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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 陳毅中国外相の日米安保改定交渉非難声明

[場所] 
[年月日] 1958年11月l9日
[出典] 日本外交主要文書・年表(1),892−894頁.外務省アジア局中国課編「中共対日重要言論集」第4集,103−6頁.
[備考] 
[全文]

 日本の岸内閣は,いま米国政府といわゆる日米「安全保障条約」の改定について交渉を行つている。米国はよくない下心をもち,日本を米国のアジア侵略の道具にするため,日本をひきずりこもうとあせつている。日本の岸内閣も,甘んじて米国によりかかり,日本を米国の戦争の車に,さらに固く縛りつけることによつて,引続き中国を敵視し,東南アジアにたいして拡張を行う政策を実現しようとしている。

 中国人民はいま米国の侵略を受けている。日本軍国主義の侵略の罪悪行為についての中国人民の記憶は,まだなお新しいものがある。岸内閣が米国と結託し,中国人民を敵視している陰謀にたいして,中国政府と中国人民はこれに重大な関心を寄せ,きわめて激しい憤慨をおぼえずにはいられない。

 いわゆる日米「安全保障条約」は,米帝国主義が日本民族を支配する一方的な不平等な条約である。この条約は日本をますます米国が作りあげている戦争の瀬戸際に引きずりこんでいる。数年来,日本国民は米国の支配からぬけだし,民族の独立を闘いとるために,いわゆる日米「安全保障条約」を廃棄することをたえず要求し,沖縄と小笠原を含む日本の領土から,すべての米国の軍事基地を取払い,米国のすべての武装部隊を撤退させることをたえず要求してきた。中国人民は日本国民のこれらの正当な願いに全面的な共鳴と支持を寄せるとともに,日本国民のこれらの願いがいわゆる日米「安全保障条約」の廃棄あるいは本当に平等な日米条約の調印によつて実現することを願つている。

 しかし目下,米国と岸信介氏がいわゆる日米「安全保障条約」にたいして行おうとしている改定は,日本国民の願いと全く相反するものである。米国は独立自主を要求する日本国民の願いを利用して,ごまかしとすりかえの方法によつて,この条約を日本にとつて一層不平等な条約に改めようと企んでいる。すでに明るみに出た消息によると,米国は今度はいくらかの形式上の譲歩とひきかえに,日本が米国のために一層大きな犠牲を払うようにするだろう,ということである。米国のもくろみはきわめて明らかである。それはその第一歩として,共同防衛に名をかりて日本に米国の軍事基地を守る義務を担わせることであり,第二歩として共同防衛地区を西太平洋にまでひろげることであり,第三歩としてはいつたん事がある場合,日本を核兵器の戦争にひきずりこみ,米国のために火中のクリを拾わせることである。こうなれぱ米国人は,永遠に日本を軍事基地にし,日本に居直つて引揚げず,しかも日本人の頭の上にのしかかつてこうせよ,ああせよと日本人を指図し,日本をして永遠に独立の地位を失わせることができる。

 中国人民は,独立した平和な民主的な日本が,自衛のための武装力をもち自己の独立を守ることに反対したことはない。しかし米国のもくろみにしたがえば,日本の武装力は決して自衛のためのものではなく,米国のために基地を守り,米国の侵略の肉弾になるものである。米国は「共同防衛」の名のもとに,米国が必要と認めたときには日本の軍隊をわが国の台湾,さらには西太平洋のいかなる地域にも派遣して米国の軍事侵略を手助けさせることができる。

 米国がいまこのときに,いわゆる日米「安全保障条約」の改定に同意したのは決して偶然のことではない。米国は最近中近東で,とりわけ台湾海峡で自ら乗り出し,相ついで失敗をなめたので,いま極東で力のある助手を物色し,これを彼らのかわりに第一線に立たせ,こうしてアジア人を利用してアジア人と戦わせる陰謀を実現しようとあせつている。岸信介氏があまんじて米国のあとにくつついて,泥沼に入りこもうとしているのも,決して不思議なことではない。日本の潜在的帝国主義を集中的に代表している岸内閣は,米国とよりいつそう結託すれば日本の軍国主義を復活させ,日本国民の不満と反抗を弾圧し,日ましに深まる日本の経済恐慌を救い,日本の独占資本が台湾に手を延ばし,東南アジアに拡張する野心を実現することができると自分で思いこんでいる。しかし岸信介氏は完全にそろばんをはじきまちがえている。今日の世界は決して二十年前の世界ではない。強大なソ連と中国にたいしては,誰も指一本ふれることはできない。日本の独占資本は,米国との軍事的結託を一歩進め,これを利用して東南アジアに向つて経済的,政治的,軍事的な拡張を行おうと考えているが,これも破綻することは明らかである。目覚めた東南アジア各国の人民は,甘んじて日本の略奪の対象になることは絶対にない。日本の拡張は,これらの国家の人民の断固たる反対を引起して失敗に終るだけで,そのほかのどのような結果をももたらすことはありえない。岸信介氏があくまで反省しないで,中国とアジアを侵略する米国の共犯者になる決意なら,それはもちあげた石で自分の足を打つ結果に終るだけである。

 日本は独立の伝統をもつた民族である。日本国民は,勤勉で,聰明で,勇敢な人民である。日本国民は,米国が長期にわたつて,自分の頭上にのしかかるのを許しておくはずはない。日本国民は,米国の日本占領状態を終らせることを断固として要求し,米国と日本が結んだ不平等条約の廃棄を要求し,日米間に二つの独立国家の間の平等関係を保つことを要求している。中国人民は日本国民の独立,平和,民主主義のための闘いを一貫して支持し,日本が平和な中立の国家になることを心から期待している。独立,民主,平和,中立の日本が,世界各国,とりわけアジア各国との間に,平等互恵の経済関係を打立て,共に発展し,共に栄え,平和に共存することーこれが日本国民のただ一つの光明ある前途である。

 日本国民を袋小路に導き入れる岸信介氏の政策は,日本各階層の国民のますます激しい反抗を惹起している。岸内閣は,日本国民の民主的自由を剥奪して,いわゆる日米「安全保障条約」の改定のために掃き清めようとして,いま警察官職務執行法改正案を強引に通過させようとしている。この法案に反対するため,日米反動派の新たな軍事的な結びつきに反対するため,岸信介氏の中国を敵視する政策に反対するため,日本国民はいままでにない大規模な,非常に力強い大衆運動を起している。自由民主党内の見識をもつた人々も,岸信介氏の反動政策にたいして,ますます大きな不満を示している。日本国民が独立をかちとり,民主主義を守るために進めている正義の闘争にたいして,中国人民は心からの共鳴と支持を寄せるものである。闘争は長期にわたるものであり,道は険しいものであるにしても,最後に失敗するものは,必ず米帝国主義とその共犯者であり,最後に勝利するものは必ず日本国民である。