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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 邦人帰国問題等に関する日中懇談覚書

[場所] 東京
[年月日] 1954年11月3日
[出典] 日中関係基本資料集、61−64頁.
[備考] 
[全文]

 一九五四年十一月三日東京日本赤十字社において、中国紅十字会訪日代表団と日本赤十字社、日本中国友好協会、日本平和連絡会(以下三団体という)代表との間に行われた在華日本人などの帰国その他諸問題に関する懇談の要旨は、左の通りである。

一、在華日本人の総数は約八千名で、そのうち帰国を希望しない女約四千七百名、帰国を希望しない男は上記女の約五分の一、現在帰国を希望する者は男、女、子供を合せて約二千名以内である。尚右の帰国希望者には各種の職業に従事し、或は旅大地区および中国の各地方に居留した日本人を含んでいる。

 又、現在帰国を希望しないが、将来帰国を希望する者については中国紅十字会は以後の帰国を援助する。

 又、前記八千名のうちには、今回日本側に伝達された名簿に記載の戦犯者を含んではいない。その中に一般犯罪者(服役中のもの、以下同じ)および同容疑拘禁者を含んでいるか否かは不明であり、中国側は帰国後調査した上、通知する。

二、在華日本人の帰国希望の有無については、中国側は一九五三年の集団帰国終了後、地方政府を通じて調査を開始し、現在に至っているが、今後は地方末端機関職場などに趣旨を徹底し、帰国希望意思がある者は、必ず帰国出来るよう援助する。

三、中国において中国人と日本人との間に生れた子は十六才に達するまでは、中国人として取扱われている。十六才になれば本人の意思により国籍を選ばせ、帰国を希望すれば帰国させる。

四、在華日本人の登録名簿は、中華人民共和国の地方政府にもあるだろうと思うが、中国側は、中国紅十字会代表団は、民間団体であり、代表団として即答は致しかねるとのことであった。

五、在華の全日本人が留守家族に通信するならば、多くの問題は解決するのであるが、中国側は、今年末から来年春までに行われると思われる大量の帰国が終った後、中国に残留している全日本人に日本へ通信するよう強力に勧奨してくれることを約束した。それで、日本の家族の居所不明のものについては日本赤十字社へ通信をよこし、日本赤十字社は留守家族へこれを通知する方法をとる。

 日本赤十字社としては、家族の有無又は居所の明不明にかかわらず、全部の日本人から中国紅十字会経由で日本赤十字社へ通信を送って貰うことを希望する。(即ち在華の日本人が一度だけ、留守家族の住所の判るものはその住所と姓名を書いて、また判らぬものは留守家族の姓名を書いて、日本赤十字社宛に送れば、日本赤十字社は、留守家族へ通知するようにする。)

六、他方留守家族より住所不明の在華日本人にあてる通信は、三団体連絡事務局から、本人の写真、知り得たる最後の住所を附した通信を中国紅十字会に送り、中国紅十字会はこれを本人に送達する。

七、戦犯者については、今回中国側より手交された名簿に記載された者のうち、絶対多数の者は、近く寛大な措置を受ける由であるが、その内釈放される者については、中国紅十字会は中華人民共和国政府の委託を受けて、その帰国を援助することとなろう。

 なお釈放されない戦犯者、一般犯罪者および犯罪容疑拘禁者に対する通信、慰問小包(便船による)の送附は、日本赤十字社より中国紅十字会を通じてこれを行う。

 又、釈放されない戦犯者、一般犯罪者および犯罪容疑拘禁者からの留守家族への通信は、中国紅十字会より日本赤十字社を通じてこれを行う。

八、戦犯者、一般犯罪者および犯罪容疑拘禁者であって釈放されないものについては、その服役又は拘禁の場所、刑期、訴因等を知りたいとの日本側の希望に対し、中国側はこれは将来公表されるものと考えられるが、帰国後司法当局と連絡して、希望に副うよう努力すると回答した。

 中国に居留する日本人の留守家族(親子、夫婦の範囲に限る)で、中国へ渡航を希望する者および中国にそのまま永住したい希望者については、中国紅十字会から中国の関係方面と連絡、許可を取り、希望を叶えるよう努力する。(これには日本政府の了解が必要であるので政府と折衝する。)

 この具体的方法は帰国後調べた上で通知する。

 中国で死亡した日本人遺家族の代表が中国を訪問することについて、中国紅十字会は、その実現について考慮することを約した。

 また、中国人殉難者の家族で、日本訪問を希望する者があれば、三団体はその希望が実現出来るよう努力する。(これには日本政府の了解が必要であるので政府と折衝せねばならぬ。)

九、今回伝達を受けた戦犯者名簿に当然記載を予想されていたが、記載されていなかった者の安否については、日本赤十字社よりその氏名表を中国紅十字会に送り、調査を依頼されれば出来る限り調査して回答する。

一〇、日本人の全死亡者の調査は困難であるが、日本人側が在華当時作成し、中国に残して来た名簿類(延吉死亡者連絡名簿等八例を中国側に例示して御願いした)については、中国側はそれを調査し、もしそれらの名簿があれば送付すると約束した。その他死亡資料のある者は出来るだけ調査して通知してくれると中国側は誠意を示してくれた。

一一、中国紅十字会は、今回伝達された戦犯死亡書名簿に記載の四十名の遺骨、遺品を日本に送還する用意がある。その他の日本人遺骨については、一九四九年以後のものに関しては出来るだけ調査して送還するよう努力する。

 同年以前のものに関しても出来るだけ調査して送還するよう努力するが、多分大多数のものは不可能ではないかと心配している。

一二、近く帰国する越南にいた日本人七十四名は、十一月十三日より十五日までの間に、上海に集結するが、中国紅十字会はこれを天津に移すと共に、年末帰国予定の在華日本人帰国希望者を出来るだけ多数、天津に集結をさせるよう中国紅十字会で直ちに手配して、日本人側の帰国輸送を経済的にするよう尽力し、これらの帰国を援助する。

 日本側は、その輸送のため興安丸を派遣する。派船は今月中旬頃と予定して準備する。

一三、残りの在華日本人帰国希望者のため興安丸を、今年末から来年一月中旬頃に派遣する。準備の都合でその船に乗れない者があれば、第三次の派船も用意する。

 また、戦犯者については、近く寛大な措置を受け帰国出来る者があると思われるので、その帰国のため日本側は何時でも派船出来るよう準備を整え置く。

一四、蒙古人民共和国、北朝鮮にいる日本人の帰国についてはこれらの国から依頼があれば、中国紅十字会は、その帰国を斡旋する。日本側でもう一度関係国宛に打電依頼しては如何と好意的に示唆する所があった。

一五、在日中国の居留民の中の帰国希望者は、帰国出来るよう中国紅十字会は是非協力願いたいと要望し、日本側は三団体協力して、予想される困難はあるが、これが実現に極力努力することを約した。

一六、日本にある中国人の遺骨については、中国側はこれらの遺骨を共同基地を作って祀る計画があり、これが送還にも是非協力願いたいと要望し、前同様努力する旨答えた。

一七、大村収容所に収容中の者および王松山も帰還させてくれれば、中国側は受入れる用意があり、協力願うとの依頼があり、三団体側は更に事情を明らかにし、必要あれば日本政府と交渉し、実現に努力する旨回答した。

(なお王松山の件については、事司法に関するもの故、困難が予想される旨附言した。)

一八、一九五三年日本人の夫が帰国するにあたり、これに従って入国した中国婦人(この子を含んで)の中国への再渡航、又中国人の夫、子供と別れて帰国した日本婦人の中国再入国の問題については、中国側において帰国後政府と交渉して何分の回答をする。

一九、生死不明の日本人については、日本赤十字社より個々に安否調査を依頼した場合、中国紅十字会は出来る限り調査究明に尽力してくれる旨回答があった。(その際中国側から、大部分は蒋介石時代の戦争中に関するものであろうから、不明のものが多かろうと心配している旨を附言された。)

   出席者

中国紅十字会 廖承志、趙安博、紀鋒、蕭向前

日本赤十字社 島津忠承、葛西嘉資、工藤忠夫

日本中国友好協会 伊藤武雄、加島敏雄、宮崎世民