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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 日中民間漁業協定(1963年)

[場所] 北京
[年月日] 1963年11月9日
[出典] 日本外交主要文書・年表(2),485−488頁.「増補改訂 日中関係資料集(一九七一年刊)345−8,54−5頁.
[備考] 
[全文]

 日本国の日中漁業協議会と中華人民共和国の中国漁業協会(以下双方「漁協」と略称する)からそれぞれ委任を受けた代表団は,平等互恵平和共存の原則に基き,黄海・東海の漁場を合理的に利用し,漁業資源を保護し,双方漁船の操業中の紛争を避け,これによって日中両国漁業界の友好協力を増進するため,協議の結果次の通り協定した。

第一条

 本協定を適用する海域(以下「協定海域」と略称する)は,北緯三十九度四十五分・東経百二十四度九分十二秒の点,北緯三十七度二十分・東経百二十三度三分の点,北緯三十六度四十八分十秒・東経百二十二度四十四分三十秒の点,北緯三十五度十一分・東経百二十度三十八分の点,北緯三十度四十四分・東経百二十三度二十五分の点,北緯二十九度・東経百二十二度四十五分の点,北緯二十七度・東経百二十一度三十分の点,北緯二十七度・東経百二十一度十分の点を順次に連らねて生ずる線の以東・北緯二十七度以北の黄海・東海の公海とする。

第二条

一,双方漁船は,協定海域の六つの漁区について,それぞれ一定の期間内,日中双方の機船底曳網漁船(トロール漁船を含む,以下同じ)の実際に漁獲に従事する最高の隻数を規定するものとする。その方法は付属書第一号の通りとする。

二,本条項の規定は,協定海域における航行を制限するものではない。

第三条

 日中双方の機船底曳網漁船は,機船底曳網漁船相互間,または機船底曳網漁船と他種漁船との間の海上における操業の安全をはかり,正常な秩序を維持するため,付属書第二号の規定を遵守するものとする。

第四条

一,日中双方の機船底曳網漁船が,海難その他不可抗力による災害に遭遇し,または乗組員の重傷,急病により,緊急避難もしくは救助の必要ある場合は,双方漁協および漁場にある機船底曳網漁船は,できうる限りその支援と救助に努めるものとする。

二,双方の機船底曳網漁船は,緊急事故により,相手側の港に寄港する必要ある場合は,付属書第三号の規定を遵守するものとする。

第五条

 双方漁協は,漁業資源を保護し,双方の漁業生産を発展させるため,漁業の調査研究および技術改善に関する資料を交換し,水産に関する科学者および技術者の交流をおこなう用意がある。その方法は付属書第四号の通りとする。

第六条

一,一方の船舶が,相手側の機船底曳網漁船の第二条の規定に違反する状況を発見した場合,その所属側の漁協を通じて相手側の漁協にたいし,これを処理するよう通知するものとする。通知を受けた側の漁協は,すみやかに有効適切な処理をおこない,その結果を相手側の漁協に通知するものとする。

二,日中双方の機船底曳網漁船相互間,または機船底曳網漁船と他種漁船との間で,紛争の発生した場合は,できうる限り現場において,話し合いの上解決するものとする。もし現場において解決困難の場合は,それぞれその所属側の漁協にこの旨を報告し,双方漁協がその実際の状況を調査し,協議の上解決するものとする。

三,一方の機船底曳網漁船が第三条の規定に違反して,相手側の機船底曳網漁船または他種漁船に損害を与えた場合は双方の漁船はそれぞれその所属側の漁協にこの旨を報告し双方漁協は実際の状況を調査したのち,協議の上これを処理するものとする。

第七条

 本協定の付属書は協定本文と同等の効力を有するものとする。

第八条

 本協定は双方漁協が責任をもって,これを施行するものとする。

第九条

 双方漁協はそれぞれ自国政府にたいし,日中漁業問題の解決についてすみやかに会談をおこない,日中両国の間に漁業協定を締結するよう促すことに努めるものとする。

第一〇条

一,本協定は署名の日より起算し,第四十五日から効力を発生するものとする。

二,双方は署名の日より三〇日以内に必要な手続きおよび準備を終わり,相互に通知するものとする。

第一一条

 本協定の有効期間は効力発生の日より二カ年とする。

 一九六三年十一月九日北京においてこれに署名する。本協定書は二部あり,それぞれ日本語と中国語により作成される。この二カ国語条文は同等の効力を有するものとする。

     日中漁業協議会代表団

       団 長  江 口 次 作

     中国漁業協会代表団

       団 長  楊     ●{火へんにつくりは上が日で下が立}

       副団長  肖     鵬

附属文書

 「第一号」

    漁区の呼称,位置,定めた期間

    および漁船の数に関する規定

 本協定第二条にもとづき,六つの漁区の呼称,位置,定めた期間および双方機船底曳網漁船の実際に漁獲に従事する隻数を次の通り規定する。

第一漁区

一,漁区の位置は,北緯三八度・東経一三二度二二分の点,北緯三八度・東経一三二度三〇分の点,北緯三七度・東経一二二度三〇分の点,北緯三七度・東経一二二度五一分三〇秒の点,北緯三七度二〇分・東経一二三度三分の点を順次に連らねて再び起点に至るまでの線に囲まれた海域とする。

二,定めた期間は,三月一日より四月三〇日まで,および一一月一日より一二月一五日までとする。

三,漁船の数は,日本漁船四六隻,中国漁船一一二隻とする。

第二漁区

一,漁区の位置は,北緯三七度・東経一二二度五一分三〇秒の点,北緯三七度・東経一二三度三〇分の点,北緯三六度一五分・東経一二三度の点,北緯三六度一五分・東経一二二度一分五秒の点,北緯三六度四八分一〇秒・東経一二二度四四分三〇秒の点を順次に連らねて再び起点に至るまでの線に囲まれた海域とする。

二,定めた期間は,二月一日より三月三一日まで,および一二月一六日より翌年一月一五日までとする。

三,漁船の数は,日本漁船六〇隻,中国漁船一五〇隻とする。

第三漁区

一,漁区の位置は,北緯三六度・東経一二一度四一分二〇秒の点,北緯三六度・東経一二二度三〇分の点,北緯三五度・東経一二二度三〇分の点,北緯三四度・東経一二一度三〇分の点,北緯三五度五一分一五秒・東経一二一度三〇分の点を順次に連らねて再び起点に至るまでの線に囲まれた海域とする。

二,定めた期間は,八月一日より一〇月三一日までとする。

三,漁船の数は,日本漁船八〇隻,中国漁船八〇隻とする。

第四漁区

一,漁区の位置は,北緯三五度五一分一五秒・東経一二一度三〇分の点,北緯三三度四九分三〇秒・東経一二一度三〇分の点,北緯三五度一一分・東経一二〇度三八分の点を順次に連らねて再び起点に至るまでの線に囲まれた海域とする。

二,定めた期間は,四月一日より一〇月三一日までとする。

三,漁船の数は,四月一日より九月三〇日までは,日本漁船零隻。中国漁船零隻。一〇月一日より一〇月三一日までは,日本漁船五〇隻,中国漁船五〇隻とする。

第五漁区

一,漁区の位置は,北緯三二度・東経一二二度三八分の点,北緯三二度・東経一二三度一五分の点,北緯三〇度四四分・東経一二三度四〇分の点,北緯三〇度四四分・東経一二三度二五分の点を順次に連らねて再び起点に至るまでの線に囲まれた海域とする。

二,定めた期間は,五月一日より七月三一日まで,および一一月一日より一一月三〇日までとする。

三,漁船の数は,日本漁船七〇隻,中国漁船一〇〇隻とする。

第六漁区

一,漁区の位置は,北緯三〇度四四分・東経一二三度二五分の点,北緯三〇度四四分・東経一二三度四〇分の点,北緯二九度・東経一二三度の点,北緯二九度・東経一二二度四五分の点を順次に連らねて再び起点に至るまでの線に囲まれた海域とする。

二,定めた期間は三月一日より四月三〇日まで,および一〇月一日より一一月三〇日までとする。

三,漁船の数は,日本漁船七〇隻,中国漁船七〇隻とする。

 本規定記載の漁船数は,機船底曳網漁船一隻をもって計算単位とし,トロール漁船一隻を機船底曳網漁船二隻と換算する。

 (第二号以下略)

共同声明

 日中漁業協議会と中国漁業協会は,友好的な会談をへて一九六三年一一月九日,黄海・東海に関する日中民間漁業協定を新たに締結した。

 この協定は日中両国人民の友好的関係の新しい高まりと発展のなかで締結されたものであり,日中両国漁業界のいっそうの友好的協力を促進し,日中両国人民の友誼の発展を増進する上に重要な意義をもっており,日本中国友好協会と中国人民対外文化協会,中国日本友好協会は,これを心から歓迎するものである。

 一九五八年六月,旧日中民間漁業協定が失効して以来,日中両国の漁業界は黄海・東海における平和で友好的な操業のため,それぞれ多くの努力をしたが,この期間中,黄海・東海の操業の現場では,双方の漁業労働者が海難にさいして,相互に救助しあうという英雄的,友好的場面もあった。

 一九五九年,中華人民共和国建国一〇周年の祝典に参加した日本代表団は,中国訪問の期間中,中国の関係団体と共同声明を発表し,これにもとづき両国漁船の緊急避難に関する具体的なとりきめと実施は,日本中国友好協会と中国人民対外文化協会の二団体がこれにあたることになった。両国の漁業界が無協定の状態にあった期間中,団体は緊急避難に関する一切の業務と事故発生の防止,発生した事故の解決などの面で最善の努力をはらった。またそれだけではなく,日中両国漁業労働者の相互訪問を実施し,両国漁業界の相互理解と友誼を深める上に積極的な役割をはたした。

 日中漁業協議会と中国漁業協会は,日本中国友好協会と中国人民対外文化協会がこの期間中になした貢献を高く評価するとともに,感謝と敬意を表明するものである。両国の漁業協会は今後も日本中国友好協会と中国人民対外文化協会,中国日本友好協会がひきつづき援助と協力をよせることを希望した。

 共同声明に参加した関係団体(以下関係団体とする)は,一九五九年日本中国友好協会と中国人民対外文化協会との間に結ばれた緊急避難に関するとりきめが,新しい日中民間漁業協定の発効と同時に廃止されることを確認した。

 関係団体は,このたび締結された日中民間漁業協定は,両国漁民の黄海・東海における平和で安全な操業にさいしての紛争をさけ,両国漁業労働者の海上災害を防止するうえで良い条件をととのえ,黄海・東海の漁業資源の保護に役立ち,日中両国漁業界の科学技術と人事の交流を更に発展させることができるばかりでなく,日中両国人民の友好と親善を深め,両国の国交正常化を促し,アジアと世界の平和に積極的な貢献をなすものと確信する。

 日本中国友好協会と中国人民対外文化協会,中国日本友好協会は一致してこのたび日中漁業協議会代表団と中国漁業協会代業団との間に締結された日中民間漁業協定が必ずや円満に実施されることを信じており,最善の努力をつくして協力することを表明する。

  一九六三年一一月九日 北京において

     日本中国友好協会理事長

            宮 崎 世 民

     日中漁業協議会代表団団長

            江 口 次 作

     中国人民対外文化協会副会長

     中国日本友好協会副会長

            周  而  復

     中国漁業協会会長

            楊     ●{火へんにつくりは上が日で下が立}