対応するに当たり,さもなければ負わざるを得ないような短期的負担が軽減されるであろうとの点につき留意した。両国首相は,これらの問題に関し両国政府間でより頻繁な基礎の上に立った協議を行うよう奨励することにつき意見の一致をみた。

13.世界経済の相互依存性は,先進国,開発途上国のいずれも,相互に乖難していてはその経済目標を成功裡に追求し得ないことを意味しており,両国首相は,南北間の対話を積極的かつ建設的な方法で追求するとの誓約を再び明らかにした。

 両者は,世界的な経済困難に対する解決策は,開発途上国側と協力して追求されるべきであるとの信念を表明するとともに,この点に関し第11回国連特別総会において開始される予定のグローバル・ネゴシエーションの新ラウンドが世界経済一般及び,とりわけ開発途上国の問題の取扱いにあたって果たすべき役割につき留意した。

14.両国首相は,激しいインフレと低い成長とが結びつくことによって,開放的で市場志向型の国際貿易制度の維持に対する国民の支持と政府の一般的公約が試練を受けざるを得ないことにつき留意した。この点に関し,両者は,保護主義がとりわけインフレを悪化させ,経済をさらに損ないかねないことに留意しつつ,保護主義的圧力に抵抗することの重要性を強調した。両国首相は,開放的な貿易体制の維持及び発展を確保するための国際的約束の基礎として,東京ラウンドで達成された合意の誠実な履行,及び関税と貿易に関する一般協定(ガット)に対する両国政府の強い支持の重要性を確認した。

15.両国首相は,日加両国間の関係が,近年あらゆる活動分野において強化されてきていることに,満足の意をもって留意した。両者は,特に,より広い基盤を持った,より多様な関係が存在することは,相互の利益となるものであることに留意し,この目的を達成するための方策について討議した。この関連で,両首相は,政治レベルにおけるより定期的で深みのある協議の重要性を指摘するとともに,外務大臣間の年次会合を開始することに合意した。両者はまた,日加両国間の対話をさらに拡充し,新たな経済協力の分野を探求することを助けるため,通商担当大臣及び他の大臣間のより頻繁な会合を奨励することにつき意見の一致をみた。

16.経済の分野に転じ,両国首相は,2国間貿易において大幅な増大が見られ,1979年には60億ドルを超えたことに対し,少なからぬ満足の意を表明し,かかる増大が継続することに対する希望を表明した。市場へのアクセスの安定性及び供給の安定性に関連する問題の討議において,両者は,現存する2国間協議の場を活用して,貿易政策上の諸問題の解決に向って緊密に協力していくことにつき意見の一致をみた。両国首相は,石炭,非鉄金属,木材及び紙製品,穀物,油糧種子及び豚肉を含む原材料,半製品及び食料品が両国間の貿易に占める重要性を認めた。両者は,種々の工業製品の供給源としての日本の重要性につき留意した。同時に両者は,カナダの工業力及び技術力を反映させた互恵的な対日関係を発展させるというカナダの目的に留意し,また,この点に関連し,カナダにおける原材料の一層の加工の可能性,及びカナダの加工品,工業製品及び高度技術製品の輸出増大の見通しについて討議した。

 トルドー首相は,また,両国の自動車産業間のより緊密な協力の可能性を提起した。

17.両国首相は,CANDU炉の日本への販売の可能性をも含め,両国間のエネルギー分野における協力拡大の可能性を検討し,かつ討議した。トルドー首相は,CANDU・システムの販売が両国間の貿易経済関係の強化に貢献しうることにつき留意した。両者は,一般炭及び関連技術を含め,多くのエネルギー分野において協力の継続と拡大の可能性が存在することにつき意見の一致をみた。これらの諸問題についての詳細にわたる討議は,日加経済協力合同委員会の次回会合において行われ,その際,長期的協力の可能性につき特別の注意が払われるであろうとの点につき意見の一致がみられた。

 トルドー首相は,北東ブリティッシュ・コロンビア州産の石炭の日本への販売の可能性の問題を提起した。大平総理大臣は,業界間で討議が行われていることに留意するとともに,この討議がすみやかに妥結することにつき希望を表明した。

18.両国首相は,両国間の経済協力を増大することに対する誓約を新たにし,これを強化しうる方途につき細心の考慮を払った。両者は,1976年の経済協力大綱の署名以来生じた発展を再検討し,投資,合弁事業,技術交流及びその他の活動において,両国経済にとり相互利益をもたらしうるような相当の可能性が依然として残されていることにつき留意した。この点で,両国首相は,両国政府が夫々の外資政策を通じ,相互利益をもたらすような投資を助長するような環境を維持するよう努めるべきことにつき意見の一致をみた。両国首相は,経済協力及び立体的な経済関係の長期的発展を促進する上で,日加経済協力合同委員会のもつ重要性について強調した。同委員会が,1980年初秋に西部カナダにおいて第3回会合を持つことが合意された。さらに,両者は,2国間の民間経済グループが両国各々で形成されたことにより,2国間の協力と貿易の拡大についての見通しが大きく高められたことにつき留意した。両者は,5月中旬に京都で開催される第3回日加経済人会議に対し,日加協力に一層貢献するものとして,歓迎の意を表した。

19.両国首相は,日加両国間の成熟した関係は,できる限り幅広い分野において,夫々の相手についてより多くの知識を有し,かつ,その事情について精通していることを必要としているとの認識の下に,学術研究及び文化関係における最近の進展について満足の意を表明した。両者は,日本における日本カナダ学会,及びカナダにおけるアジア学会日本委員会の創設に特に意を強くした。

 大平総理大臣は,日本政府は,ブリティッシュ・コロンビア大学アジア・センターにおける日本研究に対し,今後3年間にわたり,種々の形で50万ドルまでの拠出を行う意向である旨述べた。トルドー首相は,日本におけるカナダ研究の発展に対する支援が継続されることが期待される旨及びこの支援は向こう5年間で100万ドルを超えるものとなるであろうことを明らかにした。

20.両国首相は,科学技術における両国間の協力の重要性につき留意した。両者は,来る6月東京で開催される予定の第4回協議が,かかる進展に一層の刺激を与え,科学技術分野における夫々の国の能力の強化を促すような新しい協力分野を見出すことを促進するであろうとの希望を表明した。

21.両国首相は,チトー大統領が逝去したことに対し,深い悲しみを表明した。

 両者は,同大統領の数十年にわたるユーゴスラヴィア及び国際関係の双方に対する偉大な貢献を称讃し,同大統領の指導の下に生まれた強くかつ独立したユーゴスラヴィアは,引続き大統領が生涯を捧げた国際の平和と安定という目標を追求してゆくであろうとの確信を表明した。