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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 日中関係に関する周恩来中国首相の大山郁夫教授に対する談話 

[場所] 
[年月日] 1953年9月28日
[出典] 日本外交主要文書・年表(1),569−570頁.外務省アジア局中国課監修「日中関係基本資料集」,50−2頁.
[備考] 
[全文]

 中央人民政府政務院周恩来総理は,一九五三年九月二十八日日本平和擁護委員会会長大山郁夫教授を接見した。談話経過は次のとおりである。

 大山教授 過去日本の軍国主義者は長期間中国を侵略し,日本人民は当時これを制止することができず,中国人民に巨大な損失を蒙らせました。わたしは日本人民を代表して,中国人民に対し遺憾の意を表します。中華人民共和国政府および中国人民は,日本人民に対し一貫して友好的態度をとっております。わたしは日本人民を代表して謹んで感謝致します。

 周総理 日本の軍国主義者の対外侵略の罪悪行為は,中国人民および極東各国人民に大きな損失を受けさせたばかりでなく,同時に日本人民にもかつてなかった程の災難を蒙らせました。わたしは,日本の平和を愛好する人民がこの歴史的教訓を汲み取り,日本が再度軍国主義化し再度対外侵略をするようなことを許さず,もって日本が再び過去および現在に比べより大きな災難を蒙るようなことを避けさせるであろうと信じています。今日日本人民は,民族の独立をかち取り,再度の軍国主義化に反対するために,勇敢な闘争を行っていますが,中国人民はこれに対し敬意を表しています。

 大山教授 東方各国,ことに中国と日本は,歴史的地理的な要因からいって,その関係は密接であるべきであります。

 周総理 われわれは,世界各国との正常な関係,とくに日本との正常な関係の回復を主張しています。しかし日本政府がいぜんとして米国の中国および東方各国を侵略する道具となり続け,いぜんとして中華人民共和国および中国人民を敵視する政策をとり続け,かついぜんとして蒋介石残存匪賊とのいわゆる外交関係を保持し続けるならば,日本は日増しに太平洋における不安の要因となり,従って日本と新中国が講和条約を締結し正常な外交関係を樹立する可能性を阻害するでありましょう。

 大山教授 わたしは,日中両国の外交関係がまだ樹立されていない時にあっても,両国人民の間に文化交流および経済交流を行うことは決して差支えないと思います。

 周総理 そうです。われわれは,日本人民の代表団がわが国に訪問に来ることを歓迎すると同時に,わが国人民も代表団を派遣し日本に訪問に行くことを希望しています。しかし,今日米帝国主義および日本の反動派は,日中両国人民の友好関係の発展を阻害しています。日中の現政府は,公然と米国政府のいわゆる禁輸を実行し,極力日中貿易の発展および文化の交流を阻害しています。この故に,先ずこのような阻害を打破するため,両国人民の共同の奮闘が必要であります。

日中両国間の貿易関係は,必ず平等互恵の基礎の上に樹立しなければなりません。一部日本人は,「中国が工業化したら,日中貿易は前途がなくなる」と考えていますが,これは全く正しくないことを指摘しなければなりません。中国が工業化してのみ,過去のあの「工業日本,原料中国」といったような帝国主義と半植民地との経済関係を徹底的に改変して,真正な平等互恵,有無相通の貿易関係を樹立することができるのです。中国が一歩一歩工業化を実現していけば,中国の国家および人民の生産および需要はますます拡大することになり,それは国際間の貿易関係の発展をいよいよ必要としましょう。しかも日本は中国の近隣ですから,平和共存の基礎の上に,日中貿易の発展および経済の交流は,全くその広々とした前途をもっているのです。

 大山教授 一九五二年十月,中国の北京で開かれたアジアおよび太平洋地域平和会議で採択された『日本問題に関する決議』は,日増しに日本人の了解し支持するところとなっています。

 周総理 この決議の精神は,太平洋の平和および安全を守るためには,日本が米国の軍事基地に変えられ,また再び軍国主義化することによって深められる新しい戦争の危険を防止しなければならないという点にあります。

われわれは,独立,民主,平和,自由の日本は,その自衛の武装力をもつべきであると考えています。しかし,甚だ不幸なことには,日本は現在米国の軍隊に占領され,米国の支配を受け,かつ米国侵略者の意図に従って,軍備の再編,日本軍国主義の復活を進めています。これは太平洋の平和および安全に脅威を与えており,われわれはこれに深い注意を払わざるをえないのであります。われわれは,強大な新中国は今日すでに自分の国家を守る力をもっており,しかも日増しに東方の平和を守る重要な支柱になっているといわなければなりません。

今日日本人民の面前におかれているものは,二つの異った前途であります。一は米国の従属国の地位にある軍国主義の日本で,これは日本の反動勢力が要求しているものであります。他の一つは独立,平和,民主,自由の日本で,これは日本人民の奮闘の目標であります。今日の情勢は,日本人民にとって有利であります。二つの前途は長期の闘争を経過しなければならないが,われわれは,日本人民は必ずや最後の勝利を獲得できると信じています。

中国人民は,外国軍隊に占領されていることによって水火の苦しみに陥っている日本人民の苦痛を深く理解しています。このような苦痛は,日本の歴史にいまだかつてなかったものであります。中国人民は,日本人民がその祖国の新生と独立を獲得できるよう希望し,日中両国が平和共存の基礎の上に真に共存共栄できるよう希望しています。

 大山教授 貴下および中国人民の日本人民に対する思いやりと友誼に感謝いたします。

 談話は友好的雰囲気のうちに終り,周総理は大山教授と写真を写し記念とした。(一九五三・十・九 新華社)