データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 日中国交正常化問題に関する石橋湛山前首相の周恩来中国首相あて書簡

[場所] 
[年月日] 1959年6月4日
[出典] 日本外交主要文書・年表(1),925頁.「石橋湛山全集」第14巻,424−8頁.
[備考] 
[全文]

 中華人民共和国

  周恩来国務院総理閣下

 嘗て私が日本の総理大臣として内閣を組織した時の念願の一つは,貴国との提携を計り,その力を梃子{てことルビ}として世界の平和を実現したいということであつた。然るに不幸にして私が未だ何事も為さざるうちに,はからざる病におかされ首相の地位を退くに至つた。而して以来二年有半貴国との提携を願った私の夢とは著しく異なり,今や事態は当時よりも甚しく悪化するに至った。このままの推移にまかすならば,単に我々両国民のみならず世界を挙げて非常の不幸を被るであろう。

 よって若し閣下にして私が以下に記す申出に大綱において異論がないならば,是非共これがため力をかし賜わり度く,私もとより微力を尽し,日本国民を説得誘導してその実現に邁進する覚悟であります。しかし,それには是非閣下の貴国における御協力を必要とします。

一,中華人民共和国と日本との両国(以下両国と称す)はあたかも一国の如く一致団結し,東洋の平和を護り,併せて世界全体の平和を促進するよう一切の政策を指導すること。

二,両国は右の目的を達するため,経済において,政治において,文化において,できる限り国境の障碍を撤去し,お互い交流を自由にすること。その具体的方法に就いては実際に即して両国が協議決定すること。

三,両国がソ連,北米合衆国その他と結びたる従来の関係は両国互に尊重して俄{にわかとルビ}に変更を求めざること。但しできる限りこれら関係を前記の目的の実現に有用に活用することに努めること。その具体策についてはこれまた両国の隔意なき協議によること。

 両国が以上の理想を以て提携するにおいては,両国の力は能く世界を動かすに足るであろう。私は斯く信じ且つ閣下が必ずこれに御賛助下さることを確信してこの書簡を認{したたとルビ}めます。

 なお以上の実行についての具体策を協議するため,私は病後なれども何時にても閣下を訪問する用意をしております。御都合御返報賜わらば光栄の至りです。

石 橋 湛 山

頓 首