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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 陳毅中国外相の岸内閣非難談話

[場所] 
[年月日] 1958年5月9日
[出典] 日本外交主要文書・年表(1),87−879頁.中共対日重要言論集第3集,36−8頁.
[備考] 
[全文]

  (一九五八年五月一〇日人民日報)

陳毅中国副総理兼外交部長は当面の日中関係について九日新華社通信記者に対し,次のような談話を発表した。

一,最近岸首相は米国および蒋介石グループにおもねるため公然と日中貿易協定を破壊し,中国に対し悪意ある侮辱的な攻撃を行つている。このような挑発的行為は中国人民の非常な怒りを引起さないではいない。

一,岸内閣が長崎における暴徒の中国国旗汚辱事件を容認していることは中国を敵視する岸内閣の態度がすでに我慢のならないところまできていることを示している。

一,中国人民は日本国民と友好共存することを願つており終始日中友好を促進するため努めてきた。だから日本政府が米国に屈伏しているにもかかわらず,また中国と日本の間にはまだ戦争状態が続いているのに,両国民の絶えまない努力を通して日中両国間の経済文化の交流と友好関係はここ数年間非常に大きな発展を遂げた。両国の民間団体と半官半民の団体が結んだ四十余の協定は両国民の友好関係を促進するうえに大きな役割を果している。中国政府は日中両国民の友好的な活動や民間同士の協定に対し終始一貫して積極的にこれを支持する態度をとつてきた。われわれのこのような態度は日本の広範な層の人々の歓迎を受けている。しかし岸内閣はこれと反対に終始わが国を敵視し善意によらない態度をもちつづけ中国の好意を誤解している。岸信介氏は一方では日中貿易を拡大したいと表明しているが,他方では日中貿易協定を乱暴に破壊し,長崎における暴徒の中国国旗汚辱を容認,自ら先頭に立つて一連の中国を攻撃中傷する言論を発表してきた。岸首相のこのような気違いじみた態度はかれの潜在的な帝国主義の姿を徹底的に暴露したものである。

一,日本政府は過去,帝国主義的な態度で中国に立ち向つたが,中国人民の大きな打撃を受け,そのようなやり方は徹底的に破算したのである。中国人民がすでに起上つている今日,岸内閣は中国に対してまた帝国主義的な態度でのぞもうとしているが,これはなおさら通用しないばかりでなく必ず自分で自分を傷つける結果を招くようになる。

一,岸首相とその一派はかれらが貿易と政治を切離す立場をとつていると口々にいつている。しかし日中貿易の問題になるとかれらは直ちに,中国を承認しないとか,日中貿易は台湾の蒋介石グループとの関係やその他の国際関係を考慮して進めるべきであるとかいつている。ここでかれらのいう国際関係とは米国との関係を指しているのである。このことからわかるように岸首相と,その一派は日中貿易が日中両国民の友情と結びつくことに反対し,日中貿易を米国の気嫌をとり,蒋介石グループと結託し,中国を敵視するかれらの政治目的に利用しようとしている。貿易と政治とを切離すことを叫んでいるかれらの他人にいえない目的はここにある。中国人民はこのような立場に断乎反対するものである。

一,中華人民共和国が独立国家であることを岸首相は認めようとせず,中国国旗を個人の財産であるなどと全く道理のないことをいつている。長崎における中国国旗侮辱事件はほかでもなく岸内閣が直接そそのかし,それをかばうという状況のもとにつくりだされたものである。これらの言論と行動は中華人民共和国を侮辱するものであり,六億の中国人民に対する計画的な挑発である。岸内閣はこれによつて生ずるいつさいの結果に対してすべての責任を負わなければならない。

一,岸首相はまた自分が貿易協定を破壊し日中貿易を無協定の状態においても両国貿易の発展に妨げにはならないといつている。岸首相は中国はどうしても日本と取引きをしなければならないと考え,貿易協定のない方が日本の独占資本グループの意志を中国におしつけるのにもつとつごうがよいかも知れないと考えている。しかし岸首相は次のことを少しも考えようとしていない。いつさいの帝国主義を追出した独立した強大な新中国が他人のいいなりになることは絶対にあり得ない。新中国はいかなる帝国主義にも頼らない。

 米国政府は日本を含めた多くの国々の政府を集めて中国に対し輸出禁止を行つたがそれでも新中国を圧倒することはできなかつた。いま飛躍的な速度で前進発展している新中国が岸首相の考えにしたがつて日本と取引きしなければならないとでも岸首相は考えているのであろうか。それは全く痴人の夢であるといわなければならない。

一,岸内閣は米国や蒋介石グループの気嫌をとるため日中貿易を破壊し,中国を侮辱し六億の中国人民を敵にまわしているが,これは日本国民にとつてなんらの利益をもたらさないばかりか日本をしてさらに不幸な道に追いやるだけである。岸首相のこんな態度は日本 国民の願いを代表していないことをわれわれはよく知つている。日本社会党は岸首相と違つて二つの中国を認めない立場に立つて中華人民共和国との国交回復を主張している。また自民党の中にも岸首相のまつたく中国を敵視する政策に同調しない人がいる。日本国民と同じ立場に立つて中国を敵視する政策を放棄するか,それとも一方的に米国に追従して中国を敵視する政策をとり続けるか,岸首相は自分でそのいずれかを決めるべきである。岸首相がどこまでも新中国を敵視するならば必ず自ら播いた種を自ら刈り取ることになるであろう。日中両国民の友誼を破ることはできない。両国民の友誼はどんな邪魔だてや破壊にあつてもあらゆる妨害をとりのけて絶えず前進発展するものであることを信ずる。