データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 社会党訪中団と中国人民外交学会の共同コミュニケ

[場所] 北京
[年月日] 1962年1月13日
[出典] 日本外交主要文書・年表(2),401−404頁.外務省アジア局中国課編「中共対日重要言論集」第7集, 169−74頁.
[備考] 
[全文]

 鈴木茂三郎氏を団長とする日本社会党第三次使節団は中国人民外交学会の招きに応じ一九六一年一二月三一日中国を友好訪問した。使節団の北京訪問中,毛沢東中国共産党主席は,鈴木茂三郎団長,団員の細迫兼光,成田知巳,穂積七郎,千葉信,石橋政嗣,随員の高沢寅男ら七氏と会見した。周恩来総理,陳毅副総理は使節団全員と長時間親しみのこもった友好的な懇談を行なつた。

 なお使節団は中国人民外交学会の張奚若会長を訪問した。そして第一次,第二次日本社会党使節団がかちとつた成果を受けつぎ,発展させるため中国人民外交学会代表団と友好的な誠意のこもつた会談を行なつた。

 両代表団は当面の国際情勢およびアジア情勢とくに日中両国の関係について討議した。この中で双方は次のように認めた。

 当面の国際情勢の特徴は,東風がいっそう西風を圧倒していることである。今や帝国主義に反対する全世界の平和,民族独立,民主主義と社会主義の勢力は大きく発展し,米国をはじめとする帝国主義の力を圧倒している。米帝国主義は世界の緊張の根源であり,アジアにおいては復活しつつある日本の帝国主義と結んで,アジアの緊張を激化させている。米帝国主義は今もなお中国の領土台湾を占領し国連総会において中華人民共和国の国連における合法的権利の回復に反対し,「二つの中国」をつくる陰謀を進め,中国の周囲に軍事基地を設け,中国侵略に拍車をかけている。

 米帝国主義は依然として日本の領土沖縄,小笠原を占領し,日本のいたるところに軍事基地を設け新しい日米軍事同盟を締結し,さらに池田政府をそそのかし,南朝鮮のカイライ政権との間にいわゆる「日韓会談」を行なわせ,実質的な「東北アジア軍事同盟」を画策している。

 米帝国主義はアジア,アフリカ,ラテン・アメリカ各国の民族民主運動に干渉と弾圧を加え,ヨーロッパにおいては西ドイツ軍国主義を復活させ,全世界において侵略的軍事ブロックを作り,全世界人民の安全にゆゆしい危害を与えている。

 米帝国主義はその本国において軍備拡張,戦争準備に拍車をかけ米国人民に重い軍事費の負担を負わせている。同時にケネディ政府は,米国人民の民主運動を弾圧しつつある。従って米帝国主義に反対する運動は,日中両国人民,アジア,アフリカ,ラテン・アメリカ諸国人民,全世界人民の共同の闘争任務であり,また米国人民の闘争任務である。

 日中両国人民は同じ境遇におかれ,両国人民は米帝国主義に断固反対して戦つている。この日中両国人民の戦いは,両国人民がおのおの民族独立と国家主権を守るための独自の立場に立つた自主的な戦いである。

 と同時に,この争いは客観的には,米帝国主義に反対する共同の戦いであって,相互に援助しあい,相互にはげましあつているものである。

 日本社会党第二次訪中使節団の浅沼団長の「米帝国主義は日中両国人民の共同の敵である」という発言は,以上の事実を正しく指摘したものであり,かつ客観的事実に全く合致したものである。双方はこの浅沼団長の残した精神は発揚すべきものであり,日中両国人民の米帝国主義に反対する闘争をはげますものであろうことを確認した。

 双方は次のことを認めた。帝国主義の戦争と侵略の政策に反対し,世界平和を守る力は(1)社会主義陣営の世界体制化(2)非同盟,平和中立諸国の増大(3)民族独立運動の高揚(4)資本主義諸国の労働者階級を中心とした民族勢力の増強(5)全世界の平和を守る力の共同化である。

 この五つの力が,いつそうつながりを強めて米国をはじめとする帝国主義と断固戦うならば帝国主義の侵略政策に反対し,世界の平和を守る戦いは,必ず勝利をえられるであろう。

 双方はまた,次の問題について意見の交換を行なつた。

一,日本社会党代表団は次のように表明した。日本社会党は平和五原則およびバンドン会議の十原則に基づいて,アジアにおける諸国間の平和友好関係をうちたて,これを拡大したいと考える。日本社会党の中立政策とは平和五原則,バンドン会議十原則および日本の平和憲法の基本精神に立つていかなる軍事ブロックにも参加せず,いかなる外国の軍事基地もおかず,あらゆる軍事ブロックの解消を求め,これにより平和共存を実現せんとするものである。

 しかし,日米安保条約によつて,米国との軍事同盟を結んでいる現状のもとでは,日本は,まずなによりも日米安保条約を廃棄するとともに,日本国憲法の非武装の規定を実現しなければならない。このことが日本において中立を実現させる前提である。日本が非武装中立国家となることは,アジアの平和にとって最大の保障となるであろう。

 これに対し中国側は,日米安保条約を廃棄し,米帝国主義の支配をふりきり,日本が完全に独立することによつて,はじめて日本の中立は実現されると認めた。この場合,中国は日本と中国との間の軍事同盟締結を求めるものではない。日本がいかなる社会制度を選ぶかは,日本人民自身が決めるべき問題である。このような意味において中国側は日本社会党の中立政策を支持すると表明した。

二,日本社会党使節団は,次のように認めた。アジア太平洋地域諸国間,なかんずく中国,日本,ソ連,米国の集団安全保障条約を締結することが日本の中立とアジアおよび世界平和の保障である。中国側はこれに対し支持を表明した。さらに集団安全保障条約の締結以前においても,日本が日米安保条約と「日台条約」を廃棄し,一切の外国軍事基地を設けず,日中関係が正常化したあかつきにおいては,まず日中両国間の友好,相互不可侵の双務条約を締結することができる。これは集団安全保障を実現させるための効果的な道であると,双方は意見の一致をみた。なお日中友好不可侵条約の締結と同時に中ソ友好同盟相互援助条約中の日本軍国主義の再起防止条項は自然に効力を失うものであることを,中国側は表明した。

三,双方は次のように認めた。

 世界の平和を確保するためには核兵器の禁止,一切の外国軍事基地の撤廃,全面的軍縮を目ざし,民族民主運動を支持し,国際緊張緩和と平和共存実現のために最大の努力を払わなければならない。特にアジアおよびアメリカを含む太平洋地域に非核武装地帯を設定することがアジアの平和保障にとつてきわめて重要なことである。

四,日本社会党代表団は日ソ平和条約の締結が日ソ両国の友好関係をますます深めるのみならず,アジアの平和の保障にとっても大きな意義を持つことを評価し,日本社会党はその締結促進のために努力することを表明し,中国側はこの意見を貴重なものであるとみなした。

五,日本社会党代表団は現在進められている日韓会談は東北アジア軍事同盟に密接につながるものであり,かつ朝鮮の平和的統一を不可能ならしめるもので断固としてこれに反対することを表明し,中国側はこれを支持することを表明した。

六,双方は次のように認めた。

 最近のラオス,南ヴィエトナムにおけるアメリカの軍事干渉は両国の主権に対する不当な侵害であり,かつアジアの緊張を激化させているものであり,絶対に許されない。

 ヴィエトナムにおいて一九五四年のジュネーヴ協定を完全に実施し,ラオス問題の平和解決のためのジュネーヴ拡大会議の成功をうながすことはインドシナ問題を平和解決する道である。

七,日本社会党代表団は次のように表明した。現在,日中両国の関係は米帝国主義とこれに追随する池田内閣の中国敵視政策によりその正常化が阻害されている。日本社会党代表団は第一六回国連総会において池田内閣は米国に追随して重要事項指定方式の決議案の提案国の一つとなり,国連における中華人民共和国の正常な権利の回復をしつように阻止し,さらに二つの中国をつくる陰謀を推進するものである,と強く指摘した。

 また日本社会党代表団は中国敵視政策に反対し中国は一つであるとの基本線に立って日中友好と日中の正常関係回復のためたたかうことを表明した。これに対し中国側は同意と謝意を表した。

 双方は次のように表明した。

 政治三原則と貿易三原則にもとづいて両国間の民間友好取引を発展させるとともに,政府間貿易協定を実現するために,たえず努力する。歴史的,地理的,文化的に緊密な関係をもつ日中両国人民の間に文化交流と人事往来をいっそう発展させることは両国人民間の友好関係を発展させるうえに役立つものである,と双方は意見の一致をみた。

一九六二年一月一三日 於北京

  日本社会党第三次訪華代表団長

鈴 木 茂三郎

  中国人民外交学会会長

張 奚 若

(1)は本文中ではマル1