データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 中国問題に関する外務省見解

[場所] 
[年月日] 1964年3月5日
[出典] 日本外交主要文書・年表(2),494頁.外務省アジア局中国課監修「日中関係基本資料集」,231−2頁.
[備考] 
[全文]

 わが国の現在の対中国政策は,一方においてわが国が台湾にある国民政府を中国を代表とする政府として,これと平和条約を締結し正規の外交関係を維持しているという事実と,他方において六億余の人口を擁する中国大陸とわが国との歴史的地理的関係にかんがみて,中国大陸との間に事実上各種の関係をもたざるを得ないという事情とを前提としている。(この点中国大陸とは地理的にも隔絶し全く関係をもつ必要のない米国の場合と基本的に立場を異にしている。)

 而して台湾にある国民政府と中国大陸にある中共政権の双方が,中国全体の主権者であるとの立場を主張している限り,わが国として双方と同時に外交関係をもつことは事実上不可能である。従ってもしわが国が現状において中共政権と正規の外交関係をもつことは,直ちに国民政府との外交関係を断絶することを意味するのみならず,現在のわが国と台湾自体との経済を初めとする一切の関係が断絶することを意味する。このことはアジアの平和と安定を危うくするとともに,自由陣営の団結を害する結果となることは明らかである。わが国が現状においてこのような政策をとることは,わが国の国益に反するものであり,日本国民の大多数の望むところでないことも明らかである(フランスの中共承認に対しては,米国のみならずNATO諸国の殆ど全部が自由陣営団結の見地から批判的である。)

 以上の観点に立てば,国民政府との間に正規の外交関係を維持しつつ,中国大陸との間には政経分離の原則の下に,貿易を初めとする事実上の関係を維持していくことが,最も現状に即しつつわが国の利益を維持し得る政策であると考える。

 国民政府と中共政権とが,ともに中国全体の主権を主張して相対立している現状が,正常な状態であるといえないことは明らかである。しかしこの状態を正常化することは,わが国の独力をもってなし得るところではない。わが国が現状において国民政府との関係を断絶して中共政権を承認することは,決して現状を正常化することとならず,かえって混乱をきたし,アジアの平和に寄与するゆえんではないと考える。従ってわが国としては,国民政府と中共政権をめぐる問題は,国連を中心として十分に審議され,世界与論の背景の下に公正な解決策を見出す以外に方法はないと考えるものであり,従来もその方針に沿って国連において努力してきたし,今後もその努力を続ける考えである。