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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 台湾海峡の情勢に関するソ連の対日口上書および日本側回答,ソ連大使館口上書

[場所] 
[年月日] 1958年9月16日
[出典] 日本外交主要文書・年表(1),889−890頁.外務省情報文化局「外務省発表集」第8号,40−2頁.
[備考] 
[全文]

 在日ソ連大使館は,ソヴィエト連邦政府の委任により,日本国外務省にたいし,次のことを申入れる光栄を有する。

 最近米国政府は台湾方面において,中華人民共和国にたいして向けられた一連の挑発的な危険な行動を起した。米国は第七艦隊の戦闘準備態勢をととのえ,第六艦隊によつてこれを増強し,新しい空軍部隊を台湾に移駐せしめた。米軍機による中国領空の侵犯件数は増加した。中国の若干の沿岸諸島を占拠した蒋介石一派は,米軍の支持により,中国沿岸に砲撃を加えている。米国政府の首脳部および若干の米陸海軍将星は中華人民共和国にたいして侵略的な言明を行つた。米国の右の如き行動の結果,極東の事態は尖鋭化し,平和にとつて垂大な危険性をはらむ状態がつくられた。

 台湾方面の事件に関連して米国および日本の新聞,ラジオには,米軍当局が日本の領域内に配置されている米軍部隊をも準戦態勢に置いたとの報道が現れた。米国のUPI通信の報道によれぱ,在日第五米空軍は準戦時体制にあり台湾海峡にいる第七艦隊の準戦時体制に関して言うならぱ,本年八月二十六日東京のラジオは「在日米海軍も待機命令を受けた」旨放送している。米紙「クリスチャン・サイエンス・モニター」は本年八月三十日に「第七艦隊は航空機千機を発進せしめることができる旨,また米国はフィリピン,沖繩及び日本国に根拠地を有し,かつ明らかに原子兵器使用の可能性を有する空軍を擁している」と報じている。また米国各紙は,上陸作戦に参加するために沖繩を含む日本国から移動した米国海上隊員四千名が台湾に上陸したとの報道を発表した。

 これらのおよび同様な他の報道は,米国武装兵力がその挑発的な侵略行為を実施するため日本の領土を直接的に使用していることを証明しており,このことは勿論日本国政府によく知られているところである。

 ソヴィエト政府は,もしこれらの報道が事実と合致する場合には,日本国が好むと好まざるとにかかわらず中華人民共和国に対して向けられかつ極東および全世界における平和に対する重大なる脅威をつくり出している米国の侵略行為の参加者となるが如き状態が生ずべきことにつき日本国政府の注意を喚起することを自己の義務と考える。

 ソヴィエト政府は,かかる事態が平和の事業および日本国自身にとつて如何に重大な結果に導くものであるかを考慮し,日本国および日本国民が米国の前記行動の加担者となることを望んでいるとは決して考えない。しかしソヴィエト政府は日本政府によって打消されていない前記報道を看過しえないのである。

 ソ連邦政府は日本政府が冷静に情勢を評価して,日本領土が米国武装兵力の侵略的行動に利用される可能性を阻止するため適宜の措置を講ずべきことを希望するものである。ソヴィエト政府はソ連邦およぴ日本国の双方が,極東が強固にして永続的平和の地域たるべきことに関心を有し,また,関心をもたざるを得ないことをその見解の基礎とするものである。

  一九五八年九月十六日