[文書名] 日本・ボリビア共同声明
ファン・エボ・モラレス・アイマ・ボリビア多民族国大統領は、日本国政府の招待により、ボリビア政府関係者と共に、2010年12月7日から8日にかけて公式実務訪問を行った。その間、12月8日、菅直人日本国総理大臣及びモラレス大統領は、東京において首脳会談を行った。
両首脳は、日本人のボリビア移住や経済及び開発の分野における協力により強化された友情と協力の絆を確認するとともに、その更なる強化・拡大に向け、共に取り組んでいく確固たる意思を表明した。
モラレス大統領は、日本人移民が111年前にボリビアに到着し、その子孫が現在では完全にボリビア社会に同化し、国の発展に貢献していることを強調した。
両首脳は、今後、国際場裡での連携を含む両国の二国間関係の更なる拡大・深化に向けて、以下の分野に重点を置きつつ、両国が共同で取り組む決意を表明した。
1.政策対話の促進
両首脳は、平和主義、民主主義、自然や環境との調和といった理念を両国が共有するとともに、人間の生存、生活、尊厳を脅かすあらゆる種類の脅威に対し、国際社会が一致して取り組んでいくことの重要性について一致した。
さらに、両首脳は、かかる認識の下、政策面での相互理解と協調を深めるために、首脳、閣僚間の対話を含め、あらゆるレベルでの協議を促進することで一致した。この関連で、モラレス大統領訪日の際に、政策協議に関する覚書が署名されたことを歓迎した。
2.経済関係の強化
(1)両首脳は、貿易・投資などの両国間の経済関係が拡大していることを評価し、そのために共に取り組む重要性について一致した。
両首脳は、かかる任務のため、両国民に利益をもたらす必要性及び機会の理解を通じて、連帯的かつ補完的視野につき検討されるべき旨表明した。
(2)両首脳は、日本の政府系機関の支援を受けた日本企業、とりわけ国際協力銀行(JBIC)、日本貿易保険(NEXI)等の支援を受けているミネラ・サン・クリストバル社がボリビアの経済発展及び地域振興に重要な役割を果たしていることを確認するとともに、ボリビア法制の枠内で新規民間投資を促進する確固たる意思を改めて表明した。
3.ボリビアの経済社会開発のための協力
(1)モラレス大統領は、菅総理及び日本国民に対して、これまでの日本からの無償資金協力についてボリビア政府及び国民の感謝の意を表すとともに、右協力はボリビア政府が行ってきた主に社会的弱者に関する格差及び疎外を是正するための努力に大きく貢献していることを強調した。
(2)両首脳は、ボリビアにおける経済成長、社会開発及び環境保全の間でのバランスをとることが「尊厳ある生き方(Vivir Bien)」の実現につながるとの考えを共有し、国家開発計画を尊重しつつ、リチウム開発・産業化促進において中心となるポトシ県を含むアンデス山岳地域(アルティプラノ)の総合開発も含め、同国の発展に向け協力していくことを確認した。
右協力の一環として、両首脳は、ボリビアにおける生産活動としての獣毛産業に関する調査が行われていることを確認した。加えて、両首脳は、環境保全と鉱山開発の両立を目指し、同国の錫鉱山残渣からのレアメタル回収等についての技術協力や鉱害防止セミナーの開催について、今後、日本の協力を基に進めることに同意した。
(3)両首脳は、今後、両国が、炭酸リチウム関連産物及びウユニ塩湖のその他副産物の産業化の新たなプロセス発展に向け、共同して取り組むことで一致した。そのために、ボリビア政府は、同国がリチウム電池等のハイテク産業を振興する目的で、パイロットプラントにおける日本の参加による実験の実現を、日本政府は、同プラントにおける実験への日本企業及び石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)の参加を確認した。この関連で、両首脳は、2010年11月9日に、ボリビア鉱山公社(COMIBOL)及び石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)間で、協力する日本の組織が戦略的クライアントの条件が得られる方法について検討する旨規定した、覚書の署名が行われたことを歓迎した。
また、両首脳は、ボリビア人研究者が京都大学においてリチウム利用技術に関する共同研究を開始することを歓迎するとともに、このような取組を通じて、リチウム応用産業の創出に向けた人材育成協力を今後も継続することで一致した。
(4)両首脳は、両国が、ボリビアの大きな地熱発電潜在力と日本の高度な地熱発電関連技術を踏まえ、今後、ボリビアのポトシ県の『ラグナ・コロラダ地熱発電所』建設及び送配電、付随施設インフラの整備に向け、協働することで一致した。右プロジェクトにより、国の南西部のエネルギーの安全を確実に保障出来る他、増加傾向にある国内電力エネルギー需要に対し供給を行うことが可能となる。
その関連で、菅総理は、合計で100MWの規模となる当該プロジェクトの実施に向け、まず50MW部分について円借款により協力し、後に、残りの50MWについても、リチウムに関するテーマを含む二国間協力関係を考慮し、前向きに検討する旨表明した。
(5)両首脳は、ボリビアの産業発展の必要性と日本の産業・技術発展の豊かな経験及び知見を踏まえ、今後、両国が、経済成長、社会発展及び環境保護のバランスを保ちながら、ボリビアの産業開発を成し遂げられるよう、協働していくことを確認した。
これに関し、菅総理は、来年2月にボリビアにおいて経済開発セミナーを開催することを提案し、モラレス大統領は右に対して歓迎の意を表した。
4.地上デジタルテレビ放送
両首脳は、2010年7月20日に、ボリビア多民族国公共事業省及び日本国総務省間で、ボリビアにおける地上デジタル放送普及実施に関する覚書に署名が行われたことを歓迎した。
5.ボリビアの近隣情勢
モラレス大統領はボリビアの対チリ関係及び海洋問題に関し、具体的、実行可能かつ有効な結果に到達することを目的に、現在進行中の対話について言及した。
6.気候変動
両首脳は、気候変動問題は、すべての国が、気候変動に関する国連枠組条約及び京都議定書が規定する、共通に有しているが差異のある責任に基づいて立ち向かわねばならない人類に対する挑戦である旨強調した。この関連で、現在開催中の気候変動枠組条約第16回締約国会議(COP16)の成功に向け協働していくことで一致した。
7.生物多様性
両首脳は、生物多様性条約の目的の達成に向けた行動の実施の重要性に関し一致した。
菅総理は、「自然との共生」をヴィジョンに掲げている戦略計画2011-2020(愛知目標)の採択など生物多様性条約第10回締約国会議の成果を強調した。
8.自然との調和
モラレス大統領は、「母なる大地」及び「母なる大地」と全生物との関係を考えさせ、その行動を促す、ボリビア国民が有する「自然との調和」の概念について説明した。
9.核軍縮・不拡散
両首脳は、平和で安定した核兵器のない世界の実現という共通目標を達成するために積極的な協力を推進すべく、今後、両国が国連を始めとする軍縮・不拡散関連フォーラムにおいて核軍縮・不拡散分野での両国の対話を緊密にすることを確認した。また、両首脳は、原子力の平和的利用の利益を享受するために国際的な協力を促進する必要性を確認した。
10.国連改革
両首脳は、国連安全保障理事会の代表性、実効性及び透明性をより向上させるために、安保理改革を早期に実現する必要性を強調した。また、政府間交渉を通じ、両国間で密接な協力を維持することを確認した。
これに関連し、 モラレス大統領は、国連及び国際社会において日本が担う重要な役割及び国際社会の平和と安全への日本の貢献を高く評価した。
また、両首脳は、両国の共通の関心事項である地球規模課題への取組における国連の実効性及び効率性を高めるべく、総会の再活性化を推進しつつ、国連システムの一貫性の強化を含む包括的な国連改革を推進することで一致した。
11.人権
両首脳は、国際社会において人権、特にアイデンティティー、文化、伝統及び原則を保全する先住民の権利が尊重されるべきである旨表明した。
12.ボリビアの文化的慣習
モラレス大統領は、コカの葉の伝統的使用は、ボリビア人のアイデンティティーを形成する、何千年来の文化的行動である旨説明した。
13.薬物対策
両首脳は、薬物対策に係る「共有責任の概念」を再確認し、両国が国内の薬物対策を着実に実施していくとともに、すべての薬物の生産国、消費国及び中継国が連携及び協力を強化しつつ、不正薬物対策を一層強化する必要性を認識した。
14.「人間の安全保障」と「尊厳ある生き方」
両首脳は、各々が提唱する「人間の安全保障」と「尊厳ある生き方(Vivir Bien)」とが基本的な考え方において共通するものがあることを踏まえ、国際社会におけるその一層の普及、推進及び実践に向けて引き続き協力していくことで一致した。
最後に、ファン・エボ・モラレス・アイマ大統領は、日本公式訪問中に受けている厚遇に対し、日本国政府及び日本国民に感謝の意を示した。
2010年12月8日、東京にて日本語及びスペイン語の2部の原文に署名された。
日本国内閣総理大臣
菅直人
ボリビア多民族国大統領
ファン・エボ・モラレス・アイマ