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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 税関に係る事項における相互行政支援及び協力に関する日本国政府とブラジル連邦共和国政府との間の協定(日伯税関相互支援協定,日ブラジル税関相互支援協定)

[場所] ブラジリア
[年月日] 2017年9月14日
[出典] 外務省
[備考] 
[全文] 

税関に係る事項における相互行政支援及び協力に関する日本国政府とブラジル連邦共和国政府との間の協定


 日本国政府及びブラジル連邦共和国政府(以下「両締約国政府」という。)は、

 関税法令に対する違反が、それぞれの国の公共の安全並びに経済上、財政上、社会上、文化上、公衆衛生上及び商業上の利益を害するものであることを考慮し、

 関税その他の輸出入に際し徴収される税の正確な査定を確保すること並びに税関当局による禁止、制限及び規制のための措置の適正な執行を確保することの重要性を考慮し、

 それぞれの国の関税法令の運用及び執行に関する事項における国際協力の必要性を認識し、

 特定の物品に関する禁止、制限及び規制のための特別な措置を内容とする国際協定を考慮し、

 関税法令違反に対する行動を両税関当局間の協力により一層効果的なものとし得ることを確信し、

 千九百五十三年十二月五日の相互行政支援に関する関税協力理事会の勧告を考慮し、

 麻薬及び向精神薬の取引が公衆衛生及び社会に害を及ぼすことを考慮し、

 国際的な組織犯罪の脅威及びその脅威と効果的に戦う必要性を考慮し、

 国際貿易におけるサプライチェーンの安全及び円滑化に対する世界的な関心が増大していることを認識し、

 正当な貿易の自由な流れを確保し、並びに社会及び歳入を保護するための両締約国政府の必要を満たすに当たり、遵守と円滑化との均衡を達成することの重要性を認識し、

 危険度に応じた管理手法等の最新の規制技術を採用することにより、国際貿易が円滑になることを確信して、

 次のとおり協定した。

   第一条 定義

 この協定の適用上、

 (a) 「関税法令」とは、物品の輸入、輸出、通過及び蔵置に関し税関当局が運用し、及び執行する法令上の規定(それぞれの国の関税領域の境界を越える規制物品の移動に関する禁止、制限その他これらに類する規制のための措置に関する行政上の措置を含む。)をいう。

 (b) 「税関当局」とは、日本国にあっては財務省をいい、ブラジル連邦共和国にあっては財務省連邦歳入庁をいう。

 (c) 「情報」とは、データ、文書、報告その他のあらゆる形式の連絡(被要請当局が提供を認めた文書又はその写しを含む。)をいう。

 (d) 「関税法令違反」とは、関税法令の違反又はその未遂をいう。

 (e) 「者」とは、自然人、法人又は法人格を有しない他の団体をいう。

 (f) 「要請当局」とは、支援を要請する税関当局をいう。

 (g) 「被要請当局」とは、支援を要請された税関当局をいう。

 (h) 「関税領域」とは、各締約国政府の国の関税法令が施行されている当該国の領域をいう。

 (i) 「職員」とは、税関職員又は税関当局によって指定された他の政府職員をいう。

 (j) 「麻薬及び向精神薬」とは、千九百八十八年十二月二十日の麻薬及び向精神薬の不正取引の防止に関する国際連合条約第一条 及び に定義する物質又は当該物質を含む製品並びに両国の法令において定めるその他の物質又は当該物質を含む製品をいう。

 (k) 「前駆物質」とは、向精神薬及び麻薬の製造において頻繁に使用される物質であって、千九百八十八年十二月二十日の麻薬及び向精神薬の不正取引の防止に関する国際連合条約附属書付表I及び付表IIに掲げるもの並びに両国の法令において定めるその他の物質をいう。


   第二条 この協定の適用範囲

1 両締約国政府は、関税法令の適正な適用を確保し、並びに関税法令違反を防止し、調査し、及び処置するため、この協定の規定に従って、税関当局を通じて相互に行政支援を行う。

2 両締約国政府は、それぞれの税関手続の簡素化及び調和のため、税関当局を通じて協力するよう努める。

3 この協定は、両締約国政府により、各国において施行されている法令に従い、かつ、それぞれの税関当局の利用可能な資源の範囲内で実施される。

4 この協定は、関税、租税又は罰金を回収するための支援を対象としない。

5 この協定は、両締約国政府間の相互行政支援のみを対象とするものとし、他の国際協定に基づく両締約国政府の権利及び義務に影響を及ぼすものではない。

6 この協定の規定は、いかなる者に対しても、証拠を入手し、抑止し、若しくは排除する権利又はこの協定に基づいて要請された支援の実施を妨げる権利を付与するものではない。


   第三条 相互支援

1 税関当局は、要請に応じ又は自己の発意により、関税法令の適正な適用の確保並びに関税法令違反の防止、調査及び処置に寄与する情報(次のものを含む。)の交換を通じ相互に支援を行う。

 (a) 関税その他の税の正確な査定に関する情報(物品の課税価額、関税分類及び原産地を含む。)

 (b) 税関手続(関税法令、規則並びに税関当局の権限の範囲内における禁止、制限及び規制のための措置を含む。)に関する情報

 (c) いずれかの締約国政府により摘発された事件に係る密輸物品の入手源、関税法令違反の新たな適用事例及び密輸方法に関する情報

2 いずれの一方の税関当局も、要請に応じ又は自己の発意により、他方の税関当局の国の関税領域において行われ、又は計画された関税法令違反に関して利用可能な情報を当該他方の税関当局に提供する。

3 いずれの一方の税関当局も、利用可能な情報が他方の税関当局の国の経済、公衆衛生、公共の安全その他の重要な利益に実質的な損害を与え得る深刻な関税法令違反に関連するものであると考える場合において、必要と認めるときは、当該他方の税関当局に対して当該情報を提供する。


   第四条 要請に基づく支援

1 被要請当局は、要請に応じ、要請当局に対して次の情報を提供する。

 (a) 当該要請当局の国の関税領域に輸入された物品が、当該被要請当局の国の関税領域から適法に輸出されたか否かに関する情報

 (b) 当該要請当局の国の関税領域から輸出された物品が、当該被要請当局の国の関税領域に適法に輸入されたか否かに関する情報

 (c) 一方の税関当局の国の関税領域を通過した上で他方の税関当局の国の関税領域に向かう物品が、適法に通過したか否かを示す情報

2 1の規定に従って提供される情報には、要請に応じ、その要請の対象である物品の通関の際に用いられた税関手続が含まれる。


   第五条 監視

 被要請当局は、要請に応じ、その利用可能な資源の範囲内で、次のものについて、特別な監視を行い、及び要請当局に情報を提供する。

 (a) 当該要請当局の国の関税領域において関税法令違反を犯したことについて当該要請当局により知られ、又は疑われている者(特に当該被要請当局の国の関税領域に出入りする者)

 (b) 当該要請当局の国の関税領域に向けた不正取引の対象となる疑いがあると当該要請当局により通報された輸送中又は蔵置中の物品

 (c) 当該要請当局の国の関税領域において関税法令違反の行為のために使用されたことについて当該要請当局により疑われている輸送手段

 (d) 当該要請当局の国の関税領域において関税法令違反の行為に関連して使用されたことが知られており、又は使用されていることが疑われている施設


   第六条 注意を要する品目

 両税関当局は、要請に応じ又は自己の発意により、関税法令違反を構成し、又は構成する疑いがある行動が発見され、又は計画されている場合には、当該行動に関連する情報(特に次のものの移動に関するもの)を相互に提供する。

 (a) 麻薬、向精神薬及び前駆物質

 (b) 武器、弾薬、爆発物及び爆発装置、放射性物質並びに環境及び公衆衛生に害を及ぼす他の物質


   第七条 要請の連絡

1 この協定に基づく支援の要請は、英語による書面で行われる。当該要請には、その要請された支援の実施に有益と認められる情報を添付する。緊急な事情によりやむを得ない場合には、口頭による要請であっても承認され得る。ただし、当該口頭による要請は、速やかに書面で確認される。

2 1の規定による支援の要請には、次の情報を含める。

 (a) 要請当局

 (b) 要請に関連する手続の種類

 (c) 要請の目的及び理由

 (d) 判明している場合には、要請に関係する者の氏名又は名称及び住所

 (e) 検討されている事案の簡単な説明及び関連する法的要素

 (f) 該当する場合には、第十条1の規定に基づく言及

3 この協定に別段の定めがある場合を除くほか、この協定に従って提供される情報は、それぞれの税関当局が指定する職員の間で直接伝達される。

4 この協定に基づく支援の要請に添付する文書は、必要な範囲内で、英語に翻訳する。


第八条 被要請当局の国の関税領域における職員の立会い

1 被要請当局が要請当局の要請に同意する場合には、当該要請当局が特別に指定する職員は、当該被要請当局が課する条件に従い、当該被要請当局が自国の関税領域において行う質問に立ち会うことができる。

2 被要請当局は、要請当局の要請があった場合において、適当と認めるときは、当該要請に応じて措置をとる時期及び場所を当該要請当局に通報する。

3 1の規定にかかわらず、被要請当局によって行われる質問に立ち会う要請当局の職員は、助言者的な役割のみを有するものとし、法的な又は捜査上の権限を行使してはならない。

4 要請当局の職員は、1の規定に基づき被要請当局の国の関税領域に所在するときは、当該被要請当局の同意を得て、及び当該被要請当局が課する条件に従い、当該被要請当局の官署において、文書、記録その他の関連資料(関税法令違反となり、又は関税法令違反となる可能性のある活動に関連するものを含む。)を閲覧し、及び当該要請当局がこの協定の適用上必要とする当該文書、記録その他の関連資料の関連部分の写しを入手することができる。

5 要請当局の職員は、この条の規定に基づき他方の税関当局の国の関税領域に所在するときは、身分証明書及び公的資格を証明するものをいつでも提示することができるようにしなければならない。当該職員は、制服を着用してはならず、及び武器を携行してはならない。

6 要請当局の職員は、この条の規定に基づき他方の税関当局の国の関税領域に所在するときは、当該他方の税関当局の国の法令の範囲内で、当該他方の税関当局の職員に与えられている保護と同一の保護を受けるものとし、自己が行う可能性のあるいかなる違反についても責任を負う。


   第九条 情報の秘密性

1 この協定に従って受領した情報は、第二条1に定める目的のためにのみ使用される。当該情報は、当該情報を提供する税関当局が他の機関による使用を明示的に書面で承認した場合を除くほか、他の機関に伝達してはならない。

2 1の規定にかかわらず、一方の締約国政府は、この協定に従って受領した情報を他の目的のために使用することを希望する場合には、当該情報を提供した税関当局の書面による事前の同意を得るものとする。その使用に当たっては、当該税関当局の定めるいかなる制限にも従うものとする。

3 1の第二文の規定にかかわらず、情報を提供する税関当局が別段の通報を行う場合を除くほか、情報を受領する税関当局は、この協定に従って受領した情報を自国の関連する法執行機関に提供することができる。当該法執行機関は、1の第一文、2、4及び6並びに次条に定める条件に従って当該情報を使用することができる。

4 各締約国政府は、この協定に従って受領したあらゆる情報の秘密性を保持するものとし、当該情報を提供する税関当局の国の法令に基づいて同種の情報に与えられている保護及び秘密性と少なくとも同程度の保護及び秘密性を与える。ただし、当該情報を提供する税関当局が当該情報の開示に同意する場合は、この限りでない。

5 この条の規定は、情報を受領する税関当局の国の法令に定める限りにおいて、当該情報が使用され、又は開示されることを妨げるものではない。当該税関当局は、可能なときはいつでも、被要請当局に対し、当該情報の開示を事前に通報する。

6 要請当局に対しては、被要請当局は、情報の使用に関するあらゆる制限について書面によって通報することができる。


   第十条 刑事手続における情報の使用

1 要請された情報が、要請当局の国の関税法令が遵守されなかったことについて開始される刑事手続であって、裁判所又は裁判官の行うものにおいて使用され得る場合又は使用が意図される場合には、当該要請当局は、行われた可能性がある犯罪を特定する。

2 一方の締約国政府が、1に規定する情報以外の受領した情報を裁判所又は裁判官の行う刑事手続において使用することを希望する場合には、当該一方の締約国政府の税関当局は、当該情報を提供した他方の締約国政府の税関当局の書面による事前の同意を得るものとする。

3 1又は2に規定する状況において提供された場合を除くほか、この協定に従って受領した情報は、要請当局の締約国政府により裁判所又は裁判官の行う刑事手続において使用されてはならない。


 第十一条 例外

1 被要請当局の締約国政府は、この協定に基づく支援が自国の主権、安全、公共政策その他の重要な利益を侵害し、又は自国の関税領域における営業上、事業上若しくは職業上の秘密に関する侵害を伴うこととなると認める場合には、要請された支援を拒否し、若しくは保留することができ、又は一定の条件若しくは要件が満たされることを支援の条件とすることができる。

2 要請当局は、同様の要請を被要請当局から受けたならば要請された支援を実施することができない場合には、自己の要請においてその事実について注意を喚起する。そのような要請に基づく支援の実施については、当該被要請当局の裁量に委ねられる。

3 被要請当局は、要請された支援の実施が現に行われている調査(関連する法執行機関による捜査を含む。)、訴追又は司法上の手続を妨げることを理由として、その支援の実施を保留することができる。この場合には、当該被要請当局は、一定の条件を付することにより支援を行う可能性について判断するため、要請当局と協議する。


   第十二条 技術協力及び支援

1 両税関当局は、必要かつ適当な場合には、新たな税関手続並びに取締りのための装置及び技術の研究、開発及び試験、税関職員の訓練活動並びに両税関当局間の人的交流の分野において協力する。

2 いずれの税関当局も、適当な場合には、要請に応じ又は自己の発意により、次のものに関連する利用可能な情報を提供する。

 (a) 有効性が立証された取締りのための新たな技術

 (b) 関税法令違反を行う際の新たな傾向、手段又は方法


   第十三条 要請の実施

1 被要請当局は、この協定に基づいて要請された支援を合理的な期間内に実施するため、全ての合理的な措置をとる。

2 要請された支援を実施することができない場合には、要請当局は、速やかにその旨を通報されるものとし、当該要請された支援の実施の延期又は拒否の理由を記した書面を受領する。当該書面には、要請当局がその要請を更に行うに際して有益となり得る関連情報を添付することができる。

3 被要請当局は、自らが要請された支援を実施する適当な機関でない場合には、直ちにその要請を適当な機関へ転送し(ただし、当該適当な機関は、その要請に応ずる義務を負わない。)、又は要請当局に対し適当な機関及び当該要請された支援に関してとるべき適当な手続について通報する。

4 被要請当局は、要請に応じ、自己が提供を認めた文書又はその写しを提供する。


   第十四条 費用

1 この協定を実施するに当たって必要となる経費については、それぞれの締約国政府が負担する。

2 要請された支援を実施するために高額な経費又は特別の性質の経費を必要とする場合には、両締約国政府は、当該要請された支援を実施する条件及び費用を負担する方法を決定するために協議する。


   第十五条 協定の実施

1 この協定の解釈又は実施に関する全ての問題又は紛争は、両締約国政府間の協議によって解決する。

2 この協定を実施するための詳細な取決めは、必要に応じて、両締約国政府の税関当局の間で締結される。


   第十六条 見出し

 この協定中の条の見出しは、引用上の便宜のためにのみ付されたものであって、この協定の解釈に影響を及ぼすものではない。


   第十七条 効力発生

 この協定は、両締約国政府が、この協定の効力発生のために必要とされるそれぞれの国内手続が完了した旨を、外交上の経路を通じて書面により相互に通告した日の後九十日目の日に効力を生ずる。


   第十八条 終了

1 この協定は、無期限に効力を有する。ただし、いずれの一方の締約国政府も、外交上の経路を通じて書面による通告を行うことにより、いつでもこの協定を終了させることができる。終了は、他方の締約国政府が終了の通告を受領した日の後九十日目の日に効力を生ずる。

2 この協定の終了の前に受領した支援の要請については、この協定に従って完了される。


   第十九条 領域的な適用範囲

 この協定は、両国がそれぞれの国内法令に定める関税領域について適用される。


   第二十条 改正

 両締約国政府は、外交上の経路を通じて書面による相互の合意により、いつでもこの協定を改正することができる。改正は、第十七条に定める条件と同様の条件に従って効力を生ずる。

 以上の証拠として、下名は、各自の政府から正当に委任を受けてこの協定に署名した。

 二千十七年九月十四日にブラジリアで、ひとしく正文である日本語、ポルトガル語及び英語により本書二通を作成した。解釈に相違がある場合には、英語の本文による。


 日本国政府のために

 ブラジル連邦共和国政府のために