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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] フレイ大統領主催午餐会における橋本内閣総理大臣の挨拶

[場所] チリ
[年月日] 1996年8月23日
[出典] 橋本内閣総理大臣演説集(上),225−226頁.
[備考] 
[全文]

フレイ大統領閣下、令夫人並びにご列席の皆様、

 この度の私のチリ共和国訪問にあたり、暖かく迎えて下さいましたフレイ大統領閣下をはじめ、関係者の皆様に心よりお礼申し上げます。

 チリ国が生んだ二人のノーベル文学賞受賞者の一人、ガブリエラ・ミストラル女史が、「野菜畑の緑なす大地。黄金の麦の波うつ大地。葡萄の房の彩る大地。踏み締むる足にも優し」とうたつた「チリの大地」を、念願叶って訪問することができましたことは、私の大きな喜びとするところであります。この度は、チリ各地を訪ね歩く暇を有しませんが、美しい国土の一端に触れるとともに、麗しく、かつ心暖かい国民の皆様に接することを期待してまいりました。

大統領閣下、

 貴国は、早くから開放経済体制を目指し、貿易・投資の自由化の実を上げることによって、経済困難を克服するとともに、国内政治の民主化の面においても目覚ましい進展を遂げられております。これは、政府の英明な政策とともに、チリ国民の勤勉な国民性と高い市民倫理に負うところが大であると考えますが、貴国の目覚ましい発展に心から敬意を表します。

 貴国はまた、国際関係においても積極的な経済外交を展開され、一昨年APECに加入された後、去る六月にはメルコスールあるいは欧州連合(EU)とも経済関係緊密化のための協定に調印されました。これらの地域統合を進めるに当たり、貴国は「開かれた地域主義」の立場に立って世界貿易の発展を目指しておられます。政治面におきましても、国際連合の安全保障理事会の一員として積極的に責任を果たす姿勢を示しておられます。

 我が国と貴国は、長年にわたる友好親善関係の歴史を有し、明年には、一八九七年の友好通商航海条約署名から数えて百年の記念すべき年を迎えることになります。我が国国民は、我が国がまだ新興国としてその海軍力の強化に努力していた十九世紀末、貴国から「アルトウーロ・プラット」と「エスメラルダ」の二隻の軍艦を買い受けたことをよく記憶しています。また、第二時世界大戦の後、サンフランシスコ平和条約会議の場で、貴国から受けた心強い支援を感謝の念をもって想起いたします。明年の両国修好百周年を機会に、このような両国の友好親善関係がますます強化されることを期待してやみません。

 日本語に「一衣帯水」という言葉があります。我が国と貴国は、広大な太平洋で隔てられてはいるものの、いずれかで地震が起こるとお互いに津波を心配し合うという関係にあり、この言葉にふさわしい関係にあります。近年のアジア・太平洋地域の経済発展が世界の注目を集めていますが、二十一世紀には、中南米地域が世界の経済成長センターとして、より重要性を増すものと確信いたします。多くの点で立場を共にする我が国と貴国が、一致協力して、新時代に向けての両地域間のパートナーシップ強化に一層貢献していけることを念願しております。

 大統領閣下、令夫人並びにご列席の皆様のご健康と、日本とチリとの友好協力関係の一層の発展を祈念して杯を上げたいと思います。

 乾杯!サルー!