データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 台湾海峡の情勢に関するソ連の対日口上書および日本側回答,日本側回答口上書

[場所] 
[年月日] 1958年10月2日
[出典] 日本外交主要文書・年表(1),890頁.外務省情報文化局「外務省発表集」第8号,47−8頁.
[備考] 
[全文]

 外務省は在本邦ソヴィエト連邦大使館に敬意を表するとともに,本年九月十六日付同大使館口上書に関し,次の如く申し述べる光栄を有する。

 前記ソヴィエト大使館口上書においてソヴィエト政府は台湾海峡における米国の行動が侵略行為であると主張し,日本国領土が米国軍隊のために利用される可能性を指摘しているが,日本国政府は世界平和の維持をもつてその外交政策の出発点としているので,他国に対し自ら侵略を行い,あるいは侵略行為に加担する如きことは到底ありえない。このことは日本国憲法の明文及び精神によって明らかである。

 台湾海峡における最近の情勢につき日本国政府が平和維持の見地のみならず地理的近接関係により重大な危惧を抱いていることはいうをまたないが,同方面における米国の行動が侵略行為であるという断定は今回の危機が中共軍の武力行使によつて招来されたという現実の事態よりみて根拠を欠くものである。

 日本国政府の見解によれば東西対立下の機微な現国際情勢下においてはたとえ個々の場合における当事者の政治的主張が如何なるものであるにせよ,武力により現状を変更し,あるいは暴力的手段に訴え紛争の解決を計らんとすることは,徒らに戦争の危機を増大し世界平和に対する重大な脅威を与える倶れあり,絶対に避くべきてある。

 従つて,日本国政府は目下ワルソーにおいて行われている米中両国大使会談の如き平和的話合によりまず当事者間で武力を用いないことが合意され,ついで将来にわたり平和と安定を確保する解決がもたらされることを強く希望するものである。

   昭和三十三年十月二日