データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 第4次日中民間貿易協定

[場所] 北京
[年月日] 1958年3月5日
[出典] 日本外交主要文書・年表(1),849−852頁.中共対日重要言論集第3集,16−22頁.
[備考] 
[全文]

 日本日中貿易促進議員連盟,日本国際貿易促進協会および日本日中輪出入組合(一方)と中国国際貿易促進委員会(他方)は,日中両国間の貿易の発展を一層促進し,日中両国人民間の友好を強化するために,平等互恵の原則にもとずき,協議した結果,次のように協定する。

 第一条 本協定有効期間内におけるおのおのの側の輸出総額と輸入総額は,それぞれ三千五百万英ポンドとする。  

 第二条 同類物資交換の原則にもとづき,双方の輪出商品の分類(詳細は別表に掲げる)および総額にたいするそれぞれの百分比はつぎのとおりとする。

   日本よりの輸出品

    甲 類  総額の四〇%

    乙 類  総額の六〇%

   中国よりの輸出品

    甲 類  総額の四〇%

    乙 類  総額の六〇%

 第三条 本協定は,日本の商工業者と中国の国営対外貿易公司およぴ公私合営,私営対外貿易公司が具体的な取引契約を締結して実現する。

 第四条 双方の取引は,いずれも英ポンドまたは双方の同意したその他の第三国の貨幣をもつて価格計算の単位とする。

 第五条 双方の取引上の支払と清算は,日本銀行と中国人民銀行との間に支払協定を締結し,清算勘定を開設して処理する。

  両国の国家銀行間に支払協定が締結されるまでは,両国の外国為替銀行が直接的な業務関係をとり結ぶ。

  双方の取引は当分現金決済とする。

 第六条 輸送に関しては取引契約を締結する際に契約者双方で協議決定する。

 第七条 商品検査に関しては,日本の輸出品は日本商品検査機関の品質重量検査証をもつて代金支払の要件とする。中国の輸出品は中国商品検験局の品質重量検査証をもつて代金支払の要件とする。輪出品の検査費用は売主負担とする。但し買主は商品が目的港に到着した後に再検査を行う権限をもつ。日本の輪入品は日本商品検査機関が再検査にあたり,中国の輸入品は中国商品検験局が再検査にあたる。再検査の費用は買主負担とする。もし品質と重量などが契約に定める条件と符合しないことを発見した場合には,買主は売主にたいして賠償を要求する権限をもつ。但し輸送の途中において生じた品質と重量の自然変化は賠償要求の範囲に入らない。賠償要求の期限は契約者双方が契約の中で個別に規定する。

 第八条 契約の履行にさいし生じ,または契約に関連して生じた一切の紛争は契約者双方の協議により解決する。 

  契約者双方の協議により解決できないときは仲裁にかける。

  仲裁は被告の居住する国において行う。

  日本において行う場合は,日本国際商事仲裁協会が当該協会の仲裁規定により仲裁を行う。仲裁人の人選は日本国際商事仲裁協会の仲裁人名簿に限らない。但し日本国,中華人民共和国および双方の同意した第三国国籍を有するものに限る。

  中国において行う場合は,中国国際貿易促進委員会対外貿易仲裁委員会が当該委員会の仲裁規定により仲裁を行う。

  仲裁裁決は最終決定とし,契約者双方は,これに服さなければならない。

  双方は相手側に仲裁事務の執行と要員の往来にあらゆる便宜をあたえ,かつその安全を保障することについて,それぞれの本国政府の同意を得ることとする。

 第九条 双方は,両国間の技術交流と技術協力の促進強化に努力することに同意する。

 第十条 双方は,需要と可能性にもとずき,双方の必要とする重要物資について保障つきの長期的供給関係をとり結ぶことに同意し,且つこの問題についてできるだけ早く協議することに同意する。

 第十一条 双方はつぎのことに同意する。

  互に相手国に常駐の民間通商代表部をおくこと。双方の通商代表部は本協定の調印者双方により派遣され,東京と北京にそれぞれ設ける。

 双方は相手側の通商代表部およびその所属人にたいし安全保障と任務遂行上の便宜をあたえることについて,それぞれ本国政府の同意を得ることとする。双方の通商代表部の任務はつぎのとおり規定する。

一,協定実施中において発生した各種の事項について連絡と処理にあたること。

二,おのおの自国の市場情況を紹介すること。

三,駐在国における貿易と市場に関する情況を調査し資料を蒐集すること。

四,両国の商工業者の取引活動と貿易上の往来に協力すること。

五,両国間の技術交流について連絡と促進にあたること。

六,各自の派遣機関より委託されたその他の貿易関係の事項を取扱うこと。

 第十二条 双方は,互に商品展覧会を相手国において単独に開催することに同意する。日本側の商品展覧会は,一九五八年内に武漢と広州において開催し,中国側の商品展覧会は,一九五八年内に名古屋と福岡において開催する。双方は相手側の展覧会要員にたいし,安全を保障し順調に仕事を遂行する条件をあたえることについて,それぞれ本国政府の同意を得ることとする。

 第十三条 双方はそれぞれの本国政府に要請して,速かに日中貿易問題について両国政府間で交渉を行い,協定を締結させるように努力する。

 第十四条 本協定は調印の日より効力を発生し,有効期間は一年とする。

  本協定は双方が協議し同意した場合には,これを延長または改訂することができる。

 第十五条 本協定は一九五八年三月五日北京で締結し,日本語と中国語をもつて書かれた協定書を二通作成する。両国語の文書は同等の効力をもつ。

   日中貿易協定商品分類付表

日本側よりの輸出

 甲類 鉄道車輌および器材,発電設備,船舶,各種大型機械及び精密機械,各種プラント,銅塊,アルミニウム材,鋼板,鋼管,ブリキ板,薄鉄板,建築用鋼材,ドラム罐用鉄板

 乙類 一般機械器具及び工具,各種合金鉄,化学肥料,窯業製品,医薬品及び原料,化学工業薬品及び原料,染料,染料中間体,各種化学繊維及び製品,各種動植物繊維及び製品,木材及び木製品,紙類,家畜類,食品類,水産物,各種雑貨,映画,その他

中国側よりの輸出

 甲類 大豆,石炭,鉄鉱石,マンガン鉱,銑鉄,錫

 乙類 米,雑豆,雑穀,油脂及び油脂原料,桐油,塩,マグネサイト,マグネシアクリンカー,礬土頁岩,焦宝石,重晶石,粘土,螢石,燐灰石,石棉,アンチモニ一,白粘土,豚毛,羊毛,カシミヤ,羽毛,各種皮革,葉煙草,膠,麻類,肉類,ラード,腸衣,化学工業原料類,石油製品類,ペイント,滑石,石墨,石膏,雄黄,大理石,軽石,絨氈,豚皮,各種落綿,屑系,柞蚕系,ふすま,桐材,麦稈真田,松脂,五倍子,生漆,じや香,八角,桂皮及び各種香料,香料油,果物類,乾燥果実類,酒類,罐詰類,卵製品,水産物,植物薬材,各種中国既成薬,手工芸品,雑貨,映画,その他

覚書

 双方は,相互主義と相互尊重の基礎の上に立ち一九五八年三月五日北京において調印された日中貿易協定第十一条の規定を順調に実施するため,下記の措置をとる。

一,双方は,それぞれ本国政府の同意をえて,相手側常駐の民間通商代表部およびその所属人員の安全保障と任務の円滑な遂行のために,以下の待遇をあたえる。

(1)双方は,相手側の通商代表部およびその所属人員の安全保障に適切な措置をとる。もし法律上の紛争を引起した場合は双方が連絡して双方の同意した方法で処理すること。

(2)双方は,相手側の通商代表部の所属人員にたいし出入国の便宜,通関の優遇および貿易活動を目的とする旅行の自由をあたえること。

(3)通商代表部は業務遂行上に必要な暗号電報を使用することができること。

(4)通商代表部はその建物に本国の国旗をかかげる椎利を有すること。

二,双方の通商代表部の人数は,双方がそれぞれ任務遂行上の必要に基いて決定する。通商代表部の所属人員およびその家族の指紋をとらぬこと。

三,双方は,この覚書が日中貿易協定と同等の効力をもち,貿易協定の不可分の一部であることを確認する。

  一九五八年三月五日

      日中貿易促進議員連盟代表

      日本国際貿易促進協会代表

      日中輸出入組合代表

      中国国際貿易促進委員会代表

付属物書第二号

   第四次日中貿易協定及び覚書に関する打合せ要旨

 日 時 一九五八年三月五日 午前三時

 場 所 北京飯店

 出席者 日本側 池田正之輔 植木庚子郎 勝間田清一 森田義衛 山本熊一南郷三郎

     中国側 雷任民 李新農 蕭方洲

 記録  日本側 井沢 信久 千村 信次

     中国側 閻 伯 緯 林 連 徳

一,日本と中国はともにバンドン会議に参加した国家であり,バンドン会議において通過した十項日の原則に対してはすべてこれを尊重且つ遵守し,実行する義務がある。

 双方が互に派遣する通商代表部の人員は,すべて駐在国の法律と風俗,習慣を尊重すべきであり,このことは当然のことである。

二,日本側より当面北京に派遣することを予定した通商代表部の人員は○名である。中国側は約二十名を東京に派遣して通商代表部を構成する。

 双方とも一定期間内においては代表部の人員を増加する必要がないものと思われる。

三,双方は,日中貿易協定及び覚書に記載されてある双方の通商代表部所属人員には,それぞれが駐在国において雇傭する人員を含めないということに同意する。

四,可及的速かに双方の通商代表部の設置を実現するために,双方は最近の内に,それぞれ先発員を北京と東京に派遣し,準備を行うことに同意する。

五,両国外国為替銀行が直接の業務関係をとり結ぶ問題に関して,日本通商使節団は帰国後直ちに外国為替銀行に通信をもつて手続をとるよう通達すること。

 このほか国旗掲揚問題については両国がお互いに承認していない今日,国旗掲揚の権利を有することと承認とは何ら関係ないことは当然である。これを論議の対象とすることは当らないことについて意見の一致をみた。

以上