データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 原爆実験についての官房長官談話

[場所] 
[年月日] 1964年10月17日
[出典] 日本外交主要文書・年表(2),528頁.外務省情報文化局「外務省公表集」,昭和39年下半期,163−4頁.
[備考] 
[全文]

一,世界に緊張緩和と核兵器拡散防止の機運がとみに高まつているこの時機に中共が敢えて核実験に踏み切つたことは全人類の悲願を無視するもので極めて遺憾である。特に部分的実験停止条約はまだ完全に満足すべきものではないにしても,それが世界平和への大きな前進であることは国際世論が一致して認めていることでもあるので,中共が何故に国際世論を無視してまで実験を行つたのか,その真意は誠に理解に苦しむといわざるを得ない。

二,今回の実験によつて再び大気の汚染が始まり中国大陸に近接しているわが国の国民に被害の及ぶことが心配である。

 わが国民は従来からいずれの国,いかなる場所におけるを問わず,すべての核実験に反対するとの立場をとつて来たが,政府もそれに全く同感であるので,ここに国民の名において厳重な抗議の意を表明したい。そして中共がすべての核実験に反対するわが国民の感情を尊重して,今後核実験を繰り返さないことを切望する。

三,ある国が核実験をおこなつたことと核兵器を保有しているということは全く別個の問題である。実験から兵器の保有,さらには運搬手段の完成に至るまでにはいかに困難かつ長期の研究と努力を要するかは,高度の科学,工業水準をもつ米ソ両国の例をみても明らかである。

 従つて中共今回の核実験に対して直ちに過大な軍事的意義を付して恐怖に陥ることはわが国の平和と安定を害する危険がある。日米安保条約が厳存している限りわが国にはなんの影響も危険もありえない。